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簡体字と繁体字の違いとは?基礎知識や表記の違いなどを詳しく解説

作成者: 奥原 雅也|2022/04/30 2:02:00

 

2020年の時点で、中国語を母国語とするインターネットユーザーは世界の19.4%を占めています(1位は英語の25.9 %)。そのため、海外や国内の外国人に向けて商品・サービスに関する情報を多言語で発信する際に、英語だけでなく中国語も検討の候補に入るのは、とても自然な流れと言えるでしょう。

ただ、ひとくちに中国語といっても、「簡体字」と「繁体字」2種類の書き言葉が存在します。これらは、どれくらい違いがあるのでしょうか。多言語展開の際にはどちらか一方を使えばいいのか、それとも両方のページを用意するべきなのか、など疑問を抱いている方も多いと思います。


今回は簡体字・繁体字のそれぞれのネイティブ翻訳者から、両者の違いについて、詳しく聞きました。

目次

  1. 簡体字・繁体字の基礎知識
  2. 簡体字・繁体字の違いとは?
  3. 簡体字使用者から見た繁体字、繁体字使用者から見た簡体字とは?
  4. まとめ

簡体字・繁体字の基礎知識

由来

簡体字は、1949年の中華人民共和国の建国後、十数年にわたる文字改革を受けて生まれた文字体系です。それまで歴史的にずっと用いられてきた漢字を、より簡略化した字体が採用されています。一方で、繁体字には、簡略化されていない従来の字体が使われています。

主な使用地域

簡体字の主な使用地域は中国、シンガポールとマレーシアです。繁体字は台湾、香港とマカオで使われています。簡体字の使用人口は約14億人に対し、繁体字の使用人口は3,000万人程度です。簡体字のほうが圧倒的に多くみえますが、たとえば2019年の訪日外客の人数を見ると、簡体字を使う地域からの訪日外国人は約1,060万人、繁体字の方は約730万人となります。市場という観点からすると、また違った見え方がするのではないでしょうか。

 

簡体字・繁体字の違いとは?

具体的にどのような違いがあるのかをご紹介します。

字体が異なる

同じ文字から由来していても書き方が違う

簡体字の一部の文字は従来の字体を簡略化したものとなっています。そのため、繁体字には対応する文字が存在しますが、繁体字では簡略化された表記を使用することはありません。

例:

繁体字における字体

簡体字における字体


同じ文字でも違う意味を持つ

例えば「于」「丑」「后」などは、簡体字にも繁体字にも存在する文字ですが、違う意味を持っています。

例:

 

繁体字における意味

①苗字

①十二支のひとつ

②ひょうきん者

①皇后

簡体字における意味

①格助詞で/に(場所+で/に+動詞)

②苗字

①十二支のひとつ

②醜い

①皇后

②後ろ

用語や表現が異なる

簡体字・繁体字は基本的に文法や語彙に違いはありません。字体の書き換えだけで通じる表現になることも多いのですが、そう簡単にはいかない場合もあります。特に専門用語や固有名詞で、表現方法や用語が異なる場合が多くあります。

例えば、「シドニー」は簡体字で「悉尼」と表記しますが、繁体字はまったく異なり「雪梨」と表記します。簡体字の使用者は、この単語を果物かなにかと勘違いしてしまうかもしれません。また、発音にも若干の違いがあります。つまり読み方も表記も変わってしまうことになるので、正しく意図を伝えるには少々注意が必要です。

例:

一般名詞

日本語

炊飯器

ワンピース

繁体字における表記

電鍋

洋装

簡体字における表記

电饭煲

连衣裙

固有名詞

日本語

シドニー

トランプ

繁体字における表記

雪梨

川普

簡体字における表記

悉尼

特朗普

専門用語

日本語

ビットマップ

クローン人間

繁体字における表記

點陣圖

複製人

簡体字における表記

位图

克隆人

一方で、同じことばでも違う意味になる場合があります。大きな誤解を生んでしまいそうな例をいくつか挙げてみましょう。

例:

日本語→簡体字翻訳

計算機

土豆

公車

繁体字における意味

電卓

ピーナッツ

バス

簡体字における意味

パソコン

ジャガイモ

公用車

文体・ニュアンスが異なる

簡体字と繁体字とのあいだで表記上は微々たる差であっても、ニュアンスの上では重大な差異が生まれることがあります。特に、文化や歴史・社会背景の違いにより、一方では普通に使用されていても、もう一方の言語ではよくないイメージを与える場合などは要注意です。

例えば、簡体字でヨーグルトの意味を持つ「酸奶」は繁体字では「腐った乳製品」の意味があるため、誤解させたり不快にさせたりしないよう、十分な注意が必要です。

アルファベット表記が異なる

基本的な発音が同じなので、アルファベット表記も同じになると思うかもしれません。しかし、簡体字・繁体字では、実は表記のシステムが違います。

1958年に中華人民共和国が制定した「漢語拼音」という表記法があり、1982年に国際標準化機構も漢語拼音を ISO 7098として採用しました。しかし、台湾では1998年に「通用拼音」という表記方法が採用され、公式ローマ字表記法として制定されました。

漢語拼音と通用拼音は似ていますが、細かい違いが複数あります。例えば、漢語拼音の「j」「q」「x」は通用拼音では「j」「c」「s」、「zh」は「jh」と表記します。また、漢語拼音の「zhi chi shi ri zi ci si」は、通用拼音ではそれぞれ「jhih chih shih rih zih cih sih」のように、後ろに「h」 をつけます。

漢語拼音

zhi

chi

shi

ri

zi

ci

si

通用拼音

jhih

chih

shih

rih

zih

cih

sih

注音符号
なお、台湾では「拼音」の表記方法は日常的に使われていません。そのかわりに、「ボポモフォ」と呼ばれる中国語の発音記号(注音符号)を使用します。台湾人の初等教育や外国人の繁体字学習では、この記号を使って、日本の「仮名」と同じような仕組みで勉強しており、この記号は、キーボードや携帯電話・スマートフォンの入力にも用いられています。

現在の注音符号は声母(音節頭子音)21字と韻16字の37文字です。日本語の仮名に似た文字もありますが、仮名と違って音節文字ではありません。また、仮名が草書体や漢字の偏旁の利用によって作られているのに対し、注音符号は古代の文字を利用しています。例えば、拼音の zhuāng という音節であれば、声母の zh を表す ㄓ、介母音の u を表すㄨ、韻の ang を表す ㄤ によって ㄓㄨㄤ と記すことができます。

ちなみに、台湾ではスラングなどで漢字のない音を表すときにもこの符号を文字として発音を書き表します。漢字がある場合でもアルファベットと同様に代用表記として使われています。一般的によく使われるのは「ㄟ」(欸、呼び掛けの言葉)です。

表記された文字の違いという今回のテーマからは逸れますが、台湾における中国語(国語)と中国における中国語(普通話)の目に見える最大の違いは、この注音符号なのかもしれません。

記号の表記が異なる

簡体字と繁体字の文法構造に大きな違いはありませんが、記号の使い方には違いが見られます。簡体字の文章では半角を使うことが多いですが、繁体字では全角を使うのが適切です。この点を混同すると、どちらの言語でも違和感が生まれてしまいます。大きな違いは下記の2点です。「」と『』は、簡体字ではほとんど使いません。

例:

繁体字における表記

「」

『』

簡体字における表記

' '

“”

続いて句読点ですが、まずは中国語と日本語の違いを見てみましょう。中国語では日本語と異なり「,」と「、」を使い分けます。「。」は日本語と同じ用法ですが、「,」は文章の区切りに使い、「、」は並列の場合に使用します。

例:

日本語

WOVN は言語の切替をサポートし英語、中国語(簡体)中国語(繁体)韓国語フランス語など43言語を導入することが可能です。

中国語

(簡体字)

WOVN提供语言切换服务支持导入英文、简体中文繁体中文韩文法文等43种语言。

それでは、簡体字と繁体字の違いに戻りましょう。簡体字と繁体字では、句読点の位置に少し違いがあります。簡体字は日本語と同じく縦書きでは「右上」、横書きでは「左下」に配置します。一方で、繁体字は文字の「中央」に句読点を配置します。多言語化の際に繁体字に対応する適切なフォントを指定していないと、句読点が「左下」となってしまうことがあるため、フォントの選択には気をつけましょう。

 

簡体字使用者から見た繁体字、繁体字使用者から見た簡体字とは?

簡体字と繁体字には細かな違いがいくつかあることがわかったと思います。それぞれに共通する部分も多いので、「簡体字か繁体字のどちらか一方だけ読めれば問題ないのでは?」と考える方もいるかもしれません。では、実際のところ簡体字使用者は繁体字の文章を読んで、繁体字使用者は簡体字の文章を読んで、どのように感じるのでしょうか?

簡体字使用者

1949年の中華人民共和国の建国後しばらくして文字改革が始まってから、簡体字は固有の字体、用語や表現などを定着させてきました。現在、書道では字体によって繁体字を使うケースもまだ残っているため、一部の簡体字使用者は繁体字も読めるのではないでしょうか。

しかし、簡体字と繁体字はそれぞれの文法や用語などの意味が微妙に異なるため、ことばの意味を表裏余すところなく完全に理解するには努力を必要とする状態になっています。流行語などの新しい単語が増えるに従い、簡体字と繁体字はさらに疎遠になってゆくと想像されます。どうしても知りたい情報でない限り、努力して読むことはなさそうです。

繁体字使用者

簡体字の字体はその名の通りかなり簡略化されているため、繁体字使用者から見ると簡体字の方がわからないことが多いと言えるでしょう。一方で、繁体字と簡体字は基本的に文体は同じであるため、文章に理解出来ない言葉遣いがあっても文章の筋は理解できます。日本語で例えるならば、いくつか分からない漢字が混ざった文章を読んでいる感覚です。語彙にも若干の違いがあるため、文章の専門性が高いほど、理解するのにかかる時間が長くなります。

簡体字使用者にとっての繁体字、繁体字使用者にとっての簡体字の文章について、それぞれのネイティブスピーカー/ライターに聞いてみたところ、「自分に向けられたメッセージではない」という印象を持つようです。また、自分にとっての母語で書かれている文章に触れたときのほうが、そうでない文章に比べて一種の嬉しさ、親しみを感じるとのことでした。

まとめ

簡体字・繁体字の文法や表現は似ていますが、異なる点もたくさんあります。

Web サイトを構築する際は、内容をエンドユーザーに違和感なく届けるためにも両言語のページを作成し、翻訳の際には各言語のネイティブに依頼することを忘れないようにしましょう。これにより、それぞれのユーザーに「自分に向けられたメッセージ」だと認識してもらえるようになり、円滑なビジネスの推進につながるでしょう。