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ポストエディットとはなにか?必要性やその特徴、注意点を解説します!

作成者: 奥原 雅也|2022/06/20 6:58:36

「ポストエディット」という言葉に馴染みがない人も多いかもしれませんが、これは多言語化を検討する上では重要なキーワードの一つです。この記事では、ポストエディットとはなにか、その特徴や注意点について解説します。

目次

  1. ポストエディットとは
  2. 人力翻訳とポストエディットの違い
  3. ポストエディットが生まれた背景
  4. なぜポストエディットが必要になるのか
  5. ポストエディットにはどのような種類があるか
  6. ポストエディットのメリット
  7. ポストエディットを活用する際の注意点
  8. ポストエディットを活用したWebサイト多言語化の例
  9. まとめ

 

ポストエディットとは

「ポストエディット」とは、機械翻訳エンジンの翻訳結果を人が修正する手法です。機械翻訳の訳文をそのまま利用するのではなく、人が一度目を通し、必要に応じて訳文の誤りやスタイルの不統一などを修正します。

ポストエディットは英語で Post-Editing(略して PE)と表記し、文字通り「後編集」という意味です。機械翻訳エンジンを利用しない従来の翻訳は「人力翻訳」(または「人手翻訳」)と呼ばれています。機械翻訳が台頭した後に、機械翻訳をより効果的に使おうと生まれた新しい手法が「ポストエディット」となります。

人力翻訳とポストエディットの違い

従来の人力翻訳とポストエディットが大きく異なる点は、そのプロセスです。

人力翻訳は、ある言語の原文を元に訳文を作成します。翻訳者の作業対象は、まだ翻訳されていない元の言語の文章です。一般的に、翻訳会社が提供する人力翻訳は一人の翻訳者だけでは完結せず、その後にチェッカーによるレビュー・修正が行われます。翻訳会社やプランによっては、二人のチェッカーが工程に含まれる場合もあります。

ポストエディットは、最初にテキスト全てに機械翻訳をかけます。ポストエディットの種類によっては原文と照らし合わせる場合もありますが、作業者は機械による翻訳結果を確認・修正することが多いです。そして、ポストエディットの場合、一般的に工程に関与する人は「ポストエディター」一人になります。

「ゼロから人が翻訳作業を行う」か、「まず機械翻訳をかけてその結果を修正する」か、そのプロセスが人力翻訳とポストエディットの大きな違いです。他にも品質やコスト、スピードなどにも違いもありますが、後ほど細かく見ていきます。

ポストエディットが生まれた背景

機械翻訳の発展の結果、従来であれば時間もお金もかかってしまい、翻訳することすら検討していなかった量のテキストが、機械翻訳で対応可能となりました。
AI の活用やデータの蓄積により機械翻訳の精度はますます向上するといわれていますが、機械翻訳の品質には課題があります。訳がすっぽり抜ける、大きな誤訳が発生する、ニュアンスやスタイルが自然でないなど、機械翻訳はいまだに様々な課題を抱えています。そこで、機械翻訳の結果を活かしながら人の手も使い、機械翻訳の不完全さをカバーする「ポストエディット」という手法が生まれました。

なぜポストエディットが必要になるのか

機械翻訳の課題をカバーするためには、「ポストエディット」が必要となります。機械翻訳にはどのような課題があり、なぜ人の目でチェックする工程が求められるかを見ていきましょう。

正確性

翻訳には正確性が求められます。機械翻訳は正確な翻訳を苦手としており、固有名詞や未知の単語の翻訳で誤訳をする場合があります。さらに、ニューラル機械翻訳は一単語ずつ対応させて翻訳を実施するわけではないので、原文にある単語や文章を丸ごと抜かして翻訳してしまう場合もあります。肯定文を否定文として訳したり、否定文を肯定文として訳したりと、反対の意味として翻訳してしまうことがあるのも機械翻訳の欠点です。人がチェックをしないと、誤った翻訳のままになってしまいます。

→ニューラル機械翻訳については「機械翻訳がたどってきた歴史からみる進歩を解説!今後の可能性も紹介」で詳しく紹介しています。

流暢さ

翻訳には流暢さが求められます。機械翻訳は原文作成者の意図や文章が書かれている文脈を理解できるわけではありません。人力翻訳をした場合は、文化背景や発信者の意図、参考資料なども考慮するので自然な訳文になりますが、機械翻訳の場合はそれができないため、流暢さに欠点があります。他にも、主語が欠落しているような曖昧な文章やコピーライティングのようなクリエイティブな文章、慣用的な表現や敬語、冗長な文章なども機械翻訳が苦手な領域で、自然さを保って翻訳できないといわれています。自然さを担保するには、人の目で見て修正することが必要です。

ポストエディットにはどのような種類があるか

ポストエディットは、フルポストエディットとライトポストエディットの二種類があります。

フルポストエディットとは?

フルポストエディットは人力翻訳と同等に近い品質レベルを目指します。全体的に入念なチェックと修正作業を行い、用語や文体も統一された自然な訳文を目指します。また、フルポストエディットは機械翻訳の訳文だけを見るのではなく、原文と照らし合わせます。高い基準の品質を求めて原文も確認するので、翻訳者が一から翻訳するのと同等の能力が必要となります。

ライトポストエディットとは?

ライトポストエディットの品質要求は「伝わる」に留めています。フルポストエディットの場合は原文と合っているかも含めて踏み込んで全体的に修正を行いますが、ライトポストエディットは大まかな意味が理解でき伝わるレベルまでしか修正しません。訳文の自然さは考慮せず正確性に限定して修正しているので、軽微な修正のみで終わることもあり、特に問題がなければ機械翻訳の出力結果をそのまま利用することもあります。ライトポストエディットの場合、原文を照らし合わせず機械翻訳の結果のみをみます。そして、作業者は翻訳者と同等のスキルを持っている必要はありません。

ポストエディットで求める品質によってかかる時間とコストが異なります。フルポストエディットは全体的に入念なチェックと修正を行うので、作業時間もより長くなり、コストもより高くなります。「伝わる」品質で問題なく、コストの低さや納期の短縮を求めているのであれば、ライトポストエディットが適しています。要求品質とコスト、スピードのバランスを鑑みて、より適する手法を選択するのが良いでしょう。

 

ポストエディットのメリット

ポストエディットのメリットを紹介します。

メリット1:コスト

ポストエディットは、コスト面でメリットがあります。最初から最後まで全ての工程を人が行う人力翻訳に対して、ポストエディットの場合はまず機械が全て翻訳しその出力結果を修正するため、コストが比較的少なく済みます。また、人力翻訳の場合は、高い職能が求められますが、ポストエディットの場合、種類によっては高い翻訳者レベルの技術は必要なく、かつチェッカーのコストを含まないので人件費を抑えることができます。

メリット2:スピード

さらにポストエディットは、納期面でメリットがあります。人力翻訳の場合は、人間が原文をゼロから翻訳し、加えてチェッカーが校閲する時間を含むため、時間がかかります。ポストエディットの場合は、まずは原文に機械翻訳をかけてからスタートとなり、さらにチェッカーのチェック工程を含まないため、その分納期が早くなることが期待できます。

よりコストを抑えて、よりスピーディーに翻訳を実施できるのが、ポストエディットです。

ポストエディットを活用する際の注意点

ポストエディットを利用するにあたっては注意点もあります。注意点を理解した上で活用することをお勧めします。

翻訳するテキストの内容

翻訳するテキストの内容によっては、ポストエディットに向かないものもあります。ポストエディットはベースにしている機械翻訳の品質に影響を受けます。機械翻訳は文化や意図、文脈を理解できないため、翻訳に推察やクリエイティブさが必要な文章は、ポストエディットには向いていないといえます。

ポストエディットの種類の使い分け

翻訳するテキストの内容によって、ポストエディットの種類も使い分ける必要があります。重要な文書や外部向けの文書は、人力翻訳と同じ品質を目指すフルポストエディットがより適しているでしょう。多少の間違いであれば許容されがちな社内向けの資料や、大規模な製品ブランディングサイトのように高頻度で情報が更新されスピーディーな公開が必要な Web サイトなどは、ライトポストエディットが向いています。

機械翻訳の品質や適性

ポストエディットを利用する際は、機械翻訳の品質や適性を確認しておくことも大切です。機械翻訳の品質によっては修正に手間がかかり、納期にも影響します。ポストエディットの作業量は機械翻訳の品質によって変わるため、機械翻訳の品質が悪いと修正が多くなり、ポストエディットのスピードも遅くなることがあります。ベースにしている機械翻訳の品質によっては人力翻訳以上に手間がかかることもあります。「ポストエディットだから必ず早く納品される」わけではないことに注意しましょう。

翻訳結果の品質への期待値

ポストエディットを利用する際は、品質基準を理解することが大切です。ライトポストエディットは訳文の自然さは考慮せず正確性に限定して修正するため、人力翻訳の品質基準よりも流暢さの面で劣ります。「ポストエディットさえ依頼すれば必ず良い品質になる」と勘違いしていると、期待はずれの品質となってしまいます。ポストエディットがどのようなものかを良く理解し、品質ガイドラインやサンプルなどを用いてあらかじめ依頼先と品質の合意をとってから、ポストエディットを選択しましょう。

ポストエディットを活用したWebサイト多言語化の例

ここまで、ポストエディットについて解説してきましたが、実際の多言語サイトでポストエディットが活用された例を見てみましょう。

世界各国で拡大しているサブスクリプション型ビジネスの収益向上・コスト削減を支援する Zuora。アメリカに本社を置き世界10カ国以上に拠点を展開する Zuora は、プライシング、見積、契約管理、請求・回収、売上集計、レポート・分析など、サブスクリプション型ビジネスに関わる業務プロセスを一貫して管理・支援しています。

欧米圏での導入企業が多かった Zuora はマニュアルサイトを英語のみで対応していましたが、日本市場への展開に向けてマニュアルを迅速に日本語で発信することを必要としていました。しかし、既存のマニュアル数は膨大で更新の頻度も高く、スピーディーな公開も求められていたので、人力翻訳での対応は現実的ではありませんでした。一定の品質が求められるページもあり、全てを機械翻訳で対応するにも不安が残りました。そこで、ポストエディットを採用しました。品質のすり合わせを行い、重要ページを選定してポストエディットを行ったことで、品質を妥協せずにスピーディーな翻訳を実施することができました。

→事例紹介:「高頻度更新かつ膨大なマニュアルサイトの多言語化に、WOVN.io と一緒に取り組んだ工夫」

まとめ

機械翻訳は大量のテキストを速く翻訳できますが、まだまだ翻訳結果の品質面で課題があります。人力翻訳は文脈や意図を踏まえて正しくてわかりやすい翻訳品質になりますが、時間とコストがかかります。品質を一定に保ち、コストを抑えてスピーディーに実施できるのがポストエディットです。品質・コスト・納期のバランスを考え、メリットや注意点を理解した上で、ポストエディットを活用しましょう。