グローバルサイトは、海外へのビジネス拡大を狙うツールとしてとても重要です。しかし、その構築・運用には様々な課題が伴います。地域ごとに異なる言語や文化を考慮したうえで、自社の海外戦略にあったグローバルサイトを構築・運用していく必要があるためです。
WOVN は、Web サイト多言語化のプロフェッショナルとして、2022年1月〜3月にかけて世界900社・約4,000サイトのグローバルサイトの運用状況を独自に調査しました。
2022年6月24日、当社は「グローバルサイトの運営方法」というテーマでセミナーを開催し、その調査結果について WOVN 森山より紹介しました。「理想とするべきグローバルサイトの考え方とは」、本記事では、その内容をお届けします。
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WOVN ではグローバルサイトを「国外のステークホルダーに向けて、会社情報・製品情報を外国語で発信する Web サイト群」と定義しています。
グローバルサイトを構築することによって、3つの効果が期待されます。1つ目は、海外ブランディングの向上です。国や地域に応じた情報発信を行うことで、認知度の向上・製品理解の促進につながります。2つ目は、現地営業の後方支援です。海外法人では、顧客に説明する際に使用する製品資料を十分に用意することができない場合があり、Web サイトの情報をもとに営業を行うことがあります。Web サイトのコンテンツボリュームを確保することで、現地営業の活性化につながります。3つ目は、従業員エンゲージメントの向上です。現地の外国人従業員にも日本企業としての想いを伝えることによって、帰属意識を高めることができます。
多くの効果をもたらすグローバルサイトですが、実態としては「運用を現地拠点に丸投げしており、本社のガバナンスが効いていない」「現地拠点ごとにコンテンツのボリュームに差があり、営業機会の損失に繋がっている」「システム・体制構築が間に合わない」など多くの課題があります。そのため、事業目的にあったグローバルサイトを構築し、運用を最適化することが必要です。
そこで WOVN は、JPX日経インデックス400と FORTUNE 500にリストアップされている世界的に著名な企業の グローバルサイトを合計4,000サイト調査し、グローバルサイトを4つの型に分類しました。
グローバルサイトの「型」を決めるうえで、以下の5つの観点があります。
海外展開には2つのフェーズがあり、それぞれでグローバルサイトの目的や用件が異なります。
運用の狙いは、大きく2つに分けることができます。
まずは、拠点ごとに個別性を出したいケースです。各拠点ごとの文化や商習慣に合わせた発信を通じ、ユーザー自身の国や地域のサービスとして自然に受け入れられるような体験を提供したい場合は、こちらの運用が適切です。
次に、グローバルガバナンスを重要視するケースです。グローバルで統一されたメッセージ・ブランド訴求により企業のブランドや背景にある文化をユーザーに伝えることができるため、グローバルブランドとして一貫したイメージを確立することができます。
運用体制は以下の3つに分けることができます。グローバルサイトの目的や海外戦略ごとに最適な運用体制を構築することが重要です。
まずは、本社単体での運用です。本社のみでの運用のため比較的簡単に始めることができ、本社内だけでのコミュニケーションで完結します。一方、各国の商習慣や気候風土に合わせたローカライズ対応が困難です。そのため、海外展開をこれから行っていく検証フェーズにおいて適している運用です。
次に、各拠点独立での運用です。本社単体とは異なり、ローカライズ対応が容易にできるため、各国の商習慣や文化に合わせて Web サイトを構築することが可能です。ですが、拠点によって運用が後回しにされるケースがあり、会社全体として見た時に多重管理、コスト重複になるリスクがあります。そのため、ある程度海外展開が進み、拠点ごとに個別性を出したい場合に有効です。
最後に、本社が統制管理する運用です。拠点サイトも含めグローバルで統一されたデザイン・メッセージを発信しやすくなります。ですが、拠点ごとで統制された運用を構築する必要があるため、始める際のサイト設計・運用設計の難度が高いです。
グローバルサイトの構成は様々あるため、海外戦略や運用体制に応じ、サイトの構成を最適化することを推奨します。下図のように代表的な構成は4つあり、それぞれにメリット・デメリットがあります。
1つ目は、本社主導で各拠点コンテンツに翻訳を行う「本社サイトベース」です。本社の Web サイトとドメイン・コンテンツ構成が同じという特徴があります。本社サイトをベースに各拠点サイトを構築できるため、比較的リソースが少なく簡単に構築・運用ができます。一方、Web サイトの構成が本社サイトをベースにしているため、各国サイトのデザインやコンテンツに自由度がないです。
2つ目は、各拠点が独立して別ドメイン・別構成で Web サイトを構築する「ポータルなし拠点独立」です。システムやインフラが独立しているため、拠点サイトを柔軟に構築することができます。一方、グローバルでの導線が不明確であったり、システムインフラの多重管理やセキュリティリスクなどのデメリットがあります。
3つ目は、「ポータルあり拠点独立」です。グローバルポータルを本社、拠点サイトは各拠点が独立して構築するため、柔軟な構築が可能なだけでなく、グローバル共通情報を発信ができます。ですが、システム上の制約がないため、悪い意味でのバラバラなサイト群になるリスクがあります。
4つ目は、「本社統制」です。グローバル全体でヘッダーや Web サイトの構成が同じで、コンテンツの一部がローカライズされています。そのため、全体最適な Web サイト群を構築・運用しやすいです。一方、本国が統制すべきコンテンツなのか、拠点が管理するコンテンツなのかなど、運用方法を設計する上で多くの検討事項があり、構築難度の高いサイト構成です。
グローバルサイト構築において、ドメイン選択も重要な要素の1つであるため、メリット・デメリットを鑑みて、適切なドメインを選択する必要があります。4つの代表的なドメインタイプを紹介します。
まずは、「サブディレクトリ形式」です。手軽に導入が可能で、Search Console の地域ターゲティングができます。一方、トップレベルドメインが日本向けのため、URL だけではどの地域に向けたサイトかわかりづらいです。
次に、「国別ドメイン形式」です。ドメインのみで地域ターゲティングが明確になるメリットがあります。一方、拠点ごとにドメインを購入する必要があるため、コストがかかるのがデメリットです。
次に、「サブドメイン形式」です。独自ドメインの購入のみで分割が可能なため、手軽に導入ができます。一方、ユーザーは URL のみから地域ターゲティングを認識できない場合があり、どの国のサイトなのかを一目で分からないです。
最後に、「サブディレクトリ形式」です。手軽に導入でき、管理がしやすいというメリットがありますが、サイトの分割が難しく拠点ごとに使い分けることができません。
※参照:多地域・多言語のサイトの管理:地域ごとの URL を使用する https://developers.google.com/search/docs/advanced/crawling/managing-multi-regional-sites?hl=ja#locale-specific-urls
グローバルサイトの「型」を決める5つの観点に基づき、WOVN ではグローバルサイトを次の4つの類型に分類しました。
①本社単体型
②各拠点完全個別型
③各拠点独自型
④本社統制型
この章では、それぞれの類型について詳しくみていきます。
本社単体型は比較的少ないリソースで展開できるため、海外展開の状況が調査・検証フェーズの企業に推奨する型です。
運用は本社で一括管理されていることが多く、本国中心のビジネスを展開している企業でよくみられます。本社の Web サイトと同じコンテンツを活用しているため、構築や運用の負荷が小さいというメリットがある一方で、自由度が低く各現地拠点に応じたマーケティング・PR 活動がしづらい、というデメリットがあります。
日本企業の代表的な例として、ミドリムシを活用した商品開発・バイオ燃料の研究などを行っているユーグレナ社が挙げられます。同社は、海外に本格的に展開するフェーズではないため、日本での企業活動・研究を海外に発信する目的でグローバルサイトを運営しています。本社単体型のグローバルサイトでは、多言語サイトの一部のコンテンツが翻訳されていない、多言語サイトでリアルタイムな情報発信を行えていないなどの課題が挙げられますが、同社では全てのコンテンツを英語化し、更新頻度の高いプレスリリースを日本語と英語でリアルタイムに発信しています。本社単体型のサイトとして緻密に管理された運用をしているといえます。
各拠点完全個別型は、地域ごとに商品が全く異なるケースや、地域の慣習に合わせた発信が重要な企業に推奨するグローバルサイトの型です。
事業の海外展開が進んでおり、拠点ごとに発信する情報が異なる企業でよくみられます。たとえば、アメリカ発のスターバックス社では各国おまかせ型が採用されていますが、各地域の文化や商習慣に合うようにコンテンツを配信しています。実際、日本では4月に桜をテーマとしたドリンクが掲載されるなど、拠点ごとにローカライズされた情報発信を行っています。
この型では、各拠点での Web サイト運用の自由度が高くなるため、地域特性に合わせたマーケティングが行いやすいというメリットがあります。一方、自由度が高いためにルールのない Web サイトが乱立してしまい、ブランドガバナンスを効かせにくくなります。悪い意味でのバラバラな Web サイト群とならないよう、ブランド統制と各拠点自由度を担保できる仕組みづくりをする必要があります。
各拠点独自型は、柔軟なローカライズ発信が重要な一方、グローバルでの共通発信や導線の整備も重要視している企業に適している型です。
グローバルポータルでグローバル共通発信・各国サイトへの導線を作り、ローカライズされながらも、一定の水準でデザイン品質や世界観を維持し運用しています。
本社統制型は、グローバルで統一した発信を行いたい企業に適している型です。
日本企業の例として、産業機械メーカーのヤンマー社が挙げられます。同社は、海外での営業活動支援、グローバル統一のメッセージ発信を主な目的としています。運用する際に、ローカライズするべき情報と統制する情報を切り分けて運用しています。
ブランドガバナンスを効かせやすく、グローバル共通で一貫したメッセージを発信しやすいというメリットがある一方、運営主体はあくまで本社であるため、各拠点でのローカライズを行いにくいというデメリットがあります。また、安定稼働のためには、大量のリソースを用意する必要があり、拠点が増えるごとにその人員とコストは増加していきます。
ここまでグローバルサイトの4つの類型について見てきましたが、世界のトレンドはどうなっているのでしょうか。
下図は、日本と世界のグローバルサイトの類型の比較です。図から分かるように、世界の企業では本社統制型を採用する割合が日本の企業よりも圧倒的に多いです。一番難度の高い運用の型ではありますが、世界ではトレンドとなっています。
また業界特性により選ばれやすい型が変わります。下図は、グローバル進出している業界ごとの類型の比較です。グローバル進出している業界では、TMT など共通製品を扱う傾向が高い業界ほど本社統制型が多くなり、ローカライズとグローバルブランドを意識した型で運用していることが分かります。一方、国内ビジネスがメインの人材、不動産、金融などの業界では、本社単体型が採用される傾向があります。
※出典:WOVN 調べ
4つの類型について見てきましたが、どの型であってもメリット・デメリットがあり、正解はありません。そのため、自社の海外展開の戦略やフェーズ、取り扱う商材を考慮して、最適な運用を模索し続けることが重要です。
元サイトと多言語サイトの情報量に差が生じてしまう、各拠点の独自運用によるブランド毀損の恐れがある、増え続ける Web サイトのボリュームに翻訳・更新が間に合わなくなってしまう、などといったグローバルサイトの運用上の課題に対して、解決策のひとつとなるのが Web サイト多言語化ソリューション「 WOVN.io」です。
WOVN.io は、多言語化に必要なあらゆる作業を一つのプラットフォームでの管理が可能です。Web サイトを多言語化する際には、具体的に、①構想策定、②Web サイト構築、③翻訳、④デザイン調整、⑤公開・運用、の大きく5つの工程がありますが、②Web サイト構築以降のすべてのプロセスを一括管理できます。これを活用することによりグローバルサイトのコンテンツを一括で管理したり、翻訳を自動化することができるようになり、運用上の課題を解決できます。
グローバルサイトの運用は、事業特性や戦略によってあるべき姿が異なるため、企業ごとのベストプラクティスを検討し続ける必要があります。
WOVN.io は、本記事でご紹介したどの類型のグローバルサイトにも適用させることができるソリューションです。また WOVN は、多言語化のプロフェッショナルとして豊富な導入実績とノウハウを持ち合わせています。
グローバルサイトの運用でお悩みの方はぜひお気軽にお問い合わせください。