Wovn Technologies株式会社(以下 WOVN)が2022年8月30日に開催したカンファレンス「GLOBALIZED2022」では、製造業の方に向け「激変する世界への対応力~デジタル・多言語対応で、いかに事業をアップデートするか~」をテーマにお届けしました。
当セッションでは「新時代のグローバル企業が直面する3つの壁」と題し、NPO 法人 CIO Lounge 理事長 矢島 孝應氏および同法人 理事であり ELEKS Japan株式会社 取締役社長 田井 昭氏の両名にお話を伺いました。本レポートではその内容をお届けします。
【登壇者プロフィール】
矢島 孝應 氏
NPO法人 CIO Lounge 理事長
1979年松下電器産業株式会社(現パナソニック株式会社)入社。三洋電機株式会社を経て2013年1月にヤンマー株式会社に入社。その間、アメリカ松下電器5年、松下電器系合弁会社取締役3年、三洋電機株式会社執行役員、関係会社社長3年を経験。
ヤンマー株式会社入社後、執行役員ビジネスシステム部長就任。2018年6月に取締役就任。2020年5月退任後、現職。
ウイングアーク1st 社外取締役、ゆうちょ銀行 外部専門委員、ローム株式会社顧問他を兼任。
田井 昭 氏
NPO法人 CIO Lounge 理事
ELEKS Japan株式会社 取締役社長(COO)
1981年 小西六写真工業株式会社(現コニカミノルタ株式会社)入社。
複写機、プリンタの研究開発部門に所属、米国販売子会社の開発・サービス部門の SVP に従事。その後、2011年に本社 IT 部門長から執行役員 IT 担当に就任。2019年 コニカミノルタ株式会社を離れ、ITおよび開発のコンサルタント業開始「IoT Link Labo」設立、加えて CIO Lounge に参加し、現在は理事、セキュリティ分科会担当。
2021年 ELEKS Japan株式会社設立、取締役社長に就任。
森山 真一
Wovn Technologies株式会社
Sales & Marketing Department Marketing Section
総合商社にて基幹 ERP パッケージシステムの導入・運用、R&D 業務などに従事。その後、リクルートグループにて機械学習技術を活用した新規事業プロジェクトに初期メンバーとして加わり、事業開発・顧客データ分析・商品企画等を手掛ける。
2021年より Wovn Technologies にて Marketing 業務全般に従事。
森山(WOVN):
本日は CIO Lounge の矢島様、田井様にお越しいただきました。お二方とも日本を代表するグローバル企業で要職を歴任されており、本日のテーマでもある IT やデジタル、経営といった様々な経験を有している方々です。一般的に日本企業の経営層は IT やデジタルについて苦手意識を持っている方が多いと言われていますが、IT やデジタルの意識変革はグローバルビジネスの展開にどのような影響をもたらすのかを伺います。まずは自己紹介をお願いいたします。
矢島:
私は1979年に大学を卒業後、長い間パナソニックで勤務しました。その後、ヤンマー株式会社にご縁をいただき、取締役 CIO を務め、現在は CIO Lounge という NPO 法人を設立し、理事長をしています。
CIO Lounge は現役並びに OB の CIO が50名ほど在籍しており、「日本の IT 化、デジタル化を前進させたい」「経営と IT、ユーザ企業とベンダ・コンサルの橋渡しになりたい」という想いで活動しています。
田井:
私はコニカミノルタ株式会社で製品開発・IT部門に携わっておりました。その後、矢島さんにお誘いいただき CIO Lounge に参加しています。また、2021年にウクライナの開発会社であるELEKS社の日本法人ELEKS Japan株式会社を設立しました。
コニカミノルタに勤めていた際、長期間アメリカ駐在していたこともあるため、日本・アメリカ・ウクライナの3か国でのビジネス経験があります。
森山(WOVN):
早速ですが、本日のテーマとして「3つの壁」を掲げさせていただきました。日本企業が海外進出し、グローバルにビジネスを展開している海外企業と渡り合う上で「経営」「IT」「言語・文化」の3つが重要になると考えられます。
田井さんは海外での経験が豊富だと思うのですが、日本と海外で大きく違うと感じられる点はありますか?
田井:
海外の企業は「企業としてデジタルツールを何のために使用するのか」という目的を明確に持っています。企業として実現したいことが明確にあり、その手段としてツール、テクノロジー、人材を求めるという意思決定が企業のトップで実施されているというのが海外と日本の違いではあるかもしれません。
矢島:
日本の経営者では「IT」「言語・文化」を苦手としている方が非常に多いですが、苦手だと思いつつも、対策を実施していないことが多いです。しかし、文化が理解できなくては言語は使えないですし、その言語がなくては企業の中のプロセスデータ管理はできません。そうした経営のベースである IT、言語・文化が苦手だという経営者がいまだに多いことを私は危惧しています。
森山(WOVN):
ここでの海外というと、経済規模の大きいアメリカや中国のことを指すことが多いですが、ヨーロッパや東南アジアの企業と比べても日本企業は取り残されているのでしょうか?
矢島:
私がパナソニックに勤めていたころ、グローバル会議が年2回開催されていました。会議には、日本や中国、中南米からなど様々な地域から来た参加者がいましたが、同時通訳をつけているのは日本人だけでした。英語が母国語ではない国の出身であるマネージャーも英語でやり取りをしていたのに、日本人は同時通訳をつけてしまう。この言語の壁をなぜ越えられないのか、という課題を感じています。
森山(WOVN):
そのような言語の課題の他に、IT やデジタルソリューションの活用やテクノロジーの親和性の課題もあると思います。例えば海外の経営者たちのキャリアの中で情報システムのデジタル化を経験した人が多かったり、コンピューターサイエンスを専攻した人が多いというような特徴が見受けられるのですが、ウクライナでもそういった傾向はありますか?
田井:
私はそこは少し違う認識を持っています。グローバル大学を卒業されていることの多い欧米企業の上層部の方々は基本的に英語を話すことができるため、文化や考え方の違いはあれど、同じ言語レベルで会話をしています。それは、IT においても同じです。欧米ではどんな専門分野に属していても、大学を卒業するまでに必ず IT リテラシーの教育を受けています。日本では IT やデジタルが特殊な領域になってしまっているというのが海外と日本の大きな違いですね。
森山(WOVN):
面白いですね。矢島さんは様々なご経験をされていますが、日本が IT を特殊なものとして扱うことに関してどのような考えをお持ちでしょうか?
矢島:
日本の文化や教育の中で「完璧でなければならない」ことが強調されてきたことが要因のひとつとしてあると考えています。英語を話すことに関しても、1つでも間違えてしまったらいけないからこれ以上話しません、というような意識があると思います。
IT についても同じです。使う際に、すべて完璧でなければならないという意識が日本企業の中には強くあります。日本の経営者には IT を導入して効率化を進めようと考える方が多いのですが、IT は効率化のためだけではなく、使いたいところで使えるものを扱うものなのに、0か100かで考えていることが多いのではないかという懸念があります。
森山(WOVN):
では、マネジメント層や経営層、リーダー職の中で前に述べていただいた「完璧でなければならない」という考え方がある場合、現場から変えていく動きにはどのようなものがあるでしょうか?
田井:
現場からだけでなく、企業のトップも一緒に変わっていくことが必要だと思います。また、日本と海外という括りでセッションをするのはおそらく日本だけです。自国と自国以外の国の比較を話題にすることがまず日本独自の特徴です。
ですが、それは若い世代では薄れてきていると思います。現代ではスマホひとつで世界中の情報がすぐに手に入ります。翻訳においても、自動翻訳や多言語化など様々な変化が起きてハードルがなくなってくると思います。このように時代やテクノロジーが変化していけば、問題になるのは経営層や30代から60代の方々だと考えています。
矢島:
この2年間で各企業ががらっと変化していると思います。今までは WEB 会議やリモートワークなどはいくら提案してもなかなか一歩先に進みませんでした。ところが、コロナという外圧によってやらざるを得なくなったことにより、やってみると意外とできるという発想をお持ちの経営者の方が増えていると思います。なので、どんどん IT デジタルを使ってやってみる、若い方々から提案してみるということが重要です。そういう意味では、私は今がすごくチャンスだと考えています。
森山(WOVN):
今後、「経営」「IT」「言語・文化」の3点がより重要視されている製造業において、最も変化が起きるポイントはどういったものになると考えられますか?
矢島:
エコシステム化だと考えています。つまり、IT の進化はあらゆる形で企業を超えたベース、市場や社会などのお客様の視点の中で動いていくと思います。社会全体の農業、交通、土木に向けてどのような形でデジタル化を進めるのかというパーパスを持つ企業がこれから成長すると考えています。そうしたデジタル化を牽引できる政治家や自治体、企業が登場すれば社会は変わることができるのではないかと思っています。
田井:
ウクライナの方々は IT 分野でとても優秀であるため支援をしたいと思い、8月にセミナーを行いました。その時に、ウクライナの IT 担当である副首相にビデオプレゼンをしていただきました。その中で仰っていたのは、ウクライナは世界初のデジタルパスポートを導入した国だということでした。デジタルパスポートの導入直後に戦争が起きたのですが、その際にはデジタルパスポートを使って社会的支援やお金を寄付することができました。
この話を踏まえると、社会的なもの、いわゆる業界の非競争領域でどのような貢献をしていくのかということは企業のポリシーと経営者の考え方で大きく差が出てくると思います。この部分がうまくいっている企業は、一緒に働く人たちのモチベーションの持ち方も変わってきます。やはり企業は社員のモチベーションで上下する部分も多いと思うので、IT を使ってこの部分を変化させることが今の世の中には必要なのかなと考えています。
森山(WOVN):
今いただいているコメントの中で「日本の経営者が英語や IT の素養を持っていない場合、どうすればそこを変えていくことができるのでしょうか?素養のない人を排除して、外部から英語や IT の素養がある人をリクルートメントするしかないのでしょうか?」というご質問があります。
英語だけでなく、様々な言語が飛び交う場がグローバルビジネスの将来だとすると、日本企業はどのように変わっていくべきでしょうか?
矢島:
素養のない人を排除するというのも一つの選択肢ではあると思いますが、この場合ボトムから変化を起こすのは難しいです。そこで、ボトムから変化を起こすには英語が苦手な場合でも、自動翻訳や多言語化などのあらゆるツールを使えばいいと思います。先ほども申し上げたように、100点を取ろうとするからうまくいかなくなるのであって、道具を上手に使って追加で補正をすればいい。なので、IT やデジタルは社員全員が使って当たり前。ツールもどんどん使っていこうという雰囲気作りや道具立てを提供することがボトムから変化を起こす一つの方法ではないでしょうか。
森山(WOVN):
失敗を恐れずに、便利なものであれば使っていこう、提言を上げられるなら上げていこうというお考えですね。田井さんはどのようにお考えでしょうか?
田井:
ビジネスを起こすときや IT を取り入れるときに失敗があるのは当たり前です。失敗を繰り返した先に成功があるという経験は皆さんもされているかと思いますので、この部分を捉えなおすことが必要ではないでしょうか。また、若い世代の方々には日本では技術も IT も進歩してきたのだから人間もこれから進歩するのではないかという希望を持っていただきたいです。
森山(WOVN):
ありがとうございます。海外からの IT 化の波にいち早く順応し「経営」「IT」「言語・文化」という3つの壁を乗り越えていくことが重要になるのではないでしょうか。
本日は貴重なお話をありがとうございました。
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