Wovn Technologies株式会社は、2023年2月16日に国内最大級のインバウンド特化型カンファレンス「GLOBALIZED インバウンド 2.0」を東京タワーにて開催し、訪日観光に関わる多様な業界の方に向けて「訪日 DX で進化する日本の未来」をテーマにお届けしました。
Special Speech では、菅 義偉 氏(前首相・衆議院議員)をスピーカーに迎え、「インバウンド復活、『観光立国』へ再起動」と題して、今後のインバウンド消費引き上げに向けた課題や多言語化の重要性についてお話を伺いました。本レポートではその内容をお届けします。
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皆さんこんにちは。菅 義偉です。今日こうして講演させていただきますことを大変嬉しく思います。本日(2023年2月16日付)の日本経済新聞一面にもありましたように、まさにインバウンドが戻り始めてきていることを皆さんも実感し始めているのではないでしょうか。私も大いに期待しています。
コロナ禍でも、日本は国連世界観光機関や民間機関から魅力的な旅行先として選ばれています。昨年のダボス会議では観光ランキングで日本が初めて1位になりました。これは画期的なことですし、必ずやインバウンドは復活し、さらに伸び続けていくと思っております。安倍政権で観光立国を宣言した後、観光は伸び続けています。2020年に訪日外国人旅行者数を4,000万人に、2030年に6,000万人にすると掲げました。今の内閣もその目標を掲げて進んでいることを申し上げておきます。
2023年はインバウンド再起動の年と言えます。インバウンドの再起動というのは、地方創生、日本経済の復活ということです。東京圏と言われる1都3県での消費額は日本全体の約3割を占め、残りの約7割は地方です。地方の所得を引き上げなければ日本全体の経済は良くなっていかないと思っております。このために私が官房長官そして総理の際に注力してきたのがインバウンドであり、さらに農林水産品の輸出です。いかに地域に長く滞在してお金を落としていただくのか。旅行者数はもちろんですが、旅行消費額こそ重要であると思いますし、一人当たりの単価を高めていく必要があります。
官房長官に就任した2012年、訪日外国人旅行者数は836万人でした。隣の韓国では1,000万人を超え、タイや香港では2,000万人を超えていました。私としては我が国の観光資源や人口、経済的強さを踏まえると少なすぎると感じておりました。日本は、自然・気候・文化・食という観光振興の必要条件を兼ね備え、清潔で安全、おもてなしの心もありますから、ポテンシャルがあると確信しておりました。そこで、観光を成長戦略の柱、地方創生の切り札として位置づけ、省庁を横断的に束ね、縦割りを打破して推進することにしました。
亡き安倍元総理が、第2次政権発足後の最初の国会で国民の皆さんに観光立国宣言を約束しました。それに基づく取り組みの中で、一番遅れていたのがビザの緩和でした。日本はビザが厳しく観光客が日本に来にくい状況でした。最初にタイに対してビザ緩和を開始したところ、タイからの訪日外国人旅行者数は前年同月比で一挙に85%も増えました。そして2013年、訪日外国人旅行者数が初めて1,000万人を超えたのです。ビザ緩和については、まだまだやれることが残っていると思っております。
こうした入国のハードルを下げつつ、自然・気候・文化・食という我が国の魅力の磨き上げに一層取り組んだ結果として、観光市場は2019年に4兆8,000億円を超えるまでに成長しました。半導体産業以上の規模となり大きな経済効果をもたらしました。それに加え、新幹線の中はほとんどが英語をはじめとした多言語の案内になる、街には多くの外国人の方が溢れている、さらに大型免税店ができるなど、生活そのものが変わるところまでようやく来たと思います。しかし、その時に新型コロナの流行が始まったのです。
いまの日本にとって足りないのは、本日 GLOBALIZED のテーマにもなっている「高単価な外国人観光客を増やす取り組み」、これは他国に比べて弱いところだと思っています。コロナ前、高単価な外国人観光客は全体の1%ですが、消費額全体の12%を占め、大きく寄与していました。今後、高単価な外国人観光客を増やすためには、上質なホテルやプライベートジェットなどの環境整備や、旅行会社とのネットワーク形成などが重要なことは申し上げるまでもありませんが、そもそも我が国に訪れたいと思っていただくことが大切であり、そうした環境作りが大事だと思っています。
フランスやスペインなど観光先進国の状況を確認したところ、他国はベルサイユ宮殿などの国宝を保存するだけではなく活用しているとわかりました。例えば、赤坂迎賓館は国宝です。当時は年に10日ほどであった一般公開を大幅に緩和し、通年で250日ほど開館して51万人が来館できるようになりました。ただし、ベルサイユ宮殿では宮殿の中で高級なフランス料理を楽しんだり貸し切りパーティーを行ったりできますが、迎賓館はまだそこまでは行っていません。迎賓館でも特別な料理を楽しむことができたら、消費額増加に貢献できるのではないかと思います。もちろん、京都の迎賓館でも同じような取り組みをすべきだと思っています。
他にも、我が国では皇室に代々受け継がれてきた美術品があります。皇室から国に寄贈され、宮内庁の三の丸尚蔵館で保管展示されています。伊藤若冲の絵画だけでも30点を超える作品、他にも教科書にも出ている蒙古襲来絵詞や更級日記もあります。予算の都合で展示スペースが狭かったため、国際観光旅客税を充て、展示スペースを8倍に拡充した新施設を作らせていただいております。今秋には約半分が完成し公開される予定です。皇室ゆかりの美術品を公開する機会の拡大は、日本の歴史伝統文化を楽しんでもらう上で非常に意義深いと思っています。
やはり保存から活用に舵を切っていかなければならないと思います。例えば、世界遺産の二条城は、単に施設見学に留まっていましたが、大政奉還が行われた広間での儀式の復活や二の丸の御殿での特別入室などを実現した結果として、来訪者の約9割が外国人になってきていたところでした。こうした取り組みをより強化するために京都への文化庁移転が決定されました。これまで以上に、文化と観光の関係者が密に連携して文化財を活用することで、それによる収益をもとに、さらなる文化財の整備そして活用といった循環が生まれてくるものと思っております。
さらに、他国では大英博物館やルーブル美術館などの博物館や美術館は、誰もが訪れるキラーコンテンツです。我が国にも国立の博物館や美術館があり、素晴らしい収蔵品が数多くあります。これまでわかりづらかった多言語の展示を外国人目線で改善したり、17時までだった営業時間を金曜・土曜は19時または21時までに延長するといったことに取り組んでおります。
伝統文化だけでなく、現代アートにも大きな可能性があります。既に直島や金沢21世紀美術館、大地の芸術祭などは知名度が高く、多くの外国人観光客が訪れております。デジタルアートのチームラボにも年間230万人もの人が訪れ、その半数が外国人でした。我が国の若手のクリエーターの育成にもつながる大事なことであり、現代アートを外国人観光客に案内できるガイドの育成も考えているところです。
我が国は国土が南北に長く明確な四季があり、豊かな自然があります。世界自然遺産は5か所、国立公園は34か所あります。私が総理のときに沖縄の奄美を世界自然遺産に登録できたことは非常に嬉しく思っております。国立公園も文化財と同様に保護が中心であったため、外国人観光客向けのビジターセンターで単なる情報提供ではなく、カフェや地元のお土産販売場、ツアーデスクを併設するなど、滞在環境の改善に取り組んでいるところです。
また、ニューヨークのセントラル・パークやロンドンのハイド・パークなど、世界の主要都市の公園は人気の訪問先です。我が国でも、新宿御苑を磨き上げております。現在は夜間営業が夏は19時まで延長され、新しいスターバックスが開業するなど、民間の活力を生かしながら滞在環境の向上を図っており、今や入園者の約半数は外国人の方となっています。今後は公園内での民間イベントなど、より柔軟な活用を考えていかなければならないと思っております。
また、我が国には他のアジア諸国にない非常に良質な雪があります。スノーリゾートは地方での滞在や消費拡大に向けての有力コンテンツになっており、スキーに訪れる外国人観光客の消費額は平均1.5倍、滞在日数では1.2倍です。このため、ニセコではインバウンド増加に伴い、ホテル開発が進んで地域の雇用や定住人口が大きく増加しています。野沢温泉ではコロナ前、人口3,600人の村に毎日2,000人の外国人が滞在していたそうです。我が国の温泉街とスキー場を組み合わせることで、我が国らしい世界水準のスノーリゾートを実現していくことが可能だと思います。
北海道では2020年、アイヌ文化を学び体験できるウポポイという施設の開館を実現しました。コロナ禍でのオープンとなりましたが、年間来場者数100万人という目標を掲げており、いよいよ本格的にインバウンド旅行者の方にもご覧いただきたいと思っています。
2013年は、和食がユネスコ無形文化財遺産に登録された記念すべき年です。日本各地には、郷土料理や地名など、その土地でしか食べられない食材料理があります。地方の素晴らしいお店の日本食は、安い料理と思われている部分もあり、まだまだ消費額を向上できると考えています。
また、ベジタリアンの方も増え続けております。ベジタリアンの方は、単にサラダではなくて、ベジタリアンに対応した和食を食べたいというニーズを持っています。ベジタリアン向けのラーメンやカツ丼を提供する飲食店が非常に盛況だということです。インバウンドの食に関するノウハウを共有することで、食の収益性を高められるのではないかと思います。
また、観光と並んで力を入れた農産品の輸出額は、この10年で4,500億円から1兆4,150億円まで約3倍になりました。今、アジアでは、圧倒的な日本食ブームが続いています。日本滞在中に食べていただくだけではなく、それぞれの方が自国に帰った後に購入をしていただく、観光と農業間の連携を進める、ということが大事だと思います。
私がインバウンドに取り組み始めた頃、分かりやすい多言語表示、無料の Wi-Fi など、外国人観光客にとって当たり前である環境整備を強力に推進しました。言葉がわからなければ、地域を巡ることもありませんので、観光地・交通機関において、多言語による看板やアナウンスを広げたのです。しかしながら依然として、何か分からない商品には手を出せない、居酒屋に行っても何を注文していいか分からないといった事例が発生しています。小売店や飲食店などの情報の多言語化は、今後、消費額の引き上げにも大変重要な取り組みです。多言語での表示に加え、ガイドも、地元の人しか知らない店や情報など地域の歴史文化を深く体感させてくれる重要な存在です。
政権交代前に1兆800億円であった訪日外国人旅行消費額が2019年には4兆8,000億円までになり、地方の公示地価が27年ぶりに値上がりしました。これからという時にコロナになり収束してしまいましたが、これだけインバウンドは地方に大きな効果があったと思っています。
また、今年5月には横浜でトライアスロンの世界大会が、7月には福岡で50万人もの来場者が見込まれる世界水泳があり、インバウンドを呼び込む絶好の機会です。そして、2025年には大阪・関西万博、2027年には横浜で花博が開催されます。それぞれ入場者を2,800万人、1,500万人と予想しております。こうした取り組みの強化も極めて大事なことだと思っております。
観光は成長戦略の柱であり、地方創生の切り札であると、私は常日頃申し上げています。そして、それだけでなく、国連でも観光は平和へのパスポートである、このようなことが提唱されております。観光を通じ、言語を超えて相互理解を深めることは、国家間の平和的な関係の強化にもつながります。国連での調査によれば、ヨーロッパでもアメリカでも一番行ってみたい国は日本だということが発表されております。
こうしたソフトパワーを生かした平和外交を実施し、国際社会の平和と繁栄に貢献をする。このことが大事であります。官民が強く連携することで、必ずや我が国への観光が飛躍をし、地方の活性化、日本経済の再生に繋がるものと思います。本日のカンファレンスには関係各所の皆さんが御出席ということで、日本観光をまさに皆さんと一緒になって盛り上げていきたいと思っています。私の講演はこれで終わらせていただきます。ありがとうございました。
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