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【大手鉄道3社対談】沿線価値を高めるには?観光資源の最大化とオープンイノベーション|東急 三渕氏・小田急 久富氏・西武 田中氏|GLOBALIZED インバウンド2.0

作成者: 北野 光平|2023/03/15 15:24:34

Wovn Technologies株式会社は、2023年2月16日に国内最大級のインバウンド特化型カンファレンス「GLOBALIZED インバウンド 2.0」を東京タワーにて開催し、訪日観光に関わる多様な業界の方に向けて「訪日 DX で進化する日本の未来」をテーマにお届けしました。

当セッションでは、「沿線価値を高めるには?観光資源の最大化とオープンイノベーション」と題して、大手鉄道各社の取り組みと、3社が集うことで見えてくる業界の共通課題や今後のインバウンド消費引き上げに向けた課題とイノベーションについてお話を伺いました。

【登壇者】
三渕 卓 氏
 東急株式会社
フューチャー・デザイン・ラボ 統括部長

1995年東急電鉄入社。鉄道部門にて、相互直通運転を契機とし渋谷駅・横浜駅・目黒駅などの新駅の大規模改良工事の建築マネジメント業務に従事。経営企画部門を経て2008年からは都市開発部門にて住宅・商業・オフィスなどの不動産開発事業に従事したのち、2022年4月には新たな郊外まちづくり「nexus構想」を立案・公表。2022年7月より現職。社内起業家育成制度・スタートアップとの共創プログラムの運営・新領域開発などを手掛ける。

久富 雅史 氏
小田急電鉄株式会社

執行役員 経営戦略部長

1991年小田急電鉄入社。2016年7月から現職。お堅い鉄道会社の企業風土改革、経営ビジョン策定に取り組むとともに、複数の新規事業開発を並行して推進。モビリティ領域では、MaaSアプリ「EMot」とオープンな共通データ基盤「MaaS Japan」を開発。サーキュラーエコノミー領域では、循環型社会の実現に向けた新たな街のインフラとして、排出・収集事業者が抱える課題を解決するビジネス「WOOMS」を立ち上げ。地域とともに持続可能な社会づくりを目指している。

田中 健司 氏
株式会社西武ホールディングス

経営企画本部 西武ラボ 部長

大手住宅設備メーカーを経て、2003年にペット関連ベンチャーのアドホック(株)(現 (株)西武ペットケア)入社。2007年より同社代表取締役。
2008年に株式譲渡により、西武グループの一員に。西武ペットケアの社長として、事業拡大を進める傍ら、西武レクリエーションの取締役を務めるなど、西武グループの各種の事業推進に尽力。
2017年からは(株)西武ホールディングスにて西武グループの新規事業創出を担う西武ラボの部長に就任。新規事業企画・開発、マーケティング、オープンイノベーション推進にも知見を有する。

 

目次

  1. カルチャーやテクノロジーを活用したコンテンツに力を入れる
  2. ユーザーから見た課題感
  3. OS やプラットフォームの共通基盤の必要性
  4. 関係人口作りが観光資源の最大化には重要
  5. 地域と旅行者の“つなぎ”となる、オープンイノベーションを作る

1.カルチャーやテクノロジーを活用したコンテンツに力を入れる

三渕(東急):
本日ここにいる3名は、観光やインバウンドの担当ではなく、新規事業やイノベーションを専門に扱う部署におります。今回は私がファシリテーターとなり、3社で「インバウンド」について考えた際に、どういうことが生まれるかという視点でお話していきます。どうぞ宜しくお願いいたします。

早速ですが、まず「コンテンツ」に関して伺いたいと思います。
西武さんはコンテンツ(ムーミンバレーパーク、ベルーナドームのボールパーク化、メイキング・オブ ハリー・ポッターなど)に注力されていると思いますが、会社の方針でしょうか?

 

田中(西武):
コロナにおける生活者の価値変容、行動変容は我々にとって過去に経験したことない様なインパクトがありました。従来はハードドリブン、アセットドリブンで、色々な事業計画を立てていましたが、このままでは限界があると社内で声が上がっていました。

また、我々がベースとしている池袋豊島区自体が、アートやカルチャー、特にサブカルを中心としたコンテンツ発信を非常に熱心に行っております。これにうまく乗っかりプロモーションをしていくことが、日本にお住まいの方はもちろん、インバウンドの方にも刺さるんじゃないかという声もあり、一つの方針としてコンテンツ強化があがりました。

 

三渕(東急) :
サブカルでいうと小田急さんは下北沢があったり、箱根や江ノ島などの従来からあるコンテンツで、更に街の魅力を深掘りしていってますよね。コンテンツという意味ではどういった方向性なのですか?

 

久富(小田急) :
神奈川県の丹沢エリアにある大山はご存じですか?江戸時代に「大山詣り」といって五穀豊穣を願い人々がお参りをするというのが、江戸時代の一大レジャーでした。そういった歴史というのが、今なかなか振り返れなくなってきています。

ロマンスカーで向かう途中 VR ゴーグルをつけて、現実世界を映しながら、仮想現実で江戸時代にタイムスリップをする。江戸の人々が、どういう風にその大山詣りしていたのか体験する、なんてことを試しにやってみています。

そういったこれまで浮き彫りになってこなかった地域の魅力を、今のテクノロジーを活用して体験するというのが、いろんな地域で使えるようになるかもしれませんね。

2.ユーザーから見た課題感

三渕(東急):
たしかに VR や AR は、これからの観光で効力を発揮しますね。ひと目で分かりやすいですし、スマホでも見れます。一方で、エリアに訪れたユーザー目線での課題感は各社お持ちでしょうか?

 

田中(西武) :
今回の GLOBALIZED のテーマがインバウンドですが、まさに象徴的な事例があったのでご紹介したいと思います。

嘘みたいな本当の話なのですが、私の部下が池袋駅を歩いていたら、たまたまアジア系の若い女性に、現金1,000円が欲しいと声をかけられ、スマホで PayPay の画面を見せてきたそうです。

その女性は池袋駅で電車に乗りたかったのですが、電車に乗るための PASMO は持っていても、チャージができない。残念ながらこの3社とも共通なのですが、券売機でチャージするのって現金しか扱ってないんですね。

女性はなんとか現金を手に入れなければならず、たまたま通りかかった西武の社員に声をかけて現金1,000円をくれないか、代わりに PayPay であなたに1,000円を返すから、と訴えかけたわけです。これってインバウンドの方にとって大きな穴だよな、と強く思いました。

この辺りはそれぞれの沿線がというよりは、やっぱり共通して基盤の整備、OS の整備をやっていく必要があるなと思います。

(西武ホールディングス 田中氏)

三渕(東急) :
すごいですね(笑)。たまたま西武の社員に聞いたという奇跡。
久富さんはユーザー目線からの課題感について何かありますか

 

久富(小田急):
交通事業社からすると、できるだけ交通手段に乗っていただいて周遊していただきたい。その移動が売り物なので。特に自治体の方は「やっぱり我が町に来てほしい」ということで、周遊を促したいのですが、ユーザーからするとこれは果たしてそんなにぐるぐる巡りたいものなのかな?というのは考えものです。

物見遊山で一度は訪れる方はいらっしゃると思うんですけど、やはりその次は体験していただいて、その地域を好きになっていただいて、何度も訪れてほしい。恐らくこれが本音なんじゃないのかなと思いますね。

我々が商売としてやっている部分とユーザーがその地域とどう向き合ってほしいのか。さらに「関係人口」というところまでいってほしいという思いも、地域の方はお持ちだと思います。
この辺りが観光で潤っている部分と、でも本音としてはもっと我が町を好きになってほしいなと思う部分のせめぎ合いがあるのではないかと思いますね。

 

三渕(東急):
周遊してほしいというか、周遊させたがるところが結構出ちゃいますよね。

 

久富(小田急) :
マグロじゃないんだからそんなに回らないでしょと思います(笑)。



三渕 (東急):
これはすごく共通課題だと思うのですが、鉄道会社はどうしてもワンストップでそれぞれが囲い込もうとしてしまうのが、よくある話だと思います。その結果、やっぱりユーザーから見ると違和感があったり、不便さを生み出しているのかなっていうのは、ぶっちゃけの反省点ですね。

3.OS やプラットフォームの共通基盤の必要性

三渕(東急):
その反省点をどう変えていけばいいか。さっき田中さんがおっしゃった OS とかプラットホームみたいなことだとは思います。もうかなり前からありますけど、PASMO とか Suica が共通のプラットフォーム・OS になっていますよね。

 

田中(西武):
あれは鉄道業界のスーパーイノベーションでしたよね。

 

三渕(東急):
インバウンドや観光のユーザー目線で見た時に、次のプラットフォームをどう作っていけばいいかは各社で考えるというよりも、一緒に考えていくのが日本にとっていいことで。そういう視点が結構重要かなと思います。その上で、プラットフォームや OS はどういう形で作っていくのが良いのでしょうか。

 

田中(西武):
鉄道でいうと相互乗り入れもその一つですよね。これは線路の幅が各社一緒なので出来たことですし、先程の PASMO も全国共通で使えるようになったことで、旅行者の方は大変便利になっていますよね。

沿線価値を高めるためのベースになるプラットフォーム部分に関しては、各社一律ベースとなる基盤は同じものを作るということが求められていると思います。

 

久富(小田急):
それを狙って自社で MaaS をやっているところもありますね。これは恐らく観光以外でも日本のあるあるだと思うのですが、誰もがプラットフォーマーになりたがるので、なかなかインフラが共通化されないことが起こりますよね。

国の補助事業でも、各自治体単位で行う仕組みになっていることが多い。例えば最近だとスマートシティなども地域でバラバラなものが出来てしまう。そして実証が終わるとそこで終了、となってしまうので、インフラ作りをどう上手にやっていくか、横展開が非常に課題だなとは思います。

あとは機能面で課題に感じているのは、防災の観点ですね。旅行に行って災害が起きた時など、どこにどう避難すればいいのかっていう情報は日常的なインフラの中に埋め込んでおかないと、大事な情報が行き渡らないだろうなと。我が国では大きな災害が毎年のように発生しており、いつ起きてもおかしくない。どの地域でもお困りだと思うので、日常の周遊と緊急時のインフラをどう組み合わせるのかが課題だと思います。


三渕(東急):
先程、久富さんが関係人口という話もされていましたが、そのあり方もどんどん変わってきているというか、深くなっていく、信頼関係人口みたいなイメージですかね。

東急・小田急・西武のエリアと地方の繋がりが重要になってくると思いますし、また、海外から来られた方が少しでも深い関係になっていくことがすごく重要で、防災はそれこそ日頃の信頼関係がないといけませんよね。

(東急 三渕氏)

4.関係人口作りが観光資源の最大化には重要

久富(小田急):
江ノ島、鎌倉の例でいくと、最盛期は江ノ電に乗れなくなってしまうという、オーバーツーリズムや観光公害ということがありました。同様に、京都でも地域の人たちがバスに乗れないみたいなことが起こっていました。

地域の人たちがどれだけ幸せに豊かに暮らせるかというのがベースにないと、訪れる人も魅力を感じない。恐らく三渕さんのおっしゃるような関係人口というところに行きつかないと思います。
そこの地域のライフスタイルに憧れて訪れる人も多いと思いますしね。

 

田中(西武):
観光資源を最大化して、多くの観光客が来て、地元の方が割を食うというのでは、いけませんね。我々でいうと軽井沢がまさにその状況で、夏になると完全に交通がパンクしてしまいます。

地元の方や軽井沢町からも「西武さん何とかしてくださいよ」と言われるので、施設を開発する際には必ず迂回路を作り、なるべく交通分散させるような仕掛けをやるわけです。けどそれでもやっぱり十分じゃない。

観光資源の最大化は、とにかく人に来てもらえばいいのではない、という視座は鉄道事業者あるいはデベロッパーの立場としては意識する必要があると思います。


三渕(東急):
今のインバウンドの戻りの波を考えると、ダイレクトに対応をしていかなければいけないのですが、中々難しいですよね。我々も含め丁寧にやっていく必要がありますが、まだまだテクノロジーが追いついていない部分もありますね。

 

久富(小田急):
このコロナで観光分野で働いていた方が少なからずその職を離れざるを得なかったと聞いています。今後働き手が減ってくる中で、地域で働いている方が幸せに、豊かに暮らしていけないと観光事業が成り立たなくなるというのは切実ですね。

(小田急 久富氏)

 

5. 鉄道会社は地域と旅行者の“つなぎ”になる

三渕(東急):
前半はコンテンツや地域性の話から入って、OS やプラットフォームを共通化して使いやすくする、そこにそれぞれ地域のコンテンツが乗ってきて、今まで見えてなかった部分がちゃんと見えてきたり、より伝わるというお話をしてきました。

その中で関係人口もより大きくなっていく、そんなイメージなのかなと思うのですが、折角3社で話しているので、3社でこれやったら面白いみたいなのありますかね?


田中(西武):
OS を一緒にした時に、例えばスマホでいうとアプリのような、上に乗っけるコンテンツソフトウェアに関しては地域特性をどんどん出していくべきだと思っています。

地元の観光協会や自治会の方々が高齢化しているので、特に「インバウンド」においては、どうやって外国人の方と触れ合ったらいいか分からないみたいなこともあると思います。結果として関係人口が増えないということを危惧しています。

秩父など埼玉の比較的奥の方のエリアですと、今までインバウンドに馴染みがなかったようなエリアもあります。そこは鉄道会社として、そこまで線路を敷いてお客様を運んでいる以上は、ハブになることが必要です。

その地域の方々と実際に訪れていただく観光客の方との融合を図るポジションは必要ですし、当然 WOVN さんの多言語化対応みたいなところが必要ですよね。

なかなか個の事業者、個の観光地では対応しきれないところがあるので、そういったところを共有のプラットフォームに乗っけてあげて、シームレスに繋いであげることが必要だと感じています。

 

久富(小田急):
私たちはいくら沿線地域を持っているといっても、細い線路のある周辺なので、そこでの閉じた取り組みでは勿体無いです。観光資源という以前に、地域の資源として捉えていかなければいけない部分があって、それを最大化するためにはオープンイノベーションが必要という話ですもんね。隣り合ったところで共有したり、さらに別の地域にお使いいただいたりするような取り組みも考えられると思います。

 

三渕(東急):
渋谷、新宿、池袋とそれぞれ飲み屋街がいっぱいあるじゃないですか。先日、新宿の歌舞伎町に行ったのですが、何故か2階の奥に良いお店があったりして、すごく入りにくかったんです。

たとえば AR を活用するなどして、海外の人にも良いお店があるというのが分かり、それぞれの地域を自由に飲み歩けるようになったらいいなと思います。
そういう横断的に楽しいことができるのは非常にいいことですよね。

 

久富(小田急):
やっぱり繋いでいくってことなんでしょうね。物理的に距離がありますもんね。

 

三渕(東急):
池袋〜新宿〜渋谷、ついでに恵比寿くらいまで繋げてしまうとか(笑)。そういうのをうまく出来たらいいなと思いますよね。今日は良い機会をいただいたので、この3社でお話していますが、3社だけでなく、他の鉄道会社もどういうプラットフォームを作り、どういう新しいコンテンツを載せていくのか、地域資源を改めて発掘していくかみたいなことが出来たらいいですね。

 

田中(西武):
本日は様々な業種の方や学生さんなど、約5,000人の方々にお申し込みいただいていると聞いています。是非色んな会社さんから、我々3社に対して、こんな共通のプラットフォーム作れるよなどお話いただきたいですね。
他の鉄道会社さんも特徴のある観光地、観光資源をたくさんお持ちなので、そこの磨き込みに寄与するような、アイディアや企画があればご提案いただきたいなと思います。

 

久富(小田急):
最近、小田急ではある新規事業に関して鳥取県の倉吉市と連携協定を結びました。観光誘客に小田急のソリューションを導入したいと熱いラブコールをいただいたのですが、一方で、箱根の成功例を山陰地方に持っていっても、なかなかうまくいかないですね。

お聞きいただいている皆様を始め、地方にはそれぞれの解決策があると思います。それらをうまく共有して、より良くして、次の地域に展開していく。そんなエコシステムのようなものが出来ると、もっと素晴らしいものを生み出せると思っています。

 

三渕(東急):
冒頭申し上げたように、我々3人は観光のプロフェッショナルというよりは、オープンイノベーションや新規事業をやっています。鉄道会社だけで考える時代ではもうなくなっています。パートナー、スタートアップ、色んな企業や地元等も含めて、一緒に考えていかなきゃいけない時代になっているなというのは、非常に強く痛感しておりますので、何か少しでも我々と一緒にやりたいと思っていただけたらぜひお声がけください。

我々のセッションはこちらで終わりたいと思います。ご清聴ありがとうございました。

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