Wovn Technologies株式会社は、2023年2月16日に国内最大級のインバウンド特化型カンファレンス「GLOBALIZED インバウンド 2.0」を東京タワーにて開催し、訪日観光に関わる多様な業界の方に向けて「訪日 DX で進化する日本の未来」をテーマにお届けしました。
当セッションでは、「東横INN のインバウンド戦略〜日本旅の基地になる〜」と題して、株式会社東横イン(以下、東横イン)代表執行役社長の黒田麻衣子氏をお招きしました。コロナウイルス感染拡大前、インバウンドの受け入れに消極的だった東横INN が、どのようにしてインバウンドに勝機を見出したのか。コロナ禍で実施したリブランディングとインバウンド受け入れについてお話いただきました。
【登壇者】
黒田 麻衣子 氏
株式会社東横イン 代表執行役社長
聖心女子大学を卒業後、立教大学大学院でドイツ近代史を専攻。父、西田憲正氏が創業した株式会社東横インに2002年入社。 出産・育児のため退社後、2008年に副社長として復帰し、2012年に社長就任。
運営する「東横INN」は、国内最大級の客室数を有するビジネスホテルチェーン。 社長就任10年目となる2022年、新ブランドコンセプト「全国ネットワークの基地ホテル」を掲げてブランド再構築を宣言し、ビジネスホテルのパイオニアとして、さらなる進化を目指す。
著書に『日本一女性が働きたい職場を目指して』。
2016年 Forbes Japan「JAPAN WOMAN AWARD 2016」にて『リーダー輩出部門 グランプリ』受賞、2018年 エイボン・プロダクツ株式会社(当時)「エイボン女性年度賞2017」にて『教育賞』受賞、2020年 毎日新聞社主催『第40回毎日経済人賞』受賞。
まずは、コロナ禍があったからこそ、東横INN のリブランディングを実施することができたというお話です。
2020年にコロナウイルスが世界中で猛威を振るう前は、ビジネスホテルが建設ラッシュでした。その中で東横INN は良くいえば老舗、悪くいえばスタンダードで個性がなくなっているという思いが頭の片隅にありました。しかしながら、インバウンドの追い風によって業績はさほど落ち込むことがなかったため、そうした不安に対して真剣に向き合うことはありませんでした。
ところが、コロナウイルスが拡大しお客様が激減。数少ないお客様を多数のホテルで奪い合う状態になりました。そういった状況の中、東横INN が「お客様にとってのファーストチョイスになれているのか?」という疑問を突きつけられることになりました。
上の図は、東横INNの2011年度から2022年度までの客室稼働率の推移グラフです。
2008年に起きたリーマンショックで落ち込んでいた数字が、2011年の東日本大震災後の復興需要と相まって V 字回復を達成。2015年度に最高稼働率を記録しましたが、2016年度以降、インバウンドの需要拡大・東京オリンピックを見据えたホテルの建設ラッシュに伴い、東横INN の稼働率も右肩下がりに減少してしまいました。
競争の激化に追い打ちをかけるように、2020年1月からのコロナウイルス感染拡大によって、稼働率は2015年度のピーク時から約半減。2020年度は、創業以来初の赤字を喫してしまったため、変化を起こす必要を感じ、リブランディングの実施を決意したのです。
コロナ禍でオンラインミーティングが当たり前となり、東横INN がメインターゲットとしていたビジネスマンの出張は100%元に戻ることはないと考えていたため、リブランディングの方向性を以下のようにしました。
・強みと DNA を活かしながら、より時代に合った言い回しや価値観を謳う
・時代のスタンダードになってしまった創業時からの強みの見直し
・創業から35年かけて培った強みや考え方を表明する
お客様からプライベートで選んでいただけるように「駅前旅館の鉄筋版〜清潔・安心・値ごろ感〜」を見直し「全国ネットワークの基地ホテル〜出発するホテル。東横INN」にリブランディングしました。
東横INN のような宿泊特化型ホテルは、決してデスティネーション(旅行目的地)ではありません。楽しいホテルライフを提供するのではなく、その土地で過ごすこと、楽しむことをサポートするホテルです。旅行でもビジネス出張でも旅のクライマックスはホテルの外にあると考えています。日本旅を目的としている訪日外国人のお客様には、ホテルで日本を感じてもらうよりも、ホテルの外で日本を満喫してもらうためのお手伝いをしたいと考えております。
全国の東横INN の稼働率を基にお話をしてきましたが、京都と大阪の2エリアについては、コロナウイルスの感染が拡大する以前から、稼働率が落ち込んでいました。
京都と大阪は訪日外国人からの人気が高いエリアのため、インバウンド需要を狙ったホテルの建設ラッシュと民泊の急増がありました。一方、東横INN は訪日外国人の受け入れには消極的で何も対策をとっていませんでした。そのため、訪日外国人は競合他社にお泊まりいただき、東横INN は日本人のお客様をしっかりとっていく方針で事業を運営していました。
上の図は、大阪・京都の客室稼働率の推移図です。図からわかるように、2017年度までは全国平均を上回る稼働率でしたが、コロナが拡大する前の2019年度には全国平均を下回っています。これらの原因は、インバウンドのお客様を見越して、大阪と京都でホテル数が急増し、競争が激化したことにあります。
上は、厚生労働省が算出している旅館・ホテル営業の客室数を2015年度と2019年度で比較した表です。全国の客室数の増加率は約110%、訪日外国人からの人気の高い東京では約126%の増加率です。大阪と京都はそれらを上回ります。実際に、大阪と京都の外国人延べ宿泊者数は2015年から2019年にかけて200%近く増加しています。「これだけ外国人の宿泊者数が増えているのであれば、競合他社が増えたとしても東横INN の稼働率が減ることはないのでは?」と思われる方もいらっしゃると思いますが、インバウンドの受け入れに消極的だったこともあり落ち込みました。
上の表は、東横INN がインバウンド受け入れに消極的だったことを表す図です。2019年度(2019年4月〜2020年3月)と2019年を比較しているため、少しずれていますが傾向としてとらえることができます。
全国の総客室数に対する東横INN のシェアは3.66%を有していましたが、2019年の外国人宿泊者数に換算すると全国の総数に対して東横INN は2.22%しか受け入れておらず、客室保有率に対して外国人宿泊者率が1ポイント以上低いです。
また、2019年度における東横INN のインバウンド受け入れ状況として、総宿泊者数に対する外国人宿泊者数が約12%と、外国人の受け入れに消極的だったことが分かります。
しかし、全国的にオンラインミーティングが普及し、ビジネス出張が激減したため、インバウンドの受け入れが必須という状況です。これまで十分に取り組んでこなかったため、大きな伸びしろがあると考えています。
今後の取り組みを以下の3つの観点からお話しします。
・リピーターにする
・国別の傾向と対策
・店舗網のフル活用
まずは、インバウンドのお客様をリピーターにする取り組みです。
上の図は、観光庁が算出している国別の日本への来訪回数を表したものです。中国とアメリカ以外は、多くの方が複数回来日していることが分かります。
日本のビジネスマンに対しては、リピートしていただくために各店舗や全社から定期的にアプローチをしていましたが、インバウンドのお客様に対しては何も実施していませんでした。施策を打たないだけでなく「インバウンドのお客様をリピーターにする」という考えもほとんどなく、インバウンド市場に目を向けていませんでした。
今後は、インバウンドのお客様を一見さんと捉えずに、次に繋げる取り組みをしていきたいと考えております。インバウンドのお客様にも東横INN を気に入ってもらい、次回来日の際にも利用してもらうための、全社の意識改革から実施していきます。
リピーターにするためには、国ごとの違いをとらえた対策が必要になると考えております。
上の図は観光庁が算出しているデータですが、滞在日数の違いでみると、アメリカ以外は4〜6日間の滞在が多いです。一方、アメリカから来日される方は1~2週間の滞在が多く、加えて一人で来日する傾向が強いそうです。
これらの滞在日数や同行者数の違いから、提供するプランを変えたり、それぞれに合ったホテルの使い方を提案する、もっと詳細に国ごとの日本の楽しみ方の特長を捉える、など実施していきます。
そのためにも、海外の宿泊予約サイトとの情報交換や、旅行代理店との連携が重要になってきます。東横INN の説明動画をそれぞれの国の趣向に合わせて作成し、旅行代理店に PR していくことも考えています。
最後に、「店舗網のフル活用」でインバウンドのお客様の満足度をあげていくための、3つの施策についてお話します。
まず、インバウンド受け入れの強化店舗を作ることです。家族揃って来日されるお客様が多いので、複数人で宿泊できる部屋を用意できるホテルには外国人従業員を配置することを考えています。このように店舗のすみ分けを実施することで、お客様の満足度向上を図っていきます。
次に、全店において、地元の魅力的で確かな情報を発信することです。東横INN の強みは、ホテルを経営している支配人をはじめとした全スタッフを地元で雇用していることです。地元を愛するスタッフが観光スポットや美味しい飲食店を紹介しています。しかし、スマホを使った仕掛けが未整備なので、今後はオンラインでの発信にも力を入れていきたいと考えています。
また、ホテルの経営を任せている支配人には、地域に愛されるホテル作りをするために、地域で顔を売る活動を徹底させています。この支配人の活動が、地域のニーズや正確な情報を得ることに繋がっており、インバウンドで地域を盛り上げたい自治体の取り組みとも相乗効果を生み出せると考えています。
最後に、チーム東横インとしてネットワークをフル活用し「おもてなし力」を最大化していきたいと考えております。
また、全店で同じシステムをお客様に提供できているため、外国人のお客様の口コミで「東横INN は全店同じシステムなので言葉が分からなくても安心して使うことができる」と書いていただきました。こういった生の声を聴いて、お客様は我々が考えている以上に東横INN をネットワークとして捉えていただいていることを実感しました。
全国のホテルでスタンプラリーを実施するなど、店舗数を活かしたちょっとしたお楽しみを実装しながら、おもてなし力を最大化していきたいと考えております。
2020年4月、東横INN は日本初の宿泊療養施設として、コロナ感染者を受け入れてきました。その際に社会のインフラとしての役割を認識いたしました。
今、観光立国を目指す日本のインフラとして、東横INN が役割を果たし、日本旅の基地になりたいと考えております。
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