本記事のポイント
創業200年に向け、個性を活かしイノベーションを生み出す文化醸成のための取り組みを実施、TRP 活動の浸透のために社内向けメディアを立ち上げ
WOVN で社内向けメディアの記事や動画を多言語化。翻訳業務を効率化し、品質向上に時間を割けるようになった
多言語対応の優先度合いに疑問の声もあるが、新しい組織文化を目指す企業の姿勢として必要だと訴え推進
Wovn Technologies株式会社は、2024年8月30日に「GLOBALIZED インナーブランディング」を開催し、「外国人従業員のエンゲージメントを向上させるコミュニケーション戦略」をテーマにセッションをお届けしました。
当セッションでは、TANAKAホールディングス株式会社 藤本 順嗣 氏を迎え、「創業200年に向けた田中貴金属グループの改革〜経営と従業員を繋げるインナーブランディング〜」と題して、超長期ビジョンの浸透のために行なった社内向け情報発信の取り組みや外国籍従業員に対して外国語での情報発信を強化したメリットについて、お話を伺いました。本レポートではその内容をご紹介します。
【登壇者】
藤本 順嗣 氏
TANAKAホールディングス株式会社
未来創り本部 TRPデザイン室
学生時代に海外に7年滞在。2011年、精密機器メーカーに入社。グループ傘下となった海外メーカーとの開発プロジェクトに携わり、技術者として開発業務を行いながら、自社と現地の技術者をつなぐための通訳や翻訳を行う。
2018年、田中貴金属グループに入社。前職の精密機器メーカーで培った自社と海外の技術者をつなぐための通訳や翻訳の経験から、セールスエンジニアとして海外顧客への新規提案や技術交流に従事。現在は新たに策定された超長期のビジョン「TANAKAルネッサンスプラン」にて、国内外の従業員に向けたビジョン認知のための企画・情報発信を行っている。
目次 |
藤本(TANAKA):
田中貴金属グループの藤本です。弊社は、産業用貴金属や資産用貴金属の製造販売、また宝飾品の取り扱いをしています。海外にも約50の拠点があり、5,000人ほどの従業員が働いています。本日は、日本の企業がグローバルを目指していく中で、従業員同士の繋がりを強める取り組みをご紹介できればと思います。
田中貴金属グループは、創業200年となる2085年を見据えた上で、持続可能な社会や超長期の企業経営をめざす計画、「TANAKAルネッサンスプラン」(以下、TRP)を2021年度よりスタートしました。弊社は、様々な分野で使われる貴金属の可能性を引き出し、より良い未来を創り出すことを使命と捉えており、この使命の原動力は「従業員一人ひとりの個性」です。そのため、TRP では全従業員の知を結集して、イノベーションが生まれやすい組織文化を醸成していくことを目指しています。
TRP を推進するために行なっている様々な取り組みを紹介します。
例えば、社長自ら従業員に向けて想いを伝える動画を制作しています。最初は社内の会議室で撮影していましたが、XR(クロスリアリティ)のスタジオを借りて今までにない撮影スタイルにも取り組み、新しいことに挑戦する姿勢を見せています。
また、設備を更新する取り組みでは、宝飾品を取り扱うギンザタナカの店舗にて従業員が身だしなみを整えられるパウダールームを従業員発案のもとで設置しています。ほかにも一部の営業拠点で出た「フィットネス用品(サンドバッグ)を設置したい」という声をそのまま採用したり、大きな工場であれば食堂の食器を色鮮やかなものに変えるといった比較的取り組みやすい改善も取り入れています。このように、柔軟な発想を取り入れ働きやすい環境を整えています。
これらの活動の多くは、従業員の挙手制によるものです。また、これらの活動をより多くの従業員に周知できるよう、そしてそれらの取り組みが賛同されるよう表彰式も行っています。一方で、社長が各拠点を訪問して対話会を行うといった地道な活動も続けています。
藤本(TANAKA):
このような TRP を可視化して、TRP の活動を社内の人々に広く知ってもらうために、社内向け情報発信のプラットフォーム、「Webメディア“TRP”」を立ち上げました。元から社内向けサイトは存在していましたが、情報の鮮度や見栄え、集約度に課題があると感じていました。例えば、下記のキャプチャは活動初期のものですが、2-3か月前がファイルの最終更新日であったり、半年近く前に保存されたファイルやフォルダがトップページに表示されています。見栄えも通常の業務連絡のように見られかねない構成でした。
TRP が目指しているのは、単なるお知らせではなくもっと大きくてワクワクすることです。これらの課題を解決して、TRP の可視化をすれば新しい活動をひらめくきっかけにつながるはず、そういった思いで、この「Webメディア“TRP”」を立ち上げました。
実際に発信しているコンテンツをいくつかご紹介します。なるべく個々の従業員が主役となるような記事を作成しています。
また、月1回動画の配信もしています。社長の思い社内で撮影することもありますし、社外に出て街ブラの様子を撮影したりもします。また規模の大きい動画では外部スタッフを招いて制作することもあります。
もちろん、運用面での課題は多く、コンテンツの運用管理に加え、従業員からの興味関心の維持や TRP の活動を適切に伝えられているかどうかのチェックは永遠の課題です。しかし、最近では従業員から「私も記事を書いてみたい」という声をいただけるようになりました。これまでの努力が実を結び、コンテンツ制作の負荷が少しずつ減ってきています。ようやく1つのブレイクスルーが見えてきたと感じています。
藤本(TANAKA):
この「Webメディア“TRP”」は、WOVN.io を使って多言語対応しています。TRP は約5,000人の従業員を対象に配信していくことを目指している一方で、従来は日本語のみでの発信でした。本社は日本にありますが、海外拠点にも従業員がいます。それにもかかわらず日本語のみでの情報発信は TRP の姿勢に合わないともやもやしていました。
そこで、WOVN.io を使って「Webメディア“TRP”」を、英語と中国語(簡体字・繁体字)に対応しました。その結果、少しずつですが嬉しい声が届くようになりました。例えば、中国語を話す従業員や、日本語を勉強している英語話者の従業員からのコメントがあり、非常に励みになっています。
もちろん、「外国籍の従業員はまだ多くないのでは」「多言語対応にどこまでコストをかけるべきなのか」といった疑問の声もあります。しかし、2085年という超長期の大きな未来を目指すには、費用対効果ではなく、姿勢として多言語対応を進めるべきだと常に訴えています。
また、機械翻訳のクオリティについても疑問の声は出ますが、自身のこれまでのキャリアで培った英語力で考えても、翻訳品質は十分なものだと考えています。2085年という遠い未来を語ることからどうしても詩的な表現による抽象的な日本語表現も多いですが、現状の翻訳クオリティであれば問題ないと感じています。重きに置いているのは完璧な翻訳ではなく、多くの従業員に認知してもらうことと捉えています。
藤本(TANAKA):
「Webメディア“TRP”」では動画も配信しているため、WOVN.video を利用して、社内向けの動画の英語対応を実施しています。
動画の多言語字幕対応には、いくつかの課題がありました。動画を日本語以外で配信するには、日本語以外の字幕ファイルを別途作成する必要があります。今までは、動画原稿の英訳を翻訳会社に依頼し、納品物をチェックした後、動画と字幕の同期を私自身が対応していました。特に字幕作成は、場面ごとに表示する文字数を調整する必要があり、大変手間と時間がかかる作業で、やりきるためには品質を妥協するしかありませんでした。日本語と英語の2言語を字幕にするのであれば、この同期作業は2回行う必要があります。
現在は、日本語の文字起こしによる字幕と英語字幕の両方を WOVN.video にお任せできるので、単純に作業工数が大幅に削減され、翻訳チェックという品質の底上げに時間を割くことができています。TANAKA らしい表現や専門用語の確認ができるようになり、英語を話す従業員にも正確な内容を届けられるようになっています。
動画字幕の多言語化では、想定外だった嬉しい声があったので紹介させてください。それは「日本語字幕をいつも見ている」という聴覚障がいを持つ社員からの声でした多言語対応というのは日本語以外の外国語だけでなく、日本語でも行うことが重要であることを改めて実感しました。今回の WOVN.video の導入で TRP の信念をより多くの従業員に届けることができるようになったと感じています。
多言語対応の取り組みは、社内のボリューム層に認知されにくいのは確かです。日本人が多く日本に拠点がある会社のため、日本語発信は優先されがちです。しかし、弊社が目指しているのは新しい組織の文化であり、それはすべての従業員で作り上げていくものというのがTRPの理念です。創業200年の2085年までまだ60年ほどありますが、遥か未来も超えられるように、より多くの従業員との繋がりを目指して活動を続けています。
WOVN:
ここから Q&A セッションを進めていきます。
先ほどコンテンツ制作が非常に大変だとお聞きしました。「Webメディア“TRP”」の運用は何名で行っていますか?
藤本(TANAKA):
社内でメディア運営に携わっているのは、今年1名増え、私含めて3人です。サムネイル画像などは外部に依頼していますが、運営や記事作成は、私ともう1名のメンバーでほとんどの業務を行なっています。
WOVN:
現在 Web サイトは機械翻訳、動画は人力翻訳をご利用いただいていますが、翻訳の使い分けをどのように決めていますか?
藤本(TANAKA):
Web サイトで記事を発行するのに一番重要な「文字を書く」という行為は比較的多くの人にやっていただくことが可能です。よって発信するコンテンツ量も多くなり、比例して翻訳量も多くなるため、効率を重視して機械翻訳を使っています。
動画は月1や年1などの頻度で公開しており、今はまだコンテンツ量が多くないので、人力での翻訳を契約しています。また、動画ですと発言が句読点で終わらずに次の文章にそのまま続くことがあり、文末がわかりにくく今の機械翻訳では翻訳しきれないことがあります。より精度を高めるために、動画では人力翻訳を依頼しています。
WOVN:
機械翻訳の品質についてはどう感じていますか?
藤本(TANAKA):
海外滞在経験があり、田中金属グループに入社する前は翻訳や通訳も行っていた経験で見ても、7〜8割は満足いく翻訳がされており、品質は問題ないと感じています。もちろん機械翻訳や人力翻訳の結果を指摘・修正することはありますが、そもそも翻訳の質を高めることに時間を割けるようになったのは WOVN のようなツールのおかげであり、その存在はすごく大きいですね。
田中貴金属は歴史の長い会社だからなのかこのような新しいサービスを使うのに躊躇することがあります。今の私はTRPという挑戦の最前線にいるからこそ、WOVN のような便利なサービスが世の中にあり、使って初めてわかるメリットがあるという1つの成功例として社内外に伝えられればと思っています。
また、翻訳の精度は、元となる日本語の精度にも依存する部分があり、決して機械翻訳だけが悪いわけではありません。なかには「この日本語は確かにどちらの意味にも取れる」のような表現もあり、機械翻訳の性能が上がることを期待すると同時に、曖昧な元言語は誤訳を招く恐れがあるということも理解しなくてはいけません。より正確な文章が従業員に届けられるよう、執筆側の人間にも情報共有していかなければならないと思っています。
WOVN:
最後に WOVN を使って良かった点や今後に期待したい点はありますか?
藤本(TANAKA):
良かった点は、時間が限られるが故に品質を妥協せざるを得ないという、歯がゆい問題に対処できるようになったことです。自分の気持ちの面も含めて、納得のいくものが出せている点が良い点です。
今後に期待したい点は、視聴者数の増加につながる良い動画の作成、これを実現しやすくなるような動画編集ソフトと WOVN の連携です。動画のちょっとした編集と WOVN での字幕作成のために行き来する工程がなくなり、シームレスに動画編集できるようになればありがたいと感じます。
Wovn Technologies株式会社は Web サイト多言語化ソリューション「WOVN.io」を提供しています。多言語化についてご興味のある方は、ぜひ資料をダウンロードください。