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グローバル展開で鍵となる、世界規模での従業員エンゲージメント 〜グローバル企業の成功事例に学ぶインナーブランディング〜|インターブランドジャパン 佐藤氏|GLOBALIZED インナーブランディング

作成者: 佐藤菜摘|2024/10/21 13:11:59

 本記事のポイント 

  • エンゲージメントを高めるには、文化を創り行動変容を促す「カルチャーブランディング」が重要

  • グローバルエンゲージメントの3つの障壁「伝わるツボが違う」「規模の壁」「明快性への拘り」

  • 経営と社員の接触回数を増やすだけでなく、発信するメッセージの「明確性」と「発信者」も鍵

Wovn Technologies株式会社は、2024年8月30日に「GLOBALIZED インナーブランディング」を開催し、「外国人従業員のエンゲージメントを向上させるコミュニケーション戦略」をテーマにセッションをお届けしました。

当セッションでは、株式会社インターブランドジャパン Senior Exective Director, Head of Clients Services & Solutions Group 佐藤 紀子氏を迎え、「グローバル展開で鍵となる、世界規模での従業員エンゲージメント 〜グローバル企業の成功事例に学ぶインナーブランディング〜」と題して、グローバルエンゲージメントに起こる3つの課題と対応事例についてお話を伺いました。本レポートではその内容をご紹介します。

【登壇者】
佐藤 紀子 氏
株式会社インターブランドジャパン
Senior Executive Director,
Head of Client Services & Solutions Group

欧州投資銀行を経て、フランスにてMBA取得後、大手グローバル消費財企業において日本および本社海外勤務を経験、新規事業の立ち上げ、経営企画業務のほか事業戦略改革プロジェクトなど幅広い業務に参画。その後、大手日系消費財企業において主にアジア市場における新規市場開拓事業を統括、ブランドのグローバル展開を経営・現場レベル双方で牽引していた経験を持つ。インターブランドにおいては、不動産、IT、消費財、化粧品、小売など幅広いプロジェクトに携わり、事業会社における経験・知見に基づいたクライアント支援を行っている。

 

目次

        1. 「欠陥車が存在しない世の中」で重要なのは、カルチャーブランディング
        2. 壁①:伝わるツボが違う
        3. 壁②:規模の壁
        4. 壁③:明快性への拘り:誰からのどのようなメッセージか?
        5. グローバルエンゲージメントにおけるメッセージで抑えるべきポイント

「欠陥車が存在しない世の中」で重要なのは、カルチャーブランディング

エンゲージメント、インナーブランディングというのは「何を」「どう伝えるか」という2つの論点があり、本日は「何を」ではなく、「どう伝わるように伝えるか」に絞ってお話します。

「もはや世の中に “欠陥車” など存在しない」
製品の機能などスペックの戦いでは、激しい競争環境では勝てないことを表現した有名な言葉です。「ものづくり」に強みを持った日本企業がグローバルで勝ち残るためには、ブランド強化を進めなければいけないと言えるのではないでしょうか。

グローバルに事業を展開する大手 PR 会社である Edelman が実施した調査を紹介します。「政府、NGO、企業のうち、社会課題の解決をどこに期待するか」という質問に対し、2012年では政府、NGO、企業という順に挙げられていましたが、コロナ明けは企業がトップになりました。また、それに準じて事業内容が社会課題とリンクしているか、取り組んでいるか、という具体的な期待が高まっています。

我々は、グロース機関投資家にもよくインタビューしますが、企業を見るポイントとして「将来的な利益」「見えない資産(パーパス、組織資産)」そして「社会的課題を言っているだけでなく、実装してるか」という答えがよくあります。

つまり、世の中の企業やブランドに対する期待が、確実に変わってきてるということです。

こういった変化が当たり前で不確実性の高い世界では、より一層エンゲージメントが重要であると考えています。
エンゲージメントとは、今まで「何か定義したものを認知、理解してもらい、自分ごと化してもらう」という理論でした。本当に今の世の中で、その定義のままで組織は変革していけるのか。そこから我々は、インナー・エンゲージメントを「不確実性を解消するためのプロセスであって、従業員の行動を目的とリンクさせて帰属・共感を抱く文化の定義そのものである」と捉えています。そのためインターブランドでは「インナーブランディング」ではなく、「カルチャーブランディング」という言葉を「異文化の枠を超えた強い価値観で束ねられた文化を創造し、行動変容を起こす」と定義し使っています。

頭、「何を」「どう伝えるのか」が論点であるというお話をしました。1つ目の論点である「何を」について、多くの企業様は「Purpose」を発信していると思います。Purpose の浸透には、「Understand(理解)」「Believe(共感・自分ごと化)」「Live(反映・実践)」がクリアすべき壁であると言われ、その中でも「Understand」から「Believe」へ変容させることの難易度は高いです。

エンゲージメントの取り組みを行っていく上で、「 “伝える” と “伝わる”は、完全に異なるものである」ということは抑えておくべきです。特に、グローバルレベルでは手戻りが効かなくなってしまうので、計画の段階から念頭に置きましょう。
「伝わる」グローバルでのエンゲージメントにおいて壁になる3つのポイントと、対応事例をご紹介します。



 

壁①:伝わる「ツボ」が違う

本社である日本の考え方をベースにすると、必ず問題が起こります。日本人の社員に伝わるツボと、海外の社員のツボは同じではありません。同じ言語であっても伝わるツボが異なる場合もあります。そういった異なる社員の直感的なツボを捉えられるかはとても重要です。

この壁を乗り越えるポイントは三つあります。

1.Why?:存在意義

日本企業では、北極星として「Purpose」が必要だ、という言い方をよくしますが、この「Why?」は少し意味合いが違います。
グローバルの社員は「なぜこの仕事に就いたのか」「なぜこの仕事をしているのか」というような、仕事に対するキャリアパスの概念に、非常に重きを置いています。それに対し、グローバルカンパニーは、社員の個、存在意義、意味合いを重視しエンゲージメント活動に取り組んでいます。このように一つのテーマをどの文脈に照らして異なる文化・価値観の社員が自分事できるか、という論点も重要です。

<取り組み事例>
◆スターバックス社「Why are you here?」
小さな目的意識でもいいので「どう自分を変えたいのか」「ここで何を成し遂げたいのか」というような、個人が大切にしている価値観を、上司やメンターに共有し、フィードバックを得る取り組みをしています。「Why are you here?」を社員間の対話のきっかけにしている興味深い取り組みです。

◆味の素社「オウンドメディア:外国人従業員が語る!味の素社で働くワケと私のパーパス」
ASV(Ajinomoto Group Creating Shared Value)経営で有名な味の素社では、社外にも公開するオウンドメディアにて、本人の顔が見える記事を発信しています。社内と社外で施策を分けない、個のパーパスを結びつける事例になります。

2.誇り

アダム・グラント氏のハーバードビジネスレビューでの論文では、「エンゲージメントにおいてリーダーの果たす役割も重要だが、エンドユーザーの声を使うことで説得力があり、心を掴むエンゲージメントになる」ということが語られています。
しかし、エンドユーザーの声を使うだけでなく、「共感」「影響」「感謝」の3つを意識することによって、より効果を発揮します。

<取り組み事例>
◆ヤマハ発動機社
数年にわたって、グローバル規模のエンゲージメントに取り組んでいます。B2B 企業に在籍する社員の多くが、エンドユーザーと距離が離れたところで業務を行っています。エンドユーザーの声を敢えて紹介することで、自身が携わる業務の意味合いを、リアリティを持って理解することができます。
エンゲージメントのスコアが低いことが課題だった製造部門では、わざわざラインを止めて、社長からのメッセージとお客様の声を混ぜたセッションを実施することにより、エンゲージメントのスコアが上昇したという声がありました。

◆ローソン社
グループ会社では、エンドユーザーの声をエモーショナルなムービーにして、社内外に公表しています。

3.受け取り手側の「癖」を知る

各国のコミュニケーションの特徴は、大きく分けて「ローコンテクスト」と「ハイコンテクスト」の2つです。「ローコンテクスト」は、シンプル且つインタラクティブで明確であることが特徴です。一方「ハイコンテクスト」は、繊細で行間を読む、暗黙知が多いことが特徴です。
英語圏と一部のヨーロッパ圏は圧倒的にローコンテクストです。北欧は中間になります。アジア圏になるとハイコンテクストが多くなります。特に日本は圧倒的にハイコンテクストといわれており、他国と比較し違いがあることを念頭に置きましょう。日本本社の感覚で伝えようとするとリスクがあるという背景はこのポイントにもあります。

 

壁②:規模の壁

グローバルで事業を行えば、従業員規模は何万人にもなります。そのスケールの中で、従業員一人一人の心に届く尖った取り組みが重要です。
規模の壁を乗り越えるポイントは「ブランド×社員を結びつける体験を創れるか?」です。

<取り組み事例>
◆オムロン社「企業理念を社内に浸透させる仕組み、TOGA」
TOGA と呼ばれるグローバルイベントでは、各国のリージョンや本社も合わせて、企業理念を実践しているベストプラクティスをリージョンごとで選考し、グローバルで共有します。日本企業は謙虚なカルチャーなので、「勉強になりました!」だけで終わる、感情を排したイベントになりがちなのですが、それだと従業員は高揚感を得られません。選考されたストーリーをエモーショナルな映像にし社外にも公開することによって、波及効果で社員の心にも刺さっていきます。

◆KPMG 社「1万人ストーリーチャレンジ」
KPMG 社では、「1万ストーリーチャレンジ」という、自分自身のパーパスのポスターを自作できるアプリを展開しています。自身の顔と「私はこういうことを果たすためにこの会社入りました。」というメッセージがセットでアプリに表示されるため、個人のユーモアやパーソナリティを表現できる施策になります。
1万件の投稿制限に対して4万件も投稿があるなど、想定以上の効果がでたそうです。重要なのは、社員が自ら時間を作りたくなるような、高揚感のある施策にすることです。

 

壁③:明快性への拘り:誰からのどのようなメッセージか?

エンゲージメントに近道はなく、トップからの絶えないメッセージと対話は、基盤として重要です。多くの企業様のエンゲージメントをご支援していますが、CEO が自ら動き、発信し、社員と距離が近い会社は、持続的なエンゲージメントの向上に成功しています。

味の素社では、社長と現場のミーティングを多数実施したことで、ビジョンの浸透やその後の実現に効果があった、とブランドプロジェクトの担当者様からお声をいただいています。
ヤマハ発動機社では、トップからのメッセージが、従業員に本気度を伝え、やらなければというムードの醸成に効いたとおっしゃっていました。

特に B2B でグローバルに大きくなると、社長を社員の前に登場させるのは年に数回だけ、という企業も多いと思いますが、社長自ら社員に対してメッセージを発信することは、各社の広報にとっては非常に重要です。

グローバルエンゲージメントにおけるメッセージで抑えるべきポイント

単純なことですが、発信しないことには始まらず、たくさん浴びせ続けることは重要です。その中で、グローバルで「伝わる」発信のためには、以下のポイントを抑えてメッセージすることを忘れないでください。

  1. 未来視点に立脚している
  2. 言葉を聞いた時、社員が高揚感や誇りと共にイメージできる
  3. 新たに生み出したことが明示されている

共通していることは、社員の高揚感につながることです。課題の裏返しや改善したいことでは、社員の高揚感につながりません。社員が「やってやろうじゃないか」と思える、ワクワクするメッセージが重要です。

本日お伝えした3つの壁と、それに対する3つのポイントを抑えカルチャーブランディングを推進していただければと思います。

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