商品やサービスを通じてお客様に新たな価値を提供するために、グローバルでの“One MONOZUKURI”を掲げ、改善活動に取り組むサントリー。安全・安心で高品質な製品をお客様に届けるために、グローバルの各生産拠点が一体となって改善活動を進めたいとの思いから、“Continuous KAIZEN knowledge”を立ち上げ、国境・事業・会社を越えて各工場からの改善事例を共有する仕組みを構築しました。工場の全従業員が母国語で改善事例を閲覧できるようにすることで、他工場での改善活動の取り組みを理解できるようになり、新たな改善に繋げられるようになった、というお話を伺いました。
入江:
環境変化の激しい現代社会の中でも、お客様の信用・信頼を第一に、新しい価値を創出し、安全・安心で高品質な製品をお届けし続けることができるようにするためには、海外も含めた全社共通で課題やその解決事例を共有することが重要になってきます。各生産拠点で生み出された技術や知見、ナレッジを一元化できないかと考え、社内の生産拠点の改善事例を共有するための仕組みを検討しました。
以前から、各生産拠点の改善活動を共有化する取り組みとして、年に1度、海外拠点から社員を日本国内に招いて改善事例報告会を開催していました。しかしながら、参加者数は限られ、言語も英語・日本語のみしか対応できていませんでした。また、改善事例報告会では厳選された改善事例しか共有できないため、それ以外にも存在する本質的に意味のある取り組み事例をどうしたら多くの従業員に共有して業務に活かしてもらえるかと考えていました。その解決策として、改善事例をグローバルでも共有できるサイト“Continuous KAIZEN knowledge”を立ち上げました。
河北:
改善事例は、重要な情報ではありますが業務上必須の情報ではないため、少しでも読み手に負担があると読んではもらえません。英語を理解できるマネジメント層だけでなく、実際に改善活動をする現地の外国人従業員にも情報を届けていくためには、各生産拠点がある国の母国語で気軽に情報へアクセスできる環境が必要だと考え、7言語での対応を行う方針としました。
河北:
“工場の全従業員へ多言語で改善事例を届けること”を実現すると同時に、サイト多言語化を負荷なく実現できる方法を求めていました。翻訳会社への依頼や他社の多言語化ツールも含めて様々検討しましたが、弊社内の別サイトでも既に実績があった WOVN.io を利用するのが 1番良いと考え、導入を決めました。私自身も、ユーザーとして社内サイトで WOVN.io を利用しており、直感的な操作で、スピーディーに多言語化できる仕組みに感動したのを覚えています。
翻訳会社に依頼していたら翻訳コストがかさむだけでなく、情報を届けるスピードも追いつかず、掲載頻度も少なくなっていたと思います。
導入時はサポート担当の方に操作方法や仕組みをわかりやすくレクチャーいただけたので、安心して進めることができた点が良いと感じました。問い合わせに対しても、スピーディーかつ真摯に対応してくれました。正直、期待以上のサポートだったと感じています。
河北:
改善活動は、国内の規模の大きい生産拠点だと1工場あたり年間5,000件程度行っています。海外は拠点によってばらつきがありますが、なかには日本と同レベルの改善件数を目標に掲げて取り組んでいるところもあります。
改善事例の共有にあたっては、改善効果をQCDMSE(品質、原価、生産性、人、安全、環境)に 分類し、その分類に沿って改善事例の管理を行っています。例えば、「ペットボトルのラベルのシワや歪みをゼロにする取り組み」は品質、「最新のパワーアシストスーツを使った取り組み」は安全、「温室効果ガスを削減するための取り組み」は環境に分類しています。
改善活動は小さなものから大きなものまで様々あるため、グローバルで共有すべき改善事例を選定する際には、グローバルで幅広いニーズがあるもの、全社目標を達成するために積極的に水平展開したいものなど、を優先するようにしています。
WOVN.io を使用したサイト翻訳の流れとしては、①改善事例のポイントを端的かつ正しく伝えるため、水平展開の要素を 3,000文字程度で日本語で要約する、②専門分野の翻訳に強い翻訳会社に依頼して人力翻訳を行う、③英語をもとにして“Continuous KAIZEN knowledge”ページを作成する、④WOVN.io を導入して残りの5言語に翻訳する、⑤日本語のページにはもともとの日本語の要約文をアップする、という流れで行っています。
要約文を作成するにあたっては、WOVN から導入時に共有いただいた『機械翻訳を活用するためのコツと注意点』を参考にしながら、例えばプリエディット(機械翻訳しやすくなるような日本語の書き方など)を意識するなど、なるべく機械翻訳の精度がでやすい文章になるようにも工夫しています。
英語を翻訳元の言語にした理由は、多言語に展開するにあたっては、その方が機械翻訳の品質も高く安心して運用できるためです。もし誤訳があった場合に備え、閲覧者に機械翻訳であること、機械翻訳によって意図しない文章で表示されている可能性があることを説明するモーダルウィンドウを表示することで、改善のポイントが理解できる一定の品質を保ちながら、スピーディーに情報公開ができています。翻訳品質に関しては、導入時に各国の工場でも確認してもらい、問題ないことも確認しています。
サイトを構築した初年度は、様々な改善事例がこのサイトにあることをユーザーに認識してもらうために週に1本程度、現在は情報をより厳選し、月に1、2本の改善事例を掲載しています。
実際にサイトの事例を使ってもらうためには、サイトに役に立つ事例がたくさんあることを知ってもらうことが必要と考え、海外工場への説明会も開催しました。この説明会では工場ごとにニーズの大きい事例を選び、事例の内容や展開するための進め方を勉強会形式で現場の人に直接説明しました。説明会に参加した海外工場の従業員からは、"その改善を誰が実施したかもわかるので、不明点を問い合わせることができて便利だ"、"自分達の工場でも取り入れられそうな改善事例だ" という声もあがりました。
少しずつですが、他拠点の改善事例を自拠点に取り入れようという動きも出てくるようになりました。“Continuous KAIZEN knowledge”での情報共有を始めてからまだ数か月ですが、進行中のものを含め既に10件以上の新たな改善に繋げることができています。
入江:
コロナ禍で従業員同士が Face to Face で会話できる機会も限られている中、“Continuous KAIZEN knowledge”を立ち上げ、WOVN.ioを活用してグローバルで改善事例を共有できるようになったことは良かったと思います。この仕組みによって、他拠点の改善事例を自拠点の改善活動に繋げる取り組みも少しずつ出てくるようになってきたと感じています。
しかしながら、各拠点間でノウハウやスキルの共有が十分にできている状態にするためにはまだまだ課題があります。こうしたツールを活用することによってノウハウやスキルを得ることができ、国境・事業・会社を越えて協力し合いながら改善を進めた結果、商品・サービスがよりよくなった、という成功体験を沢山つくっていくことが重要だと考えています。
また、積極的に改善事例を共有してもらうために、沢山読んでもらえる事例を出した人を表彰することなども仕掛けとしては有効かもしれません。
“One MONOZUKURI”でコミュニケーション・インタラクションが益々活性化し、改善が進み、強い現場が醸成できるように取り組んでいけたらと考えています。
(取材日:2022年5月)