Wovn Technologies株式会社は、2023年2月16日に国内最大級のインバウンド特化型カンファレンス「GLOBALIZED インバウンド 2.0」を東京タワーにて開催し、訪日観光に関わる多様な業界の方に向けて「訪日 DX で進化する日本の未来」をテーマにお届けしました。
Special Session では、WOVN 代表取締役社長 CEO 林 鷹治と、取締役副社長 COO 上森 久之より、3つの観点でみるインバウンド2.0 と、「5分で検知、10分で修正、全自動で安心のローカライゼーション」というコンセプトの新製品「WOVN Autopilot」についてお話をさせていただきました。本レポートではその内容をお届けします。
目次 |
上森:
前半で私から「インバウンド2.0」についてのご紹介と、後半は林から新しい WOVN の技術を搭載した新製品を発表させていただきたいと思います。
今回のイベントのテーマは「インバウンド2.0」。コロナから3年が経ち、ふたたび3,000万人、4,000万人と多くの外国人が日本に訪れると予想されています。そこで、コロナ前と比べ、どんなことがアップデートされているかをまとめてみました。
まず、インターネットを使っている全世界のユーザー数が13億人増加しました。2019年時点では40億人だったのが、2022年には53億人になったのです。また、世界の人口自体も5億人増えて80億人になりました。
一方で、訪日外国人の数は減少しました。コロナ前には、観光や仕事で日本を訪れる人が年間3,200万人ほどいましたが、2022年にはその数が約400万人に、すなわち約90%も減少したことになります。
コロナをはじめとして、戦争、金融的な量的緩和、インフレサプライチェーン、と色んなことが世界で起きていたことが要因です。
しかし現在、訪日需要はふたたび高まってきています。2022年は、約9,000億円のインバウンド消費がありました。もともと去年の10月時点では2023年は2兆円ぐらいの消費額になるだろうとエコノミストからの予想もあったのですが、水際対策の緩和などもあり、12月には3.5兆円へと上方修正されました。
また、2024年2月には訪日客の数をコロナ前と同じ水準である3,200万人に戻すことが目標とされています。あとちょうど12ヶ月です。これも当初の予測値より8ヶ月前倒しに修正されたものです。
そんな中、この GLOBALIZED のお申し込みも当初3,000人想定だったものが5,000人超の1.6倍、ご来場での参加希望も定員の5倍以上のお申し込みをいただきました。
水際対策緩和の措置が出たほか、2025年には関西万博、2030年にニセコまで新幹線が開通予定、さらにまだ確定はしていないですが、2030年には札幌で冬季オリンピックが実現するかもしれません。このように、今後もインバウンド関連のイベントがたくさん予定されています。
そしてインバウンド対応に多言語対応は必須です。我々は多言語屋さんなので、多言語化のトレンドもご紹介したいと思います。
2016年、 一部の日本企業だけで使われていた WOVN.io ですが、これが2023年には本当に多くのエンタープライズ企業の多言語ローカライズを下支えする存在となれました。
コロナ前は2つの多言語需要がありました。1つは訪日インバウンド消費(約5兆円)、もう1つは在留外国人が生活しやすくなるサービス(市場はインバウンドと同規模の5兆円程度)。合わせて10兆円ぐらいのマーケットでした。
これがコロナになると全く新しい需要も出てまいりまして、グローバルでの DX という BtoB の製造業、それから SaaS 企業を中心とするソフトウェア企業。留学生を増やすための大学、さらには上場企業のコーポレートサイトも海外投資家に情報提供するために英語化が求められてきました。
2023年に入り、訪日多言語化に関するお話をたくさんいただいています。
本イベントのタイトルを「観光 DX」ではなく「訪日 DX」にしたのには、ちょっとしたこだわりがあります。英語だとどちらも「ツーリズム」ですが、「観光」といってしまうと観光業だけの話に聞こえてしまう。だけど、インバウンド訪日が関連するものには、小売、食品、飲食、交通、街づくり、都市開発、宿泊、観光、レジャー、エンターテインメント、コンテンツ、アニメ。こういったあらゆるコンシューマビジネスが関連するので、観光といわずに「訪日 DX」としています。
こちらはコロナ以前と、2023年以降大切にされることの比較を3つの観点で並べています。
1つ目は、前から言われていますが改めて大切になっている「量から質」へ。
2つ目が「訪日体験」をいかに設計していくか。そして3つ目が「多言語対応」、どんな国の方々が日本に来るのかというお話です。
まず、1つ目の「量から質」という点ですが、2022年10月にインバウンドの本格的な回復に向けた政策パッケージというのが出されました。ここで掲げられたのが、速やかに5兆円の消費に戻しましょうということです。コロナになる前はインバウンド客数 4,000万人、2030年には6,000万人、と人数に重きを置いていました。
今は、変数がもう1つ増え、金額を意識した消費額5兆円というのが中心に謳われています。
ということは、この単価の変数も考慮する必要が出てきます。
安価で簡便なネットと、高価でリアルな体験の2つを見ていきたいと思います。
例えば、フランスのパリに住んでいる方が京都を楽しみたいなと思ったら、YouTube 11.99ユーロ、月に約1,500円くらいで、京都をいくらでも見放題で楽しめるわけです。
しかし、いざ日本に行こうと思うと、航空券を取って、ホテルに泊まり、買い物までしたら、少なくても30万円ぐらいはかかると思います。
つまり、インターネットで楽しむのか、実際に訪れるのかで200倍も使うお金は変わってきます。
わざわざその場に来て、何をして楽しみたいかというと、そこでしか味わえないものを買いたいかもしれないし、使いたいかもしれないし、投資したいかもしれません。
ネットでは味わえないこと、ここを考えていくことがすごく大事だと思っています。
日本は特にこの高額な価格帯に関しては伸び代が大きいと思っていまして、時間を節約できる、アップグレードする、日本特有の価値、こういった部分にポテンシャルがあるのではないかと思います。
2つ目の「訪日体験」についてです。コロナ前、訪日外国人は都心での消費が中心でした。
これからは自然での体験も重点的に出していこうと政府が打ち出しています。自然での体験を求める声も大きいです。
これからは、都心での消費と、自然での消費にプラスして体験・投資が注目されます。
たくさん買いましょう、消費を刺激しましょう、その結果として会社が潤い、世の中の経済が動く、これは「消費が牽引する経済」です。
もう一方で、ニセコは「投資が牽引する経済」と言われています。例えば、ホテルコンドミニアムという仕組みのあるホテルで部屋を買うと、使っていない間は Airbnb のように部屋を貸し出し、そこから収入を得ることができます。
その地域に投資することで、実際に遊びにも行くでしょう。これが「投資が牽引する経済」です。
似たような例でいうと、2016年テスラのマスタープランでは、車を購入後の乗車していない期間にカーシェアリングで稼げるようにする、というものがあります。
これも同じように、消費するというだけではなく、投資の概念を持っています。
特にインターネット上の NFT も浸透し、デジタルのモノでも所有感が増えてきた中、個人の投資はもう少し増えてくるのではないかと思っています。
最後に「多言語対応」の話です。
2019年に日本で消費した額の多い人々の出身国は、中国、台湾、韓国、香港、米国で、この5カ国が全体の7割を占めていました。
さらに米国を除くと、6割が韓国と中華圏の方なので、多くの企業が中華圏向けにサービスを提供していました。
なので我々の多言語対応も、英語、中国語の繁体、簡体、そして韓国語、この4つがダントツで、これさえやれば一旦大丈夫、となっていました。
しかし今、ワールド・エコノミック・フォーラムで世界が注目する国に日本が選ばれ、訪日意欲が高まりを見せる中、さらに円安の影響が拍車をかけています。
為替の状況を昨日調べたのですが、ドル以外にもユーロやタイのバーツ、インドネシアのルピア、ベトナムのドンなど、それぞれが10%から20%も円安になっています。
割安・お得感から、より日本に来やすくなったことで、これまでの英中韓から、東南アジア圏のベトナム、タイ、ヨーロッパ圏のフランス、スペイン、こういった言語への対応が2023年以降に新しく増えてくるのではと予想しています。
多言語対応が必要だとわかっていても、時間もお金もかかりますし、4言語増やそうと思ったら4倍の手間とコストですから、マンパワーではどうしようも対処できなくなってしまいます。これをテクノロジーで解消していく術を、林のパートでお話しさせていただきたいと思います。
林:
私からは「多言語で拓くインバウンド2.0 〜テクノロジーで言語の壁を乗り越える〜」というテーマでお話させていただきたいと思います。
まず簡単に自己紹介をさせていただきます。
私自身、元々エンジニアとして車載機のソフトウェアを作っていました。車に積まれているロガーというものです。ロガーはその名のとおり、ログを取る機械で、どこの窓が開いているとか、エンジン回転数とか、そういった全ての車の情報のログを取る機械です。ちょうど IoT が注目されて色んなものがインターネットに繋がっていった時代でした。
その時、東日本大震災が起きて、東北で多くの道路が通行止めになったり、交通機能が麻痺したりしました。今ですと、Google マップを使えばどの道路が通れるか、通れないかがある程度分かると思うのですが、その当時は地図からそういった情報を取得することができませんでした。
私がいたロガーの開発チームでは、震災直後に道路交通のハザードマップのような、道路が通行可能かどうか地図として出す技術を開発しました。ロガーのデータ解析から、いわゆるビッグデータとして道路の動きを予測し、通行止めの道路がテクノロジーでわかるようになったのです。
当時からインターネットはあったのですが、Twitter や Facebook などにみる、メディアとしての側面が強かった中で、「インターネットは人の生活を根底から支えるインフラなんだな」と改めて気付いた衝撃的な出来事でした。
そこから私は、インターネット上でソフトウェアを開発することにすごく興味を持ち始めました。
そして、技術で世の中にインパクトを与えたり、インターネット上でさらに新たなインフラを作りたいという思いから、Wovn Technologies という会社を創業しました。
会社のミッションとして『世界中の人が、すべてのデータに、母国語でアクセスできるようにする』を掲げています。
改めてですが、今日のテーマは「テクノロジーで言語の壁を乗り越える」です。
何度も出ている話ですが、2020年に訪日はほぼ完全にストップしました。
その間、日本で何が起きたかというと「DX」を合言葉にデジタル化がとても進み、日本語のコンテンツもすごく増えました。
例えば、銀行も窓口ではなく、ネット上で全ての手続きを行えるようになり、引っ越しの手続きもネット上で完結、と本当に色々なものがデジタル化されていった3年間だったと思います。
ここに来て2023年からインバウンドが復活する兆しがニュースでも取り上げられました。前月比で約84倍の外国人観光客が来たそうです。
自身の話でいうと、先週、趣味のバックカントリースキーで旭川に行ったのですが、ゴンドラに乗っている日本人は2組ぐらいで、あとは外国人でした。スキー場にはかなりインバウンドが戻ってきてるなという印象を持ちました。
つまり、デジタル化が進んで多くのものが Web 上でできるようになった日本社会に、過去最高となる外国人観光客が急激に訪れる。それが今私たちが置かれている状況だと思います。
色々なものが Web に移行した中で、当然 Web サイトも外国人対応、訪日対応ということが急務です。アクティビティやホテル、飲食店の予約サイトも当然外国語対応していかなければなりません。
Web サイトを多言語化し、運用する方法は主に2種類です。
1つは機械翻訳で多言語化する、もう1つは人力で翻訳して多言語化する、この2つの方法で多言語化していました。
機械翻訳を用いた多言語化の例をご紹介します。
よく EC サイトなどで「画像はイメージです」みたいな注釈を見かけますよね。これを機械翻訳にかけると「This image is an image」 となる。お気づきかと思いますが「この画像は画像です」と直訳されてしまい、見た人は「?」となってしまいます。
他にもサイト上部にある「ホームボタン」が「家ボタン」になったり、Web サイト上のコンテキストを理解しない機械翻訳だと、このような間違いが往々にして起こります。
誤訳が出たり、英語にするとテキストが長くなるのでレイアウトが崩れたり、どうしても人のチェックや修正が必要になります。そもそも翻訳が適切かどうかも怪しいものです。社内外、多くのステークホルダーから翻訳ミスの指摘も入るでしょう。
では人力翻訳だとどうでしょうか。
当然コンテンツは増えていくので、それに比例してお金がかかります。
さらに人手を要することで、運用にすごく時間がかかります。
つまりクオリティ、コスト、納期の QCD がトレードオフとなって全てを解決できない。多くのコンテンツが Web サイトに移行している中で起きる課題かなと思います。
これを、私たちは Human computation という概念、技術を使って解決します。
昔、スティーブ・ジョブスが「コンピュータは知性の自転車だ」という話をしていました。
動物には運動効率というものがあり、運動効率というのは少ない力で遠くまで行く能力で、動物の中ではコンドルが一番だそうです。一方、人間はかなり運動効率が悪く、最下位から数えた方が早い。ただ、自転車に乗った人間はコンドルよりも運動効率が高く、少ないカロリーで遠くまで行ける。この話を引用して、スティーブジョブスは「コンピュータは知性にとって自転車みたいな存在なんだよ」という話をしていました。
人間が難しいことはコンピュータには容易く、人間が容易なことはコンピュータには難しい。
得意・不得意がちょうど反対なんだと思います。
人間、少なくとも私には記憶することや計算は難しいです。ただ、道路にトラックが走っていて、渡れそうだから行っちゃおう、などの状況判断が人間にはできると思います。コンピュータはこれが逆です。
つまりこの Human computation というのは、得意なところと不得意なところをお互いが補完し合うという考え方、そして技術です。
AI と人間の付き合い方には2パターンあります。
まずは AI が人間を補完するパターンです。例えば最近ですと、名刺管理や領収書管理などのツールで活用されています。
写真を撮るとそれを全てデータにしてくれるサービスは色々普及していると思います。これは画像認識でデータ化するのですが、どうしても間違いが発生します。その間違った部分を最後にオペレーターが修正しているのです。つまり、コンピュータと人間が補完し合っている例です。
もう1つは、実は人間が AI を補完しているというパターンです。この画像ですが、多分皆さん見慣れているのではないでしょうか?
該当するマスを全て選択することで、「私はロボットではありません。人間です」ということを証明しています。実はそれと同時に裏側では、コンピュータが人間に車の判別をさせて、それを AI の学習用データに利用しているのです。
最近だとジェネレーティブ AI という絵を勝手に描いてくれる AI や、ChatGPT という精度の高い AI チャットツールが出てきていますが、これらも人間が作った学習データから学習をしているので、ある意味ではコンピュータが人間で補完しているといえます。
私たちは Web サイトや、インターネット上のコンテンツを多言語化する「Localization」を完全に自動化するための Human computation を開発しました。
今まで Web サイトではどんどんコンテンツが更新され、その都度更新箇所を検知し、機械翻訳をかけ、品質チェックを行い、その中に問題を見つけたら修正をして、というのをずっと繰り返しながら運用してきました。これを自動運用できるようにした製品が「WOVN Autopilot」です。
コンセプトは「5分で検知、10分で修正、全自動で安心のローカライゼーション」です。
例えばこれは架空のホテルのサイトで、機械翻訳をかけた状態です。
カレンダーの部分の、Sunday 、Monday 、Tuesday、そして水曜日が “Water” 、金曜日が“Money”と誤訳になっています。
機械翻訳では文脈がわからずに、こういった誤訳が発生することは少なくありません。
あとは一番上のメニュータイトルも、機械翻訳はテキストの長さまでもは考慮してくれないのでレイアウトが崩れています。
機械翻訳だけに頼っていると、こういう状態になってしまうので、WOVN は裏側で AI と人間のハイブリッド Human computation によるチェックと修正を全自動で行っていきます。
繰り返しになりますが、WOVN Autopilot という製品は「5分で検知、10分で修正、全自動で安心のローカライゼーション」というサービスです。
つまり「QCD のトレードオフから両立へ」を可能にするサービスで、事業者さんは有益な情報を作ることだけに専念することができます。
多言語発信はもう完全自動で行うので、頭の中の TODO リストから外していいですよ、というサービスになっています。
さらに WOVN Autopilot は、ファイルと動画字幕にも連携できます。例えば Web サイトだと PDF が貼られているケースや、動画が埋め込まれているケースもありますので、ファイルの多言語化と動画の字幕多言語化にも対応できるようにしました。
今後の進化としては、まだまだ存在する Web サイト多言語化の問題点を1つずつ解決していきたいです。
例えば入力フォームの「ふりがな」について外国人はその概念を持ち合わせていません。私は文化適合と呼んでいるのですが、こういったその国特有のもの、文化の違いを適合させる必要があります。
あとは法令適合。それぞれの国で個人情報に対する考えや法律が異なるので、プロダクトも当然変えていかなければなりません。あとは EC サイトの場合、暑い国の人に対して、サイトのトップページにダウンコートが表示されていたとしても誰も買わないですよね。なので暑い国ではちゃんと T シャツを表示させて、寒い国ではダウンコートを表示させる。これもローカライズだと思います。
さらに、EC サイトに「購入ボタン」があったとして、Add to bag、Add to cart、Purchase、果たしてどう訳すのがベストか、悩むと思います。これをそれぞれのユーザーの動きを見ながら、実際に効果が高い翻訳を選択できるようにする、こういう進化も今後考えていきたいです。
最後に改めまして、 WOVN は『世界中の人が、全てのデータに、母国語でアクセスできるようにする』というミッションを掲げて日々プロダクト開発に邁進してまいります。
ご清聴ありがとうございました。
Wovn Technologies株式会社は Web サイト多言語化ソリューション「WOVN.io」を提供しています。多言語化についてご興味のある方は、ぜひ資料をダウンロードください。