AI 技術の発展は、翻訳の世界にも大きな変化をもたらしています。以前は、コンピュータによる翻訳はビジネスでの実用に耐えられるレベルではなく、人の手によるチェックや修正が必須でした。しかし、現在主流である AI 翻訳は、かなり精度の高い翻訳が可能になっています。
ここでは、AI 翻訳の特徴やコンピュータによる翻訳の歴史の他、人の手による翻訳と比較した AI 翻訳のメリット・デメリットについて解説します。
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AI 翻訳とは、AI (人工知能)を使って、ある言語を自動的に他の言語に翻訳することです。
AI を使うというと最近出始めたものと印象をもたれるかもしれませんが、人の手を介さずコンピュータによって自動で翻訳を行う試みは、1930年代から始まっています。少しずつ進化しながら今の形になり、2010年代からは AI 技術(ニューラルネットワーク機械翻訳)が利用されるようになりました。文脈やニュアンスをとらえた自然な翻訳ができるようになってきたことで、利用の幅が広がっています。
AI 翻訳とはどういったものか、従来と何が異なるのかをわかりやすくするため、ここで機械翻訳の歴史について説明しておきましょう。
機械翻訳は、まず「ルールベース機械翻訳」が作られ、次に「統計的機械翻訳」、そして現在主流である「ニューラル機械翻訳」へ進化を遂げてきました。
ルールベース機械翻訳は、文法ルールと単語情報にもとづき、機械的に文書の翻訳を行う仕組みです。ほとんどの場合、文法ルールは言語学者が設定する必要があり、単語については大量の辞書が必要です。そのため、開発や新語のアップデートには膨大な手間がかかりました。
ただし、ルールベース機械翻訳機械翻訳の翻訳精度は高くなく、ほぼ定型的な文の翻訳しかできなかったというのが実際です。また、日本語と英語のように、文法ルールが大きく異なる言語間では使いこなすのが難しいという課題もありました。
統計的機械翻訳は、まず二言語対訳集(既存の翻訳を集めた資料)をコンピュータに大量に学習させ、蓄積したデータから「適切な表現」の確率を計算し、単語を置き換えて翻訳を行う仕組みです。フレーズ単位での翻訳にも対応し、ルールベ―ス機械翻訳 に比べて翻訳精度はアップしました。
しかし、まだ実用に耐えられるレベルではなく、文法ルールが大きく異なる言語間では翻訳が難しいという課題も、依然として残ったままでした。
ニューラル機械翻訳は、2016年以降に普及した最新技術です。人間の脳に似た方法で意思決定を行う、機械学習プログラムまたはモデルのことをニューラルネットワークといい、AI の代表技術であるディープラーニング(コンピュータが自動で大量のデータを解析し、データの特徴を抽出する技術)の基礎となる技術にあたります。
ニューラル機械翻訳は統計的機械翻訳と異なり、ディープラーニングで学習を続け、翻訳精度を上げていくことが可能です。データからの複雑なパターンの学習ができるようになったことで、従来の統計ベース型では難しかった文脈や単語のニュアンスを考慮した翻訳が可能になり、翻訳文の流暢さが大幅に改善されました。機械翻訳
なお近年は、LLM (Large Language Model:大規模言語モデル)を活用した機械翻訳が注目を集めています。これは、名前のとおり、膨大なデータセットを用いて言語の理解と生成を行う AI モデルです。LLM を搭載したサービスとしては、ChatGPT や Gemini などがあります。
生成 AI とは、学習データをもとに、テキストや画像などのコンテンツを新たに生み出す AI の総称です。先ほど少しふれた LLM は、生成 AI の中でもテキストデータの生成に特化した技術です。LLM の本分は新たなコンテンツを生み出すことで、翻訳ツールではありませんが、翻訳の利用もできます。
LLM を備えた生成 AI は対話型が多く、チャットする形で翻訳にも利用できます。自然な訳文を作ってくれますが、人間のように考えて返答しているわけではなく、誤訳も少なくありません。
また、生成 AI ならではの特徴として、バージョンによって翻訳の内容が変わる可能性があり、事実に基づかない情報の生成(ハルシネーション)が起こる可能性もあります。
AI 翻訳にはメリットもデメリットもあります。人間の手による翻訳(人力翻訳)と比較して、どのようなメリットがあるか見てみましょう。
AI 翻訳の最大の利点は、大量のテキストデータを短時間で翻訳できることです。翻訳者の手配や打ち合わせは必要ありませんし、「言語を選択し、翻訳したい文章を入力する」「Web サイトにスクリプトを埋め込む」といったわずかな手間さえかければ、多くの場合数秒後には訳文が出力されます。
場所や時間を選ばず、簡単かつスピーディーに翻訳できるので、急いで訳文を用意しなければいけない場面で活用できます。
AI 翻訳は、人力翻訳より遥かに低いコストで利用できます。
翻訳を外部の翻訳者や翻訳会社に依頼する場合、翻訳料金は、1文字あたりの単価で設定されるのが一般的です。金額は言語や内容、翻訳会社によりますが、日本翻訳連盟が公開している翻訳料金目安によると、経営管理・財務・契約書分野の英文和訳が1文字30円(税別)、和文英訳が1文字25円(税別)となっています。専門性が高い、納期が短いなどの事情があれば、さらに翻訳単価は上がります。社内の人員に任せる場合も、人材の確保や育成コストがかかるでしょう。
一方、AI 翻訳サービスの多くは無料または安価で利用できるので、翻訳コスト抑えることが可能です。
翻訳機能に音声出力・音声認識と組み合わせることで、リアルタイムでの通訳が可能な AI 翻訳サービスもあります。「音声を認識して翻訳結果を文字で示しつつ、音声でも再生する」といったことが可能で、外国人を交えた会議や商談、飲食店や施設での外国人対応など、通訳が必要な場面で活躍します。
便利な AI 翻訳ですが、人力翻訳にはない課題もあります。AI 翻訳の主なデメリットとしては、以下が挙げられます。
言語は、文化や歴史を背景として成り立っているので、同じ表現でも受け取り方が異なる場合は珍しくありません。そのような背景への配慮ができていない翻訳は、他言語話者の文化や宗教のタブーにふれてしまったり、常識的におかしなものだったりする場合があり、トラブルに発展するリスクがあります。
AI 翻訳は、文化的背景や言外のニュアンスを理解して翻訳しているわけではないため、このような文化的背景の違いを考慮した翻訳は困難です。ニュアンスの違いを訳文に反映させたい場合は、人の手で調整する必要があるでしょう。
AI 翻訳の精度は向上していますが、完璧ではありません。前述のように、ニュアンスの違いを汲み取るのは難しく、専門的な内容や言い回しを理解するのも苦手な傾向があります。また、生成 AI を利用した場合は、ハルシネーションが起こるリスクもあることに注意しなければなりません。
ビジネスでは、少しの表現の違いや間違いが、大きなトラブルにつながる可能性もあります。AI が作成した訳文は、必ず人の手によるチェックが必要です。
AI 翻訳は、精度向上のために翻訳データを二次利用する場合があります。また、通信の保護やアクセス制限機能、データの暗号化など、AI 翻訳サイトのセキュリティ体制が不十分な場合は、ここからも情報が流出するリスクがあります。
二次利用の有無は規約に明記されているため、確認しておくことで避けられますが、ビジネスで使う際は特に注意してください。
AI 翻訳のメリットを活かすには、人力翻訳と AI 翻訳それぞれの特徴を理解した上での使い分けが重要です。例えば、Web サイトの多言語化にあたり、基本的には AI 翻訳を利用し、企業理念や社長からのメッセージ、キャッチコピーなど、言語間のニュアンスの違いに配慮が必要な文章は人力翻訳で行うといった具合です。
AI 翻訳にはさまざまなサービスがあり、目的に合った、コストパフォーマンスの高いサービスを選ぶことも重要になります。その点を考慮すると、Web サイトの翻訳は「WOVN.io」がおすすめです。
「WOVN.io」は、通常のニューラル機械翻訳と LLM モデル両方の翻訳エンジンと連携した独自のシステムを持つ、Web サイト・アプリの多言語化ソリューションシステムです。
生成 AI の活用、50を超える機械翻訳エンジンとの連携、企業の固有名詞を正しく翻訳するためのデータベース(用語集)をもとにして、最後に人がチェックする仕組み(COPILOT)をかけあわせることで、エンタープライズに求められる高品質な翻訳・自動運用を実現します。
人力翻訳も選択可能なため、サイトのページによって自動翻訳と人力翻訳の使い分けも可能です。多言語翻訳も、日本語からまずは中間言語の英語に翻訳し、英語から多言語に翻訳するピボット翻訳(日→英→多言語の翻訳)により、コストを抑制しつつ、精度の高い翻訳を提供しています。
導入は、Web サイトに1つのタグを挿入するだけなので、非常にスピーディーかつ簡単です。ハイレベルなセキュリティで大手企業の導入実績も多く、機密情報を扱う環境でも安心して利用できます。
ビジネスの海外展開や外国人従業員の採用と定着、インバウンド需要への対応などで、Web サイトの多言語化をお考えなら、ぜひ「WOVN.io」をご検討ください。