企業が持続的に成長を遂げるために必要な要素として、ESG が重視されるようになりました。ESG への取り組みを投資の判断基準とする ESG 投資も広く行われています。
一方、ESG についての理解が十分でなく、何をどのように始めればいいのか悩んでいる方もいるのではないでしょうか。
そこで本記事では、企業の成長に不可欠な ESG の意味や種類について解説します。推進するメリット、具体的な活動、問題点についてもご紹介しますので、ぜひ参考にしてください。
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ESG とは、Environment(環境)、Social(社会)、Governance(ガバナンス:企業統治)の頭文字からなる言葉で、これらの観点を考慮して経営活動や事業活動を行うことを指します。
ESG は2006年、当時の国際連合事務総長のコフィー・アナン氏が提唱した「責任投資原則(PRI:Principles for Responsible Investment)」において、新たな投資判断の基準として紹介されました。PRI では、機関投資家や金融機関が責任ある投資を行うための行動指針として、企業の ESG に注目するよう提言しています。
具体的には、以下のような取り組みが挙げられます。
<ESG に関する取り組み>
・Environment(環境):気候変動への配慮(CO2削減、再生エネルギーの利用など)
・Social(社会):社会課題への取り組み(ダイバーシティの促進、労働環境の整備、地域社会への貢献など)
・Governance(ガバナンス):企業統治の取り組み(適切な情報開示、コンプライアンスなど)
ESG が注目されるようになった背景には、企業活動を一因とする気候変動の深刻化、度重なる企業のコンプライアンス違反、社会状況の不透明性が高まる中で企業の持続可能性を高める必要性などがあります。
ただし、フロリダ州では23年5月にESG投資の活動を制限する「反ESG法」が成立するなど、一部の政治家や投資家から反 ESG のような考えも生まれており、ESG という言葉を別の言い方に換えるなど、配慮あるコミュニケーションでリスク低減につなげるといった動きも出ています。
一方、日本では、2015年に年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が PRI に署名したことで、急激に関心が高まりました。日本で ESG を推進するには、アメリカなど外国の政治動向に左右されず、自社のパーパス(存在意義)や経営理念に沿って、ESG を着実かつ継続的、戦略的に推進していくことが重要です。
なお ESG 投資は、ESG を意識した経営を行っている企業を高く評価する投資活動のことです。ESG は企業が持続的に成長するための要素であるため、ESG を重視しているかどうかはステークホルダーからの信頼や評価に大きく関わります。ESG への取り組みが遅れると、時代の要請に応えきれていない企業として投資家からの評価が下がり、投資の対象から除外される可能性があります。
ESG に近い意味を持つ言葉は、主に以下の2つです。ここでは、それぞれの言葉の意味について、ESG との違いを含めて解説します。
CSR(Corporate Social Responsibility)とは、企業が社会の一員として果たすべき責任のことです。日本語では、「企業の社会的責任」と訳されています。
CSR も ESG と同様、企業の環境や社会に対する責任、法令遵守を重視することを指しますが、CSR は一般的には企業側の視点や活動として捉えられます。これに対し、ESG は投資家側の視点が含まれることが主な違いです。
SDGs(Sustainable Development Goals)は、持続可能でより良い社会を作るための17の目標(持続可能な開発目標)を指します。2015年の国連サミットで採択され、主に国連加盟国によって推進されています。
取り組みの内容そのものは ESG と重なる部分もありますが、ESG は政府でなく、主に企業によって推進される点が違いです。
ネガティブ・スクリーニングは、ESG の観点から見てネガティブな影響がありそうな事業を営む企業や業種を、投資対象から外す手法です。具体的には、ギャンブル、タバコ、アルコールといった、健康に悪影響を及ぼす可能性があるもの、反社会的なものなどが、投資の対象から外されます。
ポジティブ・スクリーニングは、ESG の観点から見てリスクが少なく、ESG の3要素に良い影響があると考えられる企業や業種に投資する手法です。積極的に環境保護を行っている、ダイバーシティを推進しているといった企業は、ポジティブ・スクリーニングによって ESG 投資の対象になりやすくなるでしょう。
国際規範スクリーニングとは、ESG に関連する国際的な規範にもとづいて企業や業種に投資する手法です。国際的な規範とは、国際労働機関(ILO)、経済協力開発機構(OECD)などが定めた規範のことで、他にも国連の機関が定めた各種ルールも含まれます。規範やルールごとにスコアが出され、スコアの低い企業は投資の対象から外されるのが近年の傾向です。
ESG インテグレーションは、従来の投資の基準である財務情報と、ESG に関する非財務情報の両面から総合的に企業の価値を分析し、投資対象を絞り込む手法です。ESG インテグレーションは、投資資金を長期で運用するファンドなどによって、よく活用されています。ただし、具体的にどの非財務情報を含めて判断するかは、投資家によって異なります。
サステナビリティ・テーマ投資は、社会や環境のサステナビリティ(持続可能性)を重視したテーマや企業を投資先にする手法です。再生可能エネルギーの普及、地域社会との共存共生といったテーマの事業や活動を展開している企業は、サステナビリティ・テーマ投資の対象になりやすくなるといえるでしょう。
インパクト・コミュニティ投資は、環境や社会にインパクトを与えそうなサービスや技術に投資し、ポジティブな影響の拡大と経済的なリターンの両立を目指す手法です。過疎地での医療へのアクセスの改善、発展途上国での教育システムの開発などは、投資の対象となりやすいといえます。インパクト・コミュニティ投資はベンチャーキャピタルによって行われることが多く、非上場のベンチャー企業などが投資先となるケースが少なくありません。
エンゲージメント・議決権行使は、投資家が企業に対して ESG を重視するよう働きかける手法です。投資家は、株主総会や経営陣との面談といった対話を通じて企業により良い経営を行うよう促します。このようにして企業価値の向上に貢献することで、投資家としての役割を果たしつつ、投資のリターン向上を図ります。
ESG の観点から企業経営をすることによるメリットは、主に以下の3つです。それぞれ詳しく解説しますので、参考にしてください。
ESG の観点を取り入れた経営を推進すると、自社の利益だけを重視するのではなく、社会や地球環境に配慮している企業として認知され、企業イメージが向上します。企業イメージの向上は、ブランド価値の強化にもつながります。多少価格が高くても、共感できる ESG の取り組みをしている企業から買いたいと考える消費者は多く、他社との差別化につながるでしょう。
投資家からの評価が高まることも、ESG の観点から経営に取り組むメリットです。前述のとおり、ESG を重視した取り組みは、投資家の投資判断の基準として考慮されます。投資家からの評価が高まれば、企業は長期にわたる資金調達がしやすくなります。その結果、新規事業や設備、人材採用などを充実させられるため、さらなる成長が期待できます。
ESG を重視した経営は、優秀な人材を確保しやすくなる点がメリットです。若年層は義務教育で SDGs にふれる機会があり、事業内容や規模感だけでなく、経営方針や企業理念を重視して就職先を選ぶことが少なくありません。また、働く環境や、ワークライフバランスのとりやすさなども重視する傾向にあります。ESG の取り組みが認知されると、そうした人々からの信頼や好感が得られ、優秀な人材も集まりやすくなるでしょう。
環境負荷の低減は、ESG の具体的な活動のひとつです。例えば、海洋プラスチック問題の解決に向けた素材の見直し、オフィスの省エネ対策、再生可能エネルギーの活用、環境に優しい素材の利用などは、環境負荷の低減につながります。ESG 投資の対象になりやすいといえるでしょう。
働きやすい環境づくりも、ESG の具体的な活動です。女性の活躍推進、育児や介護と両立しやすい制度づくりなどは、従業員が働きやすい環境をつくることにつながります。外部からの評価が高まりやすくなるだけでなく、優秀な人材を獲得しやすくなる点もメリットです。
ESG に取り組む際には、環境や社会に配慮した活動をするだけでなく、そうした活動の情報を適切に開示することが大切です。ESG 投資の対象となるには、透明性のある健全な管理体制が欠かせません。内部統制の構築や強化に努め、リスクマネジメントや内部監査を適切に実施し、ルールを守った運営をしている事実を外部に向けて情報開示することで、ステークホルダーからの信頼が得られます。
ESG にはメリットが多い反面、取り組む際には注意したい点もあります。主な注意点は以下のとおりです。
ESG の活動に取り組む際は、短期の目標達成は難しい点に注意が必要です。ESG の成果は、短期的には現れません。場合によっては数年かかって効果が出てくるものもあるため、中長期的に計画を立ててじっくり取り組む必要があります。
また、自社のパーパスに沿い、ESG を推進するための重要課題(マテリアリティ)を策定したものの、実質的な活動が伴っていないケースも少なくありません。こうした事態に陥らないためにも、ESG を推進する際は、中長期的な計画を立て、腰を据えて取り組むことが大切です。
中小企業にとっては、ESG への取り組みはややハードルが高く感じられるでしょう。ESG の活動そのものは中小企業にとっても重要ですが、取り組む課題によっては大規模な設備投資が必要になるため、簡単には実行できないことも少なくありません。初期投資などにより、着手時には利益が減退する可能性があることも理解し、腰を据えて取り組む必要があります。
評価指標が乱立していることも、ESG に取り組む際の注意点です。ESG の評価指標や評価機関は、ESG が世界的に注目されるとともに増加し、乱立状態にあります。ESG の成果を測るためにはどの指標に照らし合わせればいいのかがわかりづらく、他社との比較も容易ではありません。今後、指標同士を比較しやすくする動きが出てくることも予想されますが、しばらくは確固たる成果を確認しづらい状況が続くでしょう。
ESG に取り組む際は、活動を発信しないと効果を実感しにくい点にも注意が必要です。ESG は、活動そのものも大切ですが、投資家などの外部ステークホルダーに認知してもらい、相応の評価や投資を獲得することで、効果をより実感できます。ESG に取り組んだら、それを Web サイトなどを通じて国内外に発信することが大切です。
ESG の情報開示を適切に行うには、Web サイトの多言語化を行うことをおすすめします。企業経営の透明性を高め、ステークホルダーと良い関係を構築するためには、世界に向けた情報開示が重要です。Web サイトを多言語化すると、海外への情報開示がスムーズにできるようになり、海外投資家からの評価を得やすくなります。海外からの投資を集めたい場合はもちろん、企業の信頼性を高めるためにも、Web サイトを多言語化しておくことが大切です。
ESG は、地球環境への配慮やコンプライアンスが一般化した現在、世界の多くの企業にとって避けては通れない取り組みとなっています。ESG に真摯に取り組むことは、国内外のさまざまなステークホルダーから高く評価され、投資先に選ばれる上で重要です。ESG を意識した経営で、健全な企業成長を目指していきましょう。
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