グローバル化の加速、外国人人材の受け入れ増加などの背景から、企業が多言語対応を進めるケースが増加しています。
多言語対応は、外国人の顧客・取引先・従業員・投資家など多様なステークホルダーとやりとりをする際の基盤となり、事業拡大を進める上で重要な役割を果たします。
そこで本記事では、多言語対応の概要と、多言語化を進める際の手順や注意点について解説します。
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多言語対応とは、情報を様々な言語で発信することを意味します。これを行うことでより多くの人々に自社の情報を知ってもらえるようになるため、企業の事業拡大を見込むことができます。
インターネットの普及・発展によって、グローバル化(グローバリゼーション)はさらなる発展を見せています。情報技術の進化により、さまざまなサービス、情報、アイディアなどを、距離や場所を問わず一瞬で届けられるようになりました。そのため、世界をターゲットとする事業が増加し続けています。
このような状況下で企業が海外展開するにあたり、認知・顧客獲得やブランドの確立、信頼感醸成のためグローバルサイトやコーポレートサイトなどを使った多言語での情報発信は欠かせないものとなっています。
→お役立ち資料「自社の海外戦略に応じたグローバルサイトのあり方」
2022年に水際対策が緩和されて以降、訪日外国人観光客が増えており、2023年4-6月期の訪日外国人旅行消費額は2019年同期比95.1%の1兆2,052億円(※1)となりました。さらに2023年8月には中国政府が日本を含む国・地域への団体旅行を解禁し、インバウンド市場復活の兆しが見えています。観光資源に恵まれた日本において、特に宿泊・観光・飲食業界で多言語対応を行い、訪日外国人の受け入れ態勢を整えることが求められます。
【あわせて読みたい】
「インバウンド対応とは?意味や対応方法のポイントを紹介」
日本に住む外国人の数は増加しています。2022年末の在留外国人数は過去最高を更新し、初めて300万人を超えました(※2)。在留外国人が生活に関わるルールやサービスを理解するための多言語対応も必要です。自治体や金融サービスなど、誰もが安心して暮らすための多言語発信が望まれます。
→お役立ち資料「在留外国人が生活サービスに加入する際の情報源と言語について」
※2 出典:出入国在留管理庁「令和4年末現在における在留外国人数について」
https://www.moj.go.jp/isa/publications/press/13_00033.html
また近頃では、日本企業で働く外国人の数も増加しています(※3)。そのような人々に向け、自社の方針や業務遂行のノウハウを多言語で発信することの重要性が高まっています。
このほか、外国人投資家に向けた IR 情報の開示や ESG に関する取り組みの周知など、多言語対応を行うべき理由はますます増加しています。
※3 出典:「外国人雇用状況」の届出状況まとめ(令和4年10月末)
https://www.mhlw.go.jp/content/11655000/001044543.pdf
多言語対応を行うことで、様々な効果を見込むことができます。
インターネット上の日本語ユーザーはたったの3%ほど(※4)といわれています。多言語対応を行い、外国語ユーザーに向けても情報を発信できるようになれば、ターゲットとなる顧客層を拡大し売上の増加につなげられる可能性が高まります。また、外国語ユーザーから製品・商品に対するフィードバックを得ることで、これまでになかった視点から製品・商品改良が行えるようになり、新たな企画・開発に活かすこともできるでしょう。
※4 出典:Statista, “Languages most frequently used for web content as of January 2023, by share of websites”, 2023,
https://www.statista.com/statistics/262946/share-of-the-most-common-languages-on-the-internet/
日本で働く外国人の中には、日本語で話す・聞くことはできても読む・書くことが苦手な人もいらっしゃいます。また、日本語で理解できる場合でも、母国語でやりとりできるならその方が望ましいと考える人も多いでしょう。
そのような人々に向け、たとえば業務マニュアルや e-learning 等を多言語化することで、言語の壁にまつわる負荷を軽減できるようになります。さらに、イントラネットや社内報等を多言語化して自社の情報やトップメッセージなどをしっかりと伝えることで、帰属意識や従業員満足度を向上させることができます。
多言語対応を行う際には、いくつかの課題に直面することがあります。
多言語対応を行うには、費用、工数の両面でコストがかかります。単に翻訳するだけではなく、言語ごとに使われる文字数の違いや異なる慣習に合わせたデザインやレイアウトの調整が必要な場合もあります。いきなり多くの言語に対応しようとすると、コストが先行して運用が追いつかなくなり、成果が出ないというリスクもあるでしょう。最初は特にニーズの高い数言語に絞って多言語対応を行うなど、範囲を広げすぎずにはじめてみることがポイントです。
多言語での情報発信を行うことで外国人からの問い合わせが増えることが想定されます。そのため、外国語での問い合わせに対応できる従業員を配置したり、外部から専用の問い合わせ対応システムを導入したりするような対応が求められるでしょう。
多言語対応する対象としてはどのようなものがあるのか、一例をみていきましょう。
最近では、飲食店やホテルでのメニュー表にロボットやタブレットが利用されているシーンがよくみられますが、これらが多言語対応しているケースも多いです。こうすることで、インバウンド客や在留外国人が店舗に訪れた際の利便性を高めることができ、よりよい体験を提供できるようになります。
公共交通機関や公共施設、観光案内所などにおける案内板も多言語対応されています。観光庁の調査によると、「インバウンド客が日本を旅行する際の困ったこと」として「案内板の多言語表示が少ない・わかりづらいこと」が挙がっており(※5)、その重要性がうかがえます。
※5 出典:「訪日外国人旅行者の国内における受入環境整備に関するアンケート」結果(平成28年度)
https://www.mlit.go.jp/common/001171594.pdf
インターネットユーザーの数が世界的に増え続けている中、Web サイトを多言語対応している企業も少なくありません。Web サイトを多言語化することで、直接やりとりすることが難しい層にも情報を届けることができるようになるため、事業拡大につながるでしょう。
多言語対応の中でも、今回は Web サイトを多言語対応している事例に焦点を当ててご紹介します。
旭化成様では、企業名だけでなく製品自体の認知度を高めたい、海外の新規顧客の獲得に向けた現地語対応を促進したいという思いから、製品サイトの多言語対応を実施しています。多言語で発信できるコンテンツ量が増えたことで海外からの UU 数は185%増加し、多言語サイトは海外での PR 施策の重要なチャネルとして活用できるようになっています。
事例詳細は「5言語対応により、海外からの UU 数は185%増加。多言語サイトは、海外での製品認知度をあげるための重要なチャネルとして活用」をご覧ください。
三越伊勢丹様は、オフライン・オンライン問わず顧客に最高の体験を提供するため、オンラインストアを多言語対応しています。日本の三越伊勢丹でしか提供できない、日本ならではの商品を海外のお客様にも届けるため、また、商品の基本情報や商品に込められた思いをきちんと発信することを目的に多言語対応を行うことで、顧客体験価値の向上・新規顧客の獲得を実現しています。
事例詳細は「日本の三越伊勢丹から、こだわりのあるお客様に、こだわりの商品を世界に伝えたい 」をご覧ください。
東急電鉄様は、日本にいらっしゃる外国人利用者の使用言語をほぼカバーできるという観点で7言語に、グローバルサイトを多言語対応しています。日本人だけでなく多くの外国人に利用される公共交通機関として“全ての利用客へ均一な情報を届けなければならない”という命題を持つ同社では、グローバルサイトの多言語対応によって、運行情報などより多くのきめ細やかな情報をわかりやすくスピーディーに届けています。
事例詳細は「東急電鉄を利用する訪日外国人が困らないよう、“ルールベース翻訳”を活用して運行情報を分かりやすく・スピーディに届ける」をご覧ください。
エイチ・アイ・エス様では、海外航空券を扱うサイトを多言語対応しています。日本語のみで提供していた頃から在留外国人の予約も一定数あったため、ニーズがあると考えて多言語展開を決定されました。英語ページ公開後には、英語のお客様のサイト訪問数が増加し、前年比約140%になったとのことです。
事例詳細は「英語のお客様訪問率140%!日本人ターゲットの海外航空券サイトも実は多言語化が必要だった。」をご覧ください。
Web サイトを多言語対応する際には、注意しなければならない点もあります。事前に把握しておくことで、対処法を考えておきましょう。
実際に Web サイトの多言語対応を行うと、実施するまでは見えなかった問題点や改善点が出てくるでしょう。たとえば、翻訳されることによって文字数が変わり、Web サイトのレイアウトが崩れてしまったり、あるいは、翻訳結果自体が誤っていたりするケースなどです。
Web サイトを多言語化すると上記のような事態が起こる可能性があることを想定した上で、問題が発生した際にすぐに対処できる体制を構築しておくことが重要です。
せっかく Web サイトを多言語対応しても、サイトに訪れたユーザーが多言語対応していることに気が付かなければ意味がありません。そのため、言語切替の機能はわかりやすい場所に設置しておくことが大切です。ページを開いてすぐに見える場所に設置することで、外国語ユーザーの離脱を防ぐことができるでしょう。
また配置だけでなく、直感的に言語切替ボタンであることを理解できるようなデザインにすることも心がけるとよいでしょう。その際、言語の選択肢に国旗を使うことは避けるべきです。国旗はあくまでも国を表すものであり、言語圏と同じものではありません。加えて、言語名は各言語の言葉で表示するほうが、その言語を使っている人が見つけやすくなります。
国・地域によって好まれるデザインは違います。また、日本では良しとされていても、国・地域によってはそうでないデザインもあります。そのため、そうした違いを理解した上で国・地域に配慮したデザインにすることで、ユーザーに寄り添った Web サイトを構築することができるでしょう。
Web サイトを多言語対応する際のポイントについて、詳しい内容は「多言語サイトの作り方 | 制作時の9つのポイントをわかりやすく解説」をご覧ください。
多言語対応は、インバウンド客や海外への事業展開を進め、新しい販路や顧客を獲得して利益を上げるきっかけになります。また、国内に住む外国人へのアプローチも可能になるでしょう。
特に Web サイトの多言語対応には多くのメリットがあるので、この機会に本格的な計画を立ててみることもおすすめです。