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【世界標準の経営学から学ぶ】海外進出の成功と失敗とは|早稲田大学 入山氏|GLOBALIZED B2B 製造業

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北野 光平

Wovn Technologies株式会社は、2023年6月16日に「GLOBALIZED B2B 製造業」を開催し、「海外展開を加速する多言語 Web 発信とは」をテーマにセッションをお届けしました。

基調講演では、早稲田大学大学院経営管理研究科 早稲田大学ビジネススクール 教授の入山 章栄氏を迎え、「世界標準の経営学から学ぶ 海外進出の成功と失敗とは」と題して、グローバル戦略の立て方や、国際ビジネスで注目すべき差異についてお話を伺いました。本レポートではその内容をご紹介します。

【登壇者】
入山 章栄氏
早稲田大学大学院 経営管理研究科 早稲田大学ビジネススクール 教授

慶應義塾大学卒業、同大学院経済学研究科修士課程修了。三菱総合研究所でコンサルティング業務に従事後、2008 年 米ピッツバーグ大学経営大学院より Ph.D.(博士号)取得。同年より米ニューヨーク州立大学バッファロー校ビジネススクール助教授。 2013 年より早稲田大学大学院 早稲田大学ビジネススクール准教授。 2019 年より教授。専門は経営学。国際的な主要経営学術誌に論文を多数発表。メディアでも活発な情報発信を行っている

 

本日は「海外販路拡大に向けた製造業のグローバル戦略」というテーマでお話します。

圧倒的に変化が激しい時代に突入しているため、企業はより戦略的に事業を推進していくことが重要になっています。しかし、私は「日本の企業はグローバル戦略を手慣れでやっているところがある」という問題意識を持っています。

どのような戦略を立て、グローバルに経営を行うべきなのか。少しでも皆さんのお役に立てるお話ができればと思います。

日本市場は圧倒的に小さい!?

現在、日本企業の時価総額は低いと言われています。
平成元年の世界の時価総額ランキングのトップ50には、日本企業が32社もランクインしていました。しかし、その30年後にはトヨタ自動車1社のみです。
この30年間で日本企業は世界から評価されなくなってしまったのです

平成元年、世界は十分にグローバル化しておらず、まだまだそれぞれが自国で勝負している時代でした。中国やインド、東南アジアの国々も台頭していなかったので、アメリカ・ヨーロッパ・日本の三強がそれぞれの地域でマーケットをとっていれば、世界の時価総額ランキングの上位に入れたのです。日本は GDP 2位でした。

それから30年が経ち、新興市場の台頭や IT 技術の進歩により、グローバルでビジネスを展開する障壁が低くなりました。

結果として「世界でどのくらいマーケットをとれるか」で企業の価値が決まるようになりました。

グローバル化が進んでいなかった時代には、1億人という日本のマーケットはとても大きな市場でした。しかし、新興国である中国・インドがそれぞれ10億人超、EU も4億人超の市場になり、また東南アジアも自国だけでなく東南アジア全体を経済圏として巨大な市場になっています。

そして、3億人超の人口を擁するアメリカは、公用語が英語のため言語の壁が低く、グローバルなビジネスを展開しやすい状況です。

これらの国々と比較すると、人口がたった1億人で言語の壁も大きい日本市場は、相対的に小さくなってきています。

今後ますます人口が減少し、市場の縮小が加速する見込みであることからも、日本企業は戦略的にグローバル展開を進めていく必要があります。

 

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グローバル戦略は「I」と「R」

では、具体的にどのような戦略を立てればよいのでしょうか。

アメリカやヨーロッパの MBA の授業で最初に学ぶ「I-R フレームワーク」をご紹介します。

これは、企業がグローバルに進出する際には「グローバル統合(Integration)」と「ローカル適応(Responsiveness)」という2つのプレッシャーが発生し、このプレッシャーにどのように対応していくかによって企業の経営戦略を分類する考え方です。

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IR の I である「グローバル統合」は、「グローバル規模における標準化」の度合いを意味します。グローバル統合を重視している企業は、グローバル全体を一つの市場として見立て、効率性を求めて規模の経済を働かせる戦略をとります(グローバル統合戦略)。

典型的な例が、世界中で同じ iPhone や Mac を売っている Apple です。

各市場の違いや特性はあえて無視し、同じ部品・同じブランド・同じ店舗で販売しているため、本社主体の意思決定・生産を集約させることができます。

一方、R の「ローカル適応」は、それぞれの市場における製品や販売チャネルのカスタマイズ性など「ローカルにおける適合」の度合いを意味します。ローカル適応を重視する企業は、各地域に合わせて事業を展開する戦略をとります(ローカル適応戦略)。

そのため、現地調査やマーケティング、経営方針の決定などを、現地の海外子会社が十分な権限を持ち、自身で行います。典型的な例は、日用品を扱っている企業です。地域ごとに消費者の好みが異なるため、徹底的に調査し、市場にあった製品を展開しています。

I と R はどちらの戦略が良いというものではなく、自社にあった戦略を選ぶことが重要です。自社の業界特性や、業界内でどのようなポジショニングをとっているかなど、様々な観点から自社にあった戦略を選択しなければなりません。

欧米では I とR 両方のいいとこどりを推進する企業も出てきていますが、日本には「お客様から引き合いがあり海外展開を推進した」という企業が多く、戦略の設定ができていないケースが多くみられます。しかし、海外でのマーケティングや営業をより強化していくためには、全体戦略の方針が定まっていないと組織として機能しなくなってしまいます。

 

まだ世界は鎖国状態、国の差異に注目すべき

もう1点、「セミグローバリゼーション」と呼ばれる非常に重要な考え方をご紹介します。

2003年に当時のハーバード大学ビジネススクール教授 パンカジュ・ゲマワットが提唱した考え方です。

ゲマワットはまず「経営学から見た完全にグローバル化された世界とは、経済活動が完全に一体化し、世界が完全に一つの世界になったような状態を指す」と定義しました。

この逆となるのが、世界中の国と国とが全く経済交流を行わない、いわゆる鎖国の状態です。

そしてゲマワットは、貿易、資本輸出量、海外直接投資などあらゆる統計データを調べることで、現在の世界は鎖国に近い状態にあると結論付けました。

しかし、多くの企業には「世界は鎖国に近く、それぞれの国や地域は、文化や考え方が大きく異なる」という認識がなく、明確な戦略を持たずに海外展開を進めた結果、失敗しているケースがよく見られます。

実際はどのような要素が、国際ビジネスにおいて距離を作っているのでしょうか。

ゲマワットは「Cage Framework」と呼ばれる考え方を提唱し、「文化的」「政治的・制度的」「地理的」「経済的」に地域の固有性や他地域との隔たりがあるとしました。中でも重要なのは、文化的差異や言語の違い、制度の差です。なぜなら、地理的な差異は飛行機などの交通手段や通信手段の発達である程度克服できます。経済的差異も、新興国が成長すれば差は縮まるでしょう。一方で、文化や言語の差は歴史に根ざしたものなので、なかなか埋まらないからです。

文化的差異や言語的差異がビジネスに重要なインパクトを与えることを十分に理解しないまま、市場規模というプラス要因だけを検討材料として、グローバル戦略を推進している企業が多いのではないでしょうか。

戦略策定において重要な点は「国や地域によって、言語や、言語を介した制度・歴史の差異があることを認識すること」です。

日本の製造業の現場力・技術力は、世界的に見ても高い水準にあると思います。

そこで更に、言語的差異・文化的差異を認識し、壁を超えると、グローバル統合戦略かローカル適応戦略(あるいはその両取り)が加速し、日本の強みである現場力が生きてくるようになります。

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世界が注目する日本の中小企業2社

ここで、徹底したローカライゼーションを推進することで、グローバルに活躍している企業を2社紹介します。

産業用機械の製造販売を行う「株式会社筑水キャニコム」

同社のアメリカでの競合は、農機具世界 No.1 のシェアを誇る「Deere and Company」です。超大手競合がいるにもかかわらず、筑水キャニコムはアメリカで成功を収めています。

成功の要因は、徹底したローカライズです。現地農家と対話し、大手では対応しきれないアメリカ農家の細かい悩みに寄り添ってソリューションをカスタマイズしています。

 

自動車リユース部品販売・輸出を行う「株式会社シーパーツ」

同社は、全国の自動車リサイクル業者と海外のバイヤーとをつなぐ自動車リユース部品専門のオークションサービス「GAPRAS(ギャプラス)」を開発し、インターネット上にグローバルの販売網を構築しました。もちろん世界中のバイヤーとやりとりができるように、システムの多言語対応もしています。Forbes で取り上げられるなど、世界から大きな注目を集めている企業です。

まとめ

繰り返しになりますが、世界はグローバル化がまだ進んでおらず、鎖国に近い状態にあります。そのため、企業がグローバル化を推進していく中で重要なのは、国と国の差異を理解することです。その際、経済的差異ではなく、言語や文化的差異、それに起因する制度の差異に注目する必要があります。

良いモノを作り、良いサービスを提供している日本企業が、こういった言語・文化的差異を乗り越えて、現場力の強さを最大限引き出していってほしいと思います。 

 

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