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ブランド・製品の魅⼒をグループ全体に浸透させる、B2B 素材メーカーのグローバル社内コミュニケーション|AGC 烏山氏|GLOBALIZED 化学・素材メーカー

佐藤菜摘

本記事のポイント
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B2B 専業の素材メーカーでは、企業理念やブランドステートメントを “従業員が体現する”ことでブランディングを確立
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Web 社内報・グローバルイベントなど、様々な場面で多言語対応を行い、グループメンバーの One Team(一体感)を醸成
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「メンバーが“一歩を踏み出す”きっかけづくり」で、エンゲージメント向上に貢献
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施策の成果を継続的にモニタリング
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経営トップのコミットメントと、各拠点担当者との地道な関係構築が成功のカギ
Wovn Technologies株式会社は、2025年3月26日に「GLOBALIZED 化学・素材メーカー」を開催し、「“高付加価値”を世界に伝える ~日本の化学・素材メーカーが勝ち抜くための最新デジタル戦略~」をテーマにセッションをお届けしました。
導入事例講演では、AGC株式会社 広報・IR部 インターナルブランディングチームリーダーである烏山 純一 氏を迎え、「AGC が実践するグローバル社内コミュニケーション 〜 ブランド‧製品の魅⼒をグループ全体に浸透させる情報発信 〜」と題して、B2B 素材メーカーである AGC におけるインターナルブランディングの意義と具体的な施策内容についてお話を伺いました。本レポートではその内容をご紹介します。
【登壇者】
烏山 純一 氏
AGC株式会社
広報・IR部 インターナルブランディングチームリーダー
AGC 新卒入社後、塗料用フッ素樹脂の新規事業、シリコンバレーの半導体スタートアップとの日本事業立上げ、プリント基板の新規事業に携わる。社費留学後に、新設の電子事業本部の長期経営ビジョン策定を企画主導しグローバル社内表彰で最高位の賞を獲得。シリコンバレーのソーラースタートアップとの新事業立上げの後、スイスのナノテク開発スタートアップを買収・完全子会社化して同社 CEO として4年間 PMI と共同技術開発をマネジメント。帰国後は経営企画と技術広報を担当した後、事業開拓部と、研究所内のオープンイノベーション拠点で、他社との協創による事業機会探索活動に携わり、現職。サンフランシスコ大学ビジネススクール卒(MBA)。
目次 |
一般消費者とは遠い B2B 素材メーカーだからこそ「従業員へのブランド浸透」が重要
当社のグループ従業員数は約5万人です。グローバルの従業員へ、経営トップのメッセージや従業員のチャレンジを伝え、組織カルチャーを醸成することがインターナルブランディングチームの仕事の一つです。
私が所属する広報・IR部には25名程度が所属しており、発信対象ごとに4つのチームに分かれています。
- 広報チーム:メディアに発信
- IR チーム:投資家・アナリストに発信
- 広告・マーケティングチーム:広く一般の方に発信
- インターナルブランディングチーム:AGC グループメンバーに発信
ここで、4つめの「インターナルブランディングチーム」について、AGC グループの従業員向けの発信にも関わらず、なぜ「ブランディング」が付くのか。
当社は B2B の素材メーカーなので、一般消費者に直接製品をお届けする機会が無く、製品や、それに明示されているブランドマークなどで自分たちのブランドを体現することができません。そのため、各従業員が行動で AGC のブランドを体現していくことが大切だと考えています。インターナルブランディングチームから、企業理念やブランドステートメントをしっかり、かつわかりやすく従業員の皆さんにお伝えし、体現してもらうことで、結果的に AGC の対外的なブランディングにも貢献しています。
3つのインターナルコミュニケーション施策
インターナルブランディングチームが担っている主なインターナルコミュニケーション施策は3つあります。
- グループメンバー向け情報発信
グループウェブ等を通じた情報発信・運営 - グローバルイベント
グループメンバー向けオンラインイベント - 経営トップコミュニケーション
経営トップとグループメンバーの対話会
1. グループメンバー向け情報発信
以前の発信は、紙媒体によるものが中心で、補助的に Web で発信していました。当時は、①紙媒体のニーズが低下している ②グループメンバーの母国語が多様な中、多言語を翻訳して発信することが難しい、という2つの課題がありました。
そこで2023年、メインの発信媒体をグループウェブに変更し、紙の社内報は補完的なものへと転換しました。また、グループウェブには WOVN.io を導入したことで、翻訳品質を担保したうえで業務を肥大化させずに多言語展開できるようになりました。現在は、日本語・英語・中国語・タイ語の4言語で、社内報をオンライン発信しています。
多くの従業員の皆さんにグループウェブを見てもらうため、コンテンツも工夫しています。経営のトピックスや社内ニュースなど AGC グループに関する発信に加え、より従業員個人にフォーカスしたコンテンツも作成しています。下記は一例です。
「チャレンジストーリー」
組織や個人で価値創造や業務の課題解決のために取り組んでいるチャレンジについての記事で、他のメンバーも挑戦してみようと思うような内容を掲載。
「マナビのススメ」
業務から離れた趣味など、何かに打ち込んでいるメンバーの様子を発信。
「AGCなんでもサーベイ」
アンケート調査のコーナーで、回答がおもしろかった人には記事化の協力を依頼。
「フォトギャラリー」
参加型コンテンツで、業務とは違った一面がわかるような写真を投稿してもらう。
グループウェブでは「いいね」という反応や、コメントができるようになっているので、これを見ながらどういった記事が視聴者に刺さるのかを試行錯誤しています。
記事ネタの提供は、初めは日本人メンバーだけでしたが、次第に、海外からもあがるようになり、各国のカルチャーの違いや、AGC グループメンバーの多様性を実感できるようなおもしろい記事が増えています。アンケートや写真投稿など一方的な発信にならないような工夫もしています。
なお、補完的に使っている紙媒体も意義を持っており、四半期に1回発行している壁新聞があります。製造現場のメンバーは、必ずしも会社貸与のパソコンを持っていないことも多く、そうしたメンバーにも確実に情報を届けるためには、現状で最も有効な手段を紙と考えて、情報発信しています。
2. グローバルイベント
最も大きな社内イベントは創立記念日に開催する「AGC Anniversary」です。コロナ禍で発達した IT ネットワークを活用し、2021年より、オンラインによるグローバルライブ配信をしています。時差を考慮して1日に2回、英語を主言語に、日本語・中国語・タイ語・インドネシア語の同時通訳を入れて配信しているのが特徴です。目的は One Team の一体感の醸成、ブランドステートメント・ビジョンの理解や共感を得て、従業員のみなさんそれぞれの行動変容につなげることです。
2024年は「One Teamライブ ~つながりを再認識できる場所へ~」をテーマに、拠点から拠点へ中継をつなぎました。また各製造拠点では会議室で視聴会が行われました。
上が日本の工場で、下がタイの工場です。視聴会を実施する拠点にはタオルを配布し、全員がそれを持って参加することで One Team を感じてもらえるようにしました。
アジアとヨーロッパをつないだオンラインプログラムのエンディングでは、国も事業も異なる拠点を同じ画面に映し、ダイバーシティを体感してもらえるよう工夫しました。各拠点の個性がイベントを盛り上げたおかげで、One Team を醸成できたと思っています。
こうしたイベントに対して、明確な KPI は設定していませんが、毎回アンケート調査を実施しています。2024年の結果を見ると、前年より満足度が向上し、9割以上が「次回も参加したい」との回答でした。フリーコメントでも、「グローバルな AGC グループの一員だと実感できる」「他の地域のプログラムが印象的」「通訳に感謝する」「ダイナミックなコミュニケーション」「インタラクティブ」「One Team の一員であることを誇りに思う」など、各拠点からポジティブなフィードバックがあり、我々も各国の拠点の皆さんと一緒に One Team の一体感を醸成できた事をとても嬉しく思っています。
創立記念日のイベント以外では、投資家向け決算説明会の後に実施する、経営トップから AGC グループメンバーに向けたオンライン決算説明会があります。決算のポイントや中期経営計画の進捗、意識すべき経営指標や用語などを、自らの言葉で従業員にわかりやすく解説するもので、大変好評です。
3. 経営トップコミュニケーション
経営トップが直接各拠点へ行き、10人ほどのメンバーと約1時間フリートークをする対話会を年間100回以上、継続開催しています。距離が近く、心理的安全性が担保された話しやすい雰囲気の中で、参加者からの質問に対して、ご自身の経験に基づいたストレートな意見を話される場面も多く、この施策は社内外から高い評価を受けています。実際に3年に一度のエンゲージメント調査でも「取り組み意欲の向上」など良い結果が出ています。
経営トップとの対話や企業理念浸透のための情報発信が組織カルチャーを醸成する
ここまで、当社グループのインターナルコミュニケーション活性化のための具体的な取り組みをご紹介してきましたが、目的は「グループ一体感の醸成」や「メンバーが“一歩を踏み出す”きっかけづくり」です。まだまだ課題もありますが、インターナルコミュニケーションを通じて、当社グループの企業文化である「風通しの良さ」「チャレンジを奨励」「主体性を重視」を醸成していくことが、従業員エンゲージメントの向上や人的資本経営に繋がり、ひいては企業価値向上に繋がっていくとも考えています。
「既存事業の深堀り」と「新規事業の探索」を両立させる経営理論の著書『両利きの経営』の著者であるチャールズ・オライリー教授が在籍するスタンフォード大学ビジネススクールにおいて、AGC は『両利きの経営』のケーススタディとして取り上げられています。両利きの経営の実践には、組織カルチャーの変革が必要不可欠であり、そのカルチャーを醸成していくことが大切です。グループメンバーと経営トップとの直接対話や、企業理念浸透のための情報発信によって、これを継続・発展させていきたいと考えています。
(右から、烏山氏、WOVN 北野)
Q & A
WOVN:
インターナルブランディングや広報の取り組みで、経営層を巻き込むのは大変なことかと思います。経営層と共に施策を進めるためにどのようなコミュニケーションをしていますか。
烏山(AGC):
経営トップがご自身の経験からインターナルブランディングの重要性を理解していることが大きいです。2015年、経営トップも3人の One Team で経営していく方針になり、直接従業員と対話する施策が始まりました。そこから組織カルチャーが良い方向へ変化していることをご自身が経験し、取り組みを継続しています。グループメンバーとの地道な対話を継続することにより、組織のカルチャーが変わっていくと経営トップの皆さんは強く感じています。また、そうした思いを、広報・IR部を含めた様々な部門のメンバーがチームになってサポートをしながら進められているのも良い点です。
WOVN:
インターナルブランディングチームには何名いらっしゃいますか。
烏山(AGC):
私を含めて5名です。
WOVN:
数値や定性面など、各施策の成果を報告されていますか。
烏山(AGC):
KPI を明確に定めているわけではありませんが、3つの施策いずれも AGC グループメンバーのフィードバックをモニタリングしています。社内報であれば、どれだけ閲覧されたか、「いいね」がついたか、どれだけ書き込みがあったかを見ながら、記事の内容を試行錯誤しています。グローバルイベントでは視聴者数よりもアンケート回答の満足度やコメントから、従業員の皆さんに十分お伝えできているか、One Team を感じられているかをモニタリングしています。経営トップとのコミュニケーションでも同様に、満足度やどのような気付きを得られたか、という参加者のフィードバックを必ず確認しています。
WOVN:
従業員の巻き込みは容易ではない中、海外展開をされている貴社ではさらに難易度があがると思います。海外拠点も含めて One Team にしていくために工夫されていることや、グローバル企業ならではの課題はありますか。
烏山(AGC):
社内報の記事は、インターナルブランディングチームで取材をして書くこともあれば、各拠点から案を出してもらうこともあります。各拠点が発信したいニュースを拾って載せ、それに「いいね」がたくさんつくということを地道に繰り返していくうちに、各拠点が発信する記事数が増えてきました。「記事を出したい」と各拠点からインターナルブランディングチームに直接声をかけてもらうのも関係構築の成果です。直接会うことが難しくても、記事を書くとなればメールや Web 会議でやりとりがあります。地道ではありますが、各拠点の担当者とコミュニケーションしながら関係を作っていくことが良い効果を生んでいます。
WOVN:
各拠点に責任者を置いて統率してもらいつつ、本社としてはその方々を支えて対話をしているイメージでしょうか。
烏山(AGC):
各拠点の総務や人事部門に、拠点内のコミュニケーション担当がいるので、仕事の一部としてインターナルブランディングにも協力してもらっています。インターナルコミュニケーションのため、各国に特派員をアサインしている企業もあるようですが、当社ではそれは実施していません。
WOVN:
そういった体制の中で、各拠点から記事を投稿したいという声が出るのは嬉しいですよね。
烏山(AGC):
嬉しいです。海外も拠点によっては四半期毎に定期的に Web 会議もしています。出張で日本に来たときに本社に寄って声を掛けてもらえたり、インターナルブランディングチームも拠点担当に会いに行ったりしています。このように地道に関係を作っていくことが大事ですね。
WOVN:
烏山さん、ありがとうございました!
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Wovn Technologies株式会社は Web サイト多言語化ソリューション「WOVN.io」を提供しています。多言語化についてご興味のある方は、ぜひ資料をダウンロードください。

佐藤菜摘
前職は、広告代理店にて大手CVSの担当営業として、販促物製作やブランディングプロジェクトに従事。2016年WOVN Technologies株式会社に入社し、広報業務を担当。2022年よりMarketingチーム。
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