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世界で戦う日本の化学 〜 技術と「おもてなし」精神で市場を勝ち取れ 〜|化学工業日報社 渡邉氏|GLOBALIZED 化学・素材メーカー

佐藤菜摘

本記事のポイント
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日本の化学・素材メーカーは高い技術力を持つ一方、中国企業が生産能力の強化や AI 活用などにより急拡大
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「コスト競争力」「顧客の利益増への貢献」「囲い込み」の3つの競争戦略がカギ
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技術力をベースに “対応力と提案力”で、単なる協業にとどまらない “対等な関係構築と信頼”を勝ち取る
Wovn Technologies株式会社は、2025年3月26日に「GLOBALIZED 化学・素材メーカー」を開催し、「“高付加価値”を世界に伝える ~日本の化学・素材メーカーが勝ち抜くための最新デジタル戦略~」をテーマにセッションをお届けしました。
基調講演では、株式会社 化学工業日報社 取締役 編集本部長 編集局長である渡邉 康広 氏を迎え、「世界で戦う日本の化学 〜 技術と「おもてなし」精神で市場を勝ち取れ 〜」と題して、グローバル市場で日本の化学・素材メーカーが勝ち抜くための戦略と先進事例についてお話を伺いました。本レポートではその内容をご紹介します。
【登壇者】
渡邉 康広 氏
株式会社 化学工業日報社
取締役 編集本部長 編集局長
1995年慶応大文卒、整理部を経て2001年から記者。化学大手などを担当し、シンガポールとバンコクにも駐在。2021年から編集局長。千葉県出身、53歳。
目次 |
生産能力の強化や AI 活用で勢いを増す、中国の化学産業
中国の化学産業が急成長しています。
例えば、中国のエチレン生産能力は日本の7倍にまで拡大している一方で、日本は昨年37年ぶりに生産量が500万トンを下回りました。中国では生産設備の新増設も増え、2027年には7,000万トンに達すると予測されています。日本ではエチレンを含めた設備の縮小と最適化の計画が立ち上がり、2028年までに3基停止する計画が進められています。さらにその誘導品(基礎化学原料から化学反応によって製造される製品)の再編も今年から浮上すると考えられます。
企業単位でみると、“万華化学” の急成長が取り上げられます。同社は1998年に創業し、当初は MDI(ポリウレタンの原料として広く利用される化学物質)の専業メーカーとしてスタートしました。現在では、創業から30年も経たずに、エチレンからスーパーエンジニアリングプラスチックといった非常に高機能な化学品まで手掛けています。さらには原子力発電への出資も行い、エネルギー領域も押さえています。2023年の売上高は1,753億元と既に日本円で3兆円を超え、最終利益率も10%近い大企業です。研究員も全体の3分の1にも及ぶ9,000人ほどいると考えられ、研究開発では AI を活用するなど先進的な取り組みをしています。
日本の化学企業においては「高付加価値による差別化」を20世紀から取り組んでいますが、今や中国企業の台頭がかなり進んでいる状況です。インターネットを通じて特許を見るなど模倣しやすい環境になっている点が要因の1つにあり、日本や欧米の化学企業が手掛けているような化学品まで続々と出てきています。
参入障壁が高い日本の化学品とは
では、世界で戦える日本の化学品には何があるでしょうか。
1つの例として「フォトレジスト」があります。日本の5社で世界シェア9割を占める先端半導体材料です。フォトレジストの原料は樹脂・感光剤・溶剤などで、これらを混ぜ合わせる順番や最適なレシピが重要かつ独自性が高くて模倣しにくいのがポイントです。また、超高純度技術が必須ですし、顧客と密にすり合わせることが求められるため、非常に手間がかかります。また、モノマーやポリマーといった「原料」という点においても、日本の化学企業が非常に高い競争力を持っています。
フォトレジストは主に半導体の前工程材料ですが、前工程での微細化に限界が近づいていることを受け、後工程での高性能化技術にも各社力を入れています。より材料同士のすり合わせが不可欠になるため模倣しづらく、半導体や装置メーカー、テック大手の技術者と開発設計段階から密接にコミュニケーションを取り、信頼を得ながら採用を目指すビジネスモデルになっています。さらに海外の半導体メーカー各社も、日本の材料メーカーとの連携・協業を強化しています。
3つの競争戦略を駆使した日本企業の先進事例
日本企業と海外企業の連携例を2つ紹介します。
<東レ>
東レの炭素繊維は、ボーイングの航空機に使用されています。航空機には墜落や事故が起きない絶対の信頼性が求められるため、類似の物性や強度の炭素繊維が新たに作られても代替しづらい点が1つのポイントです。東レがボーイングと40~50年をかけて極限まですり合わせを行い、共に作り上げた東レ製品が航空機のデファクトスタンダードになっています。中国の炭素繊維メーカーが台頭してきていますが、航空機への採用はまだ先と見られています。このような囲い込みは1つのカギでしょう。
ボーイング787型機ではあらゆる部位に炭素繊維が使われていて、3つの競争戦略 ①ベスト・プロダクト ②カスタマー・ソリューション ③システム・ロックイン を駆使しているという視点で見ることができます。
①はコスト競争力です。②は顧客の利益のことで、飛行機は軽くなると燃料を大幅に抑えられるため、顧客の利益が大きくなります。③は先述した囲い込みの話のとおり、業界標準を作り上げることがポイントになります。
東レの別の例として、ユニクロとの20年に渡る戦略的パートナーシップがあります。ポリエステル・アクリル・ナイロン・ウレタンといった合成繊維は、炭素繊維ほど付加価値が高いものではありません。中国をはじめ、世界で多く作られています。ではなぜ強いタッグを組めているのでしょうか。当然「技術の強み」もありますが、単なる協業を上回るレベルで、初期段階から「消費者がどんな服を求めているか」を話し合い、互いの理解と信頼を構築していることが要因といえます。
<シンテック>
続いて、3つの競争戦略に当てはまる企業として、信越化学工業の塩ビ子会社である、アメリカのシンテックを取り上げます。
①ベスト・プロダクトという点では、原料の塩が現地アメリカにあるなど、高いコスト競争力があります。そして、②カスタマー・ソリューションがシンテックの最大の強みです。「顧客の生の声を日々聞き、変化があればすぐ動く。得意先が購入量を増減させたときは大きなヒント。」と、当時会長だった金川氏が話されていました。また、③システム・ロックインの点では、物流面から囲い込みができています。アメリカで物流といえばトラックをイメージされるかもしれませんが、実は鉄道が主流になっています。ホッパーカーという貨車を数千台運行し、顧客の工場まで直接製品を運んでいるため、ある種の囲い込みといえます。
顧客と対等な関係を築きながら、対応力や提案力で信頼を勝ち取る
競争戦略とは、相手との違いをつくることです。違いには「ベター」と「ディファレント」があります。特定の企業のその製品にしかなく、模倣しづらいという「ディファレント」がわかりやすい競争力といえますが、複数の「ベター」を掛け合わせれば「ディファレント」を構築できる例が少なくありません。紹介した東レとユニクロとの協業は、合成繊維と大衆衣料という一見、汎用要素の組み合わせですが、長年の信頼と実績により「ディファレント」な域まで昇華したビジネスモデルといえるのではないでしょうか。
技術は当然のことながら「おもてなし」精神も重要です。類似の言葉である「ホスピタリティ」には、顧客との上下関係がありますが、「おもてなし」は顧客と対等な関係を築いているという点で、この2つには違いがあります。B2B 取引だと上下関係が生じやすいですが、東レとボーイング・ユニクロとの例からみると、対等だからこそビジネス機会が創出されていると考えられます。
開発が大変なスペシャリティケミカルは「ディファレント」な競争優位を築きやすいです。しかし、論文の読み込みや AI での特許解析が進んでおり、技術だけでは追いつかれる可能性があります。技術だけではなく、顧客に寄り添った対応力や提案力で信頼を勝ち取ることが必要です。ただし、顧客の御用聞きではなく、画期的な技術・製品の機能性・安定供給力など複数の武器を駆使して自社の世界に引き込み、対等な関係を築くことがポイントとなるでしょう。
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佐藤菜摘
前職は、広告代理店にて大手CVSの担当営業として、販促物製作やブランディングプロジェクトに従事。2016年WOVN Technologies株式会社に入社し、広報業務を担当。2022年よりMarketingチーム。
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