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リアル×デジタルで高める訪日客の買い物体験|J.フロント リテイリング 林氏|GLOBALIZED 小売業界の訪日体験 DX

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佐藤菜摘

 本記事のポイント 

  • 旅前・旅中では、デジタルを活用した認知・きっかけ作りを行う必要がある

  • 百貨店やショッピングセンターの価値は、接客(おもてなし)を通じて、セレンディピティが生み出される場所であること

  • 多言語アプリは、旅後も継続的にお客様とコンタクトが取れるデジタル接点として非常に有効

Wovn Technologies株式会社は、2024年11月29日に「GLOBALIZED 小売業界の訪日体験 DX」を開催し、「旅行フェーズに沿った多言語デジタル施策」をテーマにセッションをお届けしました。

基調講演では、J.フロント リテイリングの林氏を迎え、「リアル×デジタルで高める訪日客の買い物体験」と題して、旅前・旅中・旅後それぞれのフェーズにおいて、リアルとデジタル両面から海外のお客様の体験をいかに向上させることが重要かをお話いただきました。本レポートではその内容をご紹介します。

【登壇者】
林 直孝 氏
J.フロント リテイリング株式会社
執行役常務 デジタル戦略統括部長 兼 株式会社大丸松坂屋百貨店 取締役

パルコ入社後、全国の店舗、本部及び、Web事業を行うグループ企業の株式会社パルコ・シティ(現 株式会社パルコデジタルマーケティング)を経て2013年に新設された「WEBコミュニケーション部」にてPARCOのデジタルマーケティング及びオムニチャネル化を推進。
2017年より「グループICT戦略室」にて、ショッピングセンターのDX(デジタルトランスフォーメーション)を具現化するため『デジタルSC(ショッピングセンター)プラットフォーム』戦略の推進を担当。2022年3月よりパルコ、大丸松坂屋百貨店等の持株会社であるJ.フロント リテイリング株式会社でグループ企業のデジタル戦略の推進を担当。

 

J.フロント リテイリングの林です。新卒でパルコに入社し、様々な店舗を経験しました。その後、パルコシティ(現:パルコデジタルマーケティング)でデジタル関連の仕事を担当し、以降は店舗とデジタルの両領域での仕事が増え、現在は J.フロント リテイリングでデジタル領域の仕事をしています。

当社は、歴史ある百貨店の「大丸」と「松坂屋」が経営統合しスタートしました。事業セグメントで見ますと、百貨店事業やパルコ事業がシェアとしては非常に多く、その他にもデベロッパー事業や決済・金融事業で構成されている総額売上高1兆円規模の会社です。

直近の事業利益は、過去最高を更新する勢いをみせています。特に百貨店事業の業績が好調で、その大きな要因は「堅調な富裕層の消費」と「インバウンド売上」です。



年度ごとの免税売上高を見てみますと、コロナ前の2019年度は639億円でしたが、2023年度はすでにその額を越え、2024年は1,300億円と予想されるなど、過去最高を大幅に更新する勢いです。

インバウンド対応については、旅中だけでなく、旅前と旅後のフェーズも重要だと捉え、当社でも様々な施策を行っています。本日は、その一部をお話します。

 

旅前での認知、旅中における来店の動機作りには、Web サイトや SNS を活用した情報発信が重要

まず旅前のフェーズでは、PARCOのWebサイトでは日本語を含めて6言語に対応しています。この6言語は、来店されるお客様の多い国・地域の言葉に対応しています。ちなみに渋谷PARCO では、売上シェアの30〜40%が海外のお客様によるものです。

また、どのような方がどのようなきっかけで渋谷PARCOに来店しているかを調査しました。その結果、旅前の情報収集では、RED(中国の若い女性を中心に人気のSNSアプリ)で観光スポット・グルメ・ショッピング情報を検索し旅行計画の参考にしていること、また、Google マップをナビゲーションツールとして活用し、レストランのユーザーレビューや評価点数をもとに飲食店を選んでいることがわかりました。

この調査結果に対応するため、 百貨店やPARCOの Web サイトやSNS上で多言語による情報発信を行い、旅前の認知や旅中の来店動機づくりを行っています。

また旅中においては、 Google マップの重要性が特に高いです。こちらは渋谷PARCO の地下にある「Jikasei MENSHO」というラーメン店の口コミレビューです。皆さんはこういったレビューを参考にして店選びをします。そのため、特にインバウンドのお客様が多いテナントを対象に研修を行い、 Google マップがいかに重要な情報源であるか、 Google マップをしっかり活用し、メンテナンスすることの必要性を伝えています。Jikasei MENSHO は、Google マップで情報をしっかりと提供することで、来店されるインバウンド数が増加するなど、効果を出しています。


もう一つ、ユニークな取り組みを紹介します。
大丸松坂屋百貨店の DX 推進部では、TikTok と YouTube で動画コンテンツ配信を行っています。いずれも数十万人の方にフォローいただく中、視聴者の9割が海外、特に東南アジアの方々です。



こちらのコンテンツでは、大丸松坂屋の情報発信は行っていません。お菓子が大好きすぎて、仕事中にお菓子を食べる日常をユニークなコンテンツとして配信しています。視聴者は、このコンテンツをどんな会社が作っているのか興味を持ち、大丸・松坂屋という日本の百貨店を知ることになります。これも旅前のブランディングとして、海外の方に当社の施設や会社を知っていただくきっかけとなっています。

 

旅中では、“唯一無二のコンテンツ”と“おもてなしの接客”がカギ

旅中のフェーズにつきましては、「唯一無二のコンテンツ、他では味わえない体験価値を伴うショッピング」をいかに提供し続けるかを大事にしています。

渋谷PARCO 6階では、グローバルでも有名なキャラクター・IPをお持ち のテナントゾーンがあります。ここは海外のお客様の関心が高く、毎日どの時間帯でも賑わってます。この唯一無二のコンテンツこそが、旅中で当社が提供できる体験の重要なポイントです。

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もうひとつ大事なのは「おもてなしの接客」です。おもてなしとは、客人に対して心を込めて接遇、歓待、サービスを行うことです。当たり前のように聞こえますが、日本人の私でも日本のおもてなしはレベルが高いと思いますし、日本のおもてなしを体験いただくことが、「日本に来てよかった」と思っていただける大きな要素だと思います。

多くのブランド・コンテンツ(商品・サービス)の中から、接客(おもてなし)を通じて、納得が得られる商品やサービスと出会える場所。これが当社の百貨店やショッピングセンターがお客様に提供できる本質的な価値だと思っています。
セレンディピティ(偶然の出会いによる幸福感)の創出が、まさにリアルな小売の現場で起きています。セレンディピティを提供し続けるというこの価値を、接客を伴いながらどのように維持・向上させるかが重要ですし、これは当社とお取引先やテナントのみなさんが一緒に作り上げていくものだと考えています。

 

多言語アプリは、旅中・旅後の継続的なデジタル接点として非常に有効

旅中・旅後における来店や再来店のきっかけづくりには、多言語対応したアプリを使っています。大丸松坂屋百貨店のアプリは、2024年8月現在6万人の外国籍の方にお使いいただいています。海外のお客様には、主にお買い物をされる際にダウンロードいただき、再来店やたくさんお買い物していただくきっかけづくりを行っています。中国からのお客様が非常に多いので、Alipay ミニプログラムでも大丸・松坂屋アプリと同様にポイントやクーポンの提供を旅中の施策として行っています。

アプリやミニプログラムは、旅後も継続的にお客様とコンタクトが取れるデジタル接点として非常に有効だと考えています。



今後の取り組みをご紹介します。海外のお客様は、アプリやミニプログラムを利用しない限り、何度も来店されても一見さん扱いになってしまいます。そこで、インバウンドのお客様向けの CRM 基盤を構築しています。これにより、オンライン上で会員化し、顧客カルテを管理します。まずは2025年1月から、海外のお客様に非常に支持されている大丸心斎橋店で導入予定です。

 

with コロナ時代の、変わらない価値とお客様ニーズの変化への対応

渋谷PARCOのリニューアルオープン直後にコロナが大流行し、約2カ月間営業できない時期がありました。その時、ショッピングセンターが with コロナにどう対応すべきかを考えました。

まず、唯一無二性や希少性、グローバルの中の渋谷PARCOというローカリティといった変わらない価値をどのように維持して伝え続けるかが重要だと考えました。そこで、お客様が欲しいものがどのお店にあるかを知っていただくために、オンラインチャネルやオンライン接客という新しい手法を取り入れ、お客様との接点づくりをスタートしました。

一つ目の対応は、「PARCO ONLINE STORE の活用」です。世界中の方々が来日できなくなったため、オンラインチャネルを通じて商品をお届けできるようにしました。PARCO ONLINE STORE はもともと存在していた E-コマースですが、「通販始めました」と訴求し、このタイミングで海外からの注文・発送を受け付ける対応を行い、海外のお客様からも購入いただけるようにしました。

当時、オフラインの海外からのお客様はほぼゼロでしたが、オンラインストアでは多くの国のお客様に購入いただけたことに感動しました。購入には至らなかったものの、多くの国・地域の方々が渋谷PARCO のサイトを見てくれていることに勇気をもらいました。

また、コロナ渦中の2020年秋にオープンした心斎橋PARCO では、中国のインフルエンサーが、心斎橋PARCO から商品の情報を発信するライブコマースを行いました。このような取り組みが、現在のインバウンドのお客様増加に繋がっていると思いますので、やっていて良かったと感じています。コロナ禍でも、唯一無二の価値をオンラインで提供し続けたことが、今に繋がっていると考えています。

 

リアルとデジタルの融合で高める百貨店やショッピングセンターの価値

これからの未来に向けて、準備しておくべきことがあると感じています。

まず、スマートフォンが進化し、スマートグラスのようなデバイスに移行する時期が来ると考えています。ガートナー社は、2026年までにグローバル人口の1/4が1日1時間以上メタバースで過ごすと予測しています。これは一見信じがたいことかもしれませんが、すでにグローバル人口の約1/3は Z世代以下であり、若い方の間ではメタバースが当たり前になっています。そう考えると、この予測は現実的な数字だと思います。

そしてこれからは、リアルメタバースとデジタルメタバースの世界が融合されていきます。みなさんも、スマホの中でショッピングをするだけでなく、PARCO や大丸百貨店の中でもスマホを使いながら買い物をされることがありますよね。このように、リアルとデジタル両方を使えることが、ショッピングセンターや百貨店にも時代対応として求められると感じています。

そこで大丸松坂屋百貨店では、2023年からメタバース事業をスタートしました。現在は、VRChatというプラットフォームの中で使っていただけるオリジナルアバターを販売したり、ワールドといわれるメタバース空間を構築し提供しています。

メタバースの場合は物理的な来店の必要がないので、時間や移動の制約がなくグローバル人口の1/4の方がこの世界に出入りするようになり、そこに次の形のインバウンド、アウトバウンドという世界があるのではないかと感じています。

もう一つは、リアルメタバースでの取り組みです。2024年2月に、渋谷PARCOの屋上から渋谷の夜の街にスマートフォンを掲げるとAR技術で花火が見られるイベントを行いました。これからもリアルの価値は残りつつ、さらに楽しい場所として価値が上がっていくと思います。「Location Based Experience」として、そこに行かないと体験できない価値を提供することで、海外からのお客様にもそういった技術を活用し、よりリアルな楽しみを提供していく必要があると考えています。

ご静聴いただきありがとうございました。

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