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オーバーツーリズムの課題は?観光地の持続可能性を高める対策を解説

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佐藤菜摘

国内の人気観光地では、インバウンドの増加によりオーバーツーリズムの問題が深刻化しています。観光客の増加がマナー違反や環境への負荷を引き起こし、観光地の魅力が損なわれるケースもあります。そのため、持続可能な観光地づくりに向けた具体的な対策が重要です。
本記事では、オーバーツーリズムが発生する背景や観光地への影響、さらにテクノロジーを活用した効果的な対策について解説します。

オーバーツーリズムは観光客の急増で地域社会や環境に生じる悪影響

UNWTO (世界観光機関、2024年1月に略称を UN Tourism に変更)は2018年9月に発行したリーフレット(※1)において、オーバーツーリズムを「観光地やその観光地に暮らす住民の生活の質、及び/或いは訪れる旅行者の体験の質に対して、観光が過度に与えるネガティブな影響」と定義しています。

世界の観光地では2000年代初頭頃から、観光客が集中することによるオーバーツーリズムの影響が顕著になっています。例えば、スペインのバルセロナでは、大量に訪れる観光客によって引き起こされる混雑や、景観破壊などが社会問題化し、市が対策として民泊ライセンスの新規発行停止などを打ち出しました。また、イタリアのベネチアでも、1年を通じて極度の混雑状態が続いていたため、2021年に中心部へのクルーズ船の出入りを禁止し、ハイシーズンの日帰り観光客には入島税を課すという施策を講じています。

※1 UNWTO(国連世界観光機関) ’Overtourism’? - Understanding and Managing Urban Tourism Growth beyond Perceptions
https://www.e-unwto.org/doi/book/10.18111/9789284419999

日本でオーバーツーリズムが発生する背景

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日本でも観光地でオーバーツーリズムが問題となっています。その背景には、SNS の普及による観光需要の拡大や、格安航空券の普及により移動が容易になったことが挙げられるでしょう。また、長期的な円安の影響や、ビザの免除・要件緩和といった政策的な後押しによるインバウンド需要の増加も要因と考えられます。

日本政府観光局の2024年12月発表「訪日外客数(2024年11月推計値)」(※2)によると、インバウンドは11月までの累計で3,337万9,900万人を突破し、過去最高であった2019年の年間累計訪日外客数を上回りました(2024年12月18日現在)。
また、2024年1~9月の訪日外国人旅行者の旅行消費額は5.8兆円を超えました。これは、2023年に記録した通年過去最高額である5.3兆円を上回る規模です。

観光庁はコロナ禍前の2018年に、増加する観光客のニーズと観光地の地域住民の生活環境の調和を図り、両者の共存・共生に関する対応策のあり方を総合的に検討・推進することを目的に「持続可能な観光推進本部」を設置しました。さらに、2024年10月には緊急の対策会議を開き、全国で20程度のモデル地域を定め、集中的にオーバーツーリズム対策を進めています。

※2 日本政府観光局 訪日外客数(2024年11月推計値)https://www.jnto.go.jp/statistics/data/_files/20241218_1615-1.pdf

オーバーツーリズムがもたらす影響

オーバーツーリズムは国内外の多くの観光地で顕在化し、さまざまな社会問題を引き起こしています。オーバーツーリズムがもたらす主な影響は次の3つです。

環境への負荷

オーバーツーリズムがもたらすもっとも深刻な影響のひとつが、環境への負荷です。観光客の増加に伴い、交通量の増加による大気汚染、水質汚染が深刻化し、観光地の自然環境に大きな影響を及ぼしています。

さらに、特定の地域への観光客集中は、自然環境への過剰な負荷を引き起こし、オーバーユースにつながります。例えば、大量の観光客が野生動物の生息域を荒らし、生態系を脅かすことや、トレッキングによる登山道や植生の損傷といった影響が挙げられるでしょう。

地域住民への影響

オーバーツーリズムは、地域住民の生活環境に大きな悪影響を及ぼします。観光客による騒音や路上飲食、ゴミのポイ捨て、写真撮影による通行妨害、私有地への無断進入などのマナー違反が頻発し、住民の反感を買うケースが少なくありません。

さらに、観光地では物価の上昇、住民向けの商店の減少、慢性的な混雑や交通渋滞といった問題が顕著になります。こうした影響は、観光地周辺の生活環境を悪化させ、地域住民の生活を圧迫しているのです。

例えば、有名な観光地を抱えるある地域では、空き地にホテルが乱立して住宅用地が限られ、価格が高騰して人口が流出しているケースもあります。地域経済が潤っているように見えても、市民の生活は苦しく、不便になっていくという状況を招きかねません。

観光地の魅力の低下

オーバーツーリズムは観光地の魅力を大きく損ねるリスクがあります。観光客の集中により「バスやタクシーに乗れない」「トイレが不足する」など、インフラのキャパシティーを超える問題が発生し、不便を感じるケースも少なくありません。
また、神社仏閣や美術館、博物館の混雑は、観光客がゆっくりと楽しむ余裕を奪い、満足度を低下させます。結果として、観光地全体の評価が下がる可能性があるでしょう。
さらに、観光地が商業化されることで、地元の伝統や文化が観光客向けに改変され、本来の魅力が失われる危険性もあります。
このような状況が続けば、観光サービスや体験そのものの価値が薄れ、観光地としてのブランド価値が大きく低下しかねません。

オーバーツーリズムへの具体的な対策

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オーバーツーリズムは、観光地の持続可能性を脅かす大きな課題だといえます。この課題への具体的な対策について、以下3点を紹介します。

観光客を分散させて混雑を解消する

オーバーツーリズムを解消するためには、観光客を特定のエリアや時間帯に集中させない工夫が必要です。例えば、観光地が時間帯や季節によるダイナミック・プライシング(価格変動制)を導入し、混雑の少ない時間帯に割引価格を設定すると、観光客を分散させることができます。また、繁忙期を解消するためにオフシーズンの魅力を発信し、観光体験の選択肢を広げるのも効果的です。

さらに、現時点で知名度の低い地域や施設の魅力を積極的にアピールし、観光客を誘導する「場所」の分散化も有効です。例えば、地方都市の観光資源を掘り起こし、外国語対応の Web サイトを整備して地域の魅力を発信することで、外国人観光客の関心を引き、地域全体への訪問を促進する方策などもあります。

観光地のルールを整備する

観光地が独自のルールを整備することで、混雑緩和や環境保全を実現できます。例えば、エリア内に入れる人数を時間帯ごとに制限する入場制限や、事前予約制による時間帯指定入場の導入が有効です。これにより、観光地周辺の混雑や交通渋滞を抑えられます。

さらに、宿泊税の徴収も効果的です。宿泊税はホテルや旅館に宿泊する人に課される税金です。徴収された税収を地域の観光インフラ整備や自然環境の保全に活用すると、観光地全体の持続可能性を高めることができます。

地域住民と共存する観光計画を考える

オーバーツーリズムを解消するためには、地域住民と共存するための観光計画を考える必要もあるでしょう。地域住民との良好な関係性は、オーバーツーリズムの解決に不可欠です。

観光計画の整備にあたっては、地域住民の意見を尊重し、彼らの不安や課題に配慮する必要があります。例えば、新たな観光施設やイベントの計画時には、人流のコントロールなどで住環境への影響を最小限に抑える措置が求められます。

また、外国人観光客に日本の文化やマナーを理解してもらうために、注意喚起やルール化を進めることも重要です。多言語化された案内掲示やガイドラインを整備することで、治安や秩序の維持が期待でき、地域社会との共存が図れます。

持続可能な観光地づくりのためのテクノロジー活用

オーバーツーリズムを解決するためには、テクノロジーの活用が有効です。ここでは、2つの具体例を紹介します。

AI やビッグデータでインバウンドを予測する

オーバーツーリズムを解消し、持続可能な観光地を整備するためには、AI (人工知能)やビッグデータを活用して観光客の行動を予測することが重要です。オーバーツーリズムの大きな原因は、特定の時間や場所に観光客が集中し、エリアの収容能力を超えてしまう点にあります。この課題を解決するカギは、データ解析と人流管理です。

AI やビッグデータを活用して観光地への訪問者数や行動パターンを予測することで、混雑を緩和するための管理体制を構築できます。具体的には、渋滞や混雑状況をリアルタイムで可視化し、観光客に情報を提供する仕組みが効果的です。さらに、混雑状況に応じた入場制限や変動価格制を導入すると、訪問時間帯の分散を図ることができるでしょう。

多言語化ツールで訪問者の利便性を向上させる

多言語化ツールを活用すると、外国人観光客の旅の利便性を向上させ、地域への理解を深めることが可能です。言語の壁は外国人観光客にとって大きな悩みです。円滑なコミュニケーションがとれないことで地域住民とのトラブルにもなりえます。この問題を解決するには、観光支援サービスや案内表示などの情報の多言語化が有効です。

観光地の公式 Web サイトや関連するスマートフォンアプリ、デジタルサイネージを多言語対応することで、観光地の歴史や文化、地域ルールを母国語で伝えられます。これにより、外国人観光客は情報を正確に理解し、より快適に過ごすことができるでしょう。

さらに、観光地で守るべきルールをリアルタイムで翻訳して提供する仕組みがあれば、トラブルを未然に防ぎ、外国人観光客と地域住民の双方にとって快適な環境を実現できます。

多言語化ツールの導入でオーバーツーリズムを解決する

外国人観光客の増加は日本に多くのメリットをもたらす一方で、各地ではオーバーツーリズムに関する課題が顕在化しています。こうした問題を解決し、将来的に持続可能な観光を推進するには、観光客、地域住民、企業、行政が連携した取り組みが必要です。
特に、情報発信の多言語対応は課題解決において重要な施策のひとつです。しかし、ターゲットとする各国の言語に対応するには多くの業務負担が伴います。

そこでおすすめなのが、Web サイトやアプリを効率的に多言語化できる「WOVN.io」「WOVN.app」です。「WOVN.io」「WOVN.app」は、Web サイト・アプリを最大45言語・79のロケール(言語と地域の組み合わせ)に多言語化し、インバウンド旅行客の体験向上に導く多言語化ソリューションです。多言語化に必要なシステム開発・多言語サイト運用にかかる、不要なコストの圧縮・人的リソースの削減・導入期間の短縮を実現します。

これらを導入することで、公式 Web サイトやアプリ、動画などのインバウンド向けコンテンツを効率的に多言語化でき、日本滞在中の外国人旅行者が求めるイベント情報やお知らせ、運行状況や混雑情報といったリアルタイムの情報も、日本語と同じタイミングで多言語発信が可能になります。
観光地の魅力をより多くの人に伝えることを目指すなら、「WOVN.io」「WOVN.app」の活用をぜひご検討ください。

 

 

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