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【IDEO 流】クリエイティビティを活かす組織|IDEO 野々村氏|GLOBALIZED2022

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小駒 海晴

2022年5月31日、当社は「急速にグローバル化する日本に求められる新しいテクノロジーとビジネスを体感する」というコンセプトのもと、2年ぶりに GLOBALIZED を開催。「混沌とした時代を生き抜く 企業の情報発信とは」をテーマに5つのセッションをお届けしました。

2つ目のセッションでは、「クリエイティビティを活かす組織」と題し、IDEO Tokyo(以下、IDEO)の野々村氏をお招きしてパネルディスカッションを行いました。

「クリエイティブ・リーダーシップとは」「常識は変化する」「日本企業とクリエイティビティの相性」など様々なテーマで議論した内容を、本レポートでご紹介します。

【パネリスト】
野々村 健一
IDEO Tokyo
マネジングディレクター 兼 共同代表

慶応大学卒業後、トヨタ自動車に入社し、海外営業や商品企画を担当。その後、米ハーバード・ビジネススクールへ私費留学し、経営学修士(MBA)を取得。
IDEO の東京オフィス立ち上げに従事。現職。国内外の様々な企業や団体とのプロジェクトを手掛ける。IDEO 共同出資のベンチャーキャピタルファンド D4V のファウンダー。
著書に「0→1の発想を生み出す 問いかけの力」がある。
名古屋商科大学大学院国際アドバイザリーボードメンバー。
内閣府オープンイノベーション大賞総理大臣賞選考委員。

【モデレータ】
上森 久之
Wovn Technologies株式会社
取締役 COO

デロイト・トーマツにて、新規事業/オープンイノベーションのコンサルティング、会計監査、M&A 関連業務などに従事。公認会計士。
2016年、Wovn Technologies株式会社 COO に就任。
2019年、取締役副社長に就任。

 

上森(WOVN):
野々村さん、まずは自己紹介をお願いいたします。

野々村(IDEO):
デザインコンサルティング会社の IDEO のマネジングディレクターと共同代表をしています。大学卒業後にトヨタ自動車に入社し、その後、米ハーバード・ビジネススクールに留学しました。アメリカから帰ってきたタイミングで、IDEO の東京オフィスの立ち上げに参画しました。IDEO で D4V というベンチャーキャピタルも行っているのですが、そちらにも関わっています。

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上森(WOVN):
まずは「クリエイティビティを活かす組織」というテーマの背景について簡単にご説明させていただきます。
クリエイティビティという言葉ってかっこいいけど、抽象的で、どこかとっつきにくくて、口に出すのも少し恥ずかしいような言葉だと思っていました。ですが、野々村さんの本を読ませていただいて考えが変わりました。コロナウイルスの蔓延やロシア情勢の変動など、明日の予測をすることすら難しい世の中において、「答え」を探すことの価値は相対的に下がっていて、それよりも「問い」を見つけていくことの方が組織にとって重要だと考えています。
クリエイティビティを語るうえでは様々な観点があります。今回は中でも「組織論」と「多様性」の観点から野々村さんにお話をお聞きしたいと思います。

1.クリエイティブ・リーダーシップとは?

上森(WOVN):
仕事をしている中で様々なリーダーシップがあります。その中でも新しいものを作る際に有効なクリエイティブ・リーダーシップとはどのようなものですか?

野々村(IDEO):
クリエイティブ・リーダーシップという言葉について、最近耳にされた方も多いのではないかと思います。
IDEO は立ち上げ当初から、クライアントの方々に「5年先の予測を作りたい」という相談をいただくことが多いです。ですが、5年先どころか3年先を見通すことすら難しいのが現実です。そのため、未来を予測して答えを探しにいくよりも、「明日をデザインする」。つまり未来を創るようなアプローチが重要になってくると思います。
答えを追求するということは、「現在の効率化」です。一方、明日をデザインすることは、「探求や模索」だと考えています。
今の世の中は、この2つの要素を同時にまわしていかなければいけないと思っています。その時に重要になるのが、組織のクリエイティビティをどう活かすのかという観点でのリーダーシップです。

上森(WOVN):
昨日までやっていたことを1%でも2%でも効率化していこうという観点は重要ではあるけれど、企業としてあまり持たれていない「新しいものを生み出す」や「全く新しい軸で見ていく」観点も必要だよね、ということですか?

野々村(IDEO):
そうですね。デザインシンキングという言葉を耳にしたことのある方も多いと思いますが、この言葉の広がりもクリエイティビティへの関心の高まりを表していると思います。デザインシンキングはロジカルシンキングの対比として使われ、どちらの方が良い・悪い、ということが議論されることがありますが、実際は両方必要ですし適切な対比ではないと考えています。
ロジカルシンキングは連続的な思考法なので、選択肢を選んだり、絞ったりする際には非常に有効です。それに対してデザインシンキングは、選択肢を作ったり、増やしたりすることに有効です。連続的思考と非連続といえるかもしれません。そのため、単純にどちらが良くてどちらが悪いと比較するものではなく、状況に応じて使い分けをするものです。

上森(WOVN):
今回のテーマについて事前に打ち合わせしている中で、「問いを立てたり、昨日までの常識をアップデートする創造的なリーダーシップは伝染していく」とおっしゃっていました。「伝染」に込められた意味って何かありますか?

野々村(IDEO):
IDEO は「人間はもともとクリエイティブである」と考えています。昔、ジョージランドという研究者が NASA で行った研究によると、人間は4歳まではクリエイティビティの天才なのだそうです。その後、クリエイティビティはだんだん失われていき、失われるというよりかは押さえつけられていくようになってしまいます。この研究の裏を返すと、何かしら許可感や開放する何かがないとクリエイティビティは発揮しづらい要素であることが分かります。
伝染という言葉に戻ると、一番分かりやすい例としてワークショップがあります。一緒の場で何グループかチームを組んで行っていると、エンジンかかるタイミングがあります。とても面白い点が、1つのチームのエンジンがかかり始めると他のチームもエンジンがかかり始めます。それってフィジカルの良さも関係していて、空気感の共有や許可感の醸成は人間から人間へ移っていくものだと思います。

上森(WOVN):
「やっていいんだ感」とかですよね。

野々村(IDEO):
そうですね。組織の中でも同じ話だと思っているので、伝染という言葉を使っています。

上森(WOVN):
なるほど。伝染とか模範とかですかね。

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2.常識は変化する

上森(WOVN):
過去あったものを効率化していくのに対して、新しい価値を生み出していくクリエイティブ・リーダーシップについてもう少し深掘りしていきたいです。
最近、前例のない取り組みが企業活動の中で増えてきているなと感じています。未来を予測していくこと自体が有効性を失い始めていて、前例のない取り組みにどう立ち向かっていくのかが重要だなと思います。このあたりの考え方や取り組んでいく構えというのはありますか?

野々村(IDEO):
歴史の転換期で様々な人が言っていることが、「未来を予測する最良の方法は未来を創ることだ」ということです。歴史の中でも予測不能なタイミングや大きな転換期は必ず起きています。その時は未来のコントロールが効きづらいですが、「これから自分たちが何を作っていくのか」ということにはコントロールが効きます。
「常識は変化する」というキーワードがあると思います。クライアントと一緒に事業アイディアやコンセプトを作っている中で時々でてくる言葉が、「そのアイディア、前考えたことあるんだよね」です。すごく気をつけなければいけないことだと思うのですが、10年前に考えてできなかったことでも、今だったらできるかもしれないですし、さらに言えばこの先5年10年でできるようになるかもしれません。
常識って、時代とともに変化するということを前提として認識しておかないと、判断を間違えてしまうのではないかと思います。

上森(WOVN):
確かにそうですね。一度挑戦した新規事業アイディアって、年月が経ったとしても再び挑戦することは心理的なハードルが高いかもしれないですね。実際、私が一度挑戦したアイディアは、失敗してしまっている分、再度挑戦がしづらいと思います。そのため、別の人が挑戦した方が新しい技術を使ってアイディアを実現できるかもしれないですね。

野々村(IDEO):
そうですね。また、前例のない取り組みが増えているのは間違いではないですが、アイディアの真新しさだけ追い求めてしまうことにも注意しなければいけません。現場で「このアイディア“WOW 感”ないよね」という発言がよく出るのですが、この新しさを求めすぎてしまう姿勢は危険だと思っています。

上森(WOVN):
昨日まで正しかったことが今日は正しくなかったり、逆に昨日まで正しくなかったことが今日は正しかったりすることがあると思います。
こちらも事前に打ち合わせしている中で、アイディアを出し合いました。私たちが同い年で社会人になったタイミングも同じということもあり、働き方などが新社会人になった当時と比較して、大きく変わりましたよね。
もっと短期的に見てもコロナ前後で変わったことがあると思うのですが、いかがですか?

野々村(IDEO):
事前打ち合わせでお話しした飲み会などが代表的な例ですかね。コロナ感染拡大直後は、対面で会うことができなくなったので、Zoom 飲みなどが流行りましたね。
常識とか当たり前は、テクノロジーという観点と人間としての感覚という観点での変化があると思います。クリエイティブ・リーダーシップにおいて、人間としての感覚の部分はとても大事だと思っています。今だとライフタイムラーニングやアンラーニングという言葉がでてきているように、時代に応じて常識や当たり前と思われることが変わっていきます。その中でもリバースメンターは常識についての向き合い方について考えさせられます。

上森(WOVN):
リバースメンターとは何ですか?

野々村(IDEO):
例えば、IDEO の会長のメンターが20代であったことがあります。若手が逆にメンターになるということです。
価値観や感覚は世代によって変わってきます。この違いがあることはしょうがないことです。ですが、その時に必要になってくることが、自分の感覚が世の中に起きている大多数の感覚とどのように違うのかを捉えて、アップデートしていくことです。
これはマネジメントの観点でも大事になります。クライアントと話している中で、若手の意見って結構な確率で正しいんですよね。じゃあそこからでてくるかもしれないアイディアがいかにリーダーのところに集まってくるのか、その流れが滑らかかどうかがポイントになります。ですが実際には、若手の方が「こんなこと言ってもどうせ聞いてもらえない」と思ってしまい、摩擦係数が高いところがあるため、そういった摩擦のチューニングみたいなところもクリエイティブ・リーダーシップの一つの要素になります。

3.クリエイティビティ・インデックスとは?

上森(WOVN):
組織を診断をしていく取り組みでクリエイティビティ・インデックスがあると思うのですが、どういった取り組みなんですか?

野々村(IDEO):
コンサルティングやアドバイザリーを行っている中で「うちの組織のクリエイティビティはどうなの」という相談を受けることが多いです。クリエイティビティや文化を診断するのはかなり難しいのですが、そこと関わる因子や要素はだんだんと明らかになり始めています。
例えば、その組織の中で実験がしやすいと感じているかなどですね。実験性と関わりのあるところが何処なのかについて考えると、オフィスの空間やデザインなど、どのような体験をもくろんで設計されているかが挙げられます。最終的には、組織としての行動規範や新規事業の創出のような部分に影響されていきます。

上森(WOVN):
例えば、互いの顔が見えない高いパーテーションがあるオフィスの組織と、パーテーションが全くない組織だと後者のほうが良いということですか?

野々村(IDEO):
従来、会社の空間は会社が従業員に対して行う一番直接的なボディランゲージになります。「こういう行動をしてほしいと思っていますよ」というコミュニケーションのツールであると思います。しかし、そのコミュニケーションのツールの役割がコロナによって変化しました。そのため、これから組織としてどんな働き方や関係性を作ろうとしているのかの意味付けや位置づけが問われている気がします。 

上森(WOVN):
確かにそうですね。新しいものを創るためには、リモートで仕事を行うよりも空気感で伝染していくことの方が良いなと感じることは多いですね。この働き方や関係性については、会社としてチャレンジが求められている一つになりますよね。

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4.日本企業とクリエイティビティの相性

上森(WOVN):
新しく創造的なものを生んでいくというクリエイティビティと日本企業との相性はどう思いますか?

野々村(IDEO):
個人的にはポテンシャルしかないと思っています。
クリエイティブ・リーダーシップを突き詰めていくと、文化という言葉にいきつきます。文化は非常に難しいのですが、IDEO として考えているのは、存在意義として掲げているものと行動の両軸になります。日本の会社はお金以外の存在意義や組織のモチベーションやドライバーを持っていることが多いため、存在意義について強く持っている組織が多いと思います。そのため、こういった日本企業の良さを活かしていけばよいなと思っています。これは昨今高まっているパーパスの議論にも通ずるところかもしれません。

上森(WOVN):
大変背中を押してもらえるコメントをいただきました。


5.多様性が組織にもたらす効果とは?


上森(WOVN):
クリエイティブを活かす組織として、組織論とは別の観点で多様性があります。IDEO さんは様々な地域の人で構成されていたり、そもそも各地域に支社があると思うのですが、どのように運営されているのかや、多様だからこそ良かったことはありますか?

野々村(IDEO):
そもそも1つ1つの仕事において、様々な視点や切り口でみることができるので、新しい発想を組み合わせることができます。
一方で、仕事のアウトプットの部分だけでなく、組織の中でどのようにインスパイアしあうのか、進化し続けられるのかという観点で多様性が活きていると思います。基本的に IDEO のような組織は変わり続けなければいけないと思っています。
また、コロナ禍になって新たに課題も出てきました。オフィスって体験共通化装置だと思うのですが、WFH(在宅勤務)が主流になってきて、会社が直接かかわる新たな多様性が加わってきました。例えば、家の環境や家族構成、ライフスタイルなどです。そういった新たな多様性を突き詰めて、進化させていく必要があります。

上森(WOVN):
体験共通化装置ってすごく良いですね。考え方や言葉は違うけれど、体験はこの場で共有できるみたいな。スタートアップも新しいものを生んでいくうえで、共通の体験をいくつ持っているかが重要になります。「あれ」「これ」「それ」「あのとき」などの指示代名詞があるかないかで組織の成長スピードが変わってきます。指示代名詞がなかった場合、膨大なドキュメントを書かないと業務を引き継ぐことができなくなります。

あと、野々村さんは、様々なことにおいて「前向きな姿勢」はとても重要だと考えられていますが、その背景を教えていただけますか。

野々村(IDEO):
日本にはやらない理由を考える天才がたくさんいると思っています。基本的にクリエイティビティなどの新しいものを創るのは前向きな作業です。前に進めるのは一番難しいものだと思っています。人間は新しいアイディアがあった時につい批判して、やらない理由ばかり探してしまうことがあります。ですが、批判するのではなく、どのように活かすことができるのかを考える必要があるので、会社として前向きであると繰り返し伝えることが大事です。

上森(WOVN):
前向きな言葉をありがとうございます。最後に、今後 IDEO さんとしてチャレンジしていきたいことはありますか?

野々村(IDEO):
IDEO もクリエイティビティを大事にしているので、変わり続けていかないと思っています。社内にいるメンバーがいろんなパッションを持っているので、会社というプラットフォームを活用しながら、実現していくことをサポートしていきたいなと思っています。そのため、色々な手を打っていくので、楽しみにしていただければなと思います。

上森(WOVN):
野々村さん IDEO さんの取り組みをこれからも楽しみにさせていただきます。本日はクリエイティビティを活かす組織というテーマでお話しさせていただきました。ありがとうございました。

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