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鍵は DEI にある?2022年の ESG トレンド|MPower・関氏、第一生命・片岡氏|GLOBALIZED2022

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堀江 真里子

Wovn Technologies株式会社(以下 WOVN)が開催する年次イベント「GLOBALIZED」。2022年は「混沌とした時代を生き抜く企業の情報発信とは」をテーマに5つのセッションをお届けしました。

1つめのセッションでは「ESG トレンド2022 ~ DEI が成長ドライバー? ~」と題し、MPower Partners(以下 MPower)の関氏、第一生命保険株式会社(以下 第一生命)の片岡氏をお招きしパネルディスカッションを行いました。

なぜ今 ESG なのか、DEI とはなんなのか、DEI における多言語化の必要性とは、と様々なテーマで議論が白熱しました。本レポートではその内容をご紹介します。


【登壇者】
関 美和
MPower Partners Fund L.P. General Partner
モルガン・スタンレー投資銀行部門を経てクレイ・フィンレイ投資顧問元支店長。日本成長株ポートフォリオマネージャーとしてユニクロ等に長期投資。ベビーシッター会社メイコーポレーションを立ち上げ、教育関連企業に売却。ピーター・ティール、ベン・ホロウィッツなど、起業家のバイブルを翻訳。『ファクトフルネス』は100 万部を売り上げた。株式会社ワールド、大和ハウス工業株式会社社外取締役。慶応大学文学部・法学部卒業。ハーバード大学院卒業。

片岡 正史
第一生命保険株式会社 オルタナティブ投資部 イノベーション投資室
1997年第一生命保険に入社。特別勘定運用部等を経て2007年米国のヘッジファンドにてトレーニー。運用企画部を経て、2010年より NY 現地法人にてオルタナティブ投資のマネジャー発掘およびデューデリジェンス業務、運用会社との戦略提携業務に従事。2014年度よりオルタナティブグループにてヘッジファンド投資や PE /インフラ/ベンチャーファンド投資に従事。2019年度よりオルタナティブ投資部イノベーション投資室長としてベンチャーダイレクトおよびファンド投資を統括。


【モデレーター】
藤原 健
Wovn Technologies株式会社 取締役 CFO
メリルリンチ日本証券(現 BofA 証券)の投資銀行部門にて、M&A や資金調達業務に携わった後、アジア系 PE ファンド CITIC Capital にてバイアウト投資に従事。公認会計士。2020年 Wovn Technologies に参画。2021年より、社内で ESG プロジェクトを立ち上げ、リーダーとして ESG 活動や対外発信を推進。

 

目次

  1. ESG 投資が増えている背景
  2. 2022年のトレンド“DEI”とは
  3. 広報と ESG との理想的な関係性


藤原(WOVN):
関さん、片岡さん、自己紹介をお願いします。


関(MPower):
私のことを翻訳者と認識されている方もいらっしゃるかもしれませんが、もともとは日本株のファンドマネージャーとして長らく成長株への投資をしてきました。2021年5月に MPower を立ち上げてからは General Partner を務めており、テクノロジーを活用したサステナブルな企業に投資をしています。スタートアップに ESG を実装することで、持続的な企業成長を支えていきたい、という思いから WOVN にも投資しています。


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片岡(第一生命):
第一生命は機関投資家としての側面も有しており、お客様からお預かりした38兆円にも及ぶ資産を「安全・有利・確実」のモットーのもと運用しています。私自身はオルタナティブ投資部に所属しており、ヘッジファンド、プライベートエクイティ、インフラストラクチャーなどのオルタナティブ資産に加え、次世代の産業として期待される ベンチャー企業への投資等を行っています。

最近は、ESG テーマ型投資として SDGs に関連する投資やインパクト投資なども実施しており、単にフィナンシャルリターンだけでなく、あわせて社会貢献を追求するような投資にも注力しています。

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ESG 投資が増えている背景

藤原(WOVN):
ESG とは、企業の長期的な成長に Environment(環境)・Social(社会)・Governance(ガバナンス)の3つの非財務的な観点が影響するという考え方です。そしてこれは、投資家や金融機関が投資・融資をする際の評価指標としても用いられています。
第一生命でも ESG テーマ型投資に注力されているとのことですが、世界的にみても ESG 投資は増加していますよね。この背景について教えていただけますでしょうか。


片岡(第一生命):
SDGs が国連で採択され、普及したことが大きく影響していると思います。そもそも SDGs とは「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」の頭文字をとった言葉で、貧困、飢餓、健康・福祉などに関する17の目標が設定されているものですが、この目標を達成しようとすることで「地球上の誰一人取り残さない」世の中の実現が目指されています。

目標を達成するためにどのような手段をとるかは人それぞれで、個人単位でも組織単位でも様々な取り組みができます。たとえば日本のとある情報番組では、アナウンサーが「私の SDGs」というテーマの尺をもち、個人の日常生活における SDGs 達成に向けた取り組みを紹介していたりします。私たちは機関投資家として、SDGs を達成するための「手段」として 「投資」の観点から ESG に取り組んでいますが、このように考える機関投資家が増えていることから ESG 投資も増加しているのだと思います。

第一生命では「この目標を達成するためにこの投資をする」「この投資をすることで、目標達成に対しこれだけインパクトを出す」というように、目標と投資とを紐づけるようにしています。当然、資産としてリターンを得ることも意識しますが、同時に社会に貢献する観点ももっているということですね。

 

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藤原(WOVN):
目標に向かって取り組みを行っている企業をしっかりと評価することで、機関投資家として SDGs を達成することに寄与しているということですね。
社会貢献とリターンの観点は、事業会社で ESG に取り組む側としても同じように感じるところがあります。ESG のインパクトを最大化させるためには事業自体の拡大が欠かせず、逆もまた同じで、バランスを保って両軸で成長していくことが必要だと考えています。実際に投資の実行を判断する際には、どのような考え方をされているのですか?


片岡(第一生命):
2つあります。1つは、「狭く、深く」テーマを定めてそれに関連する事業を行っている企業を探して投資をするという考え方。もう1つは、「広く、浅く」、投資をする際にすべからく ESG の観点を鑑みる、という考え方ですね。

1つめについては、たとえば環境問題の解決をテーマに据え、国際機関が発行するサステナブルボンドに投資をしたり、気候変動への対処や再生エネルギーの活用に関連する事業を行うベンチャー企業に投資をしたり、というイメージです。

一方で2つめは、全ての投資対象について、広くESGの観点を考慮する、というもの。融資・投資の対象として似たような企業が複数あった場合に、より SDGs を意識した取り組みを行っている企業を選ぶということです。1つめの考え方と違うのは、はじめから具体的なテーマを設定して企業を選ぶのではなく、投資対象として複数の候補を挙げた上で、より ESG を考慮している企業を選定するという点ですね。


藤原(WOVN):
幅広い企業群から広くスクリーニングをしていく段階での観点と、より直結する狭い意味でのESGという観点の2つの観点があるということですね。

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2022年のトレンド“DEI”とは

藤原(WOVN):
ESG の中でも Social に関連する“DEI”というキーワードを耳にすることが増えてきました。DEI は Diversity(多様性)、Equity(公平性)、Inclusion(包括性)の略称ですが、私個人としては、多様なメンバーが揃い、その誰もが心理的安全性を保った状態で公平に活躍できる環境をつくることだと解釈しています。このトレンドに対してどのように考えていらっしゃいますか?

 

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片岡(第一生命):
投資判断の際、最近は ESG の中でも S が重要といわれることが増えてきていると思います。
過去には、取締役会が機能しているか、社外取締役がいるか、など Governance が特に重視されていた時期もありますし、その次には、不可逆な人類共通の課題として Environment が重視されるようになったと思います。この G と E に対し、S はジェンダー、平等、働きがいなど少しふわっとした概念ですよね。これがなぜ今注目されているかというと、企業というのは結局は人の集合体ですので、社員全員が働きやすい環境をつくることが重要だ、という考えが広まってきたことに起因しているのではないかと思います。その結果、多様性・公平性・包括性を意味する DEI というキーワードが目立つようになったのではないでしょうか。


関(MPower):
片岡さんと近しい意見ですが、私は昨今の人材不足問題が影響していると考えています。優秀な人材を採用し、雇用を維持し続けることは企業の長期的な成長に欠かせません。また、顧客の多様性も増している中で、多様な顧客にうまく訴求し、事業機会を見逃さないようにするために社員の多様性も必須になっています。E や G の観点で取り組みを行うことも当然必要ですが、S は企業の長期的な経営戦略における大きな柱になりうるものだと思います。


ESG 投資に関する世界的な潮流

関(MPower):
ここで、ESG 投資に関する世界の潮流をご紹介します。たとえばカナダは、2020年の時点で全運用資産に占める ESG 投資の割合が60%を超えており、他の地域と比較して最も高い比率となっています。では日本はどうかというと、他の地域と比較するとまだまだ低い水準ではあるものの、2016年から2020年にかけて ESG 投資の割合が20%以上増加しています。日本の多くの機関投資家が ESG 投資に注目していることを裏付ける数値ですね。

 

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関(MPower):
そのような中、ESG 投資は「WHY から HOW へ」移行してきていると感じています。どういうことかというと、ESG 投資に関する様々なテーマがある中で、なぜそのテーマに取り組むのか、ではなく、そのテーマにどのように取り組むのか、に着目して投資判断が行われているということです。

DEI に関していえば「なぜ ESG の中で S に取り組むのか」についてはもはや議論の余地はありませんが、より具体的な「どのように S に取り組むのか」という議論の中で、従業員、顧客、サプライヤー、ベンダーなどといったステークホルダーを取り残さないために DEI の観点を考慮する必要がある、というようなイメージですね。

 

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DEI の取り組みの具体例

藤原(WOVN):
関さんの視点で、印象的な DEI の取り組みを行っている企業はありますか?


関(MPower):
先日インタビューを行ったのですが、メルカリの取り組みは興味深かったですね。同社では ESG を1つのフレームワークとして使っているそうです。こうすることで中長期の戦略を立てやすくなる上、社内外でヒト・モノ・カネを調達するための手段としても活用できているとのことです。

メルカリでは5つのマテリアリティを設定しているそうで、そのうちの1つが D&I(ダイバーシティ&インクルージョン)だそうです。ESG 委員会の中に D&I 分科会を設け、その取り組みを推進しているとのことでした。

印象に残っているのは、言語に関する取り組みです。多国籍の人材が集まるチームの中で、これまでは、非日本語話者が日本語を話せるようになるための努力、あるいは非英語話者が英語を話せるようになるための努力が主流だったそうですが、言語を習得するのは簡単なことではありません。そこで逆に、日本語話者・英語話者がそれぞれの“やさしい言語(=簡易な言葉を使って話すこと)”で話すようにすることで、言語をツールと捉えてコミュニケーションを円滑にする取り組みを行っているそうです。

言語の習得は登山のように大変ですが、非母国語話者が登っていくアプローチだけではなく、母国語話者が下りていくという方向のアプローチがユニークだと思います。

 

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藤原(WOVN):
WOVN も25を超える国や地域からメンバーが集まる多国籍なチームです。全社会議などで通訳が入る際には、話す側ができるだけ簡潔な言葉で話すようにする、という取り組みを行っているので、なんだか通ずる部分があるように感じました。

DEI における多言語化の必要性

藤原(WOVN):
WOVN は「世界中の人が、すべてのデータに、母国語でアクセスできるようにする」というミッションを掲げており、これ自体が DEI の推進につながるものと考えています。片岡さん、関さんの視点から、DEI や多言語化の観点で今後日本企業に求められるものについて教えていただけますでしょうか。


片岡(第一生命):
当社もグローバルに事業を展開していますが、言語というのは未だに乗り越えなければならない壁として立ちはだかっています。一昔前なら「とにかく英語を勉強しなさい!」と根性論で語られることもありましたが、昨今の技術の進化を考えると、ドラえもんの世界に出てくるようなソリューションも誕生してくるのかなと思います。そうしたソリューションを活用できるようになると仕事を進めやすくなるのは間違いないですし、インクルージョンも進むと思っています。その点で、言語問題の解決というのは企業の成長に関わる重要なファクターだと考えています。


関(MPower):
DEI というのは、言語や文化などの違いに関係なく全員が力を発揮できるようにすることが企業成長につながる、というコンセプトのものだと思っています。その意味で、特に多国籍なチームメンバーで構成される組織の場合、経営層の見解やポリシー、あるいは製品情報などを、あまねく人に、母国語で、即時性をもって伝えるということが理想的なインクルージョンだと考えています。

いわゆる“グローバル企業”でなかったとしても、多国籍なサプライヤー、多国籍な顧客と関わる企業においては、迅速に企業文化や製品を伝えていくことで真のインクルージョンを実現できるのではないでしょうか。


藤原(WOVN):
当社のお客様からも、社内のコミュニケーション活性化のためにイントラネットや社内報、社内ポータルなどを多言語発信したいというご相談をいただく機会が増えています。今後もそのような潮流は続いていきそうですね。

 

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広報と ESG との理想的な関係性

藤原(WOVN):
最後におふたりから、視聴者のみなさまへメッセージをいただけますでしょうか。


片岡(第一生命):
ご視聴いただいている広報のみなさまには、ESG の取り組みをぜひ積極的に宣伝してほしい、ということをお伝えしたいです。ESG や SDGs といった言葉は、複雑な論理過程を経て理解が進む少しわかりづらいものでもありますが、私自身が最も腹落ちした理解しやすい言葉に置き換えると「三方良し」だと思っています。これは売り手、買い手、世間が幸せになることを指しますが、ESG に通ずるものだと感じています。

日本の会社にはもともと三方良しの DNA が伝承されているはずなので、これを広報することで ESG 投資の観点で着目される機会が増えるのではないかと思います。そうすると資金が集まり、企業価値が向上し、事業拡大の機会も増えていく、という好循環になるはずなので、ぜひ、様々な形でのアピールを行ってみてほしいと思います。


関(MPower):
ESG は単なる広報戦略ではなく、企業のパーパス・ミッション・存在意義に直接結びつくものだと思っています。ですから、それぞれの企業にマテリアリティがあるはずですし、それを実現することが ESG の本質だと思います。

私が海外の機関投資家と会話する中でよくいわれるのが、「日本には英語で即時性をもって情報を開示している企業が少ない」ということです。片岡さんがおっしゃるように、三方良しの精神で、成長戦略に紐づく ESG の取り組みを行っている企業はたくさんあるはずです。その取り組みを海外の機関投資家に向けても、即時性をもって、広く、たくさんの情報を発信していくことがとても重要だと思いますし、そうすることが企業価値の向上につながっていくと信じています。


藤原(WOVN):
ミッションやバリューに紐づくマテリアリティを設定して取り組みを推進していくことはもちろん、それをしっかりと発信し、投資家や従業員、顧客などのステークホルダーに理解していただきながら成長を実現していくことが重要だと理解しました。本日はありがとうございました。

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