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教育機関に求められる多言語発信のあり方とは|城西国際大学 小松氏、上杉氏|GLOBALIZED 大学国際化

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佐藤菜摘

 本記事のポイント 

  • 国際大学として「多言語化」によるインクルーシブな環境整備が必須

  • 日英だけでは留学生の家族に情報が十分には届かない。可能な限り各々の母語で情報を届けるためにWOVN.ioを活用し多言語対応

  • 「外国人 = 海外在住者」だけではない。在留外国人にも目を向けた情報発信を

Wovn Technologies株式会社は、2023年11月2日に「GLOBALIZED 大学国際化」を開催し、「大学国際化の最前線、どう向き合うか“留学生40万人計画” ~これからの大学広報が届けるべきこととは~」をテーマにセッションをお届けしました。

当セッションでは、城西国際大学 小松氏、上杉氏 を迎え「教育機関に求められる多言語発信のあり方とは」と題して、城西国際大学における「国際」の考え方についてや、実際に多言語対応を行った手順などについてお話を伺いました。本レポートではその内容をご紹介します。

 

【登壇者】

城西国際大学 大学院
国際アドミニストレーション研究科/准教授
小松 悟朗 氏

上智大学外国語学部英語学科卒業。在学中に University of California, Santa Cruz ( UCSC )に留学し経済学を学ぶ。九州大学大学院経済学府経済工学専攻博士後期課程修了。博士 (経済学)。2021年より現職。All English Course を担当し、毎年数多くの留学生を指導しながら、留学生に向けた大学広報活動なども担当している。


城西国際大学 
広報室(導入当時)/特命教授
上杉 恵子 氏

上智大学大学院文学研究科新聞学専攻博士前期課程修了。毎日新聞記者・編集委員を経て、2020年4月城西国際大学に入職。同年8月、広報室。2023年10月から入試課戦略広報担当。

 

 

世界とつながり、地域とつながる 城西国際大学

小松(城西国際大学):
城西国際大学は千葉の東金と東京の紀尾井町にキャンパスがあります。学生数は学部生が5,777人、大学院生が412人で合計6,000人を超えています。姉妹校の城西大学には約7,000人が在籍していますので、本学と合わせると学校法人城西大学としては13,000人ほどの学生がいます。

コロナ禍により、海外協定校や留学を希望する学生との交流が困難になった際に、デジタル空間で多言語での情報発信が本学でもより重要視されるようになりました。

そこで今年の6月末、 Web サイトに英語やアジア圏言語への翻訳機能を搭載し、多言語化しました。限られた人的資源を活用しつつ、大学名の認知向上とインクルーシブな就学環境の整備を図っています。

私からは本学における「国際化」について、多言語発信に関わる視点からの説明及び今後の戦略を述べさせていただきます。そして、上杉からは WOVN.io 導入の経緯、現状と課題についてお話させていただきます。


「世界とつながる」
まず留学について、インバウンド・アウトバウンド、それぞれの観点からお話します。

Times Higher Education において、本学は国際性で国内29位の認定を受けています。外国人留学生としては昨年度21カ国・地域から集まった804名が在籍しており、海外協定校は216校に及びます。

また昨年度、海外へ留学した学生は189名、さらに JEAP(Josai Education Abroad Program)という学校法人城西大学独自の海外留学制度を使って留学した学生が78名です。学内での外国語教育にも提携校と協力して力を入れており、9ヶ国語が学べる環境です。このように、留学に関連した様々なプログラムを用意しております。

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留学生が多い千葉東金キャンパスでは日々何かしらの国際交流のイベントも行われており、以下が実際のパンフレットで紹介した一例です。

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「地域とつながる」
本学は千葉を中心に地域との連携にも注力しており、学生が中心となって地域の方々や教職員と協力し、様々な取り組みを行っています。

たとえば千葉東金キャンパスでは、広大な敷地を活かして先ほどご紹介した国際交流のイベントなどの地域活動が盛んです。また、東京紀尾井町キャンパスは「都心で学びたい」という高校生や社会人、留学生に注目していただいており、そういう方々を対象とした交流会なども実施しています。

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このほかにも、学生が主体となって地元の小学校で野菜の販売を行ったり、看護系の学部では避難訓練やワクチン接種の手伝いをしたりと、地域の課題解決に向けて様々な活動を行っております。

このような取り組みを進める上で、千葉県在住の外国人の方々との連携なども進めていますが、こうした活動にはまだまだ課題が多く、多言語による情報発信の重要性を強く認識するきっかけの一つともなっています。

 

留学生本人だけでなくそのご家族にも情報を

上杉(城西国際大学):
それでは WOVN.io の導入経緯について、お話させていただきます。
まずは本学の Web サイトをご覧になったことがない方も多いかと思いますので、実際の 画面をご覧いただければと思います。

現状は日本語を含む5言語に対応しており、日本語から各言語に切り替える際には「機械翻訳を使っています」という断り書きが出るようにしました。また、全てのページを翻訳対応しているわけではないため、対象外のページを開いた時には、英語で「翻訳対象外」と表示されるようにしています。

実は Web サイトのリニューアル以前にも、多言語対応しているページはあったのですが、言語ごとにコンテンツやデザインが異なり、いずれの言語においても、内容は大学の基本情報が中心で、いわゆる「ペラ一枚」のようなサイトとなっていました。本体サイトとの連動もなく、情報更新もほぼされない状態でした。

2021年度から着手したWebサイトリニューアルにおいても、国際大学として サイトの多言語化が喫緊の課題となっていました。そのため、サイトリニューアル完了を受け、新たに多言語対応(英語・中国繁体字・中国簡体字・韓国語)をしっかり行うことになりました。

大学でも企業でも、英語のみに対応しているサイトも多いなか、アジアの3言語を加えた背景として、留学生本人は日本語・英語のどちらかは修得している割合が高い一方で、その親御さんなどご家族の方の中には日本語はもちろん、英語が十分理解できない方もいらっしゃるであろうことを考慮しました。

大切な家族がどのような大学に留学しているのかを調べようと、ネット検索する方々にも本学の情報を届けるには日英併記だけでは不十分で、留学生数の多いアジアの言語でも発信する必要があるという判断になりました。

 

数ある翻訳サービスの中で、WOVN.ioを 導入させてただくことにした一番の決め手は、Web サイトを「検索にヒットさせる」ことができるからです。WOVN.io では海外 SEO 対策が可能なので、例えば閲覧する方が母語で「日本 大学 看護学部」と検索した際に、本学の情報がヒットするということが非常に大きな魅力でした。前々から海外広報に力を入れたいと思ってはいたものの、リソースの問題もあり、なかなか実行できずにいましたが、「各言語のポータルサイトでの検索にヒットする」ことで、それを補えると考えました。

それに加え、機械翻訳の内容を手動で修正するたびに学習し、同じ文章に関しては修正後の正しい訳をあててくれる、といった機能も魅力的でした。

実装までの流れですが、Web サイトの制作会社に協力いただきながら、プロキシ方式での導入を行いました。翻訳したことによるレイアウト崩れへの対応や、既存の日英併記のページについての表記の仕方、また言語切替バーのデザインや配置箇所など、いくつもの課題があり、それぞれへの対処法を一つひとつご提案させていただきながら、慎重に準備を進めました。

システムに関すること以外で一番大変だったのは、アカデミーとしての翻訳品質をどのように担保するか、ということでした。最終的には広報室長を務める教員の提案で、各言語を専門とする先生方を集めて「翻訳チーム」を結成することにしました。翻訳機能を実装する前に、学内限定で見られる機械翻訳後のテキストをチェックしてもらい、誤訳を指摘してもらったり、より適切な訳を提示してもらったりしました。チームの教員がヘトヘトになりながらも「よりよい翻訳運用のために」と力を貸してくれたおかげで、無事に多言語機能を公開することができました。

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中国からのアクセス20%アップ。更なる品質向上や学内浸透に取り組む

上杉(城西国際大学):
今後は、WOVN.io をさらに活用して次のようなことに取り組む必要性を感じています。

1.翻訳品質の向上
ベースが機械翻訳なので、前述のような事前対応を行っても100%の精度とはいきません。言語によっては、「学長」が「大統領」と翻訳されてしまったり、本学創立者の名字である「水田(みずた)」が「田んぼ」になってしまったりしたこともあります。これらについては、WOVN.ioが提供している用語集というサービスを活用することに加え、翻訳の修正を積み重ねることで学習させ、精度を担保できるようにする必要があります。

2.学内への浸透の「壁」
多言語化によって届けたい情報のひとつとして、留学生に関連した情報が挙げられます。これらの情報発信は主に国際系の部署が担当しており、ページの編集権も各部署が持っているのですが、機械翻訳による多言語化ソリューションにまだ馴染みが薄いこともあり、WOVN.io を導入しきれていないページもある状況です。
こちらについては、まず私たちが WOVN.io を使いこなし、翻訳精度を向上させた上で、より学内理解を得られるように努めるしかないと考えています。

3.効果測定
WOVN.io を導入したことでの具体的な効果として、今年の上半期における中国国内からのアクセス数が前年同期比で20%以上アップしたことが挙げられます。
「検索でヒットする」ことの効果は徐々に出ていると感じているので、この傾向とデータをやがては留学生の増加につなげていければと思っています。

4.専門家が手薄な言語への対応
本学には中国繁体字を専門とする教員が少なく、学内の翻訳チームにも加わっていませんでした。
そこで、繁体字の翻訳品質を上げるために利用させていただいたのが WOVN の人力翻訳です。WOVN には、機械翻訳とは別に、言語ネイティブの方に翻訳してもらえるサービスがあり「意図も含めて、特に正確に伝えたい」というページで活用する予定でしたが、これを繁体字の機械翻訳テキストのチェックで利用することにしたのです。学内で対応し切れない言語についても、質を担保できるように努めています。


在留外国人にも目を向ける 今後の展望

小松(城西国際大学):
最後に、多言語発信を踏まえた今後の展望についてお話します。

一つ目は、「外国人 = 海外在住者」という発想にとらわれないということです。昔は、外国人学生というと海外から留学してくるのが一般的でしたが、現在では日本国内にいる外国人の入学も急増しています。
千葉東金キャンパス周辺に住む外国人数も増えているので、「日本に住む外国人」という視点も忘れないというのも大事なことだと考えています。

二つ目は、目的やターゲットに応じた翻訳の提示・活用方法を模索していきたいということです。次の画像は、昨年秋の卒業式を紹介した本学Webサイトの記事ですが、一つのページ内で日本語と英語を併記させています。

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実はこの日英併記には利点があって、日本語だけではわからない時に英語を読み、英語がわからない時に日本語を読むといったように、日英で補完しながら最後まで読んでくれる可能性が高まるのです。本学では 「All Englishコース」も設置しているので、日英を併記することで英語でも学位を取れることのアピールにもつながると考えています。

三つ目は、「やさしい日本語」による発信の強化です。
留学生が日本語を学ぶ教科書にはフリガナがふられ、平易な日本語が書いてあります。しかし、Web サイトや日本語学習以外の教科書ではそのような対応がないため、留学生にはそこに書かれている日本語が全く異なる言語に見えてしまうことがあります。

難しい日本語や読みにくい日本語は、そもそも翻訳以前の問題だと考えています。「やさしい日本語」は、外国人だけでなく、子供やお年寄りの方にも読んでいただきやすいはずです。留学生やそのご家族だけでなく、私たちの Web サイトを見にきてくださったすべての方々に配慮するために、多言語対応に加え、「やさしい日本語」の対応もいずれ進めていきたいと考えています。

 

Q&A

WOVN:
ここからは視聴者の方からの質問にお答えいただきます。

1問目です。「Web サイトを多言語化する際に、多言語にすべき情報の優先順位はどのように選定されたのでしょうか。また、広報チーム・翻訳チームは、それぞれどれくらいの人数でプロジェクトを推進されたのでしょうか」


上杉(城西国際大学):
まず、本学の基本情報が伝わるようなトピックスについて多言語で発信しようと考えました。また、Web サイトのトップページに「ニュース」というカテゴリーがあり、そこに本学の最新情報を掲載していますので、それを優先的に翻訳することにしました。

また、まだ対応できていませんが、国際的な情報を掲載しているページや受験生サイトなども、今後担当部署と連携しながら、優先的に対応していきたいと考えています。

翻訳チームに関しては、9名の教員にメンバーになってもらいました。広報チームは韓国語を専門とする室長も含めて、4名体制で対応しました。翻訳チームの立ち上げを提案した室長が両チームの間に入り、調整する流れで作業を進めました。


WOVN:
最後の質問です。

「翻訳サービスを導入するにあたっての条件として『検索にヒットすること』を挙げられていました。逆に言うと、検索にヒットしないサービスもあるということでしょうか」


上杉(城西国際大学):
WOVN.io 以外にも、翻訳サービスを手がけられている何社かお話を伺ったのですが、少なくとも私が接点を持たせていただいたサービスの中で、「検索にヒットする」機能を持っていたのは WOVN.io だけでした

正直、そういうことができるとは全く思ってなかったので、搭載した各言語のポータルサイトで本学の情報がヒットするのはメリットが大きいと感じました。学内説明をする中でも、英語を母語とする教員から「そんなことができるのか」という驚きの声が上がる場面もありました。ただ単に翻訳をするだけのサービスではないということが、導入に向け学内理解を得る上でも非常に大きなポイントになりました。


WOVN:
本日はありがとうございました!

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