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世界に通用する大学になるためのインフラ変革|関西国際大学 芦沢氏|GLOBALIZED 大学国際化

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佐藤菜摘

本記事のポイント

  • 大学におけるデジタル化が急務。OECD 先進国で日本は大きく遅れている

  • 留学生目線で受け入れ環境の整備を。コミュニケーションの多言語化も重要

  • 留学生40万人を達成し国際性を高めるためには、制度レベル、および、個々の大学レベルでの変革が必要

Wovn Technologies株式会社は、2023年11月2日にカンファレンス「GLOBALIZED」を開催し、「大学国際化の最前線、どう向き合うか “留学生40万人計画” ~これからの大学広報が届けるべきこととは~」をテーマにセッションをお届けしました。

基調講演では、関西国際大学 副学長 国際コミュニケーション学部教授である芦沢 真五氏を迎え、「ポストコロナに求められる大学の国際教育とそのインフラとは ~いま、大学に求められるパラダイムシフト」と題して、留学生40万人達成に向けて大学が取り組むべき課題や、世界の大学における先進事例についてお話いただきました。本レポートではその内容をご紹介します。

【登壇者】
芦沢 真五 氏
関西国際大学
副学長 国際コミュニケーション学部教授

1995年フルブライト奨学生として留学。ハーバード大学教育大学院卒(国際教育専攻 Ed.M)。
慶應義塾、大阪大学、明治大学、東洋大学を経て2022年4月より現職。
高等教育機関の国際化、留学生と高度人材の流動化にかかわる研究を専門としている。

◼️著書
「学修歴証明のデジタル化とマイクロクレデンシャル運用に関わる日本の課題 —オールジャパンの協働プロジェクトで遅れを取り戻せるか?—」2023年
「転換期の教育交流と国際教育の将来像:コロナ禍における教育交流のパラダイムシフト」2020年
"Student and Skilled Labour Mobility in the Asia Pacific Region, Reflecting the Emerging Fourth Industrial Revolution" (Palgrave Macmillan, 2023)
など、多数

 

簡単に自己紹介します。関西国際大学において、外国籍の高校生を受入れるためのさまざまな施策、例えば奨学金つきの特別入試などに取り組んでいます。私の主な研究テーマは「国境を越える人材とキャリア」です。留学する人、あるいは資格や学歴を持った人が、別の国で活躍できるようにするシステムづくりに関して研究しています。また、一般社団法人 国際教育研究コンソーシアム(RECSIE)の代表理事として、国際教育交流に関する研究や職能開発に取り組んでいます。

留学生40万人計画における、大学の課題

大学を取り巻くコロナ以降の環境変化を、私はよく「開きかけたパンドラの箱」と表現します。コロナ禍は留学生が来日できなくなるなど危機となった一方で、今まで出来なかったことが出来るようになった面もありました。クライシスがチャンスにもなった、と言えます。

例えば、日本の通信制大学では、日本に入国しないまま、国外から単位取得や卒業することが可能になりました。また、遠隔授業の運用ルールが明確化されたことが、これから多様な留学生の受入れを進める、また留学の形態を模索していくチャンスをもたらしたのは間違いありません。海外の大学とオンラインで共同学習できる様々なツールが生まれ、教育交流が新たな段階に到達したことも、やはりチャンスとして捉えるべきでしょう。

それでは本日のカンファレンスのテーマ「留学生40万人計画」についてです。本年の教育未来創造会議では、10年後までに外国人留学生を年間40万人受け入れる計画が発表されました。

これまでの留学生受入れの経緯を振り返ってみましょう。政府は2008年に、2020年を目途に留学生を30万人受け入れる目標を発表し、2019年に達成されました。この時は大学というよりも、日本語学校や専門学校に在籍する外国籍の方が増えたことが大きく影響しました。

今回の40万人計画は、大学・専門学校・日本語学校などの合計で38万人、高校で2万人を受け入れることで留学生40万人を達成するとしています。この内、大学はどれだけ貢献できるでしょうか?

本来なら、大学こそがドライビング・フォースになっていかなければなりませんが、国立大学と私立大学それぞれに課題があります。国立大学では、留学生が大学院に集中していて、学部に在籍する留学生が限られているのが現状です。また、私立大学においては、留学生の受入れに対して消極的な大学も少なくありません。あるいは、留学生の受入れを全学的に行わず、特定の学部に留める傾向が見られます。

こうした構造を変えるにはどうしたら良いか、そもそも変わる余地はあるのか、考える必要があります。大学関係者においては、より多くの留学生が大学に来てくれるようにどうすれば良いか、見直す必要があると感じています。

海外グローバル企業のインターナルコミュニケーション基本原則

留学生のリクルーティングにおいては、今デジタルマーケティングが重要視されています。これに関連して、本日のカンファレンスを主催している WOVN さんの大学国際化セミナー(2022年開催)の内容を紹介させてください。登壇されていた、立命館アジア太平洋大学(以降、「APU」)の大嶋氏が、こう発言されています。

「私の業務パソコンのボタンを押すと、◯月◯日◯時現在、まさにリアルタイムで、どの国から、何名が、出願のどのフェーズまできているかが瞬時にわかります。出願に必要な、教員などからの推薦状を提出している人が何人いるだとか、出願完了になった人が3分前に3人出ました、ということがリアルでわかるのです。」

これは、日本の他大学からすると、驚くほど高度な DX 対応だと思います。しかし実は、これは欧米では当たり前のことです。OECD 諸国の中で日本だけが、デジタル化の面で遅れています。

英語圏の先進国(アメリカ、カナダ、イギリス、オーストラリア)の大学は、データに基づいて科学的に留学生獲得戦略を立てています。例えば、オーストラリアのカーティン大学ホームページでは、「出願後に結果が出るまで、通常は48時間から72時間です」と掲出されています。日本の水準と比べると、驚くほど短時間です。8年前にオーストラリアの RMIT 大学を訪問した時も、国外からの出願に対しては72時間以内、国内からであれば48時間以内とのことでした。

なぜそんなに早く結果を出すかというと、“出願者の約65%は一番最初に合格通知を受け取った大学に入学している”というデータがあるからです。このデータに基づき、少しでも早く合格通知を出すことで、その学生が入学してくれる確率を高めようとしています。この動きは8年の間に広まり、今ではオーストラリアの大学がこぞって、48時間/72時間の水準を死守しているのです。

日本の大学はこのように、他大学の良い取組みにうまく反応できているでしょうか?残念ながら、現状は違います。あの大学で出来るなら自分の大学でもできるはず、という考え方にしていく必要があります。

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留学生受入れの先進国に学ぶ

留学生受入れを増やしていくにあたり、制度面でも様々な課題があります。

1.定員制
諸外国では留学生が定員外とされている、あるいは定員制そのものが無い場合が多いです。対して日本では厳格な定員管理が求められており、これが留学生受入れ強化のハードルになっています。2023年度に入学定員ではなく収容定員を基準とする制度に変わったことで少し柔軟性が増したものの、これが留学生受入れに大きく影響し得るかどうかは、これから見極める必要があります。

2.在留資格の制度
留学と雇用における在留資格について、一体化する、または連携を図れる制度に変えることで、高度人材の受入れがより推進されると考えています。

3.留学生の授業料
留学生の授業料を国内学生よりも高く設定すべきではないかという議論があります。例えばオーストラリアではすでにそうなっていますが、それに加えて、留学生を多く受け入れる大学に対する課税が始まろうとしています。留学生の費用負担が増えることになるため、大きな議論になると思います。

ただしこれは、新しい流れではありません。イギリスはサッチャー政権時にすでに、留学生は納税者ではないためフルコストを負担すべきという方針、「フルコスト政策」をうち出しました。他の英語圏諸国でも留学生の授業料を国内学生より高く設定すべき、という考え方は定着していますし、韓国の大学もその方向へ進んでいます。

日本では今まで、留学してもらうためのインセンティブとして奨学金やディスカウントを提供する傾向がありました。しかしこれは私立大学にとって大きな負担になります。むしろ、留学生を迎えることで財政的に潤うような環境を整える必要があると思います。しかし、日本でも高い授業料をとる場合には、世界的な競争環境をふまえて、より質の高い教育サービスを提供する必要があります。今後、議論していくべき課題です。


日本の大学における留学生受入れに関しては、一橋大学の太田 浩教授も、RECSIE の夏季研究会で様々な課題を発表されました。一部紹介しますと、先ほど申し上げた定員制の課題に加えて、日本語学校と大学との連携を強化すべきではないか、ということ。また、留学生の出願から合否判定までの時間短縮を図るべきではないか、という課題などが挙げられます。

多言語化や、留学生目線でのサービスを

それでは、個々の大学が取り組むべき課題は、何でしょうか。まず、入試スケジュールの柔軟性向上です。日本では、特定の期間に申し込み、特定の日に試験を受けなければならないシステムに終始していますが、これは大学の都合によるものです。留学生の目線で考え、より柔軟なシステムに改善すべきではないでしょうか。

留学生とのコミュニケーションについては、日本語のみ、または英語のみという場合が多いです。これも留学生の目線で考えれば、多言語化を行い、もっと密にコミュニケーションできるようにすることは必須です。

教職員が職務開発することも重要です。忙しいから研修しない、勉強しない、という姿勢は問題です。世界の大学が行っている良い取組みについて積極的に学ぶ姿勢が必要だと思っています。

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また、根本的な組織課題も多くあります。特にデジタル化の遅れは大きな課題です。卒業証明書を紙で出しているのは、OECD 諸国の中では日本の大学だけですから、改善が急務だと思っています。

そして何よりも、留学生の目線で考えることが重要です。大学のカリキュラムや運営方針については、主に大学側の都合で決められているのが現状です。留学生が何を求めているかを重要視してサービスをつくる、「マーケットイン(Market In)」の考え方に変えていく必要があります。

世界に通用する大学になる、インフラ変革

最後に、大学の国際通用性を高めるためのインフラ変革、大学での学びをより国際性の高いものにしていくために何が必要か、についてお話します。

UNESCO は、人が国境を越えて移動しても学修経験や資格、職能技術を公平に評価することを目的として、地域規約および世界規約を採択しています。日本は東京規約に加盟しているほか、2022年には世界規約にも加盟しました。

ここで特に重要なのは、部分的な就学も正当に評価することです。例えば、大学を中退した人や一部の学年だけ学んだ人の学歴を認証する方法が整備されていません。難民として入国する学生もこれに当てはまります。最近、日本で受け入れているウクライナの学生の多くが非正規生であり、正規生になる道のりが整備されていません。日本の大学で東京規約や世界規約のルールを運用させ、留学生の学修歴を正当に評価できるようにすることが求められています。

また、今は世界中の大学で、マイクロクレデンシャルが導入されています。社会人が積極的にリスキル、アップスキルをするための道具として注目されています。関西国際大学では昨年、マイクロクレデンシャル運用に関するワークショップを開催し、OECD、UNESCO、オーストラリア政府の代表者などと共に、今後の展望について意見交換をしました。

今は慶応義塾大学の井上 雅裕教授と共に、日本におけるマイクロクレデンシャル導入に向けてガイドラインを策定しています。この取組みについても、情報共有する機会をつくっていきたいと思います。

本日お話した様々な課題は、一度の講演で話しきれる内容ではありません。ご興味のある方は是非、RECSIE 主催の国際教育夏季研究大会(SIIEJ)やワークショップセミナーに参加してください。お互いに学び合う機会にできれば幸いです。

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