更新日:

機械翻訳と人力翻訳は相棒であるべきーー 翻訳業界20年のエキスパートに聞く「理想のすみ分け」とは

Image of 佐藤菜摘
佐藤菜摘

生成 AI ソリューションが次々とリリースされ、2023年は生成 AI 元年ともいわれました。翌2024年には専門領域に特化した生成 AI の開発が進み、活用の幅が広がっています。AI による機械翻訳においても、飛躍的に精度が高まりました。「人力翻訳よりも、機械翻訳のほうがコストパフォーマンスに優れている」「近い将来、人力翻訳がなくなるのではないか」といった、機械翻訳が人力翻訳をしのぐことを期待あるいは懸念する声を見聞きした人も多いでしょう。

しかし、翻訳業界一筋20年のキャリアを持つ Wovn Technologies株式会社の佐藤弦さんは、「人力翻訳と機械翻訳のどちらかに偏るのではなく、共存共栄の道を探ることが望ましい未来ではないか」と指摘します。

そこで今回は、佐藤さんに機械翻訳の歴史を紐解いてもらうとともに、対立構造で語られることが多い人力翻訳と機械翻訳の理想的な在り方について見解を聞きました。

 

<佐藤弦さんプロフィール>

アメリカの大学で映画音楽を学び、音楽家になるために帰国。アルバイトをしながら音楽家としての道を探っていた2000年、友人の勧めで翻訳業界へ。以来、20年以上にわたって外資系翻訳会社などで翻訳、翻訳ツールの販売、翻訳リソースの管理といった幅広い業務に携わり、2024年から Wovn Technologies株式会社にジョインした。社内では、顧客と直接接するポジションのスタッフに向け、翻訳テクノロジーの変遷や機械翻訳の適切な使い方についての勉強会を開催している。

specialist_interview_2025_02_gen_01

現在のビジネスにおける翻訳には、ほぼすべて機械翻訳が使われている

――佐藤さんは2000年に翻訳業界に入られたそうですね。当時の業界の様子を教えてください。

インターネットや Windows の普及によって翻訳業界は確実に変わりつつありましたが、翻訳者との原稿のやりとりにまだ FAX を使うこともありましたし、オフィス内には紙の資料と原稿が山と積まれていました。クライアントから問い合わせがあると、紙の資料を1枚ずつめくって確認するような時代でしたね。

 

――その時代に機械翻訳は使われていたのでしょうか。そもそもの始まりはいつごろだったのでしょうか。

翻訳会社の業務では使われていなかったです。ただし、機械翻訳は1970年代からすでに研究が進められていて、90年代にはパッケージソフトとして販売されていました。1970年代に登場したルールベース機械翻訳では、単語の置き換えや語順の変更、文法的な修正といったプロセスを人間がルール化していました。

続いて登場したのが、統計的機械翻訳(SMT)です。これは、ルールベース機械翻訳で人間がルール化していた部分を、統計解析によって決定する手法のことで、大量の対訳文を事前に学習させておき、統計的に最適な翻訳を提示する仕組みになっていました。

その後、単語単位の置き換えからフレーズ単位での置き換えがされるようになり、ルールベース機械翻訳に比べて正確性も上がりましたが、語順の並び替えが大きい言語間では品質が悪く、実用には遠いといわれていました。

これが、2010〜2015年くらいの話です。

 

――その後、何らかのパラダイムシフトが起こったのでしょうか。

2016年に Google がニューラル機械翻訳サービスを公開して⼤きな反響を呼んだことは、記憶に新しいのではないでしょうか。ニューラル機械翻訳(NMT)は、対訳コーパス(多言語間の翻訳データ)を利用し、ニューラルネットワークにそれを学習させて機械翻訳を行います。
DeepL の台頭もあり、機械翻訳を一気に実用レベルに押し上げた感がありますね。

文学や公的文書、新聞記事といった、原文の意図や背景、文体、トーン、読者層などを加味した特殊な翻訳が求められる分野を除いて、現在のビジネスにおける文書のほとんどは何らかの形で機械翻訳が使われているといっても過言ではありません。

近年では、ChatGPT や Gemini など、膨大なデータセットを用いて機械学習を行う LLM (Large Language Model:大規模言語モデル)を搭載したサービスも使われるようになりましたね。

 

人力翻訳か機械翻訳かを適切に仕分けることが重要

――機械翻訳は目覚ましい進化を遂げていることがよくわかりました。一方で、人力翻訳の課題についても教えていただけますか。

翻訳者が行う人力翻訳は、特殊な文書や、対象言語が使われている地域の文化や歴史的背景などを踏まえて翻訳したい場合に有用です。ニューラル機械翻訳は、翻訳過程がブラックボックス化していることから、翻訳結果の真偽性に不安が残ることもあるかもしれません。しかし、人力翻訳ならその心配もありません。

問題は、グローバル化が進むビジネスシーンにおいて、すべてを人力で多言語対応しようとすると、費用と時間がかかりすぎることです。

人力翻訳といっても企業によって、翻訳者が1人で翻訳したり、翻訳者の後でチェッカーが校正したりなど翻訳手順は異なりますが、日本語から英語に翻訳する場合、一般的に1人の翻訳者が1日に翻訳できる量はだいたい5,000文字ほどです。単価は総じて1文字10~20円が目安ですね。人力翻訳にかかる労力や品質を考えれば、正当な価格帯だと思います。

ただ、Web サイトのような膨大な日本語コンテンツをすべて人力翻訳に任せるとなると高額な翻訳コストと時間がかかります。そのため、多言語対応が足踏み状態になっている企業は少なくありません。また、社内向けの情報の翻訳となると、費用対効果の観点から人力での翻訳に難色を示すケースもあるのではないでしょうか。

 

――確かに、企業側としてはコストを抑えてスピーディーに翻訳したいというのが本音かもしれません。翻訳を効率化するツールなどはないのでしょうか。

翻訳業務の質と量を高めつつ効率化を図るため、翻訳テクノロジーも進化していますよ。
例えば、翻訳支援ツール( CAT: Computer Aided Translation)は広く世界で利用されています。原⽂と訳⽂を対にして保存したデータベース「翻訳メモリ」と、用語集である「用語ベース」を使用することで、用語の一貫性を確保しつつ翻訳工数を削減できます。

また、CAT の機能に加えて、作業の進捗管理や翻訳者をアサインする機能を搭載した翻訳管理システム(TMS: Translation Management System)もあります。CAT が翻訳作業の効率化を目指すのに対して、TMS はプロジェクトマネージャーの作業効率化まで見据えているので、複雑な翻訳プロジェクトの効率化を図ることができます。

さらに、ソフトウェア・ローカリゼーション・ツールと呼ばれる翻訳テクノロジーもあります。
ソフトウェアを各国向けの仕様にするローカリゼーションに特化したツールです。

specialist_interview_2025_02_gen_02

――ということは、機械翻訳と人力翻訳の得意分野を見極め、適切に使い分けられるようになるといいですね。

そうなんですよ。
機械翻訳と人力翻訳を対立的に語る人も多いのですが、そもそも特性が異なり、それぞれに強みと弱みを理解して適切に使い分けることが大切ですね。
しかし、その仕分けを社内で行うのが難しいという問題があります。

翻訳方法には、人力翻訳と機械翻訳の他、機械翻訳したものを人間がレビューして修正する「ポストエディット」があります。

例えば、公的文書や、法律に触れる可能性があるような文章、誤訳が命取りになる医療機器や薬の説明書といった内容であれば、人力翻訳もしくはポストエディットが良いと誰でも判断できますね。創業者の思いや、製品の独自技術の説明なども、機械翻訳による直訳ではないほうが良いのは明らかです。

しかし、それ以外の文章に関しては、翻訳を機械翻訳に一任して良いのか、任せるならどこまで任せて良いのか、仕分けの判断がつかずにいる企業も少なくありません。

 

――人力翻訳か機械翻訳かの仕分けが大事であるにもかかわらず、企業の中に、正しく仕分けできる人がいない、もしくは少ないんですね。それはなぜなのでしょう。

よくあるケースとしては、担当者が数年で変わってしまう、ということが挙げられると思います。

日本企業は人材に業務を割り当てるメンバーシップ型雇用が多いため、特定の領域を掘り下げにくいんですよね。翻訳の仕分けができるようになったのに人事異動になったというケースもよくあります。
AI が事実と異なる情報を生成する現象のことをハルシネーションというのですが、着任したばかりの担当者の場合、致命的なハルシネーションや誤訳があっても気づかないかもしれません。

また違うケースでは、製品に関する翻訳などに、定年後の技術者を登用している場合、客観的には「機械翻訳とレビューで大丈夫」という内容であったとしても、社内ではなかなか言い出しにくいですよね。

さまざまな事情があるかと思いますが、仕分けの判断がつかないことから、多言語対応が先延ばしになっているケースもあるでしょう。ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョンを実践して、多様な外国人材を登用しているにもかかわらず、多言語対応が進まないという話も耳にします。

 

 

各企業の状況に応じたベストな仕分けを助け、個別最適な多言語化に伴走する

――佐藤さんが考える、現時点での最適な仕分けについて教えてください。

コンテンツによって仕分けする方法が有用だと考えています。

人力翻訳は、トランスクリエーション(Transcreation)が必要になるケースで有効です。
トランスクリエーションとは、翻訳(translation)と創造(creation)から成る造語で、原文にとらわれず、文章に込められた意図やトーン、コンテキストを意識した訳文をつくることを指します。
グローバルに発信するキャッチコピーやセールスコピー、グローバルで販売する製品のネーミング、企業のビジョン、ミッションなどは、正確さよりもトランスクリエーションが求められることが多い例です。

次に機械翻訳は、オンラインヘルプや EC サイトのレビューコメントのように即時性が求められ、人間に翻訳を任せると ROI(投資利益率)が合わないケースで使うといいでしょう。

最後にポストエディットは、契約書、特許項⽬、治験・臨床研究情報のような誤訳が致命的になるケース、訳文によってブランド価値を毀損しかねないマーケティング資料、製品一部として提供されることが多いマニュアルなどに適しています。

 

――3つの翻訳パターンの仕分けを助け、これまで翻訳されていなかった文章を翻訳するのが「WOVN.io」の役割ですね。

まさに、そこを担っていくのが「WOVN.io」です。

私たちは「WOVN.io」という Web サイト多言語化ソリューションを販売していますが、その裏には設立から10年にわたって真摯に翻訳と向き合いながら蓄積してきた知見と、大手企業をはじめ18,000サイト以上への導入、そのフィードバックを通じて培ったノウハウがあります。
だからこそ、お客さまが何を、どのように多言語化したいのか、多言語化によって何を実現したいのかをヒアリングして、適切な仕分けをすることから伴走できるのです。

これからグローバル市場に打って出る日本企業の Web サイトには、まだまだ翻訳すべきコンテンツがたくさん眠っています。
これまで予算やリソースの問題で翻訳できていなかった領域を「WOVN.io」で適切に仕分けして、多言語化を進めていく、そのお手伝いができればと思っています。 

specialist_interview_2025_02_gen_03

Web サイト多言語化のご相談は WOVN へ

Wovn Technologies株式会社は Web サイト多言語化ソリューション「WOVN.io」を提供しています。多言語化についてご興味のある方は、ぜひ資料をダウンロードください。

新規CTA

 

17_website_9point_rfpe_cta_1080x810 19_cat_tool_media_cta_1080x1080 glo_generic_archive_only_media_cta_1080x1080