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共創から始まる、新しい富裕層観光 ー三菱地所 × エクスペリサスが拓く高付加価値体験ー|三菱地所 小菅氏・エクスペリサス 丸山氏|GLOBALIZED インバウンド

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佐藤菜摘

 本記事のポイント 

  • 富裕層旅行市場は、加速度的に成長を続ける、隠れた魅力と安定性を兼ね備えたマーケット

  • 一見「十人十色」に見える富裕層の旅も、国籍・家族形態・訪問回数・世代・訪問時期・予算という6つの要素からパターン化が可能

  • 富裕層に響く旅コンテンツの鍵は、「固有の観光資源」「希少性」「高い品質管理」の掛け合わせ

Wovn Technologies株式会社は、2025年10月7日に「GLOBALIZED インバウンド」を開催し、「世界は、もっと日本を好きになる 〜AI・多言語で拓く、15兆円に向けた訪日インフラ整備〜」をテーマにセッションをお届けしました。

ゲスト講演では、エクスペリサス株式会社の丸山 智義 氏と三菱地所株式会社の小菅 光裕 氏を迎え、「共創から始まる、新しい富裕層観光 ― 三菱地所 × エクスペリサスが拓く高付加価値体験 ―」と題して、拡大する富裕層市場の最新トレンド分析や、丸の内エリアでの具体的な高付加価値体験の共創事例などをお話しいただきました。本レポートではその内容をご紹介します。

【登壇者】

丸山 智義 氏
エクスペリサス株式会社
代表取締役

上智大学外国語学部卒業、シンガポール国立大学へ留学。長期インターンで投資銀行、VC業務を経て2011年にレオモバイル社立ち上げに参画。その後、株式会社heathrow を設立して、2016年9月末に MBO&同社退任。2017年1月にエクスペリサスを設立。現在、外資系メディアやナショナルブランド(自動車会社/化粧品会社/通信会社など)と連携し、数多くの体験事業(コト事業)を企画推進している。

小菅 光裕 氏
三菱地所株式会社
エリアマネジメント事業部 専任部長

三菱地所株式会社入社。商業施設開発部副長、2017年高松空港株式会社常務取締役(休職)を経て、2020年4月 三菱地所株式会社住宅事業企画部 顧客リレーションユニットリーダー。2023年4月 コンテンツビジネス創造部、2025年4月よりエリアマネジメント事業部。

 

目次

  1. 世界の1.6%が547兆円を動かす。加速する富裕層旅行市場の今
  2. B2B2C モデルと6つの変数が作りだす、再現性の高い旅行体験
  3. 日本固有・希少性・高い品質管理 を軸にした、富裕層に響くコンテンツ開発
  4. 丸の内を「時速10km」で旅する。三菱地所とエクスペリサスが創るラグジュアリー体験
  5. 三菱地所が富裕層向け体験で追求する、中長期的な狙いと街づくりへの展開

 

世界の1.6%が547兆円を動かす。加速する富裕層旅行市場の今

丸山(エクスペリサス):
Global Luxury Travel Market は、年間平均成長率が11.2%で推移している市場です。2032年には市場規模が2.3倍まで拡大し、その額は547兆8,182億円に達すると予想されています。これは全世界の自動車産業(約500兆円)を追い抜く勢いを持つ、非常に魅力的な未開拓マーケットだと認識しています。

この市場の成長を牽引している主な要因は、富裕層の劇的な増加です。特に EMILLIs (Everyday Millionaires)、すなわち投資可能資産が100万ドルから500万ドルある富裕層の数は、2001年から2024年にかけて約4倍に増加しました。

彼らが保有する資産の総和も劇的に伸びています。2000年当時のミリオネア以上の方々が持っていた資産合計額は39兆6,000億 US ドルでした。しかし、2024年には5.7倍の226.5兆 USドルまで拡大しています。現在、全世界の富の約半分弱を、全人口のたった1.6%にあたるミリオネア以上の方々が保有しているという市場構造です。当社は、この1.6%の富裕層に焦点を絞ってビジネスを展開することで、通常の10倍以上の客単価を実現し、利益率も高めています

富裕層の年間支出額のうち、旅行(Luxury Hospitality と Luxury Cruises)への支出割合は16.7%を占めており、Private Jets & Yachtsを含めると20%弱に上ります。旅行は、自分ではなく家族や恋人のために毎年行くケースが多いため、毎年必ず支出される固定的な支出として見なされており、不況に強い安定的な市場だと考えています。

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B2B2C モデルと6つの変数が作りだす、再現性の高い旅行体験

丸山(エクスペリサス):
海外富裕層は「お金はあるが、時間がない」という条件で日々を過ごしている方が非常に多いです。そのため、自分でホテルを予約するようなことはほとんどなく、原則として旅行の専門家へ一任する傾向にあります。欧米では、旅行を専門領域とする「Private Travel Designer」という方がおり、このような専門家は世界で数十万人が存在すると試算しています。クライアントから依頼を受けた彼らが、私たちのような日本の富裕層旅行専門会社に発注をかけるという商流です。

つまり、私たちのビジネスモデルは B2B2C となります。海外の富裕層旅行会社を介して、当社がレストラン、ホテル、移動手段、体験、ガイドといった要素を組み合わせ、旅行工程としてご提供しています。これにより、私たちは、旅行全体を通じてお客様の行動や嗜好に関するデータを把握でき、滞在中の一部情報に限らず、旅全体を通したニーズを捉えることができます。

富裕層のニーズは十人十色と思われがちですが、私たちはパターン化して、適切かつ顧客満足度が高い高付加価値体験を提供するために、ペルソナを作成しています。お客様のニーズは、6つの変数の掛け算で表されると考えています。この6つの変数とは、国籍、家族形態、訪問回数、世代、訪問時期、予算です。

例えば、欧米とアジアでは嗜好性が異なり、求める観光資源も違います。また、日本への訪問回数が初めてのお客様と100回に及ぶお客様では、求める体験が根本的に異なります。変数の掛け算によって、求められる体験やニーズをペルソナ化することが可能です。このマッチングの精度が上がるほど、多くのお客様へ適切な提案ができ、結果として再現性が増し、事業をスケールさせることができます。

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(エクスペリサス 丸山氏)

 

日本固有・希少性・高い品質管理を軸にした、富裕層に響くコンテンツ開発

丸山(エクスペリサス):
富裕層のニーズは、ナショナリティによって嗜好性が変わります。そのため、コンテンツを作る際には、アメリカの東海岸と西海岸、イギリスとドイツ、そしてイスラエルと中国など、国や地域ごとの明確なニーズを見極める必要があります

なお当社では、顧客満足度の高いプランを作るために、コンテンツ開発の軸となる3つの要素を定めています。

①日本固有
日本にしかない観光資源をいかに活用できるかが大切。
②希少性
富裕層が好む性質の1つ。希少性には、嗜好性、時間性、限定性、教育性などが含まれる。
③高い品質管理
ガイドの品質やタイムマネジメントなどの、世界基準の体験品質が求められる。

この3つの要素をしっかりと組み合わせることで、論理的かつ再現性を伴う形で、特定の方々に刺さる体験を創出できると考えています。

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例えば、欧米の富裕層は、ナラティブマーケティングに感度が高く、歴史的な背景がある有形資産を好む傾向があります。彼らは「タイムイズマネー」の意識が強く、動線設計が効率的なルートを求めます。その上で、季節性や嗜好性が尖った希少性を持つと、響きやすい傾向にあります。

一方、アジアの富裕層は、日本の食やお酒に強い関心を持ち、高い言語能力を持つガイドの品質を重視します。さらに「時間性」や「限定性」、すなわち「あなただけ、今だけ」に強く惹かれる傾向があるという特徴があります

このように、ナショナリティに応じて観光資源や性質、品質の組み合わせを変えることで、幅広い富裕層の方々に響く体験を提供できると考えています。

 

丸の内を「時速10km」で旅する。三菱地所とエクスペリサスが創るラグジュアリー体験

丸山(エクスペリサス):
三菱地所様とは、丸の内エリアの価値を最大限に活かせるような体験を作るべく、人力車を活用した高付加価値体験を開発しました。コンセプトは「時速10kmのエクスペリエンス」です。

時速10kmというのは、非常に絶妙なスピードです。東京駅を中心とした半径1.5km圏内には、皇居、丸の内、有楽町、銀座、日本橋など、400年の歴史が色濃く残り、多様な特色を持つ町が全て収まっています。このエリアは、歩いて回ろうとすると汗だくになり、タクシーでは一瞬で終わってしまうため、その間の移動手段として人力車に着目しました。時速10kmの移動手段を活かすことで、東京の中心地を効率的に、1時間から1.5時間で巡る回遊型のモデルを構築しました。

デイタイムアクティビティとしては、東京の象徴的な場所を巡るモデルを企画開発しました。欧米の方々や日本に初めて訪れる富裕層にとって、シンボリックな体験となるように設計しています。

ナイトツアーとしては、世界屈指の夜の町である東京のネオン街、花街を人力車で回る体験を創出しました。特に暑い夏の時期はデイタイムのアクティビティが敬遠されるので、夜の時間帯ならではの魅力ある体験を提供したいと考えました。

このように、三菱地所様と議論を重ねて設計したプロジェクトを今年からスタートさせ、現在世界中に販売しています。

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三菱地所が富裕層向け体験で追求する、中長期的な狙いと街づくりへの展開

丸山(エクスペリサス):
それでは、ここからは三菱地所の小菅様とのクロストークに移ります。今回の富裕層向け体験プロジェクトを通じた、三菱地所様の中長期的な狙いや新領域の可能性について、どのように考えていらっしゃいますか?

小菅(三菱地所):
当社は、皇居の前の丸の内エリアを非常に貴重な財産と捉えています。これまでは、インバウンドの富裕層の方々をターゲットとした取り組みがやりきれていませんでしたが、エクスペリサス様からお声がけをいただき、ぜひ一緒にチャレンジしたいと、この取り組みをスタートさせました。

長期的には、富裕層の方々が丸の内を今以上に認知して、東京駅の目の前でもある丸の内を起点に日本各地に旅行していただくことを期待しています。また、当社はオフィスビルの賃貸やマンション分譲など、不動産全般に幅広く関わっていますので、既存の事業との接点やシナジーを生み出していければと考えています。

丸山(エクスペリサス):
今回の高付加価値体験は、エリアブランディングへの貢献も期待できます。この点については、いかがでしょうか?

小菅(三菱地所):
まさにその通りで、丸の内エリアのブランド価値を更に高めていきたいと考えています。丸の内には、まだインバウンド富裕層の方々向けの商品がすべて揃っているわけではありませんが、この取り組みを通じて得た知見を、今後の開発や企画に活かしていきたいです。

丸山(エクスペリサス):
私たちとしても、三菱地所様のように日々エリアと真摯に向き合っていらっしゃるパートナーとご一緒できることは、丸の内の価値をどのように伝えるべきかを深く理解するうえで、非常に心強いことだと感じています。

最後に、本プロジェクトを通じて得られた知見と、今後の展望についてお聞かせください。

小菅(三菱地所):
我々にとっては新しいことの気づきの連続であり、ワクワクしながらご一緒に取り組ませて頂いています。今後は、こうして得た経験を街づくりの中にしっかりと活かしていくとともに、社内で組織知としていきながら、次のステップへ進んでいきたいと考えています。

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