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100年に一度の渋谷再開発プロジェクトが最終章へ ― 東急×渋谷区が描く、回遊性で魅力をつなぐまちづくり ―|東急 三渕氏・渋谷区観光協会 小池氏|GLOBALIZED インバウンド

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佐藤菜摘

 本記事のポイント 

  • 街全体が舞台となり、多彩なコンテンツと発信力が息づく渋谷。課題は一極集中。

  • 人が集まる街から巡る街へ。「SHIBUYA PASS」やナイトタイム推進で回遊性向上へ

  • 街自体の魅力はみんなで考える。文化と人が息づく「居場所」が広がる渋谷を目指して 

Wovn Technologies株式会社は、2025年10月7日に「GLOBALIZED インバウンド」を開催し、「世界は、もっと日本を好きになる 〜AI・多言語で拓く、15兆円に向けた訪日インフラ整備〜」をテーマにセッションをお届けしました。

交通関連のゲスト講演では、東急株式会社の三渕 卓 氏と一般財団法人渋谷区観光協会の小池 ひろよ 氏を迎え、「100年に一度の渋谷再開発プロジェクトが最終章へ ― 東急×渋谷区が描く、回遊性で魅力をつなぐまちづくり ―」と題して、渋谷再開発や観光への取り組みの今と未来についてお話しいただきました。本レポートではその内容をご紹介します。

【登壇者】

三渕 卓 氏
東急株式会社
不動産運用事業部 価値創造グループ 統括部長

1995年東急電鉄株式会社入社。鉄道部門~不動産部門を経験し、2022年~2025年にはフューチャー・デザイン・ラボの統括部長を務め社内起業家育成やスタートアップとの事業共創に専念。2025年4月からの現職においては、渋谷エリアにおける当社の保有資産を活用しながら「文化」「インバウンド」「まちのブランディング」などをキーワードに行政や地元と連携しながら渋谷エリアの価値向上施策を仕掛ける。

小池 ひろよ 氏
一般財団法人渋谷区観光協会
理事・事務局長

2018年より一般財団法人渋谷区観光協会 理事 兼 事務局長。旅行業業界に長年在籍し、国際カンファレンス(MICE)のオーガナイズ、海外都市連携、エリアブランディング(地域活性/地方創生/まちづくり)、インバウンド、伝統工芸をはじめとした日本文化発信を海外へブリッジするプロデュースを担う。秋田県大館市国際戦略アドバイザー 、千葉県ICTアドバイザリー会議 委員、三重県デジタル社会推進局 みえDXアドバイザーズ、一般社団法人日本ワーケーション協会 公認コンシェルジュ、一般社団法人日本フェムテック協会 顧問、CO’RE LLC Co-Founder も務める。

 

目次

  1. 東急と渋谷区観光協会から見た、渋谷の再開発と観光の現在地
  2. 魅力溢れる渋谷。目指すは回遊性の向上
  3. 東急による、渋谷の隠れた魅力を「線」でつなぐ新たな実験
  4. 渋谷の夜が起点となりカルチャーと回遊を生む
  5. 文化と人が息づく「居場所」を育み、みんなで描く渋谷の未来

 

WOVN:
100年に一度の大規模再開発の真っ最中である渋谷。本セッションでは、渋谷におけるまちづくりや観光の最前線に携わられているお二方をお招きし、渋谷観光の今と未来について伺っていきます。

 

東急と渋谷区観光協会から見た、渋谷の再開発と観光の現在地

WOVN:
渋谷の街において、具体的にどのような取り組みをなさっているのか、お聞かせいただけますでしょうか。

三渕(東急):
当社が関わる渋谷の再開発プロジェクトは着実に進展しており、2013年頃にスクランブル交差点越しに見た風景と比べると、その様相は大きく変化しています。すでに複数の高層ビルが完成し、駅周辺の整備も最終段階に差しかかっています。「最終段階」とはいえ開発が終わるわけではなく、今後は中心部から周辺エリアへと再開発の範囲をさらに広げていく計画です。

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(東急 三渕氏)


三渕(東急):

元々渋谷は、広場が狭く、交通機関や道路で街が分断されているという課題を抱えていました。約100年前に渋谷駅ができてから、増築が重ねられてきた結果です。今回の再開発では、課題を解決し新しい価値を生み出すためにも、インフラの大規模な再整備を行っています。インフラの改良は一朝一夕でできるものではありません。JR や東京メトロ、渋谷区、東京都、そして国土交通省など、多くの方々が力を合わせ、この大きなプロジェクトが進められています。

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小池(渋谷区観光協会):
私たちは、渋谷のナイトタイム観光の促進に取り組んでいます。昨年度からは、東京都観光財団様の助成事業として「Shibuya Nightlife Guide」を展開しており、 夜間帯の観光案内機能を促す夜間観光案内所のポップアップの設置などを行っています。渋谷の街をより多くの人に楽しんで回ってもらうにはどうすればよいかを検証しながら、開催中のイベントを把握して来街者に情報を届けることを目指しています。

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小池(渋谷区観光協会):
ちょうど今日(2025年10月7日)から、「Shibuya Nightlife Festival」を、1週間開催しています。 渋谷では小さな箱から大きな箱まで様々なナイトベニューが点在していますが、ベニューを運営する事業者だけでなく、渋谷に訪れる人たちみんなで渋谷のカルチャーを創っていると感じています。 今回は約40の店舗に参加いただき、好きな場所に投票してもらうことで魅力の可視化を進めています。 この取り組みを通じて、ナイトマップのリニューアルにも繋げていきたいです。

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(渋谷区観光協会 小池氏)

 

魅力溢れる渋谷。目指すは回遊性の向上

WOVN:
渋谷の再開発と観光の今についてお話を伺いましたが、そもそも渋谷という街にはどんな魅力があると思われますか?

三渕(東急):
渋谷は、人を惹きつける魅力的なコンテンツや発信力がある街
です。ファッション、アニメ、映画など、さまざまなコンテンツの拠点になっています。街自体が谷状のコンパクトな構造のため、街全体で行うイベントが多いのが特徴です。例えば、年に数回、スクランブル交差点から道玄坂あたりを封鎖して「例大祭」を実施しています。自治体や警察、町会、自治会の方々のご協力も得ながら、街を丸ごと使えることが渋谷の大きな魅力です

なお、こうしたイベントには、訪日観光客の方も参加されており、特に例大祭は、多くの海外の方で賑わいました。

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WOVN:
訪日観光客の方は、何を求めて渋谷に来ているのでしょうか?

三渕(東急):
アニメや映画で見る渋谷やスクランブル交差点のシーンに惹かれて、実際に訪れる人が多いように思います。それだけ、渋谷は日本の中でも印象に残るビジュアルを持った街なのだと感じています。

小池(渋谷区観光協会):
スクランブル交差点を目指し、道路を渡りながら、どこかで見たシーンに没入したいという体験を求めている方が多いですね。 スマートフォンを片手に交差点の中心で動画を撮ったり、プロポーズや何かの記念写真に撮る方もいます。駅周辺は、メディア的な情報発信基地になっていると感じます。

WOVN:
魅力的なコンテンツが多い一方で、街としてどんな課題があると感じますか?

三渕(東急):
渋谷は新宿と違い、非常にコンパクトな町の構造です。 海外の人を迎え入れるキャパシティが限られており、ホテルの数も少ないです。そのため、宿泊できない方や、滞在時間が短い方が多いというデータが示すように、「渋谷は2〜3時間だけ滞在して新宿へ行こう」となりがちです。 いかに短い時間で多くの渋谷体験をしていただくかが、当社としても気になっている点です。

小池(渋谷区観光協会):
一極集中の傾向が強く、特定のエリアには人が多いものの、少し離れた場所に足を伸ばす方が少ないという課題もあります。 まさに回遊性の課題です。 今、渋谷は東京で一番外国人が来ている街になっています。非常に喜ばしい反面、一極集中による街の課題も大きくなっており、今後は解決策が必要だと感じています。

 

東急による、渋谷の隠れた魅力を「線」でつなぐ新たな実験

WOVN:
先ほど挙がった課題に対して、東急様はどんな取り組みをされていますか?

三渕(東急):
当社が実証実験として取り組んでいるのが「SHIBUYA PASS」です。これは、先ほど課題としてあげた回遊性や、隠れた魅力を「線」で繋げていくための実験です。

例えば、「SHIBUYA SKY」はインバウンドの方が非常に多く、スクランブル交差点と並ぶ、2大観光スポットの1つになっています。特に初めて日本や渋谷に訪れた方が来る場所になっています。

こうした方々に、渋谷の更なる魅力にどう気づいてもらうか考え、パスを作りました。「SHIBUYA PASS」では、6,000円で20ポイントが提供され、渋谷のさまざまなスポットで多彩な体験を組み合わせて楽しむことができます。SHIBUYA SKY だけでなく、街の飲食店やバスなどの交通も利用できるチケットをセットにすることで、渋谷の回遊ができるような仕組みにし、1つの渋谷の強みから派生させて、隠れた魅力に気づいていただけたらと思っています。

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SHIBUYA PASS : https://shibuya-pass.com/

 

渋谷の夜が起点となりカルチャーと回遊を生む

WOVN:
次に、渋谷区観光協会様の取り組みをご紹介ください。

小池(渋谷区観光協会):
私たちは、先に申し上げた課題も踏まえて、まずは夜(ナイトタイム)にフォーカスして取り組んでいます。 東京都様と共に、渋谷区と渋谷区観光協会で「渋谷カルチャーディストリクト協議会」を発足させました。東京都の中でも、ナイトタイム推進エリアとして渋谷が採択されたためです。 

発足したばかりですが、これから約1年半、26年度いっぱいをかけて、事業を進めていく予定です。渋谷の夜を起点に、国際都市としての文化政策を作るための戦略や調査を進めていきます

改めて、渋谷の強みを3つに整理しました。

①連携基盤
行政(渋谷区)、観光協会などの外郭団体、そして60の商店会からなる連合会、地元の事業者や民間企業などと連携基盤があり、日頃から議論ができる体制になっている。

②ナイトタイムのメッカ・イノベーションの聖地
スタートアップ誘致に東急様や渋谷区も注力しているが、「なぜ渋谷に来るのか」というと「渋谷には夜があるから」という声が大きい。

③圧倒的な国際的なアテンションと評価
渋谷スクランブル交差点に世界から人が集まることが代表的であり、この街の魅力である。

渋谷カルチャーディストリクトの対象エリアは、駅周辺の特定都市再生緊急整備地域(駅周辺の5街区とほぼ同じエリア)を中心として定めています。今後は、このエリアを起点に、坂の多い渋谷の特徴を活かした「回遊性のある街づくり」を進めたいと考えています。宮益坂や道玄坂など、坂を登ってその先へ足を伸ばしてもらうことで、渋谷全体を文化の拠点にしていきたいです。
今年度は調査を中心に進め、来年度いっぱいを目標に、規制緩和も検討しながら、皆さんに楽しんでいただけるナイトシーンをつくっていく予定です。

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文化と人が息づく「居場所」を育み、みんなで描く渋谷の未来

小池(渋谷区観光協会):
再開発で新しい商業施設が生まれる一方、渋谷でカルチャーを育むためには、演者やアーティストの方々が活躍できる「居場所」づくりも重要なテーマです。この点について東急様はどのようにお考えでしょうか?

三渕(東急):
再開発によって様々なものが生まれる中、渋谷駅の中心部で生まれる動きと、周辺エリアで育まれる動きの両方があると感じています。特に、駅周辺だけでなく、少し離れた地域にもまだ知られていない魅力が数多く潜んでおり、個人的にも注目しています。「居場所」という視点でも、中心部に限らず渋谷全体へと広げていきたい。そして、渋谷のこれからの新しい文化を、みんなで共に創り上げていければと考えています。

小池(渋谷区観光協会):
文化村の東急本店跡地の奥の「奥渋谷」と呼ばれるエリアもローカル性が高く、外国人にも人気があります。駅周辺から放射線状に伸びていく道の裏側などは、外国人が好んで見つけ出すような個性的なスポットも多くあります。こうした面白い文化が自然に生まれていくような環境を創っていきたいです

なお、2022年の渋谷区による調査では、約150のベニューがあることがわかっています。こうしたベニューをいかに国際都市として発展させていくかが大きなポイントです。 今回の事業では、改めて各ベニューの場所や広さ、どんな音楽が楽しめるのかといった情報を調査し、データベース化していきます。海外からもアクセスしやすい形で発信し、世界に開かれた渋谷のナイトカルチャーを創っていけたらと思います。

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WOVN:
最後に、再開発の1つの目処となる2034年に向けて、どんな渋谷にしたいか、今後の展望をお聞かせください。

三渕(東急):
再開発は終わりではありません。中心部分の形が見えてきたら、その先の周辺をどう作っていくかが大切になります。行政や地権者、デベロッパーの方々と一緒に考えていきたいです。 街自体の魅力はみんなで考えていくべきもの。渋谷のこれからの新しい文化を、渋谷に関わる皆様と共に創っていきたいです。

小池(渋谷区観光協会):
新しい商業施設がまだまだできてくる中で、アーバンコアのような機能性のある場所から、末広がりに広がっていく地面の方にまで、面白いユニークなローカルが見つけられるまちづくりを目指していけたらと感じています。 特に人にフォーカスし、商いを続けている事業者やお店などをもっと深掘りしていきます。 何回来ても楽しい、「やっぱり渋谷って世界から行きたい街だね」という評価を継続して得られるように頑張りたいです。

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