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WEEB will save Japan なぜ世界は“日本”に夢中なのか?|ノア・スミス 氏・竹下 隆一郎 氏|GLOBALIZED インバウンド
佐藤菜摘
本記事のポイント
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日本文化を好む「WEEB」は数億人規模。日本の経済成長に大きなポテンシャルを持つ
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インバウンドには、魅力的な地方都市にも目を向ける手法でオーバーツーリズム対策を
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日本の強みに自信を持ち、観光客向け発信・輸出・海外からの投資促進といった企業活動に活かす
Wovn Technologies株式会社は、2025年10月7日に「GLOBALIZED インバウンド」を開催し、「世界は、もっと日本を好きになる 〜AI・多言語で拓く、15兆円に向けた訪日インフラ整備〜」をテーマにセッションをお届けしました。
基調講演では、世界的な経済ブロガーであり、X(旧Twitter)で約22万人のフォロワーを持つノア・スミス氏と TBSテレビ 特任執行役員の竹下 隆一郎氏を迎え、「WEEB will save Japan なぜ世界は“日本”に夢中なのか?」と題して、日本を好む「WEEB」の経済的影響力と、企業活動への活用についてお話しいただきました。本レポートではその内容をご紹介します。
【登壇者】
ノア・スミス 氏
アメリカのエコノミスト。急成長中の米国のコンテンツ配信プラットフォーム Substack で人気ニュースレター Noahpinion を運営。2003年、スタンフォード大学(物理学)卒業。2012年、ミシガン大学でPh.D(経済学)取得。同年、ニューヨーク州立大学ストーニーブルック校助教(行動ファイナンス)。2016年、大学を辞めてブルームバーグに入社。2021年、ブルームバーグ退社後、Noahpinion で執筆活動に。学部、大学院時代には日本に計4年間暮らし、その後も頻繁に来日。現在、ウサギとともにサンフランシスコで暮らす。日本への移住を検討中。
竹下 隆一郎 氏
1979年生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。2002年朝日新聞社に入社、宮崎・佐賀支局、経済部、メディアラボなどを歴任。2016年ハフィントンポスト(現・ハフポスト)日本版編集長に就任。2021年 PIVOT に創業メンバーとして参画。2024年11月 TBS テレビ特任執行役員に就任、「TBS CROSS DIG with Bloomberg」チーフコンテンツオフィサーを務める。
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目次 |
日本文化を愛する「WEEB」は 数億人規模
竹下(TBS):
訪日外国人客の増加、消費額も8兆円と大きく伸びていますが、なぜ日本が人気なのでしょうか。「WEEB」というキーワードをとおして読み解くと共に、観光客はもちろん、日本に投資する人や日本で働くビジネスパーソンが増えていく可能性について伺っていきます。
まずは「WEEB」の意味を教えていただけますか。
ノア・スミス:
「WEEB」はネットスラングで、日本文化を愛する外国人を指す言葉です。20年ほど前に登場し、日本を除く全世界へと広がりました。人数は定義によって異なります。アニメやコスプレなどのポップカルチャーが好きな人のみを「WEEB」とした場合、数千万人と考えています。より広義で捉え、日本の都市やアート・音楽が好きな人、日本へ行くことが好きな人を含めると、間違いなく数億人になるでしょう。

海外から日本企業への投資を促進させる
竹下(TBS):
「WEEB」は日本経済にどのような好影響を与えるのでしょうか。
ノア・スミス:
日本や日本企業の利益のために、「WEEB」との接点の持ち方は2つあります。
①アニメやマンガといった日本文化の輸出 ②インバウンドです。日本旅行は世界的ブームで、東京や京都はオーバーツーリズム状態ですが、増収を目指す小さな都市や町にとっては良い機会でもあります。
さらに、私は別の方法にも可能性があると考えています。それは、海外から日本企業への投資をこれまで以上に促すことです。日本に住みたい人や日本と関わりたい人、日本を訪れたい人は多く存在します。このような人々は日本への投資にも積極的です。例えば、TSMC(Taiwan Semiconductor Manufacturing Company) の熊本工場のような工場誘致や、研究所の開設も良い手段です。
合弁企業の設立や、スタートアップへの投資を促すという方法もあります。海外からの日本のスタートアップへの出資は増え始めています。創業者が日本に移住する絶好の理由になるからです。また、エンジニアの給料をヨーロッパやアメリカに比べて安く抑えられます。日本に住めるのであれば、給料の減額が彼らにも受け入れられるからです。
国内市場は縮小。輸出を重視すべき
竹下(TBS):
なぜそれほど日本企業への投資が注目されるのでしょうか。
ノア・スミス:
まずは経済的理由が挙げられます。例えば TSMC の熊本工場が順調なのは、日本に半導体エンジニアが多いからです。半導体エンジニアの仕事は減少していましたが、TSMC の投資によって雇用が生まれました。日本だと実質賃金が低い傾向にあることが海外企業にとってチャンスと捉えられます。円安も投資理由にあるでしょう。
建設に関する規制や土地利用の観点で、日本は建設のハードルが低いという点も投資理由の1つといえます。日本の土地は他の国に比べ広くありませんが、有効活用できています。
アメリカで工場を建設する場合、多くの関係者との交渉が必要で、実現に何年も要します。資金調達が決まっても、10年以上交渉が進まず建設に至っていない例もあります。日本では開発や建設を政府がサポートする仕組みがあり、住宅や工場、オフィスの他、インフラや電車、道路の整備も進めやすい環境です。アメリカの場合、開発プロジェクトは裁判所や裁判官によって判断が下されますが、日本では行政によって決定されるため、摩擦が起きにくいといえます。
海外からの投資は、日本の輸出拡大の助けにもなります。日本経済において、輸出割合は韓国や台湾よりも低いです。国内の人口が減少し市場も縮小しているので、経済成長のためには輸出を重視すべきです。インドやブラジル、中東など、様々な国への輸出を進める必要があるでしょう。例えば TSMC のように製品を売るノウハウを既に持つ海外企業が、「海外向け製品を作るプラットフォーム」として日本に直接投資をすれば、輸出量は急速に増加します。
竹下(TBS):
他の国々と比較して、日本の強みは何でしょうか。
ノア・スミス:
日本では、政府の好みでビジネスが妨害されるようなことがありません。また、日本のテクノロジーや人材、インフラは優れています。韓国は日本の強力なライバルですが、国内市場が小さく、人口問題が日本よりも深刻という点があります。

安定した社会情勢と暮らしやすさで優秀な人材の定着へ
竹下(TBS):
日本人は変わる必要がありますか?例えば、英語が苦手という日本人は多いですが、英語を学ぶべきでしょうか。
ノア・スミス:
日本人は外国人に対しとても親切だと感じます。英語に関しては、AI の発展が解決策になるでしょう。リアルタイムで翻訳できるヘッドホンも発明されました。以前、日経新聞のインタビューで AI 翻訳を使いましたが、翻訳の質は高く、同席した通訳者もその質を認めていました。移住して日本語を学びたい人も多くいます。テクノロジー業界でも、日本のアニメに親しんでいて、日本語が好きな外国人が多いです。
竹下(TBS):
海外の企業が日本に投資すれば、海外の人材が入国します。才能あるエンジニアや教授が海外に流出してしまうことが問題になっていますが、どうすれば日本にとどまってもらえるでしょうか。
ノア・スミス:
私の考えでは、多くの人が日本にとどまると思います。特に子供がいる場合は、その子供たちに日本の学校に通ってもらい、生活を築きやすくすることが重要です。以前よりも日本は暮らしやすくなっていると思います。
また、アメリカや中国など、社会や政治の情勢が悪化している国が増えています。ヨーロッパはロシア問題や厳しい規制があります。それらに比べ、日本は制度が整った中規模の国であり、チャンスのある場所だと私は考えています。
地方都市を宿泊地の選択肢として発信し、オーバーツーリズム対策を
ノア・スミス:
日本の社会情勢は安定していると考えていますが、観光や移民に対しての反発は既に始まっており、今後高まるでしょう。
まず、外国人観光客のマナーが問題になっています。日本人はマナー違反の観光客に暴力を振るうようなことがありません。そういった日本人の特性に一部の観光客は甘えているといえます。
加えて、オーバーツーリズムにも反感が生まれています。東京や京都から観光客を分散させる必要があるでしょう。
問題を解決する手段として、海外から東京や京都へのホテル予約に対して宿泊税を課すのはどうでしょうか。海外の銀行口座を経由した予約に対して税金を徴収する案です。東京や京都では、この税率を自由に設定できるようにするのです。宿泊費が高くなれば、予約数が減ります。税率の設定によって収益を最大化すると同時に混雑を最小化できます。
これは、日本への観光客を減らすのではなく、訪日外国人が集中する東京や京都などの観光客だけを減らす案です。旅行会社などをとおして、「他の都市に滞在すれば宿泊費を抑えられる」と情報発信し、宿泊地の選択肢が他にもあることを提示すると良いでしょう。魅力的な地方都市が多くありますし、観光客向けのイベント開催も良いかもしれません。
移民問題については、一部の移民に対して反発が起きる可能性があります。宗教的背景などから、移住先の国に馴染みにくい地域の人々もいるためです。日本の政治家は、この反発に上手く対処しながら有能な人材を確保する舵取りが必要です。移民をただ排除するのではなく受け入れつつ、技術だけでなく日本に馴染めるかを考慮した対応が重要です。
竹下(TBS):
ホテルやレストランの経営者に、観光客を迎えるためのアドバイスをいただけますか。
ノア・スミス:
オーバーツーリズムによって、予約が取りにくい状況になっています。外国人観光客に来てもらうためには、外国語の予約サイトの活用がすぐにできる有効な手段でしょう。観光客の予算は高いです。外国語での予約が可能になれば、予算の高い観光客が増え、商品・サービスの値上げを検討できることもメリットと捉えられます。
竹下(TBS):
最後にメッセージをお願いします。
ノア・スミス:
「WEEB」は日本の発展の一助になります。日本がどれだけ世界から愛されているか、日本人は実感を持っていないように見えます。今の観光ブームを見て、日本は外国人に人気だと気付いたはずです。日本の文化が海外でどう受け止められているか、日本のテレビ局が取り上げることも良いでしょう。例えば、ヨーロッパで開催されているコスプレ大会や、ニューヨークで大行列ができているラーメン店など現地の様子を伝えるのです。自分たちの文化がどう受け止められているかを理解し、日本人は自信を持って活かしていくことが重要だと考えます。
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佐藤菜摘
前職は、広告代理店にて大手CVSの担当営業として、販促物製作やブランディングプロジェクトに従事。2016年WOVN Technologies株式会社に入社し、広報業務を担当。2022年よりMarketingチーム。
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