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リモートワークの課題を乗り越えて、グローバル一体で働く方法|Automattic高野氏・セブンーイレブン大口氏・WOVN田中|GLOBALIZED2020
佐藤菜摘
Wovn Technologies株式会社が開催する、「テクノロジー」をテーマにした年次イベント「GLOBALIZED」。2020年は「テクノロジーで解決する、日本が直面する4つの『限界』」をテーマに7つのセッションをお届けしました。
最初のパネルディスカッションは、「新しい働き方のベストプラクティス〜既存の働き方の限界〜」と題し、Automattic Inc. Globalizer (以下「Automattic」)高野氏と、株式会社セブンーイレブン・ジャパン(以下「SEJ」)大口氏が登壇。
「2030年問題」と言われるように日本人の労働者人口が縮小し、同時に世界経済のグローバル化が進む中、どうやって新しいグローバルな働き方を構築し、外国人と共生する社会を作っていくのか。外国人人材の活用や、成果主義・ジョブ型環境での取り組み等について議論が展開されました。モデレーターはWovn Technologies株式会社 社長室 田中りずむが務めます。
【登壇者】 高野 直子 氏 Automattic Inc. Globalizer 大口 智文 氏 株式会社セブンーイレブン・ジャパン 海外事業本部グローバル人材開発部 総括マネジャー 兼 株式会社セブン銀行 理事 田中 りずむ Wovn Technologies株式会社 社長室 兼 HR Section Manager |
外国人雇用に成功、海外送金実績を伸ばしたセブン銀行
田中(WOVN):
まずはお二人のご経歴と担当業務について教えていただけますか?
大口(SEJ):
私は日本長期信用銀行(現・新生銀行)と新銀行東京(現・きらぼし銀行)で、従業員組合や経営企画の立場で、銀行破綻や危機を経験しています。自分だけでなく仲間の働き方やキャリアについて、髪の毛がなくなるほど考えてきました(笑)。
株式会社セブンーイレブン・ジャパン 大口 智文 氏
大口(SEJ):
セブン銀行入社後、2013年からは、外国人向けの金融サービスや海外送金の展開に外国人スタッフと取り組み、現在はそのメンバー5名と共にセブンーイレブン・ジャパンに出向。店舗で働く外国人スタッフが働きやすい環境作りと、特定技能という新しい就労ビザをコンビニ業界にも認めていただくべく行政に働きかけること等を行っております。
高野(Automattic):
私は高校からアメリカに住み、10年前に Automattic へ入社、現在は東京に移住しています。Automattic は2005年に創業した会社で、Web サイト作成ツール・ブログサービス「WordPress.com」や、ミニブログサービス「Tumblr」などを提供する企業です。仕事環境は100%リモートワークで、スタッフは77ヶ国に約1,300人おり、オンラインでチームごとに業務を行っています。
Automattic Inc. Globalizer 高野 直子 氏
(画面右下、高野氏にはリモートで参加いただきました)
田中(WOVN):
では本題に入っていきましょう。大口さんが在籍されていたセブン銀行では、以前から外国人雇用を推進されています。その結果、どのような成果が生まれたのでしょうか?
大口(SEJ):
セブン銀行から海外送金する方の90%以上が、アジアや南米などから来た外国人です。ならばスタッフも、相手の立場に立って話ができる外国人が一番良い。そこで中国やブラジル、フィリピンなどの外国人スタッフをメインに置き、日本人はサポート役に徹して、彼らが仕事をしやすい組織に変えていきました。
営業施策も、お客様の声を最も聞いている彼らに企画してもらい、それを日本人がサポートし、協働して実現するという形で進めたところ、現在では、セブン銀行で年間120万件以上の海外送金を取り扱うまでに成長しています。この数字に日本人だけで到達するのは無理でしたね。
田中(WOVN):
外国人スタッフを多く雇用する中で、印象的だったエピソードはありますか?
大口(SEJ):
なぜセブン銀行で働くのか、外国人スタッフに聞いたことがあるんです。すると「収入を得ること以上に、母国の人と日本のために働いている」という答えが返ってきました。「日本を自国の人々が好きになってくれたら、自国に帰ったあとも、きっと日本のことを応援するはず。だから私達は伝道役として働いている」と。とても感銘を受けました。
一方、外国人スタッフは、お客様のことを一生懸命考えるあまり、時間を気にせずにお客様からの電話を受けたり、サポートしようとしたりするんです。その真剣さはありがたいのですが、会社としては労働時間を適切に管理しなければならないので、「17時半以降の問い合わせは受けてはいけない」と指導したこともありました。こういった点では、外国人というよりも、少し昔のよき日本人と働いているような感覚でした。
田中(WOVN):
外国人従業員が積極的に働いているんですね。確かにこれは印象的なお話です。
Wovn Technologies株式会社 田中 りずむ
100%リモートワークで世界中の仲間と働く Automattic
田中(WOVN):
高野さんはフルリモートで勤務されていますが、こうしたグローバルな環境で働くメリットやベネフィットは何だと思いますか?
高野(Automattic):
私は性格的に日本企業での働き方は合わないだろうと思っていたのでアメリカでずっと働いていましたが、日本の文化自体はとても好きです。リモートワークなら、自分の好きな場所で、好きな文化の中で働いて生活できます。そんないいとこ取りができるのが、グローバルな働き方のメリットだと思います。
田中(WOVN):
リモートワークの課題としてよく挙がるのが、時差の問題です。Automattic ではこれをどう解決されているのでしょうか。
高野(Automattic):
私はいつも16時半〜17時頃に子どもを保育園に迎えに行くので、夕方は一旦仕事から離れます。ただその時間帯はヨーロッパ圏のスタッフが起きてくる時間なので、メッセージが多く届くんです。このように、どうしても仕事が合わないタイミングはあります。
そこで解決策をチームで話し合って、レスポンスの間が空いても問題ないようなチーム体制を整えることにしました。とはいえレスポンスを1日忘れると仕事の進行もどんどん遅くなるので、夜にもメールをチェックするなど、柔軟に働く必要はあると思います。
田中(WOVN):
そうすると時間単位の働き方から、成果重視の働き方に変わりますよね。
高野(Automattic):
Automattic はまさに成果重視で、タイムカードがないんです。日中や夜、土日などいつ働いてもいいので、自分で考えて柔軟に動いています。会社からは、生活に無理が出ないようにしてくださいと言われていますね。
また Web サービスの会社のため土日もカスタマーサービスが動いていますが、日曜は休日ではない宗教の方が進んで出勤していたりもします。時差があるおかげで、24時間365日誰かが働いている状況が作れるのは、時差を利用できるグローバル企業の強みです。
コロナ禍でのリモートワークが、職場を成果主義に変えた
田中(WOVN):
新型コロナウイルスが流行して、SEJでも働き方は変化しましたか?
大口(SEJ):
私のチームでは毎日オンライン会議をして、各人の活動報告や意見交換などを行っています。以前オフィスで机に座って働いていたときは、スタッフの動きが意外と分からない部分もあったのですが、今回在宅を余儀なくされたことで各人の状況が共有され、頑張った成果も明確になりました。その結果、成果を形にした人が、メンバーから評価される雰囲気が醸成できたと感じます。
田中(WOVN):
成果中心の文化になったことで、評価面はどのように変わったのでしょう。
大口(SEJ):
対面前提の職場だと、あの人は愛想が良い、あの人は休まないでよく働く等の、ややイメージ先行的な評価軸ができやすい面があると思います。しかし成果中心のジョブ型ならばどんな働き方だったとしても、目に見える成果を残してチームに貢献していればいいわけです。
その結果、働く時間や国籍などは評価そのものとは関係がなくなります。私の部署にも子育てをしながら働いている方がいますが、この働き方に変わったことで、一層評価が上がった方もいらっしゃいます。
田中(WOVN):
高野さんは多国籍のメンバーと働いていますが、国籍や文化の違いを感じる瞬間はありますか?
高野(Automattic):
世界の祝日や休日はバラバラなので、チームの誰かがいないのが当たり前なことですね。今年はコロナ禍で遠出をする人がいないので、短い休みを取る人が多いです。一方で世界では1月1日や2日から働く人もいるので、私はもう少しゆっくりしたいのに、と思うこともありますね(笑)。
田中(WOVN):
セブン銀行には、多国籍なスタッフがいらっしゃったと思いますが、例えば中国出身の方は中国の旧正月の時期に休みたいと思うのですが、どのように対応されていますか?
大口(SEJ):
私が担当していた時は、日本に合わせるというよりも、出身国の文化や慣習を第一にしていました。ですから、その国の一大イベントを日本の都合で制限するようなことはしません。休むときは休んで、その代わりに「目指すべき目標は一緒に達成する」という姿勢を徹底していました。
リモートワークだからこそ意識的なコミュニケーションを
田中(WOVN):
リモートワークではコミュニケーションが取りにくいという声もありますが、高野さんのチームではその点どういった試みをされていますか?
高野(Automattic):
出勤したら、毎回必ずチームのチャットに何か書き込むようにルール化しています。書く内容は、昨日の実績や良かったこと、今日の業務予定、業務の問題点など。普段使っているタスク管理ツールも、チーム全体で共有し、チームメンバーの状態や動きが見えるようにしています。
田中(WOVN):
直接会ったことがないチームメンバーもいると思いますが、何か課題やトラブルが起こることはあるのでしょうか。
高野(Automattic):
問題は特にないですね。私は仕事ぶりを通してその人の人柄を知っていくことが好きですし、仕事の中で尊敬が生まれることも多いのです。会ったことがなくても不便に感じたことはありませんよ。
田中(WOVN):
スタッフ同士の親交を深めるため、何か社内イベントなどはありますか?
高野(Automattic):
今までは年1回全社やチームで集まる機会がありました。2019年の場合、全社イベントは1週間ほどフロリダに集まって、カンファレンスやセミナーに参加したり、チームの人にスキルを教え合ったり、懇親的なゲームやアクティビティをしていました。
今年はこの全社イベントが開催できなかったので、年2回チームごとにオンライン合宿をしています。一緒に簡単なゲームをしたり、何かのトピックについて議論したりして、雑談的なことも意識的に取り入れながら楽しい時間を過ごしました。他にオンラインで講座を受けて、それについて話し合う機会も作っています。
田中(WOVN):
大口さんのチームでは、親交を深めるための施策はありますか?
大口(SEJ):
チームメンバー有志で LINE グループを作って、そちらで業務外の会話はしています。当然、仕事の話は絶対そこではしませんが、さまざまな雑談をするようになって、対面だけの時期よりもお互いのことが理解できるようになりました。
大口(SEJ):
特に私のチームはセブン銀行出身者とSEJ出身者が集まったチームなので、最初は、私も含めてややよそよそしさが抜けなかったんです。でも今の方がお互いを理解し、思いやれていますね。
また、上司としては、仕事の場合もスタッフ同士の話し合いが見えるのは嬉しいんです。この前起こった出来事ですが、あるスタッフがプレゼンで成果を上げられたのは、別のスタッフからもらったアドバイスが決め手になったということが、Teams 上のやり取りから分かりました。こういった支え合いが可視化されれば、裏で活躍したスタッフに対する評価も上げられます。
デジタル時代における「アナログな働き方」
田中(WOVN):
今後はデジタル環境での働き方が一般的になっていると考えられますが、BtoC の小売業などでは、アナログな働き方も重要だと思います。その点SEJでは、どのように工夫されているのでしょうか?
大口(SEJ):
弊社では月2回、3,000人以上の営業担当者が本社に集まって、対面で大会議を行うことが力の源泉と言われていました。しかし実は、コロナ禍になる前から、働き方改革の一環として、デジタルな働き方とアナログな働き方を効果的にミックスするよう動いていました。
デジタルに移行させたのは情報提供です。大半の会議は現在オンラインで行い、必要な情報は Office 365を通じて共有します。また iPad を使って加盟店オーナー様にも効果的な提案も行っています。デジタル化により、本部としての方針や施策をより正確に、わかりやすく伝えられるようになっていると思います。
一方、アナログ業務として強化したのは、加盟店オーナー様との対話です。オーナー様が何を目指されていて、本部はそれをどうやってサポートすれば良いのかを、営業担当者が真摯に伺い、店舗としての成長や経営改善に資するべく動いています。こうしたデジタルとアナログの使い分けが、DX 下でのビジネス環境で重要になると考えています。
田中(WOVN):
最後に、お二人が今後の働き方や社会に対する期待することを教えてください。
高野(Automattic):
働き方の選択肢が今よりも増えていく世界になってほしいと、心から思っています。私自身は今アメリカの企業で働くことを選んでいますが、自分に合った働き方を一部ではなく数多くの人が選択ができる社会になればいいですね。
大口(SEJ):
今、SEJ店舗では、たくさんの外国人留学生が働いています。私としては、彼らに仕事を通じて店舗運営のノウハウも身につけてもらい、将来も日本で頑張りたい場合は、是非、加盟店オーナーになることを目指していただきたいと思います。また、母国に戻られる場合も、日本を好きになって戻っていただき、学んだノウハウを活かして、起業等で活躍していただきたいですね。
また、今後はビジネスにおいては、国境という考え方が薄れ、ネットでつながることにより、働く場所がどこかは関係ない時代になっていくと思います。日本の若い経営者の方々もこうした視点で会社を舵取りしていただければ、日本の GLOBALIZED に繋がるのではないかと思います。
田中(WOVN):
高野さん、大口さん、本日はありがとうございました!
佐藤菜摘
前職は、広告代理店にて大手CVSの担当営業として、販促物製作やブランディングプロジェクトに従事。2016年WOVN Technologies株式会社に入社し、広報業務を担当。2022年よりMarketingチーム。