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ニューノーマル時代のコミュニケーション DX|b8ta北川氏・Zoom佐賀氏|GLOBALIZED2020
佐藤菜摘
Wovn Technologies株式会社が開催する(以下「WOVN」)、「テクノロジー」をテーマにした年次イベント「GLOBALIZED」。2020年は「テクノロジーで解決する、日本が直面する4つの『限界』」をテーマに7つのセッションをお届けしました。
最後のセッションでは「ニューノーマル時代のコミュニケーション DX ~「オンライン vs オフライン」の限界~」と題し、ベータ・ジャパン合同会社(以下「ベータ」)の北川氏、ZVC Japan株式会社 (Zoom) (以下「ZVC」)の佐賀氏とパネルディスカッションを行いました。
(※)以下、「ベータ」は会社を、「b8ta」はサービスを表すものとします。
2020年、新型コロナウイルスの猛威は、オンラインとオフラインのコミュニケーションのあり方を根本から考え直すきっかけとなりました。そんな中、 ZVC が提供する Zoom は利用者数を急激に伸ばし、b8ta は新しいリテールの形を提案していると耳目を集めています。これらのサービスが注目される中、オンラインの新しいコミュニケーションは我々の生活に根付くのか、従来のオフラインのコミュニケーションは形を変えていくのか、議論しました。
【登壇者】 北川 卓司 氏 佐賀 文宣 氏 松岡 克也 |
コロナ禍だからこそ注目された「体験型」という新しい価値
松岡(WOVN):
セッション「ニューノーマル時代のコミュニケーション DX ~『オンライン vs オフライン』の限界~」。ゲストにはベータ・ジャパンの北川さん、ZVC Japan の佐賀さんにお越しいただいています。
北川(ベータ):
ベータは2015年にサンフランシスコで立ち上げた会社で、2019年11月に日本オフィスを立ち上げました。全米で23店舗を展開しており、ドバイにも1店舗展開しています(2020年11月現在)。日本では2020年8月、新宿と有楽町に2店舗同時にオープンしました。
ベータのミッションは「リテールを通じて人々に新たな発見をもたらす」。一般的な小売店の主目的である「販売」ではなく、「体験」や「発見」に重きを置いているブランドです。製品とディスプレイ内容を用意いただくだけで、オフラインへの出品が可能です。オンラインへ広告出稿するくらい、手軽に商品出品できるのが b8ta の特徴です。
佐賀(ZVC):
ZVC は、Zoom を提供している会社です。弊社もアメリカの会社で、サンノゼに本社があります。2012年にエリック・ユアンという元々シスコのエンジニアがゼロから Zoom を作り上げ、2019年に NASDAQ に上場しました。日本のオフィスは2018年に立ち上げています。
松岡(WOVN):
今回のイベントも Zoom が無ければ成り立ちません。Wovn Technologies も Zoom には非常にお世話になっています。
さて、本セッションのテーマは「オンライン vs オフライン」です。2020年はコロナの影響を受け、ビジネスだけでなく世界中のコミュニケーションの取り方が大きく変わった年となりました。b8ta と Zoom にはどのような影響がありましたか?
北川(ベータ):
b8ta は非常に難しい時期に立ち上げとオープンを迎えることになりました。元々2020年開催の世界的大会に合わせて日本をオープンしようとしていたのですが、世界的大会は延期中止に。結局オープンしたのは8月だったのですが、まだお店にお客様をお呼びするのを迷う時期でした。
とは言え、コロナ禍はいつ落ち着くか目処が立っていません。そんな中、体験型店舗という新しい風を吹かすことで、少しでも日本が元気になれるような貢献が出来るんじゃないかなと思い、思い切って8月にオープンしたんです。もちろん入場制限等の感染対策は入念に行いました。
そんな慌ただしい状況でしたが、結果的に多くのお客様に来ていただいて「久しぶりに店舗に来て色んなものが体験できて面白かった」といった声をいただくと、この時期に頑張ってオープンしてよかったなと感じています。
ベータ・ジャパン合同会社 CEO 北川 卓司 氏
北川(ベータ):
勿論チャレンジはたくさんありました。ベータはアメリカの会社ですので、デザインや店舗の什器等をアメリカからもってくるはずだったんです。しかしコロナ禍はアメリカの方が深刻で、航空便は医療品等が優先され、予定していた便がキャンセルになり、急遽船便で運んだため、60日も余計に輸送時間がかかりました。
松岡(WOVN):
コロナ禍ならではの苦労があったんですね。
北川(ベータ):
はい。ただプラスとまでは言いませんが、コロナ禍で発見したこともあります。b8ta は今までにないビジネスモデルなので、日本でも説明コストが高くつくかなと予想していました。しかしコロナの影響でニューノーマルが形成されている時期で、新しいものを受け入れやすい土壌が日本にも出来上がっていたんです。おかげでメディアにも多く取り上げていただきました。仮にその世界大会が予定通り開催されて、予定通り b8ta が日本に進出しても、これほどまでには注目されなかったと思います。
コロナ禍になったからこそ小売りの形を見直す機会となって、b8ta のように売ることを主目的にしない、最終的にはオンラインで買っていただいても、どこで買っていただいても問題ないですというモデルが取り上げられたのかなと思います。
松岡(WOVN):
コロナ流行前から O2O (Online to Offline)という言葉がありましたが、これはオンラインからオフラインへと顧客を誘導する考え方でした。しかし今は OMO (Online Mergers with Offline)の時代で、オンラインとオフラインの垣根をなくそうとする時代になっています。この考え方を地で行き、オフラインで体験したものをオンラインで購入してもらうような話ですね。
Wovn Technologies株式会社 松岡 克也
オンラインツールの価値は、オフラインの置き換えではなかった
松岡(WOVN):
Zoom は聞かずもがなですが、コロナ禍でのコミュニケーションへの影響を教えて下さい。
佐賀(ZVC):
皆さんやはり対面で会えなくなったので、色んなことをオンラインで出来ないかというチャレンジが世界中でされ、 Zoom もお役に立てているのではないかと思っています。
使われているのは企業だけではありません。日本では2020年の3月に一斉休校が決まった段階で、学校向けにライセンスを無償提供しました。夜通し ID の払い出しを社員総出でやったりと、激動の時期でしたね。
松岡(WOVN):
Zoom を含めたオンライン会議ツールは、今の情勢では社会インフラですよね。企業側としても、DX を進めようという機運が高かったんじゃないですか?
佐賀(ZVC):
そうですね。今まで Zoom をはじめ Web 会議サービスを提供していた会社は、オフラインのビジネス会議をどうやってオンラインに置き換えるかという提案をしていましたが、お客様が求めていたのはそうじゃないのだと、今回の騒動で気づきました。結局必要とされていたのは、スカイプや LINE のような閉じた世界ではなく、エンドユーザーと同じプラットフォームで対話できるかということだった。つまりコンシューマービジネスまでも見通したプラットフォームが求められていたんだなと気付いたんです。その点 Zoom は、企業でも個人でも使われうるサービスだったので、ここまでたくさん使われるようになったのかなと理解しています。
ZVC Japan 株式会社(Zoom) カントリーゼネラルマネージャー 佐賀 文宣 氏
松岡(WOVN):
それでは今回のテーマのコミュニケーションに則してお話を聞かせて下さい。先日私も b8ta に伺いました。当初、出品されている商品は BtoC のものが多いのかと思っていたんです。でも b8ta に行ってみたら BtoB の製品もかなりあったのが意外でした。
北川(ベータ):
そもそも b8ta という名前が示す通り、b8ta はアメリカで立ち上げられた際には、主にスタートアップのガジェットや IoT 等の β 版を試す場だったんです。b8ta で試しに商品を出してみて、お客様の声や定量的なデータを集める。そのため b8ta で取り扱っている商品はガジェットや IoT が多いのは事実です。
とは言え、日本ではアメリカほどハードウェアスタートアップが多いわけではありません。ここに固執しすぎると「新たな発見をもたらす」というベータのミッションが達成できなくなってしまいます。そこで日本では特に間口を広げて、ライフスタイルやコスメ、またスタートアップに限らず伝統工芸等にも出品していただいています。
また特に有楽町ですが、場所柄ビジネスパーソンが多いんです。そうすると BtoB の商材も潜在顧客にリーチしやすいんですね。ビジネスパーソンの方は大きな展示会に足を運ぶと思うのですが、b8ta がそういう場所になれると思ったんです。
オフラインがもつ「プレミアム」な価値
松岡(WOVN):
コロナが収束し、日常が戻ってきたとします。このときベータや ZVC にとっては、リモートワークやオンラインはどのようになっているのが望ましいのでしょうか。
佐賀(ZVC):
コロナ禍において、会議やイベントがオンラインやリモートで開催されるようになりました。会議では「今日はオンラインで入ります」と言うのに、言い訳がいらなくなったのではないでしょうか。
他方で、私も含めて早くお客様のところに行って提案をしたいし、社員と肩を並べて働きたいという気持ちも高まっていると感じます。今まで当たり前にやってきた対面のコミュニケーションがこんなに大事だったのかと痛感しているんですね。
コロナ禍において以前のようなオフラインのコミュニケーションに価値が増したことを、私は「プレミアムコミュニケーション」と呼んでいますが、プレミアムコミュニケーションはオフラインで、効率性重視のことはオンラインでやればいいと思っています。時間を作って会いに行きたい人には会いに行く。それ以外はオンラインで効率的に済ます。こういう世界の方が、対面をオンラインに単純に置き換えるよりもワクワクする世界だなと思います。
松岡(WOVN):
プレミアムコミュニケーションというのはいい言葉ですね。オフラインっていう言葉よりもしっくりきます。b8ta の店舗での体験はそれこそプレミアムコミュニケーションなんじゃないですか?
北川(ベータ):
そうですね。そうありたいと思っています。実際ベータではスタッフのことを「ベータテスター」と呼んでいるんです。お客様はただ陳列されている商品を見に来るだけじゃなくて、テスターとコミュニケーションを取ることで商品に対する理解力が深まるのだとベータは考えています。実際、来店していただいた方からお話を伺うと、コミュニケーションの存在を褒めていただくことが非常に多いんです。
もちろん ベータに出品いただいて、店舗に来ていただいた方の行動データが可視化するというのは非常に重要です。ただ定量的なデータだけでなく、定性的なコミュニケーションも出品者には価値があるんですね。例えば「なぜ商品を買ったのか、逆に買わなかったのか」といった声も出品者にはお渡ししています。こういった生の声は EC では中々収集できないので、対面のコミュニケーションがプレミアムになっているというのは、私も同じく感じているところです。
松岡(WOVN):
b8ta でもオフラインの価値はやっぱりあると。逆に、リモートにできない仕事もありますよね。医療関係、エッセンシャルワーク、介護や保育園、宅配等。
佐賀(ZVC):
そうですね。「結構オンラインで仕事出来るじゃない」「旅行しながらでも仕事できるじゃん」なんて思えているのは、一部のオフィスワーカーだけなんです。圧倒的多数の方が、こんな状況下でも現場には行かなければならいし、むしろそういう方々に助けられてオフィスワーカーがリモートワーク出来ている。いわば「リモートワーク格差」が出来上がっているんです。
とは言え、現場の仕事が全て現場じゃなければ出来ないのかと言うと、そんなこともないわけです。実際現場にリモートワークを取り入れている会社もいます。Zoom も色んな考えや事例に取り組んで、リモートワーク格差をなくそうとしているところです。
松岡(WOVN):
Zoom を使ってリモートワーク格差を縮めた事例はありますか?
佐賀(ZVC):
大分県の事例が示唆に富んでいます。大分県は今、後継者不足で農地が余っていて、企業を誘致して農地を使ってもらう計画を立てていました。そこで全国のオーナー候補の方々と商談をするわけですが、その際ドローンを飛ばして農地の様子を撮影し、商談中にリアルタイムで Zoom に流しているのです。
今までは人が毎週農地に行って撮影していたらしいのですが、商談中にはどうしても「隣の区画も見たい」といったリクエストがでてきて、それに対応できなかった。それが Zoom でリアルタイムで配信していたら、いくらでも対応できるようになって、商談がスムーズになったそうです。ドローンが飛んでいるので、もちろん人がわざわざ農地に行く必要はありません。
この仕組みを応用すれば、災害対策で土砂崩れや水害の現場にドローンを飛ばして様子をリアルタイムで確認できますよね。これは我々も想定していなかった使い方で、リモートワーク格差を失くすいい事例だと思います。
松岡(WOVN):
ドローンを飛ばせるかはさておき、Zoom のそういう使い方を b8ta で紹介するなんてこともできるんですか?
北川(ベータ):
出来ますね。例えば各県のアンテナショップが b8ta に出品したとして、ご当地のものご当地の方が直接 Zoom の向こう側から説明するなんていうのもありですよね。それこそドローンと繋いで「こんな感じの町ですよ」と町の紹介をしてもいいですし。
松岡(WOVN):
なるほど。ちなみにベータのスタッフにもリモートワーク格差はあるんじゃないですか?
北川(ベータ):
ベータはオフィス勤務の従業員はどこで働いてもいいというスタイルなので出勤はマストではありませんが、お店で働いているベータテスターは必ず通勤が必要です。そういう意味ではまさにリモートワーク格差があります。
だからというわけではないのですが、b8ta でもオンライン接客ができないのかという検討をしています。b8ta はもちろん、店舗に来ていただくことで価値を実感いただけるのですが、東京にはまだ心配で行けないという方から、オンラインで話を聞けないのかというご相談もいただいているんです。
地元に b8ta の店舗を作るのが一番なのかもしれませんが、そう気軽に店舗は作れないので、ひとまずオンラインで接客するというのは理に適っているのかと思います。とは言えオンライン接客も珍しくなくなってきた中で、どうやって差別化できるのかという課題はありますね。
これからのオンラインとオフラインの関係性
松岡(WOVN):
最後に、コロナ収束後のコミュニケーションがどう変わっていくのかについて、お2人の考えを聞かせて下さい。
北川(ベータ):
「オンライン」「オフライン」という垣根は低くなっていくと思います。例えば、今まで EC サイトでしか販売してこなかったサービスが、急に新宿や有楽町といった都内の一等地に出店するのは、本来ハードルが高いことです。しかし、b8ta なら区画をサブスクリプションで簡単に借りられる。つまり、今までオンライン専業だったからといって、オフラインに過度に恐れる必要はなくなってきているんです。
しかもオフラインでも、オンラインのようにデータを可視化できるようになってきている。この流れはコロナの流行がきっかけで加速したかもしれませんが、元には戻らないどころか、次第に加速するのではないでしょうか。
そうするとオフラインの役割も変わってきます。「ここでしか買えない」ものがどんどん減っているのだから、そういった商品があるお店は価値を増しますが、そうじゃないお店はコモディティばかりが集まる場になっていく。自社がオンライン・オフラインをどう考えて、どう共存させていくか、どう掛け算していくかが、これからの課題となるのではないでしょうか。b8ta もこの課題に取り組んでいるところです。
佐賀(ZVC):
以前よりもオンラインは当たり前になっていくと思います。例えばイベントをやるにしても、以前は会場に来た方にだけ話しかけていたものが、同時にオンラインの参加者にも話をするようになる。会議も必ずオンラインが設定されて、リモートからも参加する。こんな風景が当たり前になるでしょう。
また日本は災害大国です。台風の朝、駅に人が殺到して、本当に移動しなければならない方が移動できないなんてことはもう止めましょう。普段からオンライン前提で活動していれば、緊急時だってオンラインで動けます。もしものときという意味でも、オンラインツールは普段使いして欲しいですね。
松岡(WOVN):
ありがとうございます。もっとお話したいことはあると思うのですが、ここで終わりにさせて下さい。やはりベータと ZVC は親和性があって、勉強になりました。ありがとうございました。
佐賀(ZVC)・北川(ベータ):
ありがとうございました。
佐藤菜摘
前職は、広告代理店にて大手CVSの担当営業として、販促物製作やブランディングプロジェクトに従事。2016年WOVN Technologies株式会社に入社し、広報業務を担当。2022年よりMarketingチーム。