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第1章:10兆円「外国人市場」戦略のすすめ【Multilingual Experience 外国人戦略のためのWEB多言語化】
佐藤菜摘
本企画では、2019年10月に Wovn Technologies株式会社 取締役副社長・COO の上森 久之が著した書籍「Multilingual Experience 外国人戦略のためのWEB多言語化」の全文を全9回に分けてお届けしております。
第2回となる本記事では、『第1章 10兆円「外国人市場」戦略のすすめ』を公開します。
Multilingual Experience 外国人戦略のためのWEB多言語化 目次
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10兆円「外国人市場」戦略のすすめ
10年分の成長に相当する、10兆円「外国人市場」戦略のすすめ
今後大きな成長市場として期待される、訪日外国人(インバウンド)ビジネス、国内で働く在留外国人、グローバル展開における外国人対応は、現在の日本企業にとって、喫緊の課題となっています。この解決策の1つとして、中心的な役割を果たす取り組みが「WEB多言語化」です。しかもその主戦場はインターネットにあります。
そして、この多言語化を迅速かつ確実に実現してゆくうえで、最も重要な経営判断が「外国人対応を全社的な戦略にすること」なのです。
営業部、人事部、経理部、総務部などと同等に、外国人対応の立案・実行を統括する事業部署「外国人対応部」および「外国人対応最高責任者: CMLO(Chief Multilingual Localization Officer)、またはCMXO(Chief Multilingual Experoence Officer)」の創設が、直面しているさまざまな課題の解決はもちろん、競合他社に先んじた外国人対応で大きなプライオリティを得る戦略となります。
なかには「たかが商品名やECサイトの翻訳のために、事業部までつくる必要があるのか」と思う人もいるかもしれません。
なぜ、現代の日本企業に求められる外国人対応に、全社的に戦略化して事業部まで新設する必要があるのか、いま実際にビジネスの現場で起こっている「多重発注、多重コスト問題」と「ブランディングぐちゃぐちゃ問題」を例に説明しましょう。
第1の「多重発注、多重コスト問題」とは、その名のとおり、1つの商品名について、複数の部門や部署で翻訳を発注してしまった結果、余計な翻訳料を支払うことになるケースです。
例えば、ある携帯電話会社に「もしもし安心パック」というサービスがあったとします。近年、インバウンドや在留外国人のお客様が激増している実店舗の売り場では、対応策として、翻訳会社に依頼し、サービス名および説明文を外国人にも分かるよう英語に訳してもらいます。
一方、ECサイトで急増する外国人ユーザーに対応するため、EC事業部でも、同じく「もしもし安心パック」のサービス名と説明文の翻訳を別の会社に依頼します。つまり、「もしもし安心パック」とその説明文では、二重に翻訳料金を支払うことになるのです。翻訳を依頼するシーンが増えれば、無駄なコストは三重、四重と増えますし、品数が多ければ多いほど、膨れ上がることになります。
社内のあらゆる多言語化の取り組みを統括的に運営する外国人対応部署があれば、どこか1つの部門や部署から「もしもし安心パック」の英訳について相談や依頼が寄せられた時点で、全社的なコンセンサスとなるため、このような問題は起こりません。
第2の「ブランディングぐちゃぐちゃ問題」は、さらに深刻です。
先ほどの「もしもし安心パック」の例で言うと、実店舗の売り場で依頼した翻訳会社は「moshi-moshi all inclusive prices」と英訳し、EC事業部が依頼した別の翻訳会社は「Hello
Anshin-pack」と英訳したとします。
この「もしもし安心パック」をECサイトで見た外国人ユーザーが、実店舗に行って「Hello Anshin‒pack」を求めたとしても、売り場の同サービスは「moshi‒moshi all inclusive prices」 と訳されているので、外国人顧客が何のサービスを求めているのか、見当もつかないでしょう。
こうして、貴重な販売機会を失うだけでなく、売り場も含めた社内の混乱も避けられません。何より、大切な「もしもし安心パック」のブランドを毀損するリスクまで発生します。 これも、会社のすべての製品、サービスの翻訳に関して一元的に管理する外国人対応部があれば、起こりえない問題なのです。
「では、商品、サービス名およびその解説文の翻訳に関して管理するチームを営業部内に作ればすむことではないか」という意見が出るかもしれません。しかし、外国人対応(多言語化)の課題や問題は、営業部管轄となる「商品、サービス名や説明文の翻訳」に限られたことではありません。
例えば、コンビニエンスストアやスーパーマーケット、飲食店など、ふだんの暮らしのなかでも、店舗でさまざまな国から来た外国人が働いているシーンは珍しくなくなりました。この傾向は、小売業に限ったことではありません。
多くの企業が外国人を雇用している現在、人事部の仕事においても、多言語化の必要性は大きくなるばかりです。当然、給与明細を出す経理部、社内のあらゆる調整に関わる総務部など、どの事業部の仕事でも、外国人対応(多言語化)の必要性は高まり続けています。 これらの部門や部署のさまざまな課題や問題に対して、横断的に対応するには、タスクフォースのプロジェクトチームでは不十分です。
よって、これからの外国人対応においては、ブランドや商品、サービスの翻訳、ECサイトの多言語対応、社内の外国人スタッフ対応など、あらゆる「多言語化」に関して、部門や部署を超えて横断的に取り組み、コンテンツを一元管理するために、営業部や人事部、経理部などと同格の事業部「外国人対応部」と、その戦略の実行に関して決裁権を持つ「CMLO(CMXO):外国人対応最高責任者」の存在が不可欠となるのです。
社内の外国人対応案件に関してはもちろん、自社の「外国人対応(多言語化)戦略」を対外的に説明する場合にも、「外国人対応部」と「CMLO(CMXO)」は重要な役割を果たします。「外国人対応(多言語化)」についてコミュニケーションするとき、クライアントや取引先は「CMLO(CMXO)」をカウンターパートとすれば、全社的に話を通すことができるからです。
「外国人対応部」と「CMLO(CMXO)」を新設し、多言語化を一元的かつ全社的に管理・運営することは、ブランド毀損や二重発注のリスク回避、外国人スタッフの労働環境整備など、差し迫った課題の解決だけでなく、競合他社に先んじた外国人対応を実現する有効な戦略となるのです。
「多言語体験(MX)」の最適化は、翻訳することが目的ではありません。例えば、外食店の勤怠システムや業務マニュアルを多言語化する場合、「外国従業員の満足度」、「入社後 の教育期間の短縮」など、次のような視点での社内評価が必要でしょう。また、自社ECを 多言語化する場合は、「越境ECでの海外販売」、「在留外国人向け販売高やトラフィック」 など。外国人顧客向けにFAQ(サポート)ページを多言語化する場合は、「外国人ユーザーの満足度」および「外国人向けサポート業務の生産性」などの社内評価も必要になります。
第2章 「多言語体験(MX)が新市場攻略のカギ」に続きます。
佐藤菜摘
前職は、広告代理店にて大手CVSの担当営業として、販促物製作やブランディングプロジェクトに従事。2016年WOVN Technologies株式会社に入社し、広報業務を担当。2022年よりMarketingチーム。