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インバウンドと地域をつなぐ JR東日本の MaaS の取り組み|JR東日本 上手氏|GLOBALIZED インバウンド

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佐藤菜摘

 本記事のポイント 

  • MaaS は「利用者の快適な移動を実現し、新たなライフスタイルを作り上げる」事業

  • インバウンドが盛り上がる今、インバウンド向け商品の開発と、各種サービスの多言語化は必須

  • インバウンドのシームレスでストレスフリーな旅に向けて、各所と連携し、都市の快適化や首都圏から地方への誘客を図っていく

Wovn Technologies株式会社は、2024年5月16日に「GLOBALIZED インバウンド」を開催し、「インバウンド最前線 2030年15兆円市場へ 〜訪日インフラに求められる多言語対応とは〜 」をテーマにセッションをお届けしました。

当セッションでは、東日本旅客鉄道 マーケティング本部 MaaS ユニットである上手 麻里子氏を迎え、「インバウンドと地域をつなぐ JR東日本の MaaS の取り組み」と題して、JR東日本で取り組む MaaS サービスとインバウンドの課題と対応策についてお話を伺いました。本レポートではその内容をご紹介します。

 

【登壇者】
上手 麻里子 氏
東日本旅客鉄道株式会社
マーケティング本部 MaaSユニット

車両メンテナンス業務を皮切りに、乗務員や指令員、輸送計画などの鉄道事業を幅広く経験。2022年から MaaS に携わり、JR東日本が各地で展開する MaaS 事業の広範囲な業務と、日本人およびインバウンド対応に資する企画・宣伝を担当。

 
 

私は、2022年から MaaS に携わり「都市を快適に、地方を豊かに」のコンセプトのもと、企画宣伝の業務を進めています。MaaS とインバウンドとを融合し、インバウンドのお客さまにも MaaS をご利用いただくことで、ゴールデンルートから足を伸ばすハードルを下げ、より気軽に、便利に東日本エリアをご旅行いただける、そんな解決策をご紹介します。

 

鉄道事業者が MaaS に取り組む意義

まずは、当社 JR東日本の事業概要についてまとめました。駅数は1,681駅あります。また、2023年度のデータになりますが、「Suica」 は累計発行枚数1億枚を突破しております。また、2024年5月9日から始まりました「JRE BANK」も大変好評いただいております。

ただ、少子高齢化やテレワークの浸透により、コロナ禍以降、定期券利用者は減少したままの状態が続いています。鉄道の運行だけに従事しているのでは衰退を招きます。地域の皆様の生活を支えることを使命としながら、新たな分野に挑戦することが必要です。

当社が挑戦する新しい分野のひとつとして、「MaaS(Mobility as a Service) があります。様々なモビリティを、アプリや Web サービスと統合し、あたかもひとつのサービスであるかのように提供することです。それにより、利用者の快適な移動を実現し、新たなライフスタイルを作り上げる事業です。

どうして鉄道会社が MaaS に取り組むのか。例えば、路線バスの減便、タクシー運転手の不足による運転台数の減少といった、目的地の交通サービスの衰退などの交通課題があります。これを放っておくと、当社の新幹線でいらっしゃったお客さまの目的地での行動範囲がどんどん小さくなっていきます。この時点では、まだ当社の新幹線や特急といった、長距離輸送手段の収入は維持されていますが、そのまま放っておくと、旅全体をマイカーに変えてしまったり、交通課題のない便利な地域への旅行先の変更、または旅自体を取りやめてしまうといったシフトが起こります。

従来の交通サービスを維持できなくても、MaaS を使ったより効率的な交通サービスの提供や観光施設のチケットのデジタル化、アクティビティの事前手配など、積極的に地域の課題を解決し、魅力ある地域を支えることは、当社の事業にとってとても大切なことです。

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JR東日本が取り組む 4つの MaaS

当社の強みは、お客さまが多く情報の集まる首都圏と、素材あふれる東北・甲信越エリアの両方を事業領域としているところです。当社の目指す MaaS は、首都圏の情報力を地方へ、地方の魅力を首都圏へ、うまく循環させていくことだと考えています。

当社の取り組む MaaS は大きく4つあります。

  1. JR東日本アプリの開発
    快適な移動をサポートする、鉄道やその他公共交通のリアルタイムな情報をお届けするアプリです。現在では1,000万ダウンロードを実現し、高い評価をいただいています。また、当社が運営する切符購入サイト「えきねっと」や、航空会社のチケット購入サイトにも遷移できます。

  2. リアルタイム経路検索の運営
    遅れや混雑のリアルタイムな情報を把握できるしくみです。
    リアルタイムデータ連携基盤「RT-DIP」を構築し、その基盤に交通事業者のリアルタイムデータを連携し集約することで価値をより高め、このデータを LINEヤフーなどの検索会社に提供するというスキームです。
    交通事業者が相互に連携しながら、ワールドワイドな検索会社各社と対等に取引できるスキームを構築し、運用できていることは、日本の新しいビジネスモデルの一つになり得ると考えています。

  3. 「Tabi-CONNECT」による地域・観光型MaaSの展開
    遅れや混雑のリアルタイムな情報を把握できるしくみです。
    リアルタイムデータ連携基盤「RT-DIP」を構築し、その基盤に交通事業者のリアルタイムデータを連携し集約することで価値をより高め、このデータを LINEヤフーなどの検索会社に提供するというスキームです。
    交通事業者が相互に連携しながら、ワールドワイドな検索会社各社と対等に取引できるスキームを構築し、運用できていることは、日本の新しいビジネスモデルの一つになり得ると考えています。

  4. オンデマンド交通の運営
    2019年以降東北各地や長野県軽井沢で、オンデマンド交通「よぶのる」の実証実験を行ってきました。観光客の利便性向上と、地域にお住まいの方の普段使いにもご利用いただいています。


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インバウンド向け商品と多言語対応

桜の見頃を迎えた東北各地や観光地の駅構内、バス停、観光案内所などには、インバウンドの方で列ができ、お待ちいただいている状況が多くありました。また、海外現地での旅前のインプットを目的としたインバウンド拠点「JAPAN RAIL CAFE」も好評いただいています。盛り上がりを見せるこのような状況から、当社はインバウンドのお客様のためのサービス展開を急ピッチで進めています。代表的な事例を2つご紹介いたします。

  1. インバウンド向け商品
    鉄道6社共同で販売するインバウンド専用パス「JAPAN RAIL PASS」や JR東日本独自で展開する「JR EAST PASS」など、インバウンド向けの周遊パスです。また、インバウンド向けの「Welcome Suica」もご用意しています。

  2. 既存の Web サービスの多言語化
    まずは、WOVN.io を導入してホームページを多言語化し、またそれに合わせて「Real-time Route Search」やきっぷの販売を行う「JR-EAST Train Reservation」、MaaSの「Tabi-CONNECT」も翻訳機能をリリースしました。

    WOVN.io を使っての翻訳の際、大変ありがたかったのは、最初のホームページの多言語化の際に作成した翻訳の辞書を、他のサービスの多言語化の時にも使えたことです。鉄道用語やサービスの名称など、固有名詞は翻訳を揃えたいものですが、それがとても簡単にできました。

    また、よく使うのはピボット翻訳という方式です。英語だけプロの方に翻訳していただいて、その英語をもとに機械翻訳をかけることで、確認作業がかなり少なくなり、準備期間を短くリリースできるようになりました。

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インバウンドのシームレスでストレスフリーな旅に向けて

まだまだインバウンドの方の対応は十分とは言えず、課題もあります。

  1. 列車の遅れや運休など、輸送障害への対応を駅社員のマンパワーに頼っている
    対応策:「Real-time Route Search」を使い、お客様ご自身の端末で遅延情報をキャッチし、別のルートを検索して行程変更を行える環境を整備しています。検索結果画面から予約の変更や決済を行えることで、旅行の行程変更をスムーズに、ご自身の端末で手配が完結できることで、輸送障害へ対応しやすくなると考えています。

  2. サービスをインバウンド旅行客に認知してもらう
    対応策:国内向け切符購入サイト「えきねっと」は Google マップと API 連携をしており、Googleマップの検索結果からダイレクトに「えきねっと」のチケット購入画面に遷移できます。インバウンドのお客様も普段使いしているようなワールドワイドツールから、多言語化したマイクロサービスへダイレクトにリーチできるようにしていくことで、インバウンドの方への認知度向上を図り、商品・サービスを届ける導線を確保していきたいと考えています。

  3. 多くあるパスの中から、適切なものを旅行者自身で選ぶ必要がある
    対応策:「JR EAST Rail PASS Search」という検索サービスを今年の夏ごろリリースする予定です。旅行の目的地を入力すると、行程に合わせたインバウンド向けパスをご案内します。

  4. 窓口に並びの列ができてしまう
    対応策:短期間・短期滞在者であるという確認を、画面画像認識の技術を用いた開発を進め、自動券売機で非対面で自動で行うことを目指しています。

また、来年2025年春ごろリリース予定の「Welcome Suica Mobile」による、キャッシュレス化・チケットレス化の取り組みや、「Tabi-CONNECT」による観光資源をシームレスにご利用できる環境を構築することにより、混雑緩和やオーバーツーリズムの問題にも、寄与していきたいと考えています。

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これからも当社は、JR東日本アプリを軸に「えきねっと」や「Suica」など、当社のソリューションだけではなく、アライアンスを通じた他社様のサービスとシームレスに繋がることで、都市を快適に変えていきます。

また、それと並行して、各自治体やプレイヤーの皆様と対話を重ねながら、地域観光型 MaaS を通して、地域の課題解決と、首都圏から各地への誘客を図っていきたいです。

インバウンドの方にもシームレスでストレスフリーな充実したご旅行が届けられるよう、今後も取り組みを進めてまいります。本日はありがとうございました。

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Wovn Technologies株式会社は Web サイト多言語化ソリューション「WOVN.io」を提供しています。多言語化についてご興味のある方は、ぜひ資料をダウンロードください。

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