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羽田空港における One to One マーケティング ~データ活用による顧客体験の向上&DX の促進~|日本空港ビルデング 堀氏|GLOBALIZED インバウンド
佐藤菜摘
本記事のポイント
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旅のマーケティングは顧客起点。1億通りのニーズを想定し、価値を創造する
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アプリを使った「One to One マーケティング」でお客様に合った情報をタイミングよく発信し、旅前から旅後までフルカバー
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人力翻訳では不可能に近い、羽田空港利用者の上位10言語の対応に「WOVN.app」の導入を検討
Wovn Technologies株式会社は、2024年5月16日に「GLOBALIZED インバウンド」を開催し、「インバウンド最前線 2030年15兆円市場へ 〜訪日インフラに求められる多言語対応とは〜 」をテーマにセッションをお届けしました。
当セッションでは、日本空港ビルデング株式会社 デジタル事業推進室・マーケティング戦略部で次長を務める堀 史晴氏を迎え、「羽田空港における One to One マーケティングの取り組み事例 〜データ活用による顧客体験の向上&DX の促進〜 」と題して、One to One マーケティングの重要性、アプリ使った外国人向けの今後の取り組みについてお話を伺いました。本レポートではその内容をご紹介します。
【登壇者】
堀 史晴氏
日本空港ビルデング株式会社
デジタル事業推進室 次長
マーケティング戦略部(兼務)次長
山形県出身。1994年日本空港ビルデング入社。デジタル事業推進室 次長/マーケティング戦略部(兼務)次長。全てのお客様が安心・安全・快適に羽田空港をご利用いただけるように、羽田空港の DX戦略・マーケティング戦略を推進中。
目次 |
国際空港評価の3部門で世界1位の羽田空港
日本空港ビルデング株式会社は約70年前に創立されました。「公共性と企業性の調和」を基本理念に掲げ、グループ全19社で羽田空港旅客ターミナルビルの建設、運営管理・運営をしています。主に3つの旅客ターミナルと周辺の駐車場や様々な関連施設の一部も運営しています。
羽田空港は、2019年には世界5位の航空旅客数を誇っていましたが、コロナ禍に入ってその数は急激に落ち込みました。日本は、世界的に見るとコロナ禍からの回復が少し遅く、22年度でもまだ16位の旅客数でしたが、昨年度にようやく旅客数が世界5位・7,800万人強とコロナ前の水準に戻りました。
また、羽田空港は SKYTRAX 社が実施する空港の格付けで、10年連続ファイブスターエアポートという最高評価をいただいています。部門別でも様々な “世界一” を獲得しており、「きれいな空港」部門では9年連続、「国内線空港総合評価」部門では12年連続、「障害者の方に優しい空港」部門は6年連続で世界一をいただいています。
約1億人の空港利用者 = 約1億通りのニーズを想定したマーケティング活動
マーケティング活動においては「顧客起点経営」を大切にしており、「羽田空港の顧客の幅広いニーズを理解し、それを叶える価値を創造することで、顧客満足度の向上および空港の収益拡大に貢献すること」をミッションに掲げています。
羽田空港の航空旅客者数は、現在約7,800万人ですが、私たちが想定する「お客様」というのはこれが全てではありません。従業員、取引先、空港のファンで遊びに来てくれる方、食事や買い物にいらっしゃる方なども約3,000万人いますので、合わせると1億人を超えるお客様がターゲット、つまり約1億通りのニーズがあります。
そんなお客様のニーズを理解するために、私たちは以下4つの施策を行いました。
- 利用者像の仮説構築
仕事で羽田空港を利用する方、遊びに来る方、旅行に行く方など、様々な方がいらっしゃるので、羽田空港の利用者像の仮説を立てて、どんなサービスが求められているのかを検討・整理 - 追跡調査
羽田空港に来たお客様が、どこに・どのぐらい滞在して・どんなサービスを使っているのかを実際にモニタリング - 顧客 Web アンケート
羽田空港の利用者に数千人規模でアンケートをとり、満足できる点・不満な点を数字で集計 - 顧客オンラインインタビュー調査
実際のお客様にオンラインインタビューを実施し、生の声を収集
こうした活動の結果、アプリが顧客との重要なタッチポイントになると考え、羽田アプリを2021年にローンチしました。
アプリを使った One to One マーケティングへ
アプリをローンチしたあと、まずはマスマーケティングで全員に同じ情報を発信するところからはじめましたが、そこには限界があります。そこで、その人に合った情報をタイミング良く出していく One to One マーケティングにも取り組みはじめました。
たとえば空港には、「乗り遅れないかな」「ゲートは混雑していないかな」などと不安を抱いている方も多いと思います。これに対し、アプリを通じてその人に合った情報発信をすることで、空き時間を活用いただき、空港をより楽しい時間にシフトできると考えています。
大事なのは、位置情報や趣味嗜好、空港の利用頻度など、そのお客様に合った情報をタイミングよく発信し、旅前から旅後までフルカバーすることです。
例として、海外・国内旅行の事例をご紹介します。
- 海外旅行のお客様に向けた取り組み
登録した旅行情報を元に、「Wi-Fi はロッカーでの受け取り可能」、「免税品は事前に Web で予約すると受け取りが便利」などをアラート配信。お客様は、アプリで事前に予約し、当日は時間に余裕をもって出国できます。 - 国内旅行のお客様に向けた取り組み
登録した旅行情報を元に、「お土産は EC で予約するとすぐに受け取り可能」、「自宅配送サービスが安くなるキャンペーン中」などをアラート配信。お客様は、ギリギリまで観光に時間を割いて旅行を楽しむことができます。
また、私の部署では DX による一体的な取り組みを大事にしています。現在は、大きく8つの施策を行っており、たとえば「基幹業務システムの改善」や「混雑状況の把握と予想」、「顧客満足度の把握」などがあります。
これらは、それぞれ単一の取り組みとして個別に行うのではなく、全体感をもって進めることが大切だと考えています。たとえば、売上データだけをみて「絶好調だ」と思っても、Web アンケートや Google の口コミをみると、「大混雑で買えなかった」というお客様がいるかもしれません。一点だけをみて成果を判断するのではなく、様々な観点からデータ収集と現状把握を行い、施策に移す。こうしたことを繰り返すことで、よりよい運営を行っていけると思っています。
WOVN.app で、空港利用者の上位10か国語を翻訳予定
羽田空港からの出国者数は、コロナ前には外国人が45%、日本人が54%であったのに対し、現在は外国人が57%、日本人が42%と逆転しています。また、羽田免税店の国籍別売上推移をみると、「東南アジア・韓国・台湾・北米・その他」が非常に伸びていることがわかります。
こうしたデータからも、外国人に対するマーケティングはとても大事だと考えています。特に空港には、色々な母国語の方がいらっしゃいますので、多言語対応が重要で、それも英語や中国語だけでは不十分です。そこで、アプリの多言語化ソリューションである WOVN.app を導入し、多言語化することを検討しています。
今のアプリは、日本人向けに日本語でしか対応していないのですが、WOVN.app で様々な国の方の母国語で羽田空港のサービスを提供する予定です。例えば、10言語を人力で多言語対応するのは不可能に近いですが、WOVN.app を使うことで10言語の多言語化も可能となり、この結果、羽田空港利用者の98%以上の人に母国語での情報発信が可能になります。
こうした多言語対応に加え、ID 統合・連携のプロジェクトも行っていきたいと考えています。空港にはアクセス・ターミナルビル・航空とありますが、全て事業者が違います。これに対し、API 連携などで ID 統合を行い、デジタルプラットフォームを通じて1つの ID で様々な事業者のサービスをつなぐことで、お客様に合った One to One の情報発信を行っていけたらと思っています。
私たちが大切にする One to One マーケティングと、今後の取り組み予定についてご説明させていただきました。ご清聴ありがとうございました。
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佐藤菜摘
前職は、広告代理店にて大手CVSの担当営業として、販促物製作やブランディングプロジェクトに従事。2016年WOVN Technologies株式会社に入社し、広報業務を担当。2022年よりMarketingチーム。