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お客様と “深く広く” 繋がる、ユナイテッドアローズが取り組む顧客体験価値の最大化|ユナイテッドアローズ 木下氏|GLOBALIZED 小売業界の訪日体験 DX

佐藤菜摘

本記事のポイント
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インバウンド需要における、今後のファッション業界のポテンシャルは高い
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訪日客の購買体験向上、そして商品の価値を正しく伝えるため、デジタルを活用し“言葉の壁”を乗り越える
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多言語ソリューションや代理購入サービスを活用し、EC サイトから帰国後の商品購入に繋げる
Wovn Technologies株式会社は、2024年11月29日に「GLOBALIZED 小売業界の訪日体験 DX」を開催し、「旅行フェーズに沿った多言語デジタル施策」をテーマにセッションをお届けしました。
導入事例講演では、株式会社ユナイテッドアローズ EC開発部 部長である木下 貴博 氏を迎え、「お客様と “深く広く” 繋がる、ユナイテッドアローズが取り組む顧客体験価値の最大化」と題して、自社 EC を軸とした顧客体験向上の取り組みについてお話を伺いました。本レポートではその内容をご紹介します。
【登壇者】
木下 貴博 氏
株式会社ユナイテッドアローズ
EC開発部 部長
大学卒業後Sierを経て2004年秋にユナイテッドアローズへJoin。IT戦略Grで商品、販売関連基幹システムのエンハンスやリプレース、子会社立上げ時のITリードやiPhone、iPadを用いた店舗業務改革、EC周辺のデータ管理やデジタル系ソリューションの企画導入などの経験を経て、2017年よりデジタルマーケティング部門、翌年よりIT部門の責任者に着任。2018年後半より自社ECのリプレースプロジェクトのプランからプロジェクト化、プロジェクトリードを進めつつ、自社ECの成長に向けた専門組織「EC開発部門」の前進を立ち上げて現職に至る。
私は EC 開発部の責任者として、長年運営してきたポイントプログラムの刷新や UI デザインのリプレイスなどに取り組んでいます。
直近では海外展開に関する発表が続いています。今年8月には、日本のルミネがシンガポールで運営する「ルミネシンガポール」内に「ユナイテッドアローズ」を開店しました。10月には、韓国のバッグブランド「OSOI」の国内の販売独占ライセンスを取得したことを発表しました。来年の1月には、上海の商業施設「ジンアン ケリーセンター」1階に路面店のような外観の大規模な出店が決まりました。今年はタイにも FC(フランチャイズチェーン)で出店しており、出店という物理的な海外展開を積極的に進めています。
会員プログラムで、複数のタッチポイントから顧客の心理・行動の変容を掴む
こちらは自社 EC が10年弱でたどってきた経路です。
コロナ禍の苦しい時期を経て、昨年末より店舗のデジタル化や OMO に着手できるようになりました。昨年時点で自社 EC は売上高130億円を超える規模まで成長しています。
当社では、長年ポイントプログラムを運営しています。そのため、店舗やオンラインでの行動、その他オウンドメディア以外の行動についても徐々に情報を取得できるようになってきていますが、店舗とデジタルの端境での活動や、心理・行動の変容については情報を取得しづらいです。
そこで昨年、アクションベースの「マイル」という単位に置き換えるプログラム変更を行いました。刷新した際には、お客様が「何をすればどのような良いことがあるのか」をわかりやすくすることを改善ポイントとして設計しました。また、お客様との関係期間は平均でも2〜3年はあるため、さらに長く継続してもらえるインセンティブプログラムになるよう見直しました。
1年前と比較して会員売上高をはじめ稼働会員数、F2 転換率といった主要指標は狙いどおり上昇しています。ミクロに分解していくとプログラムの課題も見えてきたため、徐々に解決すべく次の対策を進めています。
訪日需要におけるファッション業界のポテンシャルの高さ
自社 EC を基軸に、3C と PEST の切り口でどのように変化しているか、1年に1回アップデートした内容を踏まえて次の対策を考えています。
「Competitor」を見ると、どの業界でもコロナ禍後、速やかに様々な施策を打ち出している企業が多いかと思いますが、ファッション業界も同様です。国内マーケットの縮小が進む一方、インバウンドには光明も見えていると考えています。
他にもテクノロジーの進歩や経済圏の境界がなくなる中で、これから取り組むべきことの1つがインバウンド対応だと捉えています。
日本政府観光局(JNTO)の統計情報は当社も注目しています。米ドル対円の円安傾向を背景に、2014年頃より訪日客数増加が加速するトレンド転換がありました。その後コロナ禍での訪日客数減少を経て、2024年は間違いなく過去最高になるといわれています。国内で消費する人口に占める訪日客の割合が高くなっていることをマクロの状況として見ています。
さらに、ファッションに関する指標もモニタリングしています。訪日客の消費カテゴリーをコロナ禍前の2019年と2023年で比較すると、ファッションはアップトレンドにあります。しかし、買い物の場所については、60%前後がコンビニエンスストアやデパートで買い物をする一方、ファッション専門店では20%程度にとどまっています。これには、日本のファッションの良さをさらに訪日客に届けることで、店舗への来店を増やすポテンシャルがあると考えています。
ソリューションを活用し、言語・国境・共通サービス化の壁を越える
当社の店舗は全国にあり、これまでも訪日客に満足してもらえる買い物を提案し続けてきました。フィジカルのタッチポイントで一番初めに問題になるのは昔も今も「言葉の壁」です。店舗ではタブレット端末などを活用し、画面を指で示しながら中国語や英語で応対しています。
ただ、提供するファッションは機能的というより情緒的なものです。ディティールやニュアンスをどこまで正しく伝えられるかで、商品が持つ本当の価値を正しく伝えられるかどうかが大きく変わります。こういった点を踏まえると、現代でも言葉の壁はまだ存在し、乗り越えていく必要があると考えています。
自社 EC には以前より WOVN.io を導入し、英語・繁体字・簡体字で展開しています。このようなオウンドメディアを店舗でも使って応対するなど、日々工夫を凝らしながら接客をしています。
大きな1つ目の「言語の壁」を越えても、次は「国境の壁」が存在します。現在、当社の会員プログラムは日本国内に在住するお客様向けです。国内で商品を購入した訪日客に帰国後も忘れられることなく、必要なときに必要な情報を提供できるかが、次の壁と考えています。これに関して、自社 EC では多言語ソリューション WOVN.io の他に、代理購入サービスも導入して海外からも商品を購入できるようにしています。
さらにその先に存在するのが「共通サービス化の壁」です。国内の課題解決に向けて会員プログラムを刷新しましたが、海外在住のお客様も参加できるようには整っていません。次の一手として、中長期的には海外のお客様にも喜んでもらえてコミュニケーションを育めるような会員プログラムへの刷新を検討し始めました。
当社は他社より進んでいると思われることもありますが、まだ取り組めることや課題は多く、アップデートしていければと考えています。
Web サイト多言語化のご相談は WOVN へ
Wovn Technologies株式会社は Web サイト多言語化ソリューション「WOVN.io」を提供しています。多言語化についてご興味のある方は、ぜひ資料をダウンロードください。

佐藤菜摘
前職は、広告代理店にて大手CVSの担当営業として、販促物製作やブランディングプロジェクトに従事。2016年WOVN Technologies株式会社に入社し、広報業務を担当。2022年よりMarketingチーム。
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