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グローバル市場を勝ち抜くために〜B2B マーケティングは戦略とコンテンツが鍵〜|シンフォニーマーケティング 庭山氏|GLOBALIZED B2B 製造業

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佐藤菜摘

 本記事のポイント 

  • 日本の B2B マーケティングは世界に大きく遅れている。ツールを導入する前に戦略や戦術といった原理原則を学ぶことが重要

  • 販売代理店が売りやすくなる「適切にローカライズしたコンテンツ」を用意することで、海外への販売効果を高められる

  • 売上は「顧客基盤×営業基盤」。顧客基盤がない海外ではマーケティング部隊がまずそこを構築する

Wovn Technologies株式会社は、2024年7月2日に「GLOBALIZED B2B製造業」を神田明神ホールにて開催し、「グローバル競争を勝ち抜くための Web 戦略」をテーマにセッションをお届けしました。

当セッションでは、シンフォニーマーケティング株式会社  代表取締役である庭山 一郎 氏を迎え、「グローバル市場を勝ち抜くために〜 B2B マーケティング戦略の鍵はローカライズ〜」と題して、日本の B2B マーケティングの現状と今後日本企業がグローバル市場で戦うために必要なことについて、お話を伺いました。本レポートではその内容をご紹介します。

【登壇者】
庭山 一郎 氏
シンフォニーマーケティング株式会社
代表取締役

1962年生まれ、中央大学卒。1990年9月にシンフォニーマーケティング株式会社を設立。数多くのマーケティングプロジェクトを手がけ、1997年より B2B にフォーカスした日本初のマーケティングアウトソーシング事業を開始。製造業、IT、建設業、サービス業、流通業など各産業の大手企業を中心に国内・海外向けのマーケティング&セールスのアウトソーシングサービス、研修サービスを提供している。IDN 理事。中央大学大学院ビジネススクール客員教授。早稲田大学 WASEDA NEO 講師。


上森 久之
Wovn Technologies株式会社
取締役副社長 COO・CPO


北海道大学 大学院 中退。公認会計士。デロイト・トーマツにて、新規事業/オープンイノベーションのコンサルティング、会計監査、M&A 関連業務などに従事。米スタートアップのカントリーマネージャーを歴任。

 

上森(WOVN)
本日は、「B2B マーケティング戦略の鍵はローカライズ」というテーマで、庭山さんにお話を伺います。まず、グローバルでの B2B マーケティングについて解説講演をしていただきます。次に、グローバル企業に追いつくために取り組むべきことについて、コンテンツや組織の観点からインタビューします。庭山さんよろしくお願いいたします!

庭山(シンフォニー)
シンフォニーマーケティングの庭山と申します。34年前にシンフォニーマーケティングを設立し、日本の大手製造業にフォーカスして、コンサルティング、研修、アウトソーシングのサービスを提供しています。大手製造業と共に、製品の売り方や、事業立ち上げの方針などを日々考えています。本日は、そのような現場の現役マーケターとしての視点からお話できればと思います。

 

遅れをとる日本の B2B マーケティングに必要なのは「育成」

庭山(シンフォニー)
実は日本の B2B マーケティングは、アメリカやヨーロッパに比べて15年遅れています。さらにその差は広がっており、特にマーケティングテクノロジーの進化は加速しています。スコットブリンカーが作成したマーケティングテクノロジーのカオスマップは、10年前では約300のブランドが掲載されていましたが、2024年版では1万4,500を超えています。しかし、その中で日本に導入されているものはごくわずかです。

では、進化したアメリカやヨーロッパのマーケティングテクノロジーで何が起きているかというと、実は原点回帰です。テクノロジーが進化する中で、人間であるマーケターに残された仕事は、戦略や戦術といった原理原則です。私がマーケティングを学び始めた40数年前に、師匠にマーケティングの原理原則は「Right Person、Right Information、Right Timing」の 3R だと言われました。つまり正しい人に、正しい情報を、正しいタイミングで伝えることがマーケティングの要諦だと教わったのです。それは何も変わっていません。

この原理原則がわからなければ、いかなるツールも使いこなせません。つまり、誰が Right Person で、その人が今欲しい情報は何か、その人が情報を受け取るタイミングはいつかを調べる道具が、世界で1万4,500あるというだけです。
日本の B2B マーケティングが成果を出せない理由は、日本人がツールから入ってしまうことにあります。マーケティングオートメーションの操作ができることと、マーケティングができることは全く別です。マーケティングを勉強しないとマーケティングオートメーションは使えませんということをちゃんと理解しましょう。

「アンゾフのマトリックス」で有名なイゴール・アンゾフも「3S」を提唱しています。何かの課題を解決するには、まず戦略(Strategy)を立てなさい、次にその戦略を実現するために十分な質と量を持った組織(Structure)を作りなさい、この2つができたら初めてシステム(System)が導入できますよと言っています。だからこそ、マーケティングが遅れている日本企業が投資すべきなのは道具ではなく、マーケティングのナレッジであり、マーケティングの人材を育成することです。

 

B2B のユーザーを動かすのはロジックで、ケーススタディが有効

上森(WOVN)
高価なマーケティングオートメーションを導入しても、ただのメール配信ツールになってしまうことがありますよね。

庭山(シンフォニー)
ナレッジがないとマーケティングオートメーションはスパムメールを量産するだけになり、デジタルレピュテーションが下がってメールが届かなくなるリスクがあります。マーケティングオートメーションをメール配信ツールとしか認識していないなら、本当に運用を止めた方がいいくらい危険です。

上森(WOVN)
ツールの使い方を勉強しつつ、オーディエンスの心を動かす、そういうマーケターになっていくべきということでしょうか。

庭山(シンフォニー)
実はマーケティングにおいて、ユーザーの心を動かす方法は B2B と B2C で大きく異なります。B2C ではエモーショナルな要素が強く求められますが、B2B ではロジックが重要な役割を果たします。

例えば、コカコーラがなぜ売れているのかをロジックで説明することはできませんが、そのブランド力は IBM やソニー、アップルと並ぶほどです。B2C マーケティングでは、購入者が自分のお金で欲しいものを買うため、エモーショナルな要素が大きな影響を及ぼします。コカコーラを買うときに稟議書を書く人はいません。

一方、B2B マーケティングではロジックが重要です。B2B の取引では、稟議を通す必要があるため、購入の理由をロジックで説明できなければなりません。例えば、WOVN のシステムを導入する際、「格好いいから」と説明するのではなく、「どういう課題を解決し、どのようなリスクヘッジをするか」を明確にする必要があります。その際に一番頼りになるのはケーススタディです。

なぜケーススタディが重要なのか。B2B では、買い手が売り手よりも製品に詳しいことが多いでしょう。例えば、複雑な工作機械を販売するセールスマンとその機械を日々使用するエンジニアでは、エンジニアの方がその機械に詳しいことが珍しくありません。B2Bマーケティングでは、スペックを強調するだけでは不十分です。買い手はすでにカタログを読み、スペックを理解しています。その上で、実際の課題をどのように解決したのかを知りたいのです。

だからこそ、B2B マーケティングではケーススタディが非常に重要です。ケーススタディを通じて、どの業種や規模の企業がどのような課題をどのように解決したのかを具体的に示すことができます。これにより、買い手は自社の課題解決のヒントを得ることができます。また、このようなケーススタディをグローバルに展開することが、B2B マーケティングの成功に繋がります。

庭山

 

代理店が「売れる」と思えるコンテンツを充実させる

上森(WOVN)
海外の企業向けにマーケティングする際に特に気をつけるべき点はどんなことですか?

庭山(シンフォニー)
日本の B2B マーケティングが欧米に比べて最も遅れているのは、パートナーリレーションシップマネジメント、つまり販売代理店活用の分野です。欧米ではこの分野のノウハウが確立されていますが、日本ではまだそのノウハウが浸透していません。

B2B マーケティングにおいては、適切なパートナーの選定とそのモチベーションを高く保つことが重要ですしかし、日本企業はこの領域に課題を抱えています。ここで、コンテンツが非常に重要な役割を果たします。

代理店が積極的に売ってくれる製品にはいくつかの条件があります。売ってくれる製品の共通点は、「売れる」「儲かる」、つまり手離れがいい製品です。売れる製品かどうかは、メーカーがどれだけプロモーションを行い、良い Web サイトを作り、良い事例を提示して顧客に説明しやすくするかにかかっています。全く知られていない製品を売るのは難しく、顧客に認知されている製品であることが重要です。儲かる製品とは、カスタマーサクセスをメーカーが対応してくれる製品です。Web サイトに FAQ やチャットボットが装備されていれば、クレームやサポートの対応が代理店に来ないとわかり、代理店の負担が軽減されます。


上森(WOVN)
なるほど。先ほどお話にも上がったケーススタディをグローバルで展開する場合、世界中で同じように事例を紹介した方がいいのでしょうか? 

庭山(シンフォニー)
組織の面では、日本の本社が中心となってグローバルデマンドセンターを作り、データを統合管理すべきです。コンテンツについては、ある程度ローカライズで作った方が良いでしょう。コンテンツの効果は地域や業界によって大きく変わるため、適切なローカライズが必要で、それを全部日本でやるのは無理だからです。例えば 、自動車産業の事例が半導体の業界の顧客には効かないし、半導体の事例がバイオ業界には効かない。3M はアメリカでは非常に有名な企業ですが、日本ではそれほど知名度が高くないことがあります。むしろ、「アメリカを代表する大手ケミカルメーカー、A 社」の表現の方がむしろ感情移入して読んでくれる場合があります。

グローバルマーケティングチームは、世界中で展開すべきコンテンツをシェアしたり、逆に言語ローカライズ不要なコンテンツを見極めたり、コンテンツのコントロールをすると良いですね。

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デマンドジェネレーションができれば日本企業は世界で戦える

上森(WOVN)
今話題に上がった「グローバルデマンドセンター」とは、マーケティングのリードやコンテンツを集める、グローバルマーケティング本部のようなイメージですか。

庭山(シンフォニー)
グローバルデマンドセンターとは、デマンドジェネレーションを司る組織です。デマンドジェネレーションとは、案件を作り、商談を見つけて、これを営業や販売代理店に安定供給する仕組みを指します。デマンドセンターがあれば、営業が質の高い案件に集中できるようになり、生産性が大幅に向上します。
現在の日本の営業は、案件作りから商談、クロージング、納品、代金回収、さらにカスタマーサクセスまで全ての業務を担当しています。これが、日本の営業の生産性が先進国で一番低い理由です。

上森(WOVN)
日本の営業がすべて対応していた、お客さんの発掘から販売、サービス提供のうち、マーケティングの部分を取り除いてあげようというイメージでしょうか。

庭山(シンフォニー)
それもあります。加えて、案件作りからサポートまで全工程を担当している日本の営業がマーケティングを学ぶことで、早く優れたマーケティングチームを作ることができるという示唆もあります。
欧米では、セールスやマーケティング担当者の転職が多く、会社や製品へのロイヤリティが低い傾向があります。一方で、日本企業は生え抜きのプロパー社員が多く、会社や製品へのロイヤリティが高く、顧客との良好なリレーションシップを築いています。そのため、良いコンテンツを作成できます。
日本企業はマーケティングのデマンドジェネレーションだけが弱いですが、他の要素が強いため、改善すれば世界で戦える可能性があります。特に製造業においては、技術力や人材の質が高いため、マーケティングの弱点を補えば十分世界で戦えます。

上森(WOVN)
ありがとうございました。最後に我々はどうしていけば良いか伺えればと思います。

庭山(シンフォニー)
繰り返しになりますが、マーケティングを学ぶことが重要です。売上の方程式をシンプルに言うと「顧客基盤×営業基盤」です。日本企業が国内でマーケティングが不要だったのは、素晴らしい顧客基盤と強い営業基盤を持っていたからです。しかし、海外ではどちらも持っていません。そのため、強い代理店に頼っている状況です。

海外に進出する際も、まずマーケティングを学び、マーケティング部隊を先行させて顧客基盤を作ってから、クロージングの営業部隊が行くという順番が理想です。それが世界中の企業が実践しているグローバルスタンダードです。この方法を日本企業も取り入れ、体系的に実践すれば、日本企業はまだまだ光り輝くと信じています。

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