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多様な人材をつなぎ、成果を高めるーグローバル人事に必要なのは「言語化」だった

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佐藤菜摘

マツダ、Apple Japan、ファーストリテイリング、アクセンチュアなど名だたる企業でグローバル人事として世界に挑んできた武井氏。「グローバル人事」といっても、その姿は企業ごとに異なり、海外拠点の立ち上げや現地スタッフの自律化、各地域の連携、さらには国内での外国人材の活躍推進など多岐に渡る。しかし、どの企業にも共通する問いは一つ。「世界中の社員が活躍し、幸せに働ける環境をどうつくるか」だと武井氏は語りました。

外国人材が活躍するために、日本企業が意識すべきことは?

――日本企業が海外展開を強化する中、人事の役割も大きく広がりを見せています。外国人材を受け入れる上で、意識すべきことは何でしょうか?

例えばアクセンチュアの人事評価の特徴は、国籍による違いや語学力に頼らず、仕事のスキルとパフォーマンスに基準を置いていたことにあります。会社にとって必要な能力を持っていれば、国籍や語学力を問わず誰でも活躍できる環境でした。

一方で、多くの日本企業では、言語の壁を過度に意識しており、前に踏み出せない場面が少なくありません。外国人材を受け入れるための制度やサポート体制がまだ整っていないという理由で、「日本語がちゃんと話せないと業務に支障が出るのではないか」といった声が多く聞かれました。

しかし、日本語での会話がたとえスムーズでなくとも、スキルを基準に採用の幅を広げることが重要だと思います。


――日本人材と外国人材、それぞれが持つ特徴を活かすために重要な視点は何でしょうか?

日本はジェネラリストが多い印象ですが、海外は専門性が際立っています。企業に求められるのは、その専門性を活かせる環境づくりです。成長の機会を与え、力を発揮できる場を設計する。そして、壁にぶつかる人には手を差し伸べる。この両輪が不可欠です。

 

成果を上げるには、「仕事の進め方」をグローバル標準に合わせていく

――さまざまな国の方と働くとなると、やはり言語の壁が大きいのでしょうか?

言語の壁は WOVN などのようなサービスで解決できます。むしろ「仕事の進め方の違い」に課題があると感じています。
10年以上前に、中国国籍の人を採用したり現地から受け入れたりして日本人と同様のコミュニケーションスタイルで協働しましたが、なかなか成果は出ませんでした。個々が優秀でも、日本的な仕事の進め方では力を発揮できなかったのです。

それに気づいたのは、グローバルジョブ(※海外の社員と連携して取り組むプロジェクト)が増えた頃でした。例えばインドから来た社員は「何を、いつまでに、どのレベルで仕上げるのか」を自ら繰り返し質問して確認することで、ゴールや KPI を明確にして成果を上げました。同様に、仕事の進め方から曖昧さを排除することで、他の国の社員も成果を出せるようになり、やがて大きく成長していきました。

問題は「ゴールや到達点を明確に共有できていなかったこと」だったのです。日本人同士なら「やっておいて」と一言で済むことも、海外のメンバーには通じません。日本では話し合いながら進める傾向がありますが、海外ではゴールを明確にし、役割を分担して進める。この違いは「メンバーシップ型」と「ジョブ型」という根本的な仕事観の差から来ているのではないでしょうか。

 

――仕事の進め方をグローバル標準に合わせて行く必要があるのですね。

その通りです。国や文化が違えば、仕事の進め方や役割の認識も大きく異なります。だからこそ、ゴールや進め方を言葉で丁寧にすり合わせることが欠かせません。日本企業は新卒一括採用が中心で、同質的な環境に慣れているため、異なる背景を持つ人との協働に不慣れな人が多いのです。最近は中途採用でも似たようなことが起きているので、アップデートが必要になっています。ゴールが曖昧だと仕事の手戻りが増えて、余計な工数も嵩みます。

 

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言語化と改善の循環が形づくる、グローバル共通のベストプラクティス

――組織全体、そして国内外全体で成果を上げていくには、どうしたら良いのでしょうか?

トヨタ生産方式を例に考えてみましょう。トヨタでは、現場の暗黙知を形式知に落とし込み、手順書まで整備することを徹底しています。ただし、この手順書をそのまま海外に持ち込み「この通りにやってほしい」と伝えるだけでは、現地社員は単なる「作業者」になってしまいます。

重要なのは、現地でも改善を重ね、そこで得られた知見をさらに形式知として蓄積し、それを世界中で共有・活用することです。実際、ファーストリテイリングも海外展開にあたり、同じアプローチをとっていました。形式知化と暗黙知化を往復させながら各地の知見を集約していく。そのサイクルこそが、グローバル共通のベストプラクティスにつながります。いわゆるグローバルワン戦略です。

 

――形式知をさらに改善していくためのポイントはなんでしょうか。

まずは、トヨタ生産方式のように「基盤となるやり方」を徹底することです。うまく行かないからと、ゼロから作り直したり、人を入れ替えたりするのではなく、まずは形式化された知見、いわば守破離の「守」を徹底すること。その上で、徐々に権限移譲を進めていく。そして、そこから各地の実践を通じて進化させていく。このサイクルをグローバル全体で回すことが肝心です。

日本とアメリカでやり方が異なること自体は問題ではなく、むしろお互いの良さを伝え合い、理解し合い、共有できるかどうかが重要です。そこから、新しいベストプラクティスが生まれていくのだと思います。

 

――日本での形式知が、海外では通用しないといったことは、起きないのでしょうか。

もちろんあります。だからこそ課題に対しては「一段上のテーマ設定」を与えます。企業には国境を超えて共通する課題やアジェンダがあるはずです。それを軸に優先順位を明確化し、最終目的を常に意識しながら取り組むことで、形式知は各地で活かされやすくなります。

 

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エンゲージメントを高めるコツは、「コト」の共有よりも「感情」の共有

――最近、出社を促す会社も増えるなど、コロナ禍から少し動きが変わってきています。これは欧米でもそうですし、日本でも同じ傾向が見られます。 そんな中で、会社の求心力を高めるには、どうすればよいでしょうか。

ポイントは定期的に組織を「揺らす」ことです。人は本能的に変化を避けますが、現状維持を防ぐには揺さぶりが必要です。人は変化への対応を躊躇しがちですが、変化を受け入れることで「その先をどうするのか?」を考えるようになるのです。

 

――揺らしながらも、愛社精神を損なわないためのポイントは何でしょうか。

難しい問題ですね。Great Place To Work® Institute(※世界最大級の意識調査機関)の「働きがいのある会社ランキング」調査によると、従業員エンゲージメントは入社直後に最も高く、その後いったん低下し、5〜8年目以降から再び上昇するとのことでした。この傾向は業界や企業規模、国を問わず、世界共通だそうです。

会社へのエンゲージメントで大切なのは、「嬉しい・楽しい」といった前向きな感情だけでなく、「悲しい・悔しい・辛い」といったあらゆる感情を共有し合うことであり、共有を通じて仲間意識が育まれ、エンゲージメントの向上に繋がるそうです。ただし、この意識が企業内で根付くには通常8〜10年かかるようです。その話を聞いて、私は高校の部活を思い出しました。短い期間で様々な感情体験を共有することで、そこに絆が生まれます。

その期間を短縮する鍵は、やはり感情を言葉にして伝えることです。日本人は「何があったか」という事実に焦点を当てがちですが、「自分がどう感じたか」「どう思ったか」を率直に共有することが、海外の同僚と良好に仕事を進める上でも重要だと思います。

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成功体験を手放し、自分の言葉で発信するグローバル人事へ

――AI との共創も進む中、企業はどう変わるべきでしょうか。

変化に対応できるかは、成功体験をどれだけ手放せるかにかかっています。作れば作るだけ売れる時代の成功体験に固執するのではなく、若手をリーダーに登用するなど揺さぶりを与えながら、社員の声を仕組みに反映させる。小さな成功を積み重ね、「やってみよう」という空気を醸成することが大切です。

一方で、いつの間にか目的と手段が入れ替わって、制度や施策が白けてしまわないよう、意識することも重要になります。

 

――最後に、これからグローバル人事に挑戦する方へメッセージをお願いします。

まずは自分の考えを発信してください。世界の中でも日本人が何を考えているのか一番わからないとも言われますが(笑)、自分が大切にしていることを伝えることで、相手も心を開いてくれます。逆に、考えが見えない人は頼りにされません。人や組織を尊重しつつ、自らの言葉で発信することを第一歩にしてみてください。

 

株式会社 Interaction Pro
代表取締役
武井 章敏 氏

大学卒業後、マツダにて、営業、人材開発、海外での⽣産⼯場の⽴ち上げ、20年振りの⼈事制度の改⾰をリード。その後、Apple Japan にて日本のアップルストアの立ち上げ、ファーストリテイリングにて国内外のグループ人事機能の統合に従事。2012年より8年間に渡り、アクセンチュア執行役員人事本部長 兼 グローバルHRマネジメントコミッティメンバーを務める。コラボレーション&イノベーションを主軸にした”働き方改革による全社オープンイノベーション活動”を推進。2020年3月末退任。同年10月に株式会社Interaction Proを創業。

 

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