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グローバルで愛されるためのコミュニケーションとは?─ リコーと味の素、ブランド価値の届け方と共感のつくり方 ─|リコー 吉川氏・味の素 向井氏|GLOBALIZED グローバルブランディング

佐藤菜摘

本記事のポイント
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ブランドとは「社員そのもの」。浸透の鍵は、社員の巻き込みと腹落ち感
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パーパスを軸に、現地の文化や社会に寄り添い共通点を見出すことが、グローバルでの共感と愛着を育む
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グローバルブランディングは経営戦略の要。社員全員の理解と社内外での循環サイクルがブランド価値の創造につながる
Wovn Technologies株式会社は、2025年8月22日に「GLOBALIZED グローバルブランディング」を開催し、「本社が担う、世界から信頼されるブランドづくりと多言語コミュニケーション」をテーマにセッションをお届けしました。
スペシャルトークでは、株式会社リコーの吉川 明子氏と味の素株式会社の向井 育子氏を迎え、「グローバルで愛されるためのコミュニケーションとは?─ リコーと味の素、それぞれの届け方と共感のつくり方 ─」と題して、グローバルで企業ブランドを確立し、共感を生むための両社の戦略と具体的な取り組みについてお話しいただきました。本レポートではその内容をご紹介します。
【登壇者】
吉川 明子 氏
株式会社リコー
コミュニケーション戦略センター 所長
上智大学外国語学部卒業。放送局アナウンサーとして勤務後、渡仏。ブルゴーニュ大学修士課程ユーロメディアを修了し、在仏日本大使館、EU 委員会等で広報業務に従事。帰国後、外資系企業にて広報・マーケティング、イオン(株)にて広報、ブランディング、ESG 等あらゆるコミュニケーション業務を経験。2021 年より(株)リコー コミュニケーション戦略センター所長として、広報、ブランディング、宣伝広告等、社内外、グローバルにおけるコミュニケーション戦略立案と実行をリード、リコーグループのコミュケーションを統括している。
向井 育子 氏
味の素株式会社
マーケティングデザインセンター副センター長 兼 コミュニケーションデザイン部長
1993年入社。味の素㈱広告部制作グループに配属、パッケージ、広告のクリエイティブを担当した後、2006年事業部にマーケターとして異動。調味料「ほんだし」や中華だしなどの新領域を担当し、「Cook Do® 香味ペースト®」、「Toss Sala®」等を開発。2014年、味の素冷凍食品㈱に出向、開発マーケティングを中心にパッケージ、広告に加え、製品戦略部長として従事。「ザ★® シリーズ」、「おにぎり丸」、「夜九時のひとり呑み」等を開発。2020年、味の素㈱帰任後、生活者解析事業創造部、R&B 企画部を経て、2023年7月にマーケティングデザインセンター副センター長 兼 コミュニケーションデザイン部長、現在に至る。
目次 |
リコーと味の素、ブランドを指揮するチーム編成とミッション
吉川(リコー):
当社のコミュニケーション戦略センターは、社長直轄組織としてリコーグループの国内外のコミュニケーション活動全体を統括しています。約40名のメンバーと3つの室で構成され、コミュニケーションにおける全体戦略の立案と実行の司令塔を担っています。ブランド戦略室はブランドガバナンスとインターナルコミュニケーションを、メディアデザイン室はオウンドメディアやペイドメディア活用、広報室はメディアリレーションをそれぞれ担当しています。グローバルでは、各地域の販売統括会社のマーケティングコミュニケーション担当や各事業部門のブランドアンバサダーを通じて、(コミュニケーション)活動のガバナンスとサポートを行っています。
向井(味の素):
私の所属するコミュニケーションデザインセンターは食品事業本部内にあり、主に家庭用向けのコミュニケーションを担当しています。2023年に、R&D 〜コミュニケーション〜D2C 販売までを一貫してできる組織を作り、その中のコミュニケーション部門「コミュニケーションデザイン部」のトップを私が担っています。グローバルに対してコーポレートブランディングも一貫で行う場合は、グローバルコミュニケーション部と連携しながら進めています。
ブランドとは「社員そのもの」「生活者の頭の中に作られるイメージの総和」
吉川(リコー):
私にとってブランドとは、人、社員そのものだと考えています。リコーは OA メーカーからデジタルサービスの会社へと変革の真っ只中にあり、この変革を実行するのは社員に他なりません。社員が会社の方向性に腹落ちし、共感し、同じ方向へ進むことが極めて重要です。社員のモチベーションこそが会社の力になると信じています。
本社がいくら社会貢献に関するメッセージを発信しても、直接お客様と接する現場の社員に届いていなければ、それは体現されませんし、単なる綺麗事になってしまうんですよね。さまざまな業界でコミュニケーションに携わる中、数多くの壁にぶち当たる中で痛感しました。社員一人ひとりが会社の方向性に納得し、自ら実践することが何より大切ですし、そうした士気の高い社員一人ひとりがブランドを築き上げると考えています。会長も社員のモチベーションが会社の宝だと常々語っており、私もその信念のもと、日々コミュニケーション活動に取り組んでいます。
(左から、リコー 吉川氏、味の素 向井氏)
向井(味の素):
当社においてのブランドは、生活者の頭の中に作られるイメージの総和です。頭の中でいいイメージが蓄積されることで愛着が生まれ、共感をしてもらい、ファンが生まれる。そしてコミュニケーションを通じてブランドイメージを作っていくことこそが私たちの活動だと思っています。
当社は ASV(Ajinomoto Shared Value)を大切にしており、事業活動を通じて社会に貢献しつつ、経済価値を生み出すことを目指しています。「アミノサイエンス®で人・社会・地球の Well-being に貢献する」というパーパスも掲げており、色々なブランド活動をする中でパーパスを実現しています。
そのパーパスをコーポレートブランド「おいしさ」「健康によい」「安心安全」「環境配慮」に分解し、製品・サービスを6つの提供価値で表現したものを「支援貢献モデル」と呼んでいます。製品価値がコーポレートブランドに蓄積され、さらには新しい製品作りにもつながっていく。このような「支援貢献モデル」のサイクルが、ブランド価値向上につながっています。
パーパスを軸に価値を高める。味の素のグローバルブランディング
向井(味の素):
当社は1909年に設立され、翌年の1910年にはグローバルに進出し、現在130ヶ国以上で事業を展開しています。社名と製品名が同じという特徴を活かして、コミュニケーションを進めてきました。各国では、現地の調理法を調査し、その土地の味を美味しく再現できるよう製品を開発しています。タイでは、味の素をタイのブランドだと認識するほどに深く根付いています。
しかし、欧州など、加工用の原料供給が中心の地域では味の素の企業ブランド認知が低く、製品への愛着が生まれにくいという課題があります。このため、先ほどの「支援貢献モデル」を意識しパーパスを軸とすることで、コーポレートブランドの価値が製品に効くようにしています。
食は文化なのでパーパスをそのまま押し付けるのではなく、現地の文化や社会情勢との共通点を見つけ、コミュニケーションをすることが大切です。そうすることで、共感が生まれて愛着が生まれます。このプロセスを通じて、各国の活動がグローバル全体のコーポレートブランド価値の蓄積に繋がると考えています。支援貢献モデルにある「6つの提供価値と4つのコーポレートブランド」を各国で定量的に調査し、ブランド浸透度を把握して施策に活かしています。
また、欧州でのブランド力強化のため、カンヌライオンズへの参加をしました。以前参加したタイのアドフェスなどからも、ブランディングが、コミュニケーションだけでなくビジネスそのものに繋がっていると実感し、世界を見る必要性を感じたためです。カンヌは世界中の PR 関係者が集まる場で、当社のパーパスとナラティブを基盤に欧州の人々との接点を見出し発信することで、より多くの人々に届けられると考え、参加に至りました。
「相乗効果」と「巻き込み型施策」で共感を生むリコー
吉川(リコー):
コミュニケーション施策の鍵は「社員」だと考えています。社員が自分ごととしてブランドを捉え、体現できるよう共感を促すことに注力しています。社外向けのブランディングも、まずは社員に響くよう意識し、テレビ CM でも社員を起用しました。顧客や家族に誇れるものにすることで、社外と社内の双方に効果を生む「相乗効果」を高めています。
グローバルコミュニケーションの強化に向けて、グローバルフォーラムである Reuters イベントへの参画にトライしました。1年目は本社主導で進めたため、一部海外のメンバーから「余計な仕事を増やすな」といった反発もあり苦労しました。2年目はその反省を踏まえ海外メンバーを企画段階から巻き込みました。本社が一方的に決めて海外のメンバーへ落とすのではなく、メンバーの一員として、彼らから活用できるテーマやコンテンツについて意見をもらいながら進めたことで、成果につなげることができました。会長の山下が登壇し、「社員こそがアンバサダーとしてESG活動を先導してほしい」というメッセージは、社員にとっても響く内容になったと思います。
また、「日経SDGs経営大賞」「GLOBAL100」といった社外からの評価も社内に展開し、社外からの客観的な評価を社員の誇り・モチベーションアップに活かしています。
社内コミュニケーションでは、トップダウン型とボトムアップ型の双方のアプローチを駆使しています。トップダウンとしては、経営トップによるビデオメッセージや社員とのラウンドテーブルを通じて全社戦略等、会社として伝えたいことを届ける会社側からのアプローチです。一方、ボトムアップとしては、社員自身が企画したり、登場したりする、社員側からのアプローチです。例えば、リコーのニュースという動画番組では、担当事業部門の社員がリポーターとなって取り組みを伝えてもらいました。また、国際女性 Day では、グローバルでオンラインイベントを実施しました。これまでも各地域でそれぞれの実情に合わせたテーマでイベントを企画・実施してきましたが、今回はそれらを結集し、グローバル一体となった取り組みへと発展させています。私もグローバル DEI カウンシルのメンバーとして参加しましたが、本社主導ではなく、現場メンバーが自ら主体的に企画・運営した点が大きな特徴です。その結果、世界各地の社員が自然に関わり合い、広がりのある取り組みになったと感じています。
「社員の共感」が、グローバルブランドを強くする
向井(味の素):
グローバルでのコーポレートブランディングは、まさに経営戦略の要です。そのため、発信する言葉の一つひとつが、曖昧ではなく社員全員に明確に理解される必要があります。今後は全社で誰もが理解できるような、強固なナラティブを構築することを目指しています。そのナラティブを基盤に、生活者との接点を積極的に探し、コーポレートブランディングへのアクセルをさらに踏み込んでいきます。
吉川(リコー):
当社も引き続き、社員の巻き込みと腹落ち感の醸成を最重要視していきます。社員一人ひとりがイキイキと元気で、この会社で働くことに歓びを実感できる環境を実現していきたいと考えています。社員の力こそが、グローバルで愛されるブランドを築き、維持していく最大の原動力になると信じています。
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佐藤菜摘
前職は、広告代理店にて大手CVSの担当営業として、販促物製作やブランディングプロジェクトに従事。2016年WOVN Technologies株式会社に入社し、広報業務を担当。2022年よりMarketingチーム。
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