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インバウンドの外食消費3倍時代へ ─連日訪日客が賑わう、食体験の極意─|エムピーキッチンHD 堀氏・KUURAKU 廣濱氏|GLOBALIZED インバウンド

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佐藤菜摘

 本記事のポイント 

  • インバウンドは既存顧客との競合ではなく、アイドルタイムを埋め、高客単価で新たな売上を生み出す存在

  • 多言語での口コミを起点にニーズを分析。多言語でのインフラの整備によって投稿数と評価が向上

  • 海外事業のノウハウを活かした従業員教育と歓迎の心で、日本人と同様の体験を提供しリピーターを獲得

Wovn Technologies株式会社は、2025年10月7日に「GLOBALIZED インバウンド」を開催し、「世界は、もっと日本を好きになる 〜AI・多言語で拓く、15兆円に向けた訪日インフラ整備〜」をテーマにセッションをお届けしました。

外食業界のゲスト講演では、株式会社エムピーキッチンホールディングスの堀 遼平 氏と株式会社KUURAKU GROUPの廣濱 成二郎 氏を迎え、「インバウンドの外食消費3倍時代へ ─連日訪日客が賑わう、食体験の極意─」と題して、政府目標である2030年に向けた外食消費3倍化を見据えた集客戦略や、お店での食体験の満足度を向上させる秘訣についてお話しいただきました。本レポートではその内容をご紹介します。

【登壇者】

堀 遼平 氏
株式会社エムピーキッチンホールディングス
広報課マネージャー

『つけ麺専門店 三田製麺所』などの飲食店を運営する(株)エムピーキッチンHD にて、広報・マーケティングを歴任。社内外のデータ分析に基づき導き出した、広報・マーケティングのロジックを個人 X で発信中(@hori_mpkitchen)。自社の広報・マーケティングで培った知見を、他事業者へシェアしていくコンサルティング事業を立ち上げ。(株)PRTIMES 認定のプレスリリースエバンジェリストとしても活動中。

廣濱 成二郎 氏
株式会社KUURAKU GROUP
グローバル事業部 執行役 兼
KUURAKU INDIA Pvt Ltd マネージングディレクター

日本・カナダ・インドをはじめ世界6カ国で焼鳥居酒屋「くふ楽」「福みみ」等、45事業所を展開する KUURAKU GROUP の海外事業を統括。各国の市場特性に適応し、日本の味と“体験”を再現・進化。20年以上の海外事業経験を元に、インバウンド対策チームを率い、年間14万人超のインバウンド集客を実現。国際利き酒師として日本酒の魅力を世界に発信中。

 

目次

  1. 「アイドルタイムを埋め、客単価も高い。インバウンドは救世主となるか?
  2. 多言語口コミを元に改善を回し「ストレスフリーな環境整備」を追求する
  3. 海外・国内の学びを活かしあう「ハイブリッドグローバル戦略」と従業員教育
  4. 自社が求められている「おもてなし」の形を磨く

 

WOVN:
海外からの期待が高い「日本の“食”」。本日は業態の異なるお二方をお招きし、インバウンド対策や、食体験の満足度をどのように向上しているか、お話を伺います。
まずは自己紹介をお願いします。

堀(エムピーキッチンホールディングス): 
当社は、つけ麺専門店 三田製麺所を全国に50店舗、香港に2店舗展開しています。
インバウンドのお客様で見ると、基本的には訪日客統計に順じていて、1位は中国、次いで韓国、台湾、香港、欧米となっています。特に中国の方が多く、例えば大阪のなんば店や京都の店舗では、お客様の2割が中国の方です。欧米系の方は、「noodle shinjuku(ヌードル 新宿)」「ramen shinjuku(ラーメン 新宿)」などと検索して、来店されるケースが多いです。

廣濱(KUURAKU GROUP): 
当社は、オープンキッチンを中心にした活気ある焼鳥居酒屋「くふ楽」を中心に、現在は東京・千葉に23店舗、 海外ではカナダ・インドなど6カ国に22店舗展開しております。
インバウンドのお客様が増えた2015年頃から、来店動機を直接伺うようにしています。コロナ以前は Trip Advisor で、旅前に下調べをして来店する方が多かった印象ですが、現在は、Google を見て来たという方が圧倒的に多くなりました。Google マップとの連動性が強いことからも、旅行前ではなく、実際に街歩きをしている時に検索する方が増えていると感じます。

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(KUURAKU GROUP 廣濱氏)

 

アイドルタイムを埋め、客単価も高い。インバウンドは飲食業の「追い風」となるか?

WOVN:
インバウンドのお客様と日本人のお客様で、席の利用時間が重なることはありませんか?

堀(エムピーキッチンホールディングス):
インバウンドのお客様は、混雑しない時間帯にも来店するのが特徴で、15時〜18時頃のアイドルタイムを埋めてくれます。日本人は昼休みなど特定の時間に集中しますが、旅行中の人は縛りがありません。その結果、日本人客と席を取り合うカニバリゼーションではなく、むしろアドオンとなり、トータルの売上は伸びています
ホテルのチェックアウトの時間が10時頃のため、その直後に外国人が多く来店するという行動パターンも見られ、開店時刻を早めた店舗もあります。

廣濱(KUURAKU GROUP):
当店は居酒屋ということもあり、日本人のお客様は夜の19時〜21時に集中しますが、インバウンドのお客様は空いている時間に来店します。特にインドの方はそもそもの食事時間が日本と異なり、ランチは14時〜16時、夕食は22時以降が一般的です。また、予約の合間の30分ほどの短い時間でも「問題ない」と、短時間でしっかり食事を楽しまれます。日本では1〜2時間かけてゆっくりお酒を嗜む方が多いですが、インバウンドのお客様は「料理をシェアして味わう場」という感覚で、一気に食べて満足して帰られる傾向があります。

居酒屋では料理を順番に提供していくのが一般的ですが、「最初から全ての料理を並べてほしい」「焼き鳥と一緒にご飯ものがほしい」という声もあり、メニューの端から端まで注文する方もいらっしゃいます(笑)

堀(エムピーキッチンホールディングス):
我々の店舗でも、つけ麺1杯に対して日本ではあまり見ない量のサイドメニューを注文される方も多いです。日本人とは異なる食事スタイルですよね。

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(エムピーキッチンホールディングス 堀氏)

 

多言語口コミを元に改善を回し「ストレスフリーな環境整備」を追求する

堀(エムピーキッチンホールディングス):
当社は、外国語のレビューが Google や大衆点評(訪日中国人の多くが利用する口コミサイト)に投稿されると、AI などを使って日本語に翻訳・分析し、顧客体験の改善や集客強化に繋げるサイクルを推進しています。お客様がどういった点に満足し、また不満を覚えているのか、口コミから分析し、実際に行った施策を2つご紹介します。

1.How to eat

ラーメンは外国人の方に非常に人気が高い食べ物な一方で、「つけ麺」はまだグローバルに認知が広がっていません。海外ではなかなか食べる機会が少ないため、インバウンドのお客様から「なぜスープと麺が分かれているのか」といった質問や、食べ方が分からずスープを麺にかけてしまうといった戸惑いが見られました。

お客様に正しい価値を伝えるとともに、一番美味しい形で召し上がっていただきたかったので、一部店舗でつけ麺の 「How to eat」を説明する QR コードを設置しました。

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この施策の結果、英語で星5つのレビューが入りました。

「好きなサイズの麺を選ぶことができ(並、中、大が同一料金で選べる)、これらのポスターが、つけ麺を正しく体験する方法を教えてくれます」

味や商品のことではなく、つけ麺の食べ方ガイドが貼ってあるという親切心に対して、星5の高評価をいただけたのです。

「三田製麺所」を Google で調べると、How to eat のポップ自体の写真を掲載している方が非常に多く、多くの方が食べ方を予習してから来店されている可能性があります。そういったコンテンツを公式が用意していることが非常に重要です。料理やサービスはもちろん、それを知ることから、口コミや SNS 投稿で他の人に推奨するまでを含めた全てを顧客体験として捉えることが重要です。

2.多言語モバイルオーダー

堀(エムピーキッチンホールディングス):
逆に、低い外国語のレビューを見てみると、「注文がうまくできなかった」とありました。 ユーザーエクスペリエンス(UX)が顧客の評点に大きく影響すると分かってから、スマホオーダーの導入店舗を拡大しました。現在、券売機やフードコート以外の店舗は全てQR コードでのオーダーに対応しています。対応言語は、当初の日本語と英語から、現在は中国語とハングルを加えた4言語にまで拡大しています。

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こうしたインフラ整備を行うことで、口コミ投稿数は英語で150%、中国語で300%増加し、評点も上がっています。2024年には、三田製麺所なんば店が中国最大の口コミアプリ「大衆点評」内の「必ず食べるべき店」のひとつに選出されました。

当社の業態は、滞在時間が大体30分以内で回転率が高い一方、対人サービスが行き渡りづらい傾向があります。レビュー分析の結果、コンタクトレスな注文や How to eat のガイドといった、味以外の要素が高評価の要因になっていると判りました。

我々に求められている「おもてなし」の形は、従業員の言語力を上げるだけではなく、「短い滞在時間の中でいかに減点を減らしていくか」だと見えてきたので、「外国人の方にとってストレスフリーな環境整備」を追求しています。

 

海外・国内の学びを活かしあう「ハイブリッドグローバル戦略」と従業員教育

廣濱(KUURAKU GROUP):
当社のインバウンド対策の方針は、日本人のお客様と同じように、インバウンドのお客様にも「喜び、感動し、元気になれる」KUURAKU 体験を提供することです。特に海外のお客様は「日本人が楽しんでいる体験を同じように味わいたい」というニーズがあると感じています。そこで、当社ならではの「元気で活気のある雰囲気」をそのまま感じてもらえるよう工夫しています。

また、当社は海外展開の知見を活かし、海外事業と国内事業で相乗効果を発揮するハイブリッドグローバル戦略を推進しています。具体的には、海外事業での外国人スタッフ育成ノウハウを国内の育成に活かしています。また、海外ではヒンズー教やイスラム教など、宗教による食のタブーが多い国でも展開しているため、宗教・ベジタリアン対応を深く理解しています。宗教を持った方がどんな気持ちで特定の食材を食べないのかを理解し、そのノウハウを国内のスタッフにも落とし込んでいます。

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日本のスタッフ教育として、英語への苦手意識や恐怖感を減らす「おもてなし英会話講座」を社内で行っています。文法や発音より「心」重視の方針です。中学校、小学校レベルの英語でもいいから、日本語よりも心を込めて、身振り、手振り、表情を込めて話す。例えば、「いらっしゃいませ」の日本語の声出し練習の後、それと同じように「Hello」と言う100本ノックのように練習します。

また、外国人スタッフの採用も積極的に行っており、現在店舗では約3割が外国人スタッフです。彼らは語学が堪能で、宗教ごとの違いやベジタリアンの違いをよく理解しており、インバウンドの方のおもてなしに大いに貢献しています。採用はすでに働いている外国人スタッフからの紹介が多いです。
実は、日本人スタッフも働きながら異文化と触れることで、日本の何が良いかを改めて知る機会になっており、副次的な効果も大きいと感じています。

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自社が求められている「おもてなし」の形を磨く

WOVN:
最後に、インバウンドのお客様に満足いただくための秘訣をお伺いできればと思います。

堀(エムピーキッチンホールディングス):
当社の「テクノロジーによるストレスを減らすおもてなし」と、KUURAKU GROUP さんの「心のこもったおもてなし」は、形は異なりますが、どちらも“お店にできる最高のおもてなし”を追求している点で共通しています。
インバウンド集客というと、まず広告やプロモーションを考えがちですが、私たちは「インバウンド」という大きな括りではなく、目の前の一人ひとりを丁寧に見ることが大切だと考えています。お客様の満足や不満はレビューを通して必ず表れます。日本人のお客様と同じようにその声を分析し、自分たちに求められている“おもてなし”を見つけていくことが、広告費をかけるよりも先に取り組むべき第一歩だと思っています。

廣濱(KUURAKU GROUP): 
当店では、旅行者の方が1週間の滞在中に3〜4回ご来店くださることも珍しくありません。お客様に「最も歓迎してくれるお店」と感じていただいているようです。ということは、他店で、インバウンドのお客様が「歓迎されていない」と感じてしまうケースがあるのではないかと考えています。私たちにとってインバウンドの秘訣は、言葉よりも心。英語が堪能ではなくても、日本語で「いらっしゃいませ」と笑顔でお迎えすることこそ、最も大切なおもてなしだと思います。

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Wovn Technologies株式会社は Web サイト多言語化ソリューション「WOVN.io」を提供しています。多言語化についてご興味のある方は、ぜひ資料をダウンロードください。

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