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買い物は「体験」を超える─インバウンド消費の未来を拓く小売3社の挑戦─|三越伊勢丹 額田氏・セブン-イレブン 吉村氏・コメ兵 甲斐氏|GLOBALIZED インバウンド
佐藤菜摘
本記事のポイント
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インバウンドは積極投資の対象。多言語化含め、誰もが快適に買い物できる仕組みを標準化
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デジタルで “個”を識別。1対1のマーケティングと手厚い接客で実現する、リピーター育成と購買拡大
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既成概念を壊し、いかに日本人と異なるニーズを掴めるか。インバウンドを国内消費の活性化の起点に
Wovn Technologies株式会社は、2025年10月7日に「GLOBALIZED インバウンド」を開催し、「世界は、もっと日本を好きになる 〜AI・多言語で拓く、15兆円に向けた訪日インフラ整備〜」をテーマにセッションをお届けしました。
小売業界のゲスト講演では、株式会社三越伊勢丹ホールディングス 額田 純嗣 氏、株式会社セブン-イレブン・ジャパン 吉村 浩司 氏、株式会社コメ兵 甲斐 真司 氏を迎え、「買い物は“体験”を超える─インバウンド消費の未来を拓く小売3社の挑戦─」と題して、インバウンドによる消費額拡大に向けた各社の具体的な取り組みと今後の戦略をお話しいただきました。本レポートではその内容をご紹介します。
【登壇者】
額田 純嗣 氏
株式会社三越伊勢丹ホールディングス 経営戦略統括部 事業開発部長
株式会社三越伊勢丹イノベーションズ 代表取締役社長
百貨店現場での販売や仕入れを経て、構造改革と新規事業の創出に取り組む。Web3.0や生成 AI 、無人店舗、金融分野でスタートアップ企業と協業し、グループ全体の M&A・CVC も統括。海外子会社の取締役も務める。
吉村 浩司 氏
株式会社 セブン-イレブン・ジャパン
オペレーション本部 オペレーションサポート部 オペレーション情報 副総括マネジャー
1999年セブン‐イレブン・ジャパンに入社。現場にて加盟店の店舗運営の課題解決や支援をする業務を実施。その後、本社にて複数のプロジェクトも経験。現在は世の中の情報を整理し、必要な施策を現場とデータから導き、組織としての付加価値・意志・ディレクションを乗せ、『トップライン』を上げるべく次の打ち手を後押しする支援業務が主。「インバウンド対応」を推進すべく部門横断で取組も開始。
甲斐 真司 氏
株式会社コメ兵 オンライン事業部 部長
2000年新卒入社。高級時計の販売・仕入れ業務に従事したのち、2009年より現部署の前身となる WEB 事業部の立ち上げに参画。以降 EC 事業全般を担当。2021年に WEB 事業部長に就任。2025年4月より現職。 EC と宅配買取を担当。
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目次 |
WOVN:
爆買いという言葉が2015年に流行ワードになってから早10年。インバウンドの価値感が変わる中で、買い物自体に体験価値を感じ、「この店に行きたい」と選んでいただくことが重要になっています。
そこで本セッションでは、百貨店・コンビニ・ブランドリユースのトップであるお三方に、インバウンドの取り組みと、今後の戦略をお話しいただきます。
インバウンドで稼げるか?国内市場の未来を見据えた投資の必要性
WOVN:
まず、本当にインバウンドはやらなければならないのか?どのくらいエネルギーを注ぐべきか、皆さんにお考えを伺いたいです。
額田(三越伊勢丹ホールディングス):
経営として「いかに営業利益を稼ぎ、時価総額を上げられるか」というのが論点で、投下資本との効率を考慮し、取り組みを推進しています。
インバウンド売上はコロナ前と比較して2倍以上の1,700億円、弊社の売上全体の約13%に達しており、比較的効率が良いと捉えています。
また、以前は中国の方が8割を占める中国一強でしたが、今は中国の方が約4割で、残りの4割がその他のアジア、2割が欧米の方と多様化しています。圧倒的にリピーターが増えているのも特徴ですので、しっかりお客様に合わせて私たちの仕組みも変えていく必要があると考えています。

(三越伊勢丹ホールディングス 額田氏)
吉村(セブン-イレブン・ジャパン):
当社では国内消費が基盤で訪日客比率はまだまだ低い状況ですが、インバウンド対応には戦略的に大きなエネルギーを投じている段階にあります。これは単に訪日外国人向けの売上拡大だけでなく、日本人の消費行動そのものを活性化させる起爆剤になると考えているためです。
現在、国内店舗数21,743店(2025年2月末現在) のうち、約99% のお店で訪日客の決済履歴がある状況です。日常に溶け込むような形で、インバウンド含む誰もが使いやすい環境を目指しています。今後の国内市場の未来を見据えて、戦略的な対応が必要だと考えています。

(セブン-イレブン・ジャパン 吉村氏)
甲斐(コメ兵):
当社の国内免税比率は大体3〜4割 ほどあり、既に無視できない規模となっています。
日本の中古品は偽物がなく品質が良いという評判から、「ユーズドインジャパン(Used in Japan)」という一種のブランドのように扱われています。それを目当てに買い物に来るお客様が非常に多く、リユース業界は追い風です。
今後の人口減少を考慮すると、海外のお客様を積極的に獲得することが必要です。
インバウンドに特化したコンセプトショップでは、免税客の比率が6割(KOMEHYO SHIBUYA)や8割(KOMEHYO VINTAGE TOKYO)に達しています。また、12万点ほど掲載されている EC からお店に取り寄せ、安心して買い物できる店舗とデジタルの連携の仕組みも構築しています。

(コメ兵 甲斐氏)
三越伊勢丹の「識別化」と「国内・訪日対応の標準化」が導く売上拡大
額田(三越伊勢丹ホールディングス):
私たちは、お客様を集客し、識別化し、利用拡大を経て生涯顧客化していくという「個客業」プロセスを推進しています。創業350年前から続く外商の文化と同様に、一人ひとりのお客様にパーソナルに対応することを目指しており、このプロセスで最も重要なのが、お客様を「識別化」することです。

識別化による顧客の一人当たり年間購買額の向上は顕著です。全く識別しないお客様を 1 とした場合、クレジットカードとアプリを併用したメンバーになっていただくと、約10倍。さらに、外商顧客として担当者がつくようになると、最大18倍まで向上しています。
この識別化の仕組みを外国人のお客様にも展開しています。海外アプリ(MITSUKOSHI ISETAN JAPAN)を活用した海外顧客の識別化を始動し、サービス開始後の登録件数は導入開始後、1ヶ月で 46,000件に上ります。
また、インバウンド売上がコロナ前と比較して2倍以上伸びている背景には、もちろん円安の影響もありますが、それ以上にスタッフのメンタルブロックが取れたことが大きいと感じています。
以前は日本人とインバウンドを別に扱い、「日本人のお客様に不快な思いをさせないか」や「静かなる排除を生まないように」のような意識が現場にありましたが、今はなくなりました。またデジタル化も進み、WOVN の仕組みを活用した多言語対応も進んでいます。日本人・外国人のどちらのお客様に対しても、販売員とデジタルな仕組みの両方がフラットに対応できるようになりました。その結果、スタッフの提案も増え、消費拡大に繋がっています。
コメ兵のデジタルを活用した「One to One 接客」の強化
甲斐(コメ兵):
当社では、以前から国内のお客様向けにデジタルを活用した「One to One 接客」を推進してきましたが、現在それをインバウンドにも取り入れ、強化しています。国内のお客様には個人 LINE で、中国のお客様には WeChat 、英語圏のお客様には WhatsApp を使って、イベントのお知らせや、嗜好に合いそうな商品の入荷情報などのコミュニケーションを取っています。
Instagram や RED の投稿は積極的に行っていて、日本ではあまり見られないリユース品の UGC(ユーザー生成コンテンツ)が海外では発生しやすく、インフルエンサーの投稿でバズることもあります。SNS や GBP での流入が強いため、広告にはあまり注力していません。
また、中国のお客様でも日本に来たら意外と使う Google Map(GBP:Google Business Profile)での取り組みを強化していて、信頼性やサービスの丁寧さなどの口コミが活きてきます。
店舗では、外国語ができるスタッフを必ず配置しています。良い接客を行い、そして、One to One のデジタルの繋がりをしっかり構築し、購入して終わりではなく、再利用を促しています。海外のお客様は日本滞在中に都市間を移動するため、例えば東京で接客したお客様に、数日後に大阪の店舗へ希望の商品を届けるといった細かなやり取りを WeChat などで実施し、利用拡大を図っています。

セブン-イレブンの外れ値データと既成概念の破壊によるヒットの種
吉村(セブン-イレブン・ジャパン):
当社は単品管理の思考のもと、現状分析と検証を行っています。インバウンドニーズが高まる中で、平均値では見えない「外れ値」に隠された潜在ニーズを掘り起こすことが非常に重要だと考えています。
例えば、通常目立たない場所に置かれている「わさび」が、日本の伝統的な調味料としてのお土産需要に良いと気づいた店舗では、販売数が大幅に伸びました。ある店舗では、1ヶ月あたり10個程度しか売れなかったところから、1年間で1,400個の販売数を記録しました。
インバウンドに対応するには、アンコンシャスバイアスからの脱却が必要だと認識しています。これまでの「コンビニはこういうものだ」という既成概念の枠を壊してトライすることで、ヒントやチャンスが眠っていると考えています。
例えばアイスは通常夏場がピークでしたが、SNS などの影響で、ある商品は冬の方が売れるという変化がありました。また日焼け止めも、南半球からの観光客の購入により、冬場がピークになる店舗も出始めました。
さらに、 セブン-イレブンでスーツケースの販売を試みたところ売れた、というケースもあります。これは、持ってきたスーツケースの中にさらにスーツケースを詰めて帰る「スーツケースインスーツケース」というトレンドによるものでした。日本の包丁や富士山のグラスなども並べてみてもいいかもしれません。
訪日客が起点となった商品の流行は、ヒットの種だと捉えています。例えば「セブンプレミアム チョコっとグミ シャインマスカット」は、大阪のあるエリアで、たった1年で販売数が10倍になりました。訪日客や若者(Z世代)が起点の流行は、客層と売上の拡大に繋がります。

WOVN:
コメ兵さんでは、日本人とは違う嗜好で意外な商品が売れた、というエピソードはありますか?
甲斐(コメ兵):
日本だと最新・今流行しているものが売れますが、海外の方だと30年前のヴィンテージ品を、当時の3倍の値段がついていたとしても、「安い安い」と買っていきます。国内では売れないものを、海外のお客さんが高く買ってくれるので、ありがたい以外の何者でもないですね。

小売業界横断で挑む、体験価値向上
WOVN:
最後に、皆さんの今後の展望を含め、小売関係者の方に向けたメッセージをいただけますか。
額田(三越伊勢丹ホールディングス):
私たち小売業者は、のれんや歴史を活かして良いサービスを提供し続けることで、リピート顧客の母体を増やしていく必要があります。
サービスレベルやクオリティを皆で上げていければ、訪日のお客様一人ひとりの旅、カスタマージャーニー全体をリッチなものにできる。これは10年後、20年後の日本の提供価値を上げ、GDP にも寄与できると思います。みんなで切磋琢磨し、高め合えると良いと思いますね。
吉村(セブン-イレブン・ジャパン):
業種業態の壁を越えて、インバウンド市場の可能性に全員で向かっていくことで、市場はどんどん広がっていくと思います。セブン-イレブンはプラットフォームとして全国にリアルな接点を持っています。ぜひ、額田さんや甲斐さん、そしてここにいらっしゃる皆さんと共創しながら、新たな体験価値を作っていきたいです。
甲斐(コメ兵):
現在注力している WeChat や WhatsApp といったフィジカルな対応は、ごく一部のお客様にしかできていません。より多くのお客様に対応するためには、公式アプリを通じてデジタルで繋がり、MA(マーケティングオートメーション)や CRM(顧客関係管理)を回していきたいと考えています。現在、外国のお客様への MA/CRM はまだ課題が残る領域なので、今後、多くの方のお知恵を借りながら進めていきたいです。

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佐藤菜摘
前職は、広告代理店にて大手CVSの担当営業として、販促物製作やブランディングプロジェクトに従事。2016年WOVN Technologies株式会社に入社し、広報業務を担当。2022年よりMarketingチーム。
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