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【三越伊勢丹に学ぶ】来店増で問われるデジタルの真価。老舗百貨店 2年越しのおもてなし DX|三越伊勢丹 北川氏|GLOBALIZED インバウンド2.0

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北野 光平

Wovn Technologies株式会社は、2023年2月16日に国内最大級のインバウンド特化型カンファレンス「GLOBALIZED インバウンド 2.0」を東京タワーにて開催し、訪日観光に関わる多様な業界の方に向けて「訪日 DX で進化する日本の未来」をテーマにお届けしました。

当セッションでは、株式会社三越伊勢丹オンラインストアグループ長である北川 竜也氏を迎え、「来店増で問われるデジタルの真価 老舗百貨店、2年越しのおもてなし DX 」と題して、DX の考え方や戦略、顧客に愛され顧客として定着していただけるための施策について、お話を伺いました。本レポートではその内容をご紹介します。

【登壇者】
北川 竜也氏
株式会社三越伊勢丹 営業本部 オンラインストアグループ長

大学卒業後、国連の活動を支援する NGO で国際法廷設立等のプロジェクトに従事。日本帰国後、株式会社スコラ・コンサルトにて企業風土改革に携わった後、クオンタムリープ株式会社にて新事業創出支援やベンチャー企業支援等を担当。その後、アレックス株式会社の創業に参画。越境 EC 事業の立ち上げ、運営を行う。 2013年に三越伊勢丹入社。主にデジタル領域、新規事業領域を担当。現在は MI オンラインに加え、デジタルスタジオ、新規事業までを幅広く担当。

 

DX とはコーポレート・トランスフォーメーション

みなさんこんにちは、三越伊勢丹の北川です。

このセミナーではインバウンドに限らず、三越伊勢丹グループ全体として今考えている DX の方向性・戦略、そして結果としてコロナの状況を超えてインバウンドのお客様に対してどのようにおもてなしを提供するかということをお話させていただきます。

コロナ以降に大きく世界が変化し、改めて感じたことですが、私たちの人間としての本質はそれほど変わらない。ただ、常識や習慣、私たちの行動といったものは、本当にきっかけ次第で簡単に変わると実感し、私どもも非常に苦渋の決断でございましたが、2カ月お店を閉める決断をしました。ビジネスが全くできないということで、いつも当たり前だと思っている行動や常識も簡単に変わってしまうということを実感し、かつお客様の行動も大きく変化したと感じています。

常識や習慣、行動はきっかけ次第で変わるということは、世界を見ても同じです。NRF(全米小売業大会)をご存じでしょうか?これは1月にニューヨークで行われる小売業界の世界的イベントなのですが、ここで社会における経済消費から感情消費(ドーパミン・エコノミー)へのシフトが起こっているという発表がありました。これは私どもにとっても非常に重要なキーワードと思っておりまして、いわゆる経済合理性の消費から、喜びやウェルビーイングといった消費への変化が小売の世界で起こっているということが実感できます。

もう一つ非常に特徴的だったのが、自社の強みにフォーカスすることがまず第一であるということ。しっかりと自分たちで自分たちを知らなければいけないということです。1年前に遡りますが、 NRF では「DX の勝者と敗者」という生々しい言葉を使った発表があり、ここでは自社の強み(上手にできること)にフォーカスし、戦略と実装を絞り込んだ企業が勝者、対して DX の定石に単純に則り、全体的なデジタル化、オンライン戦略を進めた企業が敗者だと言われておりました。

私どももこういったメッセージや世界の行動の変化を受けて、ビジネスモデルやバリューチェーンをもう一度因数分解してしっかり組み直さなければいけません。DX はコーポレート・トランスフォーメーションそのものです。単なるデジタル化ではなく会社全体の変革、特に行動様式のような出発点となる考え方をもう一度私どもの原点に立ち返ってつくり直すところから始め、結果としてデジタルツールを使った効率化や、お客様に対する利便性のさらなる向上をしっかりと実装していく、ということを進めています。

オールドとニューの組み合わせ、三越伊勢丹の DX 戦略の根底

今まで私どもは、モノ売りを起点とした売上を最大化する(いわば瞬間最大風速を高める)ための顧客戦略を重視していました。これは当然大事なことではあるのですが、どこまでお客様を幸せにできてきたのか、お客様が定着してくださって私どもの会社としっかり繋がったのか、こういった考えを体現する KPI が存在しませんでした。

これは多くの小売業がそうだったと思うのですが、コロナ禍で、会社の理念や存在意義を考え直すうえで、顧客に愛され、顧客として定着していただけるようにするために顧客戦略を再定義し、お客様としっかりと繋がるということを重視する KPI が追加され、非常に重視される状態へと変化しました。多くのお客様に「認知」していただき、その中から多くの方に「購買」という形で関わって頂き、繰り返しご利用頂くことでファンになって頂く。特に我々は、コアなファン層の顧客化(強固なネットワーク形成)を重視していくことを重要な戦略としています。

さらに、先程の NRF の話でキーメッセージが「自社の強み」とあったように、我々は「店舗 ・ 人・ 商品」というアナログの部分に圧倒的な強みと経験を持っています。ここにレバレッジを効かせたデジタルサービスや機能をしっかりと具備することで、リアルでもオンラインでもお客様の期待に応えられる状態にしていきたいと思います。

EC サイトにおけるコンバージョンレートの常識と、店舗におけるコンバージョンレートは別物ですが、リアルに強みを持つ我々は通常のECのコンバージョンレートではなく、店舗を前提とした独自のものを作っても良いのではということが我々の戦略の根底にあります。それがまさに我々の元々持っている強さ、もともと持っているお客様との深い繋がり、こういったものをもう一度再定義してしっかりとそれに依拠した戦略を打ち直す戦術をつくっていきます。

全国にある多くの店舗、それからオンラインチャネルやアプリこういったものを全てしっかりとシームレスに繋いで、お客様にご選択いただけるようにすることが非常に重要で、そのためにはやはり我々がその環境をしっかり整えておかないといけない。あらゆる機能を均等に整えればいいということではなく、百貨店でそれがあったら嬉しいと圧倒的に想起してもらえる機能に絞り込んで実装する、ということに取り組んでまいりました。

 

三越伊勢丹レポ用資料画像

 

それから、百貨店における非常に特徴的な外商機能も再定義し強化しております。セールスネットワークで一人のお客様に対して一人の担当という形で対応するのがこれまでの形でしたが、その良さは残しながら、複数の専門家で一人のお客様を担当し、単に増員するのではなく、お客様のニーズにしっかり対応できるようにしました。国内外問わず、外国人のお客様においてもこういったネットワークを駆使した新サービスをご提供できるようにしようと、2022年に外国人顧客担当を設置しました。

DX においては、百貨店らしい機能をデジタル化し利便性を高めると同時に、新しいサービス、ビジネスモデルを実現するために、具体的に2つの大きな取り組みを進めてまいりました。一つ目は、いままでの百貨店事業をデジタル化しながら思想・戦略に基づいて変えていくこと。二つ目は、新しいお客様との接点、新しい儲け方を作っていく新規事業開発です。2つの取り組みでチームを分け、各チーム同時並行でそれぞれの良さを引き出し、相互に影響し合いながら進めてきました。両方を一つの組織でやってしまうと、圧倒的に規模も力も強い既存の百貨店事業に引っ張られてしまい、新規事業開発がどうしても小さく見えたり、 KPI で負けてしまうため、2つに分けてチームを進めてきたのです。

こうした改革を進める中で、我々が直面した課題を整理すると、以下の4つになります。

  • やった方が良い施策は無数にあり、あげ始めると収拾がつかなくなる
  • サービスやシステムが出来ても、目的意識・業務フローが伴わなければ現場が疲弊する=顧客には届かない
  • 新たに生まれた事業やサービスは一定の割合で必ず失敗するが、誰も失敗したくないのでそれを恐れるようになる
  • 事業やサービスを始めてから時間が経つと環境が変化し、当初の目的や戦略が通用しなくなる

ぜひご参考にしていただければと思います。

日本をアピールする秘訣

今、旗艦店の売り上げが大変好調です。

コロナ禍でなかなかお金の遣いどころがないという状況から、ようやくお買い物に出られるという状況になり、購買をしてくださっているという状況ですが、特徴的なのはやはり高額品が非常に多く売れているという事で、統合以来の最高の売り上げを記録するほどの水準まできています。

インバウンドについては、依然として不透明な状況であり、また物価上昇による経費増とか為替影響はもちろんありますが、それほど大きな影響は今のところ受けてはいません。

中国からのお客様はまだ戻っていないですが、アジア圏、特に韓国、台湾からのお客様がものすごく戻って来てくださっていて、付加価値が高いものやブランドものを好んで購入される傾向にあります。

海外からのお客様が戻ってくるという状況において、私どもはここ数年間、思想・考え方からもう一度再定義をし、アプリなどお客様と繋がるためのさまざまな外部ツールとなるデジタル上の仕組みも準備してきました。そして、旅マエら旅ナカの買い物、そして旅アト後としっかり繋がり、さらに富裕層の方には特別な外商のサービスも提供するということを一連のサイクルとして構築できました。まだブラッシュアップが必要な部分もありますが、このサイクルを回すことによって、ここ数年の取り組みが実を結び始めていると思います。

また、コロナ期間中に開始したサービスとして、店頭にある商品をオンライン上で購入いただけるリモートショッピング専用のアプリをつくりました。こういったアプリがあることで、今後海外のお客様ともオンライン上で繋がり、私どもの接客を受けていただき、商品を買っていただいてお届けすることも可能になります。

さらに踏み込んだ話でいきますと、メタバースのプラットフォームである「REV WORLDS」というアプリも発表させていただきました。これを活用し、これからラグジュアリーブランドさんや様々なコンテンツホルダーの皆さんと組んで、メタバース上でファッションショーをしたり、あるいは熱狂的なファンコミュニティを構築して、遠くにお住まいのお客様も参画できるような状態を実現し、そこで特別な体験をしていただいたり、というようなことを行おうと考えています。

将来的には、この中に NFT を活用したお客様との繋がりというのも、組み込んでいけると思います。まだまだコンテンツは充実してきているとはいいがたい状態ですが、この数年でメタバースを構築できるエンジニアチームを自社内でもつことができました。

幸いなことに、この事業に取り組んでいるチームは、新しい世界を作ることに熱狂して取り組んでくれています。お客様を熱狂させるには、まず私ども自身がチームとして熱狂していかなきゃいけないということの一つの表れかなと思っています。

先程のリモートショッピング、それからアバターを使ったメタバース、こういったものも、今後我々とお客様の繋がりを深めるツールであるというふうに考えております。

 

三越伊勢丹レポ用資料画像2

バリューチェーンを因数分解する

今回は考え方、思想のところをまとめてお話をさせていただきました。改めて申し上げたいのは、やはり我々自身の仕事のやり方をどう変えていくかということです。

デジタルツールの導入がデジタル化では決してなく、バリューチェーンをしっかり因数分解し、その因数分解する中でデジタルに置き換えた方がいいもの、それからその流れを組み替えた方がいいものをしっかりと見極め直し、つくり直すということを通じて、最終的にオンラインチャネルは生きてくるものだと思っています。

また、インバウンドのお客様に対してのサービスに関しても、日本のお客様と同じようなクオリティで提供できるということを実現するためには、何度も申し上げますが、仕事のやり方から変えなきゃいけないということを改めて実感しています。

最後になりますが、今日お話させていただいたことは、我々が成功したという話では全くございません。常に進化し続けながらお客様と共に次の時代の百貨店の形を作り、海外のお客様から日本に行ったら伊勢丹に行きたい、三越・岩田屋に行きたい。こういったことを言っていただけるような状態にするのが、我々の目標です。

 

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