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失注を防ぐグローバルサイト戦略〜 AI 時代の新しい多言語化〜|WOVN 上森|GLOBALIZED B2B 製造業
北野 光平
Wovn Technologies株式会社は、2023年6月16日に「GLOBALIZED B2B 製造業」を開催し、「海外展開を加速する多言語 Web 発信とは」をテーマにセッションをお届けしました。
主催者講演では、WOVN 取締役副社長 COO 上森 久之より、「失注を防ぐグローバルサイト戦略 〜 AI 時代の新しい多言語化〜」と題して、グローバルサイトのよくある課題と AI を活用した新しい翻訳体験についてお話しました。本レポートではその内容をご紹介します。
【登壇者】
上森 久之
Wovn Technologies株式会社 取締役副社長 COO
北海道大学 大学院 中退。公認会計士。デロイト・トーマツにて、新規事業/オープンイノベーションのコンサルティング、会計監査、M&A 関連業務などに従事。米スタートアップのカントリーマネージャーを歴任。
目次 |
本日は B2B 製造業 のグローバルサイトにおける AI を活用した新しい多言語化とその背景をお話します。
B2B 製造業のグローバルサイトにまつわる課題
WOVN.io は、B2B 製造、金融、エンターテインメント、メディア、小売、流通、 SaaS、学校などいろいろな企業でご利用いただいています。
特にこの2年間は、 B2B 製造業からグローバルサイトにまつわる課題を伺うことが増えました。ご相談内容を集約すると、次の2点になります。
課題1:言語を拡張したい
例えば、現在日本語と英語だけで情報発信している企業において、既に中国やその他の国と取引がある、あるいは今後拡大する予定があるかもしれない、という理由から「対応言語を増やしたい」という要望をお聞きします。
課題2:更新したい
かなり力を入れてグローバルサイトを構築していれば別ですが、グローバルサイトを日本語サイトと別に用意すると、ほとんどのケースでコンテンツ量が日本語サイトの10分の1程度になります。結果、ほぼ更新しなくなってしまいます。
これらの課題を踏まえ、「シグナリング効果」と「新鮮な情報」の2つについてお話します。
シグナルを発進し、受け入れる姿勢を明示する
まず1点目の「シグナリング効果」についてです。シグナリング効果とは、「外部の人は企業が意図することを明確にはわからない中で、外部に対し何らかのシグナル(サインやメッセージ)を発することで、それらをイメージさせること」です。
基本的には誰もが「Web サイトを訪れてくれた人にお問い合わせや資料請求などの次のアクションを起こしてほしい」と思っているはずです。最近では、Cookie 規制の影響で1件あたりの顧客獲得単価も上がっているので、特にこの傾向が高まっていると思います。
「多言語化」という観点で見た時に、コンバージョン率を上げる手立てとしては「シグナルの発信」というものがあります。
多言語化しているサイトを見て、その対象言語の人はどう感じるでしょうか?
「様々な海外企業と取引がある」雰囲気を出すだけではなく、「受け入れる姿勢」を明示することが大切です。
英語サイトがあるとイギリスやアメリカにある取引先はアクセスしやすいです。また、中国語、フランス語、スペイン語、タイ語、ベトナム語サイトを用意することで、それら海外企業と取引をしていく、していきたいというシグナルになります。
最新の情報を多言語で発信する重要性
2つ目の「新鮮な情報」とは、最新の情報を多言語で伝えたいというものです。
日本語サイトに対して、英語サイトは半年遅れでようやく更新している、という企業が多いのではないでしょうか。
英語の情報量は日本語の10分の1程度です。量が少ないことに加え、半年後にようやく公開され、ドイツ語や中国語サイトにいたっては1年以上かけて情報がアップデートされるケースもあります。
海外現地法人のセールス・サポートの方々は、情報を掻き集めて毎回資料を作ります。集めてくるパワーが必要な上に、タイムリーな情報が掲載できないという問題が起きるため、 WOVN.io を活用しリアルタイムに日本語コンテンツを多言語でも展開している企業があります。
多言語サイトの更新が遅れてしまうことで、もう1点問題が生じます。
ここ2年ほど、ブランディングに力を入れている企業が、ブランドガイドラインの更新を行うケースが増えています。ガイドラインの中には「このようなクリエイティブを使ってください」と指示がある場合もあります。以前は使われていなかった、ESG という文脈から、より自然に優しいイメージの写真や、人物を載せる場合には白人やアジア人だけでなく多様な人物の写真が推奨されます。
日本語サイトはアップデートしていたとしても、多言語サイトはガイドラインが反映されずに古いままになっているという話をよく聞きます。
新鮮な多言語 Web サイトであれば次の3点を解消できます。
1点目は「古い情報」です。古い情報が正しくない場合もあり、型落ちした旧製品を掲載し続けていたり、オフィスの住所が古いままになっている場合があります。
2点目は「情報鮮度」です。例えばプレスリリースやニュースなど鮮度が求められる情報は、古くなってしまうと価値が半減してしまうことがあります。
3点目は「ひと昔前の価値観」です。ESG という新しい政策が始まっているのに、ひと昔前の価値観をそのまま提供し続ける問題です。
それ以外にもよくある問題をピックアップしてみました。
日本語サイトは誤りがあれば必ず指摘が入り、即座に更新されますが、多言語サイトの情報はパワーをかけられないため、様々な問題が勃発しています。
翻訳マネージャーがいなくてもWOVNで多言語対応を可能に
上で紹介したような問題は、海外企業よりも日本企業の多言語サイトでよく発生します。なぜかというと、日本には翻訳マネージャーやローカリゼーションマネージャーがほとんどいないからです。
様々な国にサービス提供している企業では、翻訳やその他のローカライズをまとめて解決するスペシャリスト職やチームがあります。
この翻訳マネージャーというロールが日本にはほとんどいないため、WOVN.io はローカリゼーションマネージャーがいなくても最もシンプルに多言語対応できるというコンセプトのもとソフトウェア開発を行っています。
WOVN.io には次のような4つの機能があります。
1.開発不要+SEO
元となる Web サイト一つさえあれば、たった1行のスクリプトを HTML に貼るか、プロキシ設定をすると、スピーディに各言語のサイトが構築できます。URL も言語ごとに設定されて、検索エンジンにインデックスされる海外 SEO 対策も可能です。これをノーコードで提供できます。
2.ダッシュボード
多言語化にかかる時間・コストをどれくらい削減したか、どの言語がどれぐらい使われたかが一目瞭然で可視化されています。また、1年を通してトラッキングすることで、来年の予測を立てることが可能です。
3.マルチ機械翻訳エンジン
世界には100以上の翻訳エンジンがあります。品質は複雑な計算式で評価されますが、実は一般的に評価が高いエンジンでも用途によっては合わないことがあります。
WOVN.io は Google 翻訳、Microsoft 翻訳、みらい翻訳、DeepL と連携しています。それぞれが持つ正確性や流暢さ、対応できる言語ペアなどの特性から、最適なエンジンを選んで利用できます。
4. Auto QA
こちらについて詳しくは後述します。
AI を活用し、高品質な翻訳を提供する「Auto QA」
我々はこれまで、技術力の高いソフトウェアエンジニアが社内にいなくても、開発不要で多言語対応ができるというサービスを提供してきました。
そのような中、お客様から「開発は楽になったから、運用も楽にするために、もっと翻訳精度を高めたい」という声をたくさんいただくようになりました。そしてこれと同時に、ChatGPT を含めた AI が大変使いやすくなりました。そこで、プロの翻訳者でなくても高品質な翻訳ができる機能を開発しました。
この機能開発の背景には、ここ数年で人力翻訳の考え方に変化が生じたことも関連します。今や、プロの翻訳者が提供する翻訳は本などの芸術作品分野に活用され、一種の贅沢品として魂を込める際に利用されるものになっています。対して、機械や AI が行う翻訳は工業産業分野で活用が進んでいます。今後はより一層、人力と機械・AI の用途が明確に分かれていくのではと予想します。
機械翻訳だけを使う場合、次のような不安や課題が出てきます。
① 翻訳の品質
正確性
- 致命的な誤訳(公序良俗に反する表現)
- 固有名詞の誤り(商品名・人名)
- 翻訳漏れ
流暢性
- トーン(丁寧さ・カジュアル・ビジネスなど)
- 表記ゆれ、校閲
- コンテキストの理解
② リソース・スキル
- 誤りを検知するためのスキル
- 誤りを修正するためのリソース
これらの課題を解消していくための機能が「Auto QA」です。
新しい日本語ページができたら、そのページを読み取り、自動的に英語ページを更新します。機械翻訳の内容を次は Chat GPT で品質検証していきます。
AI が行う領域は検査やテストです。今までは白黒つけやすい簡単な項目だけのチェックでしたが、大規模言語モデルが一般的に使えるようになり、公序良俗に反するところがないか、という内容も検査対象にできるようになりました。翻訳内容が適切かが怪しい部分を全てリストアップし、内容を修正したうえで公開します。
この一連のプロセスを全て自動で提供するのが「Auto QA」機能です。
機械翻訳の結果に対してスコアリングし、翻訳の代替候補を提案するプロセスは AI が行い、最終的な翻訳確認や承認だけを人力で行います。確認作業をせずに自動公開することも可能です。
「機械翻訳」・「これまでの人力翻訳」・「AI 時代の新しい人力翻訳」の3つには、次のような違いがあります。
人力翻訳と機械翻訳では、コストの面で1万倍の価格差が生じます。人力翻訳は1文字あたり何円と価格設定があり、予算に応じた文字数を考慮する必要があります。
品質面では、単に機械翻訳が悪いというわけではなく、相対的に人が完璧な翻訳精度を追求した場合と比べると、上図のような差になります。
スピード面では、機械翻訳だと一瞬ですが、人力翻訳では依頼、見積もり、発注、作業、検品という一連の流れを踏むため、時間がかかります。
このような機械翻訳と人力翻訳を使った場合に生じる課題を解消し、新しい人力翻訳を提供するのが WOVN.io です。あらゆる Web サイトの多言語化のために、最先端の翻訳エンジンについて検証しながら、特に専門性の高い領域において WOVN が力になることで、スピーディで運用しやすい多言語翻訳サービスを提供できます。
日本は欧米に比べ、多言語化や多文化という点で圧倒的な後進国です。
素養がなく困り事が多いからこそ、新しい技術・サービスが社会に普及していきます。
多言語・多文化対応に多くの課題を抱えていながらも、対応を後回しにしてしまった日本だからこそ、WOVN は日本発の多言語化プラットフォームとして新しい技術を広げ、世の中をより良くしていけたらと思っています。
ご清聴ありがとうございました。
Web サイト多言語化のご相談は WOVN へ
Wovn Technologies株式会社は Web サイト多言語化ソリューション「WOVN.io」を提供しています。多言語化についてご興味のある方は、ぜひ資料をダウンロードください。
北野 光平
新卒で、国内大手IT企業に入社し、事業企画として新規サービスのPMO、業務改善・事業戦略構築を担当。 2021年に WOVN に入社しCustomer Success として WOVN.io の導入を多数経験。現在は、Marketing Section Headとしてマーケティング戦略・業務全般に従事。