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グローバルサイトリニューアル PJ を紐解く 〜ダイキンが実践したデジタルコミュニケーション改革とは〜 |ダイキン工業 土井氏|GLOBALIZED B2B 製造業

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佐藤菜摘

 本記事のポイント 

  • かつて各国のサイトは、地域性も逸脱するほど無秩序でバラバラな状態だった

  • グローバル No.1 の空調総合メーカーのブランドを広めるべく、全体最適の観点でグローバルサイトを大幅改革

  • 本社からローカルの販売会社にコンテンツを提供し続け、繋がりを強化

  • ローカル主導(遠心力)と本社主導(求心力)のバランスを取り続ける

Wovn Technologies株式会社は、2024年7月2日に「GLOBALIZED B2B製造業」を神田明神ホールにて開催し、「グローバル競争を勝ち抜くための Web 戦略」をテーマにセッションをお届けしました。

当セッションでは、ダイキン工業株式会社 総務部広告宣伝グループ 担当課長である土井 智保子氏を迎え、「グローバルサイトリニューアル PJ を紐解く 〜ダイキンが実践したデジタルコミュニケーション改革とは〜」と題して、ダイキン工業が行ったグローバルサイトのリニューアルの4つのステップについてお話を伺いました。本レポートではその内容をご紹介します。

【登壇者】
土井 智保子 氏
ダイキン工業株式会社
総務部広告宣伝グループ 担当課長

ダイキン工業入社後、海外営業部でアジア/オセアニア販促支援を担当。2013年より現広告宣伝グループで、OOH、デジタル広告、グローバルグループWEBサイトリニューアルを担当し2017年に社長賞受賞。2021年よりグローバル領域の担当課長として分権の社風の中でコーポレートメッセージである「空気で答えを出す会社」のグローバル展開を推進している。

 

ダイキン工業は1924年に大阪市で創業し、今年で100周年を迎えます。グループ従業員数は約10万人、グループ会社数は国内30社、海外317社です。2023年度の売上高は合計4兆3,953億円で、そのうちの9割が空調機器です。海外事業比率が2005年度は47%でしたが、2023年度には85%まで増え、グローバルに展開しています。

 

以前の課題は、検討候補に上がらないリスク・無駄なコスト・品質のバラつき

一気にグローバル展開が進んだこともあり、組織や社内体制が追いついていませんでした。プロジェクトを開始した2012年にはグローバル全体で約110サイトを運用しており、新市場への進出や M&A の繰り返しにより、サイトが増え続けていました。

全サイトを見比べると同じ企業とは思えないほど、地域性の尊重も逸脱するレベルで見た目がバラバラで、情報量が不足しているサイトがほとんどでした。複数の国で同じようなコンテンツを作っていて無駄も多く、分権を基本スタンスとする企業ではありますが、全体最適の観点で推進体制や全体計画を立案しなければならないと考え、プロジェクトを開始しました。

当時のグローバルサイトでは、グローバル No.1空調総合メーカーを PR するブランドコンテンツはなく、製品情報も一部のみで、住宅用から産業用までフルラインナップを持っているという強みを伝えられていませんでした。また、何の企業かわからないようなファーストビューで、テキスト主体のデザインになっていました。
このようなサイトだと検討候補に入らず他社にシェアを奪われてしまうリスクがありました。また、グローバルサイトから各国のローカルサイトへの誘導機能も弱く、製品の購買に繋がるローカルサイトに辿り着く前に、見込み客がグローバルサイトで離脱してしまうという課題がありました。

一方、ローカルサイトにも販売代理店が必要とするような製品情報が不足していました。エンドユーザーからの信頼低下や、競合製品を提案されて他社にシェアを奪われるといった、営業機会の損失リスクがありました。
さらに、各国で類似コンテンツを開発しており、無駄な重複コストが生じていたのです。より深く見てみると、国ごとに記載内容が違うことや品質のバラつきもありました。

 

4ステップでグローバル Web サイト群を再構築

そこで、グローバル Web サイト群の再構築を4ステップで進めました。

フェーズ1:戦略の立案
フェーズ2:グローバルサイトのリニューアル
フェーズ3:ローカルサイトのリニューアル及び展開キットの整備/展開
フェーズ4:ガバナンス

  1. 戦略の立案

    まずグローバルサイトとローカルサイトの役割を定義しました。
    グローバルサイトは、コーポレートコミュニケーションとして、グローバルに向けたハイレベルな企業情報やブランドメッセージを伝えます。また、適切なローカルサイトへ誘導するためのハブ機能を持たせます。そして補完として、進出したばかりでまだ Web サイトがない国・地域へ最低限の情報を提供するため、製品情報も載せることにしました。

    一方のローカルサイトは、マーケティングコミュニケーションとして、製品情報や販売会社の情報を自国言語で提供します。そしてグローバルサイトと同じブランドメッセージをローカルユーザーに伝えます。
    このように役割を分け、販売に直結するローカルサイトが活きるサイト群に構築し直すと決めました。

  2. グローバルサイトのリニューアル

    世界中の空調代理店に「ダイキンこそがグローバル No.1の空調総合メーカー」というイメージを持ってもらうため、ダイナミックなデザインに変更しました。ダイキンの強みを伝えるブランドコンテンツを拡充し、空調のフルラインナップも紹介しています。また、ローカルサイトへのハブ機能を強化し、モバイル端末からも閲覧しやすいデザインに変更しました。さらに「Find out more in your region.」というバナーを全てのページに設置し、クリックすると各販売会社のサイトに遷移できるようにした結果、ローカルサイトへの誘導率が2倍になりました。

  3. ローカルサイトのリニューアル及び展開キットの整備

    パイロットサイトとしてベトナムサイトのリニューアルを実施しました。製品カタログのPDF が張り付けられているだけだった製品情報に特長や導入のメリットなどを追加し、販売代理店向けのページを用意しました。また、地図から直感的に代理店を探せる機能を設け、導線を改善して使いやすさを向上。グローバルサイトを意識したデザインでモバイル対応も実施しました。
    リニューアルの結果、アクセスが6倍に、問い合わせ数も9倍に増加しました。

    ただ、数十もあるローカル販社のサイトを順番に、ベトナムサイトと同様にリニューアルするのはリソースや時間の面で困難です。また、ローカル販社を本社が統括するのは難しいという組織の事情や、空調機には地域性があること、各国の省エネ規制に対応しなければならないという製品の事情もありました。

    このような状況から、ローカル販社が自力で自発的に運用(=自走)することがリニューアルには必要不可欠と考えました。
    そこで、ローカルサイトの“早期充実化”を実現し、その後ローカルが自走できる本社支援の仕組みとして編み出したのが展開キットです。ベトナムサイトのリニューアルでできたローカルサイトの雛形と、グローバルサイトのリニューアルで作ったブランドコンテンツをベースに展開キットを用意し、新規ローカルサイトや情報不足の既存ローカルサイトに展開。2つの活用方法をそれぞれローカル販社に提案しました。

    ベトナムサイトと同様の約120ページ規模のサイトを新規で立ち上げる場合、計画立案・要件定義・ページ設計などで最低でも6カ月程かかりますが、キットのフルセットを利用すると3分の1の期間でサイトをリニューアルできました。費用面でも、最初にキットを使ったインドネシアサイトでは、ベトナムサイトでかかった13分の1の費用でリニューアルを実施できました。

    コンテンツモジュール集の利用でも、企画・素材収集・デザインを省略でき、翻訳して実装時に調整するのみのため、負担を大幅に軽減できます。本社としてもグローバルで一貫したメッセージを発信することができるというメリットがあります。
    このキットを各国に提案し、空調サイトの約9割にフルセット・コンテンツモジュール集の展開キット導入が完了し、統一的なコーポレートコミュニケーションをリーズナブルな費用と工数で実現できました。

  4. ガバナンス

    このフェーズを始めるにあたり、「そもそもガバナンスが効いているとはどのような状態か」を議論しました。現在は「5年に1回立案される中長期経営戦略に基づいた Web 戦略があり、各国がその戦略を踏襲した形で自走しているのが理想の形」としています。さらにブランドを表現する統一されたコンテンツが存在し、拠り所になるガイドラインがあって守られていること。そしてグローバルで共通化できるコンテンツは、本社から提供されてコストの無駄なく最大限の情報発信ができている状態で、情報量や粒度にバラつきがなく、担当者に依存しない状態を作らなければならないとしています。

    社内でよく使う言葉に「二流の戦略、一流の実行力で」という言葉があります。グローバルサイトやローカルサイトのリニューアルは戦略を作り、その戦略に沿って進めていくのが大事ですが、ガバナンスに関してはその時々の状況によって変数が大きく、様々な施策を実行してもいつどういった形で有効になるか読みづらい部分があります。ガバナンスはとにかく実行することが重要だと考えました。

    最初に実施したのが海外行脚です。B2B 企業を専門に扱っている Web コンサル会社の社長とメンバー、当社のメンバーとで10社ほど主要な販社を訪問しました。その際に「独自でコンテンツを作りたくても材料がない」や「本社の考えや方針を示してほしい」など様々な意見を聞きました。訪問してみると、ローカル販社の Web 担当者は孤軍奮闘しているケースが非常に多いと感じました。そのため、Web の専門家を連れて各販社の経営層へ向けて「 Web サイトは作って終わりではなく、運用し続けることこそが大事だ」と説明して認識してもらえたことにより、予算や担当者をつけてもらうことができ、Web のプレゼンスが向上しました。

    ダイキン1


    帰国後は様々な施策に取り組みました。

    1点目が「ダイキンオリジナルストックフォト」です。
    様々な事業部で撮影した写真の権利関係をクリアにし、1カ所に集約。コーポレートカラーのブルーに合うレタッチを施しています。こちらが現地で撮影したこともあれば、現地から届くこともあり、集まった写真を各国で使用してもらっています。イメージが揃うのはもちろん良い点ですが、モデルが全員従業員なのでモチベーションが上がって本社と工場との関係強化に繋がったり、撮影現場を見てもらうことでクリエイティブへのこだわりを理解してもらえたりなど、様々な良い効果があり、現在も写真を追加して強化しています。

    2点目は、ヘッダーフッターガイドラインとビジュアルコミュニケーションガイドラインの整備です。
    コンテンツ面は地域性を出しても良いと考えていますが、グループ会社としてヘッダーフッターは最低限デザインを揃えるためにガイドラインを作りました。ビジュアル面も、あえて「使わないでほしい写真」を定めたガイドラインを用意しました。

    現在進めている取り組みでは「DAIKIN GROUP BRAND BOOK」の作成があります。コーポレートメッセージの「空気で答えを出す会社(Perfecting the Air)」は全世界で使われていますが、担当者の好き嫌いによってこのメッセージを変えたいと言われることもあります。メッセージに込められている意味や背景を本社の方針として説明するのが大事だと考えました。

    もし、このプロジェクトを始めるタイミングでブランドブックを作っていたら、おそらくローカル販社は見向きもしなかったと思います。本社と一緒にブランドコンテンツを発信するフェーズに来たからこそ、こういったものを用意してほしいという意見もあがり、活用されていくと考えています。

 

ローカルを巻き込むポイントは、コンテンツを提供し続けること

ローカルをどのように上手く巻き込んだか改めて振り返ってみると、コンテンツを提供し続けることが非常に重要だと感じます。プロジェクトを通して、様々なコンテンツを作っては提供することを繰り返してきました。例えば、100周年コンテンツ、コロナ禍の換気コンテンツ、目立つ部分に「Perfecting the Air」を置いたヘッダーといったものを定期的に提供してきました。こうすることで、「本社と付き合っていると新しい情報が定期的に来る」というメリットを感じてもらえ、ローカル販社の本社に対する意識が変わり、その後のコミュニケーションが円滑になります。

当社では各国・地域、分権を大事にする文化が根付いています。これまではローカル販社が孤軍奮闘し、マーケティングや企業イメージ、運用の土台を作っていました。プロジェクトを通して、企業イメージや運用の土台は本社が作るなど、本社にしかわからない情報を提供し、グローバルで一本化すべきものは本社主導で行うようにしました。それによってローカルの負担が非常に減り、営業やマーケティングに専念できます。このローカルの遠心力と本社の求心力のバランスを取り続けることが重要だと考えています。

今日お話したデジタルコミュニケーション改革は、2012年に始めたことや空調には独自性があることから、WOVN.io のようなツールを使わずアナログに進めたため、非常に時間がかかった部分があります。WOVN.io のようなツールが活きる場所と、アナログが活きる場所とそれぞれあると思いますので、当社の事例が少しでもヒントになれば幸いです。

ご清聴ありがとうございました。

ダイキン

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