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川崎重工が実践したグローバル Web 戦略とは|川崎重工 山下氏|GLOBALIZED B2B 製造業
佐藤菜摘
Wovn Technologies株式会社は、2023年6月16日に「GLOBALIZED B2B 製造業」を開催し、「海外展開を加速する多言語 Web 発信とは」をテーマにセッションをお届けしました。
当セッションでは、川崎重工業株式会社 ロボットディビジョン グローバル事業推進部 山下 まいか氏を迎え、「B2B 製造業だから必要なデジタルマーケティング ~川崎重工が実践したグローバルウェブ戦略とは~」と題して、グローバルサイトリニューアルの変遷と現地語対応についてお話を伺いました。本レポートではその内容をご紹介します。
【登壇者】
山下 まいか氏
川崎重工業株式会社
ロボットディビジョン グローバル事業推進部 主事
2008年川崎重工業広報部に入社・配属以来、コーポレートブランディング・デジタルマーケティング・メディアプロモーションに従事。2020年からロボット事業を担当。
WOVN:
川崎重工さんのグローバルサイトのリニューアルプロジェクトにおける、よかった点、うまくいかなかった点など等身大のお話を伺いたいと思います。山下さん、宜しくお願いします。
山下(川崎重工):
本日は「Kawasaki Robotics のグローバル Web 戦略」をテーマに、当社の多言語化の事例をご紹介させていただきます。
私の簡単なプロフィールですが、川崎重工に広報として入社して以来、広報・ブランド関係・デジタルマーケティングなどを担当してきました。2020年から産業用ロボットの事業部門に異動し、ロボットに特化した広告業務や、Web サイト周りの業務を担当しています。
海外売上比率7割を占める、ロボット事業
山下(川崎重工):
神戸の地での造船業から始まり、100年以上の歴史がある当社ですが、モーターサイクルを筆頭に、陸海空にまたがる幅広い事業領域を有しています。その中で本日は、ロボット事業である「Kawasaki Robotics」のお話です。
当社の主な事業部門は6つあり、ロボット事業は1割程度の売り上げを占めています。川崎重工がロボットを作っていることを知らない方もいるかもしれませんが、実は日本初の国産・産業用ロボットを製造し、現存する世界最古のロボットメーカーでもあります。
産業用ロボットは、自動車製造を中心に発展し、最近では半導体や電気・電子業界、そして検査・物流分野などにも拡大しています。Kawasaki Robotics では、世界中に24万台以上が納入され、海外売上比率は7割です。
そのため、海外にも多数の拠点を持ち、アジアを管轄する日本・アメリカ・ヨーロッパと3拠点でグローバル全体を見る体制をとっています。
グローバル統一とローカライズが共存するサイトへ
山下(川崎重工):
川崎重工は事業領域が非常に広いので、グループ全体を紹介するコーポレートサイトの他に、ロボティクスとモーターサイクルの2つの事業においてそれぞれ独自のドメインを作りサイトを運営しています。
全ての事業でデジタルマーケティングに注力するのではなく、デジタルマーケティングの効果が高いと判断した事業のみ独自サイトを展開しています。指標は下記3つです。
- 顧客数=多い
- 地域=広範囲
- 海外担当営業者数=不足
この3つの条件が揃い、十分なプロモーションを全世界で展開できていない場合、デジタルマーケティングの活用は有効です。
リニューアルを行ったロボティクスのグローバルサイトの目的は、売上向上に向けた「Kawasaki Robotics の認知向上」と「新規リード創出」です。
現在、ロボティクスのグローバルサイトは30地域27言語で展開しています。
ここに辿り着くまでに、2015年と2022年に2回リニューアルを行っています。
2015年、それまで国単位でバラバラだったサイトを一つのグローバルサイトにまとめました。その結果「ガバナンスがガチガチに強すぎて使いづらい」という反発が各国から起きたのです。2022年にそれらを考慮し、各国の自由度とガバナンスのバランスが良いサイトにリニューアルしました。
2015年当時のアメリカ拠点の事例を少し詳しくご紹介します。
ロボット事業は世界中で展開していたので、地域別サイトが8つ、加えてアメリカでは他部門のサイトが4つも乱立し、各サイトで発信している情報がバラバラになっている状態でした。
特に問題となっていたのは、アメリカ拠点がサイトを強化した結果、SEO が強くなりすぎてしまい、ヨーロッパや他地域からのアクセスを奪ってしまったことです。
アメリカ向けの情報発信サイトなのに、アクセスの6割以上がアメリカ以外の国や地域からということも分かり「これではいけない!グローバルでサイトを統一しよう!」と、日本が旗振り役となりプロジェクトが始動しました。
この時の反省点は、ガバナンスを強化するあまり、各国のマーケティング担当者の意見を十分に聞けなかったことです。
現場から不満が噴出してしまった反省を踏まえ、 2022年にもう一度リニューアルを実施しました。最終的には、ブランドイメージやセキュリティに関わる部分は必ず共通化し、それ以外はローカルで自由にしてもいい、という線引きを行い、今のサイトに決着しました。
この連携を各拠点のサイト運営担当者と進める中で、海外と日本のデジタルマーケティングに対する考え方に明確な差があることがわかりました。
国土が狭い日本では対面販売が可能で、従来のコミュニティによる営業活動が大半です。
一方、国土が広い国では細かなネットワークを築くことが難しいため、Web 検索で見つけてもらい、サイト上でなるべく多くの情報を提供し、ある程度の知識をつけていただいた状態で商談に持っていきたい、という考えでした。
欧州での現地語対応、ユーザー数30%増加へ
山下(川崎重工):
ヨーロッパの主拠点であるドイツからの要望を受け、 WOVN.io を導入しサイトの多言語対応をしています。欧州の強化地域としてフランス、スペイン、イタリア、ポーランド、デンマーク、中国の繁体字の6言語です。
ドイツから要望があがった理由は、欧州では母国語に対してのアイデンティティが非常に強く、母国語で発信することで「自分の国が大切にされている」という信頼感に繋がるからです。
現地語対応にあたって悩みもありました。
ヨーロッパ各国には現地拠点がなく、弊社と資本関係のない販売代理店が製品を売るという状態だったので、当社の現地社員がいない状態で、どうやって公式な情報を出していくか、が課題でした。
これも WOVN.io で解決できました。
WOVN.io を使った翻訳管理は当社の従業員ではなく、販売代理店の方が行う体制を取っています。本サイトと WOVN.io の管理画面は完全に分かれた状態なので、WOVN.io のアカウントだけを渡し、現地語サイトの翻訳チェックをお願いしています。
社外の方に本サイトを編集されてしまうリスクもなく、現地語サイトの管理をお願いできることが、とても画期的でした。
WOVN.io を導入した効果についてお話します。
欧州のデータを集計してみたところ、導入前よりユーザー数は30%増え、直帰率は4%減と、良い結果が出ています。
ユーザー体験の向上という点では、ヨーロッパを管轄しているドイツの現地担当者から、「各国の代理店からの評価も高く、問題なく使えている」と非常に喜んでもらっています。
Q&A
WOVN:
ここからは視聴者様からのご質問に回答いただければと思います。
「今回世界中のステークホルダーを巻き込んでのリニューアルでは大変苦労されたと思います。どのくらいの人数、どういった体制で進められたのですか?」
山下(川崎重工):
実は人数は少なく、日本国内の Web 担当者2人が兼業でやっているので、専任の者はいません。アドバイザー的な立ち位置の2人と併せて国内は4人、各拠点はそれぞれ1人ずつという体制で進めました。
WOVN:
次の質問です。
「これからグローバルサイトをリニューアルするにあたり、要件定義の段階や、プロジェクトを進めていく段階で気をつけておくべき点を教えてください。」
山下(川崎重工):
要件定義で気を付けるべきことは、どこまでをグローバルで共通化するのか、またどこまで現地の人に任せるのか線引きをすることです。
各拠点で好みはあると思うので、世界で絶対統一するところはここだよね、発信したいメッセージはこれだよね、統一できない箇所はそれぞれどこまで調整するか、などを話し合うことは必要だと思います。
WOVN:
最後の質問です。
「現地の方は翻訳修正を頻繁にされているのですか?」
山下(川崎重工):
これは国や担当者によると思います。こだわりがある方は細かく見ていますし、機械翻訳を信じて修正はあまりしないというスタンスの方もいます。
まずは「母国語の Web サイトがある状態」というのが非常に価値があり、それ以上求めるかどうかは、その担当者次第という感じになります。
WOVN:
山下さん、本日はありがとうございました。
以上、「Kawasaki Robotics のグローバル Web 戦略」でした。
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佐藤菜摘
前職は、広告代理店にて大手CVSの担当営業として、販促物製作やブランディングプロジェクトに従事。2016年WOVN Technologies株式会社に入社し、広報業務を担当。2022年よりMarketingチーム。