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日立流「攻めの広報」、世界を相手にするコミュニケーション戦略とは|日立製作所 森田氏|GLOBALIZED コーポレートコミュニケーション

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佐藤菜摘

 本記事のポイント 

  • 日立グループ全体で、どのようなメッセージをどのように発信すべきかを常に考える「意志ある広報」へ

  • 海外の顧客候補となる人々が、まず見るのが Web サイト。コーポレートメッセージやブランド発信はグローバルでやっていかなければならない

  • PESO メディア全てにおいて「One Voice」で発信し続けていくことが大切

Wovn Technologies株式会社は、2024年8月6日に「GLOBALIZED コーポレートコミュニケーション」を開催し、「サステナブル時代を勝ち抜く英語での情報発信」をテーマにセッションをお届けしました。

基調講演では、株式会社日立製作所 グローバルブランドコミュニケーション本部 副本部長 兼 コーポレート広報部長である森田 将孝氏を迎え、「日立流『攻めの広報』、世界を相手にするコミュニケーション戦略とは」と題して、日立製作所のグローバルコミュニケーションについてお話を伺いました。本レポートではその内容をご紹介します。

【登壇者】
森田 将孝 氏
株式会社日立製作所 
グローバルブランドコミュニケーション本部
副本部長 兼 コーポレート広報部長

1996年、埼玉新聞入社。翌年から運動部で記者生活をスタート。2000年に読売新聞東京本社に入社し地方部宇都宮支局に配属。2006年経済部に異動し、日銀サブキャップ等を務めた。2016年に日立製作所に入社し、2020年より広報部長、2022年より現職。同年に広報部として「企業広報功労・奨励賞」を受賞。2023年には「日立の壁」の発刊や、創立者の「小平浪平生誕150周年プロジェクト」などに携わり、様々なチャネルでコーポレートメッセージを社内外に発信している。

 

当社では、創業者の小平浪平が唱えた企業理念「優れた自主技術・製品の開発を通じて社会に貢献する」を非常に大切にして、グローバルコミュニケーションを行っています。

2009年3月期に国内製造業で過去最大の赤字を出し、ここからの大幅な事業構造改革がターニングポイントになりました。顧客が求めるものを納期や品質を守って納めることを大事にする製造業でしたが、顧客が抱えている課題をケイパビリティやデジタルの力で解決していく社会イノベーション事業へと変革しました。

 

各リージョンと連携し、グループ全体で発信すべきメッセージをリードする

当社のコミュニケーション組織を紹介します。


グローバルブランドコミュニケーション本部にはグローバル統括ユニットがあり、グローバルの予算や戦略を考えるグローバル戦略部、ブランドの管理やインターナルを行うコーポレートブランド部、私が部長を務めるコーポレート広報部、SNS や Web を担当するコーポレートデジタルコミュニケーション部があります。

このグローバル統括ユニットがリージョンユニットを束ねています。日本でのイベントなどを担う日本担当コーポレートコミュニケーション部はリージョンユニットの一つとして、アメリカ、ヨーロッパ、中国、シンガポール、インドという5つの地区と同じ立ち位置となっている体制が特徴的です。
グローバルブランドコミュニケーション本部は70人ほどで、他のビジネスセクターや海外拠点にも広報やコミュニケーションの担当者が多くいます。

コーポレート広報部は15人ほどです。ロンドンにいるグローバル広報担当もメンバーの一人として、日本とイギリスで日々コミュニケーションをとり、グローバル広報を行っていることが特徴です。5つの地区のメンバーとも連携しています。

コーポレートと事業部では、コミュニケーションの役割に違いがあります。
コーポレートでは日立グループ全体でどのようなメッセージを発信すべきかをリードしています。一方で事業部はビジネスに近い領域のため、製品や顧客とのコラボレーションの発表など、マーケティングコミュニケーションを行っています。

 

意志のある「攻め」の広報を。コロナを機に新しい施策を展開

2009年の赤字によって、コミュニケーションが「守り」の姿勢となり、メディアとの関係が広く浅くなっていることが課題でした。受け身のコミュニケーションや取材が先行せず、会社の状況と合わせながらどのように「攻め」を行っていくか考えていたところ、コロナ禍に入りました。通常のコミュニケーションが難しい時代になったため、新しい施策を始めたのです。

施策1:メディア担当制
コーポレート広報部のメンバー一人につき、メディアを3〜4社担当しています。例えば広報部のメンバーはそれぞれ鉄道担当、エネルギー担当などが決まっていますが、担当者はどんな分野の取材や問い合わせでもまずはワンストップで対応します。記者が取材をしたいときに問い合わせをしやすい環境を作りました。これによって取材をしやすいだけでなく、今記者が何に関心を持っていてどのような提案ができるのか、メンバー一人一人のコミュニケーション能力を高めてもらいたいというのが私の狙いです。

施策2:広報メルマガ
コロナ禍でリアルで会えないことを理由に考えたのが広報メルマガでした。例えばスポンサーをしているサッカーチームでスポンサーデーを開催した話のような、プレスリリースにはならない話や、リコメンドしたい案件やこぼれ話など、堅苦しくない情報を発信しています。月1回、3年ほど続けてきて、来年4月にはリニューアルを考えているところです。

施策3:小平浪平生誕150周年記念プロジェクト
“広報”や “リリース”というと事業部から来た案件を加工して出す、受け身のイメージかと思いますが、この施策は自分たちで案件を発掘し、どのように世の中に出すか考えて進めた、昨年度のプロジェクトです。
先ほど紹介した各部から1〜2人ずつのメンバーでプロジェクト体制を作り、一からアイデアを募って議論を重ね実現しました。

コミュニケーションとは広報のみならず、様々な考えうる手段を全て実行していかなければならないという危機感を私は持っています。企画展や SNS でのメッセージ発信、オウンドメディア、インターナル、また、LINE スタンプも初めて作りました。

縦割りではなく横で連携しながら発信していかなければならない、自分たちで考えてコミュニケーションしなければならないというのを伝えたく、私はこのプロジェクトをリードしました。

施策4:日立のニュースで社会を動かす
1. “ガクチカ廃止”採用計画レクチャー会
人事部門と日々「何か面白いことはできないか、発信できないか」とコミュニケーションをとり実現した企画です。

2. 「生成 AI に関する研究開発」打ち出し
研究所の討論会にメンバーが出席し、専門技術80件を一つ一つヒアリングして絞り込み創出した施策です。生成 AI テキストのフェイクを見抜くという難しい技術をどう発信するかコミュニケーションのプロとして考え、レクチャー会の開催によりニュースにもなりました。

 

私は毎年期初の4月に方針を示しており、今年は「意志ある広報」としました。中期経営計画3年目で様々な案件がある中、言われたからやるのではなく、言われたものであっても広報として、そしてコミュニケーション部隊としてどのような想いを持って発信するのか、忙しくても一旦立ち止まって考えてほしいと示しています。

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グローバル広報は、“連携”と“「One Voice」で発信し続けていくこと”が大切

最後に、グローバル広報の未来像についてお話しします。

コミュニケーションの前提として、企業である以上経営層からのリクエストを踏まえなければなりません。コーポレートメッセージやブランドの発信は、国内だけでも難しいですが、グローバルでやっていかなければなりません。そういった時に、海外の顧客候補となりうる企業がまず見るのは Web サイトだと思います。当社の Web サイトも各国の言語ごとにあり、そのうちの1つが WOVN.io を導入しているカナダ向け Web サイトです。カナダではフランス語も多く使われているので、英語で発信したものをフランス語に変える際にタイムラグがないよう、WOVN.io を活用しています。

グローバルコミュニケーションを展開する中で1つ大きなクライシスが起きたので、紹介します。
ウクライナ・ロシア問題に際し、ウクライナのデジタル担当大臣が、当社がロシアでビジネスをしていることを良くないとする発言を突然 SNS で行いました。結果的に、ウクライナおよびロシアにおける事業についてのプレスリリースを出しましたが、ここに至るまで2日ほどしかない中、グローバルとオンラインで24時間議論しました。この時の経験が今のメンバーに息づいています。

当社のグローバル広報は、日本の2人のメンバーとイギリスにいるメンバーが大きなハブとなり、他のリージョンとコミュニケーションをしていく体制です。
グローバルのブランド調査をしてみると認知度はありますが、何をしている会社かという点では日本とかなり差があり、まだまだ「家電」のイメージが強いです。これに対し、当社が訴求したい「デジタル」や「グリーン」のメッセージに見合うようなコミュニケーションをメンバーで進めています。


広報といっても、メディア対応だけをすればいい時代ではありません。SNS などに押され、メディア自体の力が非常に弱まり 、昔のようにある程度有名なメディアに出れば広がっていく形自体が大きく崩れています。そこで、PESO モデルといわれる、Paid Media、Earned Media、Shared Media、Owned Media の全てにおいて「One Voice」で発信していく、発信し続けていくことが大切です。


世の中の状況が変われば、当社も当然変わっていきます。社会イノベーション事業というのはそういうものです。もしかすると、日立製作所の「製作所」がなくなる時代も来るかもしれません。実際に今工場は減り、デジタルに変わっています。

そのような中、コミュニケーションも状況に応じて変える必要がありますが、成功体験があるとなかなか組織は変わりません。しかし後手に回らず、先手を取って柔軟に進めていきたいと考えています。
仕組みを変えなければ人の意識は変わらないため、この姿勢を貫いて意識改革をしていきます。

ご清聴ありがとうございました。

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