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日本企業のここが “もったいない” 今、海外投資家が求めている情報とは?|ブラックロック・ジャパン 江良氏|GLOBALIZED コーポレートコミュニケーション

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佐藤菜摘

 本記事のポイント 

  • ESG という言葉は解釈の余地が多様な概念のため、環境や人的資本、ガバナンスなど具体的な項目に基づき評価

  • 日本企業の情報開示は、取り組みをストーリーで繋ぎ、図示に頼らず言葉で説明すべき

  • 長期的な企業価値向上を支える「競争優位性」は、意思決定の背景にある考え方や経営層の熱意と組織含めた執行力から判断 

Wovn Technologies株式会社は、2024年8月6日に「GLOBALIZED コーポレートコミュニケーション」を開催し、「サステナブル時代を勝ち抜く英語での情報発信」をテーマにセッションをお届けしました。

当セッションでは、ブラックロック・ジャパン株式会社 インベストメント・スチュワードシップ部長である江良 明嗣  氏を迎え、「日本企業のここが  “もったいない” 今、海外投資家が求めている情報とは?」と題して、海外投資家の投資判断基準と日本企業の情報発信の改善点について、お話を伺いました。モデレーターは日本初の ESG 重視型グローバル・ベンチャーキャピタルファンド  MPower Partners より、関氏が務めました。本レポートではその内容をご紹介します。

【登壇者】

江良 明嗣  氏
ブラックロック・ジャパン株式会社
インベストメント・スチュワードシップ部長/マネージング・ディレクター

2011年ブラックロック・ジャパン入社。コーポレート・ガバナンスの問題に取組む日本企業に対する株主議決権行使を担当し、株主議決権行使における方針やガイドラインを確立。
以前は、2006年より日興アセット・マネジメントにおいて、コーポレート・ガバナンス・マネジャー及びファンダメンタル株式のアナリストとして従事。1999年より数年間、IT関連企業設立、代表取締役社長を務める。
経済産業省、日本経済団体連合会、経済産業省等の社外ワーキング・グループにも数多く参加。

関 美和 氏
MPower Partners Fund L.P. 
General Partner

モルガン・スタンレー投資銀行部門を経てクレイ・フィンレイ投資顧問元支店長。日本成長株ポートフォリオマネージャーとしてユニクロ等に長期投資。ベビーシッター会社メイコーポレーションを立ち上げ、教育関連企業に売却。ピーター・ティール、ベン・ホロウィッツなど、起業家のバイブルを翻訳。『ファクトフルネス』は100 万部を売り上げた。株式会社ワールド、大和ハウス工業株式会社社外取締役。慶応大学文学部・法学部卒業。ハーバード大学院卒業。

 

 

海外投資家からの注目が集まる日本株

関(MPower):
江良さんは、世界最大の資産運用会社であるブラックロック・ジャパンのスチュワードシップ部長を務めていらっしゃいます。

江良(ブラックロック・ジャパン):
はじめまして、ブラックロック・ジャパンの江良です。ブラックロック・ジャパンは世界中のお客様から資金をお預かりして、日本の上場会社約2,400社に投資をしています。私のチームは、投資先の会社に対する議決権行使、そして年間350社から400社程度と、経営やガバナンスの状況について対話を行っています。

関(MPower):
10年前から見ると日経平均は1万数千円のレベルから一時期4万円まで上がり、今も3万4,000円から3万5,000円ほどです。このように日本株に注目が集まっていますが、その背景をどう考えていますか。

江良(ブラックロック・ジャパン):
ここ数年日本株に注目が集まったきっかけは、他国の市場と比較した場合に、日本が良いと海外投資家が気付きだしたことにあります。

ただしこれは単なるきっかけです。海外投資家から見ても分析しやすい事業ポートフォリオを志向する企業が増え、収益性が高い企業が増えていることも大きな要因です。

さらに、日本の業種の裾野が広いことも注目されています。アメリカではテック系、他の国では半導体系の事業が市場を引っ張る構造が多いですが、日本では製造業以外の分野も多く、分散効果が効いていることが好まれています

最後に、日本企業の経営や取締役会のガバナンスのクオリティがここ10年で大きく向上したと評価されています。これらの要因が組み合わさり、日本株が再評価されるようになっています。

関(MPower):
経営の質やガバナンスが上がってきたかどうかは、どこを見て判断するのでしょうか。

江良(ブラックロック・ジャパン):
開示資料など、公開情報に基づいて投資をすることに変わりはありません。しかしそれ以上に、経営戦略や事業方針など、意思決定の背景にある考え方が大事です。例えば、ある会社が海外市場を重点的に攻める中長期戦略を公表している場合であれば、対象となる市場戦略や価格戦略に至った意思決定プロセスを重視しています。これは開示資料を見れば分かる部分もありますが、それ以上に直接企業の経営者や取締役会のメンバーになるべくお話を伺い、中期経営計画策定段階での議論や業界の状況認識、自社の強み弱みの認識など、方針が決まった背景を理解しています。

このように根底にある考え方を重視するのは、今の世の中は変化が激しく、将来を正確に見通すことは本当に難しいからです。1つ計画を作っても、その計画通りに進むことはほぼありません。何かあった時に正しい情報に基づいて正しい軌道修正が行われるかどうか、その能力が重要です。

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(ブラックロック・ジャパン 江良氏)

 

投資判断への議決権行使助言会社の影響は限定的

関(MPower):
昨今は議決権行使助言会社の力が強まっているように見えます。実際に投資家は、どの程度議決権行使助言会社の言うことを聞いていますか。

江良(ブラックロック・ジャパン):
先に議決権行使助言会社について簡単に説明します。我々は独自の議決権行使ガイドラインに基づいて判断をしていますが、全ての投資家が議決権行使のためのリソースを自身で整備することはできないため、議決権行使の判断をアウトソースすることがあります。そのアウトソース先となるのが議決権行使助言会社です。ただし、助言をどの程度そのまま受け入れるかどうかは運用会社や投資家の判断に委ねられます。

弊社は、独自の考え方でやっているので、助言会社自身のガイドラインに基づく推奨はあまり参照しておらず、結果的に異なる判断となることも多くあります。特に、我々が直接対話をしている企業や複雑な事象が発生している会社については、かなり入念に調査分析を行うため、結果が異なることが多いです。

 

 

ESG が投資家の判断に与える影響を日米の現状から見る

関(MPower):
日本では ESG 経営が謳われている一方、アメリカでは ESG という言葉が政治的なものとして扱われ、使いにくくなっているとも言われています。 TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース) や人的資本の情報開示が始まっている中で、ESG が投資判断にどのように影響するか教えてください。

江良(ブラックロック・ジャパン):
ESG という言葉は多様な解釈が可能な概念であるため、人によって定義が異なります。特に米国では政治的なイシューになっています。したがって、ESG という言葉を使わず、環境や人的資本、ガバナンスなど具体的な項目で評価しています。

したがって、「反 ESG」も定義が難しい概念です。米国では、反 ESG 的な主張も多い一方で、 ESG をさらに推進すべきだという主張も多く、二極化が進んでいます。一つの会社に対して反 ESG 的提案と ESG 推進提案が株主から同時に出されることもあるのが米国の状況をよく表しているのでないでしょうか。

日本では米国のような状況にはなっていませんが、積極的な対応を求める株主提案が増えてきています我々は経済合理性の観点からそれを認めるべきかどうかを個別に判断しています。

TCFD は、気候変動に対する機会とリスクについて、経営の観点から影響と対応状況を説明するフレームワークです。環境との関係性が大きい業種や企業を中心に注視しています。

人的資本については、業種に関係なく色々な企業と会話しています。人事制度、経営陣のサクセッションプランニングやガバナンス、ダイバーシティなど多面的な要素に関連して、人的資本の充実度を見ています

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(MPower Partners 関氏)

 

日本企業の情報開示は「ストーリー性」と「言葉での説明」が不足

関(MPower):
ここまでは江良さんがどのような情報を見ているかというお話でした。逆に「こういう開示の仕方は良くない」「日本企業が共通してやっているが、グローバルの投資家から見るとあまり意味がない」「もっと欲しい情報がある」といった点があれば教えてください。

江良(ブラックロック・ジャパン):
1つ目はストーリー性が欠けていることが多いことです。本企業は個別の取り組み自体はかなり真剣に取り組んでいることが多いですが、「これもやっています、あれもやっています」とリスト化してしまい、それらが経営に対して持つ意味や、取り組む理由、期待する効果など、全体のストーリーや背景の説明がないケースが多いです。中身はあるので、点を線でつなぐ作業を工夫して行えば、より評価されると思います。

2つ目は、言語化です。日本では、取締役会の監督状況や経営の取り組みを、図示する、いわゆるポンチ絵で表現することが多いですしかし、海外の投資家は図だけを見てもよく分からないことも多いですあらゆる中身の前提、矢印の意味や、誰が何を何の目的でやっているのかを丁寧に言葉で説明しないと海外投資家には理解されません。

このようにストーリーと伝え方が重要で、この2つを改善するだけでも言語の壁を越えやすくなり、評価が上がるはずです。

 

経営層の熱意と執行力から長期的な企業価値を判断

関(MPower):
投資家の存在意義はリターンを得ることだと思います。長期的な企業価値の向上は投資家にとっても長期的リターンにつながりますが、長期的に企業価値が向上しそうか判断するために何を見ていますか。

江良(ブラックロック・ジャパン):
一番重視しているのは投資先企業の競争優位性や差別化の要素がどこにあるのか、それが持続するかどうかです。そして、市場の株価に対してそれらの優位性や差別化要素が織り込まれているかどうかを見ています。

競争優位性はビジネスモデルや経営戦略、会社のカルチャーや創業者の理念など、さまざまな要素にあります。そして、大きいのは、会社のリーダーシップ、つまりトップを含めた経営層の熱意や資質です。確固たるリーダーシップと組織の向いている方向性が一体になっているかどうかが、持続的な競争優位性の源泉になることが多いです。

しかし、会社が大きくなるほど理念だけで引っ張るのは難しくなります。経営戦略を執行力として経営の仕組みにどう落とし込むか、適切なKPI を設定し、経営管理によって事業ごとの状況を把握し、適切な経営判断が行えるように情報を吸い上げ、意思決定をする仕組みがうまく回っているかを見ています。

トップの話を聞くと、問題意識が強く、真摯に経営に取り組んでいるかどうかが分かります。健全な危機意識を持ち、真面目に経営している会社であれば、何かあった時に適切な軌道修正や判断ができると思います。これが長期的な競争優位性や企業価値を生む源泉になっていると感じます。

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