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日本は外国人にとって働きやすい国なのか?〜データで見る人手不足と外国人への人材マネジメント〜|パーソル総合研究所 小林氏|GLOBALIZED 外国人材とダイバーシティ経営

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佐藤菜摘

 本記事のポイント 

  • 多文化のマネジメントを向上させるために、日本の人事管理の偏差を日本人自身が十分に理解すべき

  • 外国人マネジメントの鍵は「表現力」。日本人特有のコミュニケーションでは伝わらない

  • 外国人に孤独を感じさせないために、企業で横断的な仕組みやサポートが必要

Wovn Technologies株式会社は、2024年11月13日に「GLOBALIZED 外国人材とダイバーシティ経営」を開催し、「誰もが活躍できる多言語対応・デジタル環境整備とは」をテーマにセッションをお届けしました。

当セッションでは、パーソル総合研究所 上席主任研究員である小林 祐児 氏を迎え、「日本は外国人にとって働きやすい国なのか?〜データで見る人手不足と外国人への人材マネジメント〜」と題して、さまざまな調査からデータを用いて、国際的に見た日本企業のマネジメントや環境整備の特徴と、そこに対する外国人労働者が感じるギャップについてお話いただきました。本レポートではその内容をご紹介します。

【登壇者】
小林 祐児 氏
パーソル総合研究所
上席主任研究員


上智大学大学院 総合人間科学研究科 社会学専攻 博士前期課程 修了。NHK放送文化研究所に勤務後、総合マーケティングリサーチファームを経て、2015年よりパーソル総合研究所。労働・組織・雇用に関する多様なテーマについて調査・研究を行う。著作に『罰ゲーム化する管理職』、『リスキリングは経営課題』、『早期退職時代のサバイバル術』、『残業学』、『転職学』など多数。

 

私はもともと社会学を専攻し、世論調査の経験を経て、ここ10年ほどは人事・労働など「働くこと」に関する調査を行ってきました。
具体的には、「企業」「外国人部下を持つ日本人上司」「日本で働く外国人材」の意識や実態調査、留学生に関する定量調査、高度外国人材への定性的なインタビューなどを実施してきました。
今後の人手不足に対応するため、外国人労働者は2032年ごろまで増加する見込みです。我々は「多文化のマネジメント」を向上させる必要があります。しかし、調査やエビデンスが少なく、日本の人事管理の偏差を日本人自身が十分に理解していないのが現状です。
そこで今回は、「ここがヘンだよ」と題して「キャリア」「評価」「マネジメント」をテーマに、日本の国際的な偏差をエビデンスベースでご紹介します。

 

外国人材の日本の職場に対する不満とは?

日本で働く外国人の不満を聞くと、特にキャリアに関するものが上位に挙がります。「給料が上がらない、安い」といった不満は日本人にも共通していますが、外国人材特有の意見として、「キャリアパスがない」や「昇進・昇格の目処が立たない」といった点が挙げられます。これは正社員だけでなく、パート・アルバイトでも同様に高い不満となっています。「キャリアパスの不明確さ」は、外国人材の不満の定番です。



また、上司のマネジメントにおいては、下記のような評価に対する不満が多くなっています。

・私のアイディア、意見を受け入れてくれない
・私の成果を自分の手柄にしてしまう
・長時間働く人を高く評価している
・定期的に話を聞いてくれない

 

ここがヘンだよ、ニッポンの「キャリア」「評価」

不満の原因を理解するためには、「日本ならではのキャリアや評価」を正しく理解することが重要です。よく「終身雇用」という言葉が使われますが、研究者はあまりこの言葉を使いません。なぜなら、実際には日本に終身雇用の実態はほとんどないからです。

では、日本の雇用の形や特徴は何でしょうか。4つの項目で諸外国と比較してみましょう。

①平等主義的・競争主義
「総合職正社員であれば、頑張れば誰でも社長になれる」という考え方があります。これは「青空の見える労務管理」とも言われ、全従業員を出世競争に巻き込み、「みんなが頑張れば、平社員から幹部層、管理職、社長候補になれる」という、天井がない仕組みです。実際に、現場から叩き上げの社長は日本に多いです。
一方、諸外国のキャリアは「エリート主義的競争」です。特に欧米諸国ではこの傾向が強まっています。MBA や修士号、博士号を持っていない人はエリートと見なされず、幹部層候補にもなりません。学卒比率が上がるにつれて、学士号だけでは差別化が難しくなり、修士号や博士号の価値が上がっています。
つまり、日本の特徴は、社員を長いトーナメント表に乗せてゆっくりと自然選抜することです。その結果、早期選抜ができず、他国と比べて昇進が約10年遅れます。これにより、外国人や中途採用者が幹部層になりにくく、ペースの遅い昇進レースに途中から参加した外国人がついていくのは難しいのです。



②職能資格制度、能力主義管理
これは、1970年代に年功序列的な評価を実力主義に変えようとした試みから生まれましたが、実態としては今でも年功序列が続いています。曖昧な能力で人を評価しようとすると、結局属人的な評価しかできず、若手よりベテランの方が能力を持っているのが当たり前なので、結果的に年功序列的な評価になってしまうのです。

③目標管理制度
欧米でも、目標設定を行い、期末にフィードバックをし、上司が評価をつけるまでは同じです。しかし、日本ではそこに相対評価・全体調整が加わります。これは、人件費を上司だけでなく人事部門が管理しているためです。その結果、絶対評価と相対評価がずれるというジレンマが常に存在します。
さらに、公平性を保つために、人事部門も評価をどれだけ正確に行うかを常に考えています。しかし、メンバーシップ型雇用で分業意識が薄い中で、個別目標を立て、個別の成果を出すことは非常に難しいです。このような状況で、自分で目標を設定し、上司に評価させるため、目標設定時に甘い目標を立てるインセンティブが非常に働きやすいです。

④従業員の現実主義的な評価観
なぜ先述のような評価や目標管理がなされていても、日本人は働き続けられるのかというと、「現実主義的な評価観」があるからです。「私だけが差別されている」ということであれば問題になりますが、隣の A さん、B さん、C さんもみんな曖昧な評価を受け、相対評価で調整され、少しの不満を抱えています。だからこそ文句を言わないのです。しかし、これに外国人がついてくるのは難しいです。その結果、外国人マネジメントを経験した方から多く聞かれるのは、「評価に納得してくれない」ということです。

 

外国人マネジメントの鍵は「表現力」

外国人材の受け入れの課題を調査すると、生活サポートや受け入れ手続きも挙がりますが、やはりコミュニケーションが一番の課題です。外国人マネジメントの鍵を一言で言うと、「表現力」であることがさまざまなデータから見えてきます。

日本人上司の苦労を聞くと「コミュニケーション」が一番に挙がりますが、具体的には下記のような課題があります。

・細かいニュアンスが伝わらない
・常識を知らないため、そこから説明しなければならない
・意図が伝わりにくい
・文字でのコミュニケーションがしにくい
・日本語自体が伝わらない

日本語はそもそも難しいため、コミュニケーションの苦労は非常に大きいです。「阿吽の呼吸」と言われるような日本人特有のコミュニケーションが、外国人には特に「伝わらない」ということがわかります。



コミュニケーションスキルを5つの分類ごとに調査し、マップにまとめました。これは、上司が自分で保有していると答えるスキルと、外国人材の定着や活躍との親和性を示しています。保有率が高く親和性が高いものとして「受容力」が挙げられます。逆に、親和性が高いのに保有率が低いのが「表現力(言語)」です。これは、自分の考えをうまく伝えられているかどうか、といった要素を指します。

よって外国人マネジメントにおいて、上司へのサポートが必要なのは「表現力」といえます。


 

日本の職場は「孤独」である

日本の就労環境の特徴として、孤独であることが挙げられます。OECD がまとめた調査では、「友人や同僚と交流しない割合」で日本人男性は世界で2位です。もちろん個人差はありますが、相対的にはかなり交流が少ないといえます。また、初対面の他者への信頼度も81カ国中77位です。このように相対的に見れば明らかですが、その事実を日本人が認識できていません。

だからこそ、日本で働く外国人は「孤立」に悩んでいます。日本人社員が心を開かないからです。パートやアルバイトはリファラル採用が多く、孤独を感じる従業員は少ないですが、特に正社員領域ではまだそうなっていません。1つの部署に1人か2人いるかいないかの会社が多いです。言語の壁もあり、会話もなかなか難しいため、日系企業での就労環境では非常に孤独を感じやすいのです。

私自身の経験としても、このデータを数年前に発表した際、グループ内の外国人メンバーから「小林さん、まさにそうです。日本人は調和を重んじてニコニコしていますが、全然腹を割って話してくれません」というメールをいただきました。



では、会社からのサポートはどうかというと、十分に行き届いておらず、外国人材が感じている支援は2割を切ります。また、その支援の中身も現場任せであることがわかります。マネジメントしている側に聞いてみても、会社のサポートがなく、現場で孤軍奮闘しているという声が多く聞かれます。ネットワーク支援など、企業で横断的な仕組みやサポートはますます必要になってくるでしょう。

 

まとめ

ここまでさまざまな日本企業の外国人マネジメントに関する課題を挙げてきましたが、具体的に何をすれば良いのか、その参考になればと思い各社の事例を並べました。



非常にエビデンスが少ない領域でございますので、何か役に立ちそうだなと思ったら、パーソル総合研究所のサイトをご覧いただければと思います。ご静聴ありがとうございました。

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