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インクルージョンとは?メリット・デメリットや推進のポイントを解説

佐藤菜摘

近年、多くの企業が DEI の推進に力を注いでいます。DEI(Diversity, Equity & Inclusion:ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン)は、Diversity(ダイバーシティ・多様性)、Equity(エクイティ・公平性)、Inclusion(インクルージョン・包括性)の頭文字を取った言葉で、従業員の多様性を受け入れ、それぞれに合った機会を提供して個々の能力を活かす考え方です。インクルージョンは、DEI を推進する上で不可欠の要素です。
本記事では、インクルージョンの詳しい意味や注目される背景について解説します。インクルージョンを推進するメリット・デメリット、推進のポイントについてもご紹介しますので、参考にしてください。
目次 |
インクルージョンは多様性を活かし全員が活躍できる環境を整えること
インクルージョンは、従業員の多様性を活かし、全員が活躍できる環境を整えることです。具体的には、年齢、性別、国籍などの属性が異なるすべての従業員が、個性を受け入れられ、能力を発揮できる状態を作ることを指します。
インクルージョンという言葉の起源は、1970年代のフランスにあるといわれています。当時のフランス社会では、経済格差を背景に、高齢者や障がい者が福祉や雇用の対象から外されてしまうことがありました。この状態を社会的排除(ソーシャルエクスクルージョン)といいます。その後、これに対する動きとして、あらゆる人が適切に支援され、支え合っていく社会的包摂(ソーシャルインクルージョン)という考え方が生まれました。
インクルージョンは、今では企業経営でも使われています。人種や性別、年齢や障がいの有無にかかわらず、従業員全員の個性を尊重し、それぞれが活躍できる場を作る活動として、多くの企業で取り組まれています。
インクルージョンとダイバーシティの違い
インクルージョンは前述のとおり、DEI や D&I(ダイバーシティ&インクルージョン)の文脈で使われることが少なくありません。
ダイバーシティは、多様性を意味する言葉です。人種や性別、宗教、価値観などに偏りのないことを指します。一方のインクルージョンは、包括性や受容といった意味があり、従業員がそれぞれの個性・特性を発揮して活躍できる環境を整備することを指します。このように、言葉の意味は異なりますが、企業経営においてはセットで取り組まれるのが一般的です。
なお、DEI における Equity は公平性を意味します。障がい者、育児・介護に携わる人など、従来の環境では活躍が難しかった従業員にも公平に活躍の機会を提供する考え方で、インクルージョンやダイバーシティと共に取り組まれています。
インクルージョンが注目される理由
インクルージョンが注目される主な理由は、社会構造の変化です。日本は現在、超高齢社会に突入し、生産人口の減少が大きな課題となっています。これまで企業活動を支えていた層だけでは経済活動を支えきれなくなっており、バックグラウンドの異なる多様な人材の力を必要としています。インクルージョンは、多様な人材が活躍できる場を作る活動として取り組まれているのです。
また、多様な人材に能力を発揮してもらい、イノベーションの創出につなげることも、インクルージョンが注目されている理由のひとつです。価値観や文化の異なる人々が集まり、それぞれが能力を発揮することで、これまでにないアイディアが生まれ、新しいビジネスが生み出されるかもしれません。インクルージョンは、そのための場づくりという側面も持っています。
世界のさまざまな国や地域で取り組まれている SDGs も、インクルージョンの取り組みを後押ししています。SDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)は、2015年に国連サミットで採択された、持続可能でより良い世界を目指すための国際的な目標です。個性の異なる従業員を受容し、包摂することには、SDGs の目標と重なる部分があります。SDGs を推進する社会でインクルージョンが重視されることは、自然な流れといえるでしょう。
企業がインクルージョンを推進するメリット
企業がインクルージョンを推進することには、複数のメリットがあります。主なメリットは以下のとおりです。
採用競争力の強化
企業がインクルージョンを推進すると、採用競争力が強化されます。バックグラウンドの異なる従業員の個性を受け入れ、活躍できる場を作れば、その企業はさまざまな人材にとって働きやすい企業になります。そのような企業には、従来の職場環境では活躍しにくかった人材が自然に集まるようになるでしょう。インクルージョンは、人材市場における採用競争力を強化する上で有効です。
柔軟性のある職場環境の実現
柔軟性のある職場環境が実現することも、インクルージョンを推進するメリットです。インクルージョンによって多様な人材が活躍できるようになれば、より多くの視点、考え方が社内に広がります。そのような多様な視点や考え方は、それまで見落とされていた組織の問題を発見し、解決する力になります。
イノベーションや新規ビジネスの創出
インクルージョンによって多様な人材が活躍できるようにすると、イノベーションや新規ビジネスの創出につながるかもしれません。多様な人材が個々の能力を発揮すれば、顕在化していなかったニーズや社会課題を発見しやすくなり、これまでにないアイディアも生まれやすくなります。課題の発見やアイディアは、イノベーションとビジネスの種です。インクルージョンを推進することは、企業を成長させる技術や事業を生み出すきっかけとなるでしょう。
企業がインクルージョンを推進するデメリット
企業がインクルージョンを推進することには、いくつかのデメリットもあります。主なデメリットは以下のとおりです。
各種コストの増加
企業がインクルージョンを推進すると、職場環境の整備にかかる各種コストが増加します。オフィスのバリアフリー化、ユニバーサルデザインの導入、食事や礼拝などの宗教行為に必要な配慮は、インクルージョンを推進する上で大切な投資です。ケースによっては、異なる文化や価値観を学ぶ研修・セミナーなどを行う必要もあるでしょう。育児・介護と仕事を両立できるようにする制度の整備や、それに応じた評価制度、給与体系の確立も必要です。
コミュニケーションの複雑化
コミュニケーションが複雑化することも、インクルージョンを推進するデメリットです。バックグラウンドの異なる従業員同士が集まると、さまざまな価値観、考え方がぶつかり合うことになります。インクルージョンを企業成長の力にするためには、従業員同士がお互いを理解できるよう、コミュニケーションのとり方を工夫することが必要です。組織の多様化が進めば進むほど、コミュニケーションの形も多岐にわたり、複雑になります。
一時的な効率低下
インクルージョンを推進すると、業務の一時的な効率低下が起きやすくなります。バックグラウンドの異なる従業員が組織に加わり、力を発揮できるようになるには、一定の時間が必要です。その期間は、組織に加わった従業員が職場のルールを覚え、環境に適応するための大切な時間です。教育や指導を行っているあいだは、教える側も含め、業務効率が落ちてしまうかもしれません。
インクルージョンを推進する上での課題
インクルージョンを推進する上では、複数の課題を乗り越える必要があります。主な課題は以下のとおりです。
変革への抵抗
インクルージョンを推進しようとすると、既存の従業員が変革に抵抗することがあります。既存の従業員にとっては、従来の価値観や仕事の進め方を維持するほうが働きやすく、自分と異なる価値観や考え方を受け入れることは、必ずしも容易ではありません。そうした従業員は、ややもするとインクルージョンの推進に抵抗することがあるため、企業の前進にとって重要な取り組みであると理解してもらうことが大切です。
多様性を受容する難しさ
多様性を受容する難しさも、インクルージョンを推進する上での課題です。従来、人間には自分と似た価値観や経験を持っている人に共感を抱きやすい傾向があります。一方で、自分とは異なる考え方を持つ人に違和感を覚えたり、忌避感を抱いたりすることもあるため、多様性を受容するのは簡単ではありません。
インクルージョンを推進するには、宗教、文化、考え方、個性の違いを理解し、尊重できるようにするための素地づくりが不可欠です。研修や啓発活動を行う他、多様性の受容に心理的な不安を感じる従業員のために、専用の相談窓口を設置するなどの配慮も必要でしょう。
コミュニケーションの壁
従業員同士のコミュニケーションの壁も、インクルージョンを推進する際の重要な課題です。特に外国人とのコミュニケーションの壁として最も大きいのは、言語の違いです。また、文化や価値観も国ごとに異なるため、多様な従業員が問題なく意思疎通を図ることは容易ではありません。インクルージョンを推進するためには、英語教育の導入や社内ポータルの多言語化などが不可欠です。
インクルージョンを推進する際のポイント
インクルージョンを推進するためには、押さえておくべきポイントがいくつかあります。主なポイントは以下のとおりです。
従業員の意識を改革する
インクルージョンを推進するには、既存の従業員の意識を改革する必要があります。前述のとおり、インクルージョンに抵抗を感じる従業員は少なくありません。インクルージョンを成長の力とするためには、インクルージョンの目的とゴールを明確にし、それを従業員に共有することが大切です。
適切な評価制度を整備する
適切な評価制度を整備することも、インクルージョンを推進する際の重要なポイントです。従来のフルタイム勤務だけでは、育児や介護に忙しい従業員は働き続けることが難しくなります。そうした従業員も活躍できるようにするには、時短勤務やリモートワーク、フレックスタイム制などを整備する必要があるでしょう。
また、働き方や能力、成果に応じた公正な評価制度の整備も重要です。従来のフルタイム勤務を前提とした評価制度を見直し、生産性やスピード、品質などを評価する仕組みを細かく作っていく必要があります。公平な制度を整備するのは容易ではなく、一定の時間も必要です。しかし、これらをきちんと整備することで、多様な人材が正しく評価され、活躍できる環境を作れます。
活動を定期的に振り返る
インクルージョンを推進する際は、活動を定期的に振り返り、軌道修正していくことが大切です。既存の従業員の意識改革や各種制度の整備は、一度行えばそれで終了するわけではありません。組織の形は、従業員の入れ替わりなどによって常に変化します。インクルージョンの推進方法も、組織の形に合わせて変えていかなくてはなりません。インクルージョンの各施策が適切に機能している状態にするためには、活動を定期的に振り返り、従業員の意見なども集めながら改善していくことが大切です。
社内ポータルなどコミュニケーションツールを多言語化する
社内ポータルなどを多言語化することも、インクルージョンを推進する際のポイントです。言語の違いは、コミュニケーションの壁になりやすく、インクルージョン推進にとって大きなハードルとなります。この問題を解決するには、従業員向けに英語教育などを行うだけでなく、作業マニュアルや社内規程の閲覧や最新情報が共有される社内ポータルを多言語化することが重要です。これにより、外国人従業員の制度理解や業務の習得が早まり、社内コミュニケーションもスムーズになるでしょう。
インクルージョンの目的を共有し、ゴールに向かって取り組もう
企業におけるインクルージョンは、バックグラウンドの異なる従業員が活躍できる環境を作ることを指し、企業成長の大きな力になる取り組みです。インクルージョンを適切に推進するには、全従業員がその目的を共有し、ゴールに向かって同じ意識で取り組むことが欠かせません。
インクルージョンの推進にはさまざまな課題がありますが、中でも外国人との高いハードルとなるのが言語の違いです。これを乗り越えるには、英語などの社内教育だけでなく、全従業員がアクセスする社内ポータルなどのコミュニケーションツールを多言語化する必要があります。
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インクルージョンの推進に併せて、ぜひ「WOVN.io」の導入をご検討ください。

佐藤菜摘
前職は、広告代理店にて大手CVSの担当営業として、販促物製作やブランディングプロジェクトに従事。2016年WOVN Technologies株式会社に入社し、広報業務を担当。2022年よりMarketingチーム。