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コーパスとは?自然言語処理における役割や種類、活用例を解説

佐藤菜摘

近年、AI の自然言語処理(NLP)技術の重要なデータベースであるコーパス(Corpus)は、言語学の研究や言語教育をはじめ、文章の生成、検索エンジン、機械翻訳など、言語に関わるあらゆる分野で活用されています。自然言語処理技術にとって欠かせない重要なリソースだといえるでしょう。
本記事では、自然言語処理におけるコーパスの役割や種類に加え、さまざまな場面における活用例について詳しく紹介します。
目次 |
コーパスとは膨大な自然言語を集めたデータベース
コーパスとは、人間が日常的に使っている自然言語の膨大なデータを収集して、検索できるように整理したデータベースを指します。言語学や自然言語処理などにおいて、言語を分析・理解するために活用されている、重要なリソースです。
例えば、本や雑誌の他、新聞、学術論文、映画、テレビの字幕、インターネット上のテキストなど、あらゆるメディアにおいて文字化されたさまざまなテキストを大量に集めて構造化することで、言語の分析が可能になります。これにより、AI や外国語学習者、言語学の研究者などが、言語を多角的に分析・理解できるようになります。
コーパスの主な役割
コーパスを活用することで、より自然な言語表現を学習し、文脈に応じた適切な表現を生成できるようになります。ここでは、言語学や AI の自然言語処理などで活用されるコーパスの主な役割を解説します。
適切な言語表現を分析する
コーパスは、適切な言語表現を分析するために活用されます。人間が自然と感じる文章を作成したり、人とのコミュニケーションに適した表現を選んだりするには、言葉の微妙なニュアンスの違いを理解することが必要です。AI や学習者はコーパスを活用することで、文脈に応じた適切な言葉の使い分けや、言い回しを把握できます。
単語の使用頻度を調査する
コーパスは、単語やフレーズの使用頻度を調査するために活用されます。特定の単語やフレーズを検索すると、その使用頻度が数字で示されるため、類似した複数の表現の中で、どれが一般的に使われているのかを客観的に判断できます。これにより AI や学習者は、よりネイティブに近い自然な表現を採用することが可能です。
コーパスの種類
コーパスには、使用する言語や目的によってさまざまな種類があります。特定の言語の分析に特化したものや、特定のジャンルのテキストを網羅したものなど、その種類は多岐にわたります。ここでは、主要なコーパスの種類を紹介しましょう。
日本語コーパス
日本語コーパスは、日本語の単語や文法、言い回しに関して構造化されたデータベースです。代表的なものとしては、「現代日本語書き言葉均衡コーパス(BCCWJ)」が挙げられます。これは国立国語研究所が構築したもので、新聞や雑誌、書籍、ブログ、インターネット掲示板など、多様なジャンルのテキストから約1億430万語が網羅されています。
英語コーパス
英語コーパスは、世界中で活用されている英語のデータベースです。代表的なものとしては、約1億語のイギリス英語が収録された「British National Corpus(BNC)」や、アメリカの小説や新聞、雑誌、ラジオなどで使われている10億語以上の単語を集めた「The Corpus of Contemporary American English(COCA)」などがあります。
学習者コーパス
学習者コーパスは、言語を習得しようとしている人に向けたコーパスです。学習者自身が作成した文章や学習者が読んだり聞いたりした文章などが集められています。
学習者が言語をどのように理解しているかを分析したり、間違いやすいパターンやよく使う表現の分析をしたりして、日本語教育の研究や教材開発などに利用します。日本語を第2外国語として学習する人に向けた「C-JAS(Corpus of Japanese as a Second Language)」などが代表例です。
検索エンジンコーパス
検索エンジンコーパスとは、検索エンジンがインデックスを作成するために収集した、テキストやWebページのデータのことです。本文や見出しなどのテキスト、メタデータ、リンク情報などのデータが含まれます。このコーパスは、検索エンジンがユーザーのクエリに対して、関連性の高い情報を提供するために使用されます。
コーパスは自然言語処理の各プロセスに不可欠
コーパスは、自然言語処理技術の基盤となり、システムが人間の言葉を分析・処理する上で重要な役割を果たします。自然言語処理においてコーパスがどのような役割を担うのか、プロセスごとに解説しましょう。
形態素解析
自然言語処理における形態素解析は、テキストを単語や形態素(意味を持つ表現要素の最小単位)に分解するプロセスです。コーパスを活用すれば、頻出する単語や文法のパターンを学習しながら、形態素に品詞を適切に割り当てることが可能となります。これより解析の精度を向上させることができます。
構文解析
構文解析は、文章の構造を解析するプロセスです。コーパス内に収集された既存の文例を参考にすることで、主語や述語、目的語など、単語同士の関係性を正確に解析でき、文章の意味の理解を深められます。
意味解析
意味解析は、単語や文章の意味を理解するプロセスです。コーパスを活用することで、単語の意味やフレーズの相対関係などの解釈が可能となります。ひとつの単語に複数の意味がある場合も、コーパスによって何を指すのか的確に判断できます。
文脈解析
文脈解析は、文章の前後関係を解析するプロセスです。コーパスを活用すれば、文脈に応じた意味や、前後の文章との関係性を正確に理解することが可能となります。これによって、より人間らしい自然な言語理解ができるようになります。
コーパスをもとにした自然言語処理の活用例
コーパスを活用すると、言葉の意味や文脈を考慮した精度の高い言語処理が可能です。近年、コーパスを用いた自然言語処理技術は幅広いシーンで活用されています。ここからは、具体的な活用例を見てみましょう。
文章の生成や要約
コーパスをもとにした自然言語処理は、文章の生成や要約に活用されています。生成 AI はアルゴリズムを用いて文章の内容を分析し、自然な言い換えや短縮表現を交えながら新しい文章を生成できます。また、主要な単語やフレーズを抽出して要約することも可能です。近年話題の「ChatGPT」は、その代表的な例のひとつです。
チャットボット
チャットボットも、ユーザーとの対話を自動化するために自然言語処理を利用しています。コーパスを使って大量の対話データを学習することで、人が打ち込んだ文章の文脈や言葉の意味を的確に理解し、自然な回答の生成が可能です。カスタマーサポートや問い合わせ対応などにも利用されています。
音声対話システム
音声対話システムは、コーパスをもとにテキストデータや音声データを活用し、多様な会話パターンを学習します。その上で音声を解析し、文脈に適切な応答を生成します。「Siri」や「Googleアシスタント」、「Alexa」などの AI アシスタントサービスなどが代表例です。
テキストマイニング
テキストマイニングは、大量のテキストデータから情報を抽出する技術です。統計学や AI のデータ解析技術を用いて、文章データを解析し、パターンや意味の傾向を見出します。特に、ビッグデータ分析の一環として、顧客分析や市場調査などに広く活用される技術です。
例えば、コールセンターの通話記録や Web アンケートの記述回答、インターネット掲示板や SNS の投稿などのデータもテキストマイニングによって解析されます。これにより、顧客の意見分析やトレンドの把握、ブランドの評判管理などに役立てられています。
検索エンジン
検索エンジンも、自然言語処理技術を活用した代表的な活用例です。会話形式や複雑なクエリに対しても、コーパスをもとに学習した自然言語処理技術を用いて検索クエリの意図を解析します。これにより、高精度な検索結果を表示できるのです。
文字変換予測
PC やスマートフォンなどのキーボードで入力するときに表示される文字変換予測も、コーパスを活用した技術です。ユーザーが入力するテキストをリアルタイムで解析し、次に入力されるであろう単語やフレーズを予測することで、入力効率を大幅にアップさせることができます。
機械翻訳
機械翻訳サービスにおいても、コーパスを活用した自然言語処理が採用されています。多言語の文章を対比させた対訳コーパスを用いることで、翻訳精度を向上させることが可能です。これまで機械翻訳は直訳に近く、ネイティブスピーカーにとっては違和感のあるケースも少なくありませんでした。しかし近年は、膨大な量の対訳データを学習することで、より高精度で自然な翻訳を提供できるようになっています。機械翻訳の代表的なサービスには、「Google 翻訳」や「DeepL」などが挙げられます。
コーパスは高精度な自然言語処理において欠かせない存在
コーパスは、文章の生成や要約、チャットボットや音声対話システムなど、AI の自然言語処理技術にとってなくてはならない重要なリソースです。また、近年急速に進むビジネスのグローバル化によって、多くの企業で導入される機械翻訳においても、コーパスが活用されています。
Web サイト多言語化ソリューション「WOVN.io」も、コーパスを用いた機械翻訳を取り入れたサービスのひとつです。「WOVN.io」は、3000種類にわたる業界・サイト属性に対応した「特化型生成 AI」により、高精度な翻訳が可能です。ChatGPT や機械翻訳エンジンに加え、用語集や、人の手による修正を含む翻訳運用を完全自動化する「WOVN COPILOT」、プロの翻訳者による人力翻訳など、さまざまな翻訳手段を用意しています。しかも、導入は Web サイトに1行のスクリプトを挿入するだけなので簡単です。
「WOVN.io」では、今後はさらに大規模言語モデル技術を活用し、Web サイトの多言語運用を完全自動化するための技術開発を進めていきます。

佐藤菜摘
前職は、広告代理店にて大手CVSの担当営業として、販促物製作やブランディングプロジェクトに従事。2016年WOVN Technologies株式会社に入社し、広報業務を担当。2022年よりMarketingチーム。