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移動・決済データから紐解く訪日の実態|ナビタイムジャパン 藤澤氏・三井住友カード 安藤氏|GLOBALIZED インバウンド

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佐藤菜摘

 本記事のポイント 

  • リピーターの地方周遊が増加し、地方での消費金額が伸びている

  • 中国人の購買力依存からの脱却。消費ニーズは多様化し「コト消費」が増加

  • マクロ視点で打ち手のトレンドを知り、マーケティングの優先順位を立てる

Wovn Technologies株式会社は、2024年5月16日に「GLOBALIZED インバウンド」を神田明神ホールにて開催し、「インバウンド最前線2023年 15兆円市場へ 〜訪日インフラに求められる多言語対応とは〜 」をテーマにお届けしました。

当セッションでは、株式会社ナビタイムジャパン 藤澤 政志氏・三井住友カード 安藤 皇太氏を迎え、「移動・決済データから紐解く訪日の実態 〜旅行中の行動をとらえたマーケティングとは〜」と題して、訪日インバウンドに関わる事業者が、今後のマーケティング戦略を描く上で把握しておくべきトレンドについてお話を伺いました。本レポートではその内容をご紹介します。

【登壇者】
藤澤 政志 氏
株式会社ナビタイムジャパン
トラベル事業 地域連携シニアディレクター

2008年株式会社ナビタイムジャパン入社。2012年より国内アプリケーション事業部長、2014年インバウンド事業部長を経て、2021年より地域と連携した観光・交通施策を行う地域連携事業部を立ち上げる。これまで、TCVB(東京観光財団)アジアセールス委員会委員長、JNTO(日本政府観光局)にて調査役として従事。デジタル技術と交通機関を活用した地域活性に取り組んでおり、北海道におけるドライブツーリズム、山梨県での MaaS 施策など、観光と2次交通の利用促進、観光動態ビッグデータを活用した観光促進を行う。

安藤 皇太 氏
三井住友カード株式会社
データ戦略部 部長代理

2016年、 三井住友カードに入社。法人向けの営業を担当。2018年より、 統合マーケティング部にて、自治体向け観光消費動向調査事業を立ち上げ、ナビタイムジャパン社とのアライアンスを促進し、位置情報×決済データの掛け合わせ分析メニューを確立。2019年、観光庁、経産省、宮城県、福岡市など、幅広い省庁、自治体を支援。2020年、データ分析支援サービス “Custella” を立上げ、2022年より “Custella” による自治体マーケティング支援チームを指揮。現在は、ToC 向けのパーソナライズド・マーケティングサービスの企画を指揮、また副業にて、自治体向け観光マーケティング支援会社を指揮。

 

 

 

宿泊以外の消費需要を拾えた地域で決済金額が増加

安藤(三井住友カード):
三井住友カードの安藤です。クレジットカードの決済データを基に、様々な分析やマーケティングの打ち手をご提案しています。
我々は「旅ナカ」の、予約から来訪という部分を決済から捉えられる事業者ですので、細かなデータと共に最近のトレンドをお伝えさせていただきます。


藤澤(ナビタイムジャパン):
ナビタイムの藤澤です。ナビタイムは訪日外国人が経路検索や移動をする際に使っていただく「 Japan Travel by NAVITIME 」というサービスを提供しています。
このサービスで取れるデータの1つに匿名化した位置情報があり、三井住友カードさんとお互いのデータを掛け合わせながら、今のインバウンドの傾向をお話させていただきます。


安藤(三井住友カード):
下の表の左側は、全体の決済金額のトレンドをエリア別に分けたものです。2019年と2023年を比較した時に、東北や中国地方、四国地方が伸び率としては大きく、北海道や近畿が非常に落ちている状況です。

この1つの原因は、中国人観光客への依存が大きいと思っています。
直近まで中国からの団体旅行が規制されていたこともあり、中国人観光客のシェアが大きく減り、中国人に依存していた地域は決済金額でマイナス傾向が強まっています。


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表の右側が決済金額を都道府県別に切り分けたもので、伸び率の1位は山形県です。
直近インバウンドの方に「銀山温泉」がバズっていることもあり、その周辺での宿泊や、宿泊に伴う夜の飲食、バー・ナイトクラブなどの消費が非常に伸びています
特徴的なのが、貴金属や時計などの消費も非常に伸びていることです。宿泊に合わせて、貴金属も山形県で購入されるケースが新たな傾向として見えています。

 

平均宿泊日数が1日増え、新しい行き先が開拓される

藤澤(ナビタイムジャパン):
「地方が伸びている」という話がありましたが、この傾向の背景として、日本に滞在する日数が長くなっているので、地方の消費単価が高くなる傾向があると思います。
下の表は、官公庁が集計している訪日外国人の宿泊日数を集計しなおしたものです。


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左側が2019年、右側が2023年で「増減(泊)」がプラス何泊伸びているのかというデータです。青く網掛してる部分が伸びている国で、全体平均で0.8泊伸びています。単純に1泊日本に長く滞在する人が増えていることになります。

1泊増えた分、地方の消費単価はもちろん上がりますし、周遊で行ける範囲も広がります。

ではどこを周遊しているのか。

目的地の増加率で見ていくと、2019年には存在しなかったところに行く方が増えています

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1位は大阪府門真市ですが、三井ショッピングパーク ららぽーとさんが開業していて、ここにインバウンドの方が多く来ているんですね。ショッピングモールの人気は一定数あるようです。

2位以下を見るとニュースで話題になった場所が伸びているのですが、それを抑えてショッピングパークが1位という面白いデータだと思います。

 

旅消費金額と購買傾向、中国依存から多様化へ

藤澤(ナビタイムジャパン):
ここからは属性がどう変わってきたのか、というお話をさせていただきます。


安藤(三井住友カード):
国籍別の決済金額の構成費の中で、特に目立つ4、5か国を記載したのが下のグラフです。
2019年は中国が57.4%を占めていたところが18.3%に下がっている分、他の国籍のシェアが非常に伸びています。

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ここを単価に切り分けていくと、更に新たな違いが見えてきます。

国籍別の単価の伸び率では中国が非常に下がっていますが、決済単価としては一番高く、2019年の単価の絶対値と比べると伸びています。2019年は団体ツアーで来られている方が多かったのですが、2023年はツアーが規制された分、個人旅行が可能な富裕層の方が来ており、決済単価の額は伸びています。

また、アジア圏の単価は韓国を除いて高く、アメリカやオーストラリアが少し低いことがわかりました。アジア圏の方は貴金属や時計などのブランド品や、高級なファッションを嗜好される傾向にありますが、アメリカやオーストラリアの方はユニクロさんのように、安くて質のいい日本のファッションを買っていく傾向が決済でも見られます。

非日常の高額なものを買っていきたいアジア圏の方と、日常の延長線上で日本での買い物を楽しまれているアメリカとオーストラリアという嗜好の違いも、単価から見えてきます。


藤澤(ナビタイムジャパン):
スポット検索のランキングでも違いが現れています。アジア系の方はハイブランドを検索されるのですが、欧米の方はユニクロさんやオニツカタイガーさんなどのランキングが上がってきていますね。

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リピーターほど地方周遊

藤澤(ナビタイムジャパン):
地方周遊が増えてきている背景の1つに、リピーターの数が増えている
ことがあります。実は10年前から、初めて日本に来た訪日客の割合とリピーターの割合は、そんなに大きく変わっていません。大体40%前後です。
2023年は初めて来た人が40%、2回目以降のリピーターが60%といわれてます。でもなぜか「リピーターが多い」という印象がありませんか?
それはなぜか。日本に来る訪日外国人の数が母数として増えてるので、単純に割り戻すとリピーターの数も増加傾向にあります。ただ、割合は変わっていないということです。

インバウンドの高頻度来訪化というのもあり、日本に2回以上来ているリピーターの方の半数以上が1年以内に日本に再訪しています。この方達が新しい観光地を探す原動力につながっています
どの国籍の方もリピーターになれば地方に行く機会が増えるのですが、中国だけは都市型に回帰していくというデータがあります。地方周遊を考えるならば、韓国・台湾・香港などをターゲットにしていくと良いと思います。

下の図は、初めて来た人が行く都道府県と、リピーターになってから行く都道府県を相対分析したものです。青く塗られてる自治体は「初めて行く外国人が行きやすいスポット」で、赤く塗られてる自治体は「リピーターになればなるほど行きやすいスポット」と見てください。

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比較的地方が赤く塗られています。例えば北海道の場合、地方空港の場所を中心として赤く塗られています。訪日リピーターになり、国内線で地方周遊をして帰るというのが確立され始めているということですね。

訪日外国人は国内線、特に道内線は安く飛行機に乗れるので、そういったことも影響していると思います。

 

「モノ消費」から「コト消費」へ

藤澤(ナビタイムジャパン):
消費の変化について安藤さんから説明してもらいます。

安藤(三井住友カード):
我々は加盟店様を88の業種に分けています。88の業種をモノ消費とコト消費に分けたトレンドを分析すると2019年は約80%弱が「モノ消費」でしたが、コロナ禍を機に「コト消費」の傾向が大きく出ています。20%程度がモノからコトに変わっています。

コト消費のジャンルを、お買物、宿泊、飲食サービス、レジャー、交通に分けてみると、飲食やレジャーが2019年より増えている傾向があります。

下の表は、決済金額伸び率の上位トレンドで、2019年と比較してほとんど青(コト消費)に変わっているのが見ていただけます。



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各地域で移動手段や飲食店・レストランが上位に来ていたり、居酒屋が上位に来ていたりと、宿泊だけにお金をかけて、お買い物をされるというより、その周辺のコト消費をする。

ナイトツーリズムでお酒を楽しむだとか、昼間にバズっているカフェに行くだとか、コト消費が全体で伸びていることを見ていただけると思います。

 

マクロとミクロを掛け合わせたマーケティング施策を

藤澤(ナビタイムジャパン):
最後にお互い一言ずつ、訪日客に選ばれるためのプロモーション戦略についてお話をして終わりたいと思います。

今日発表したのは比較的マクロな視点での分析ですが、かなりミクロな部分のデータまで取れるようになっています。
例えば「逆引き検索」、特定のスポットに行っている人がどこから来ているのか分析ができます。
例えば上野のアメ横は意外と最終日に選ばれやすいスポットなんですね。なぜかというと、空港へのアクセスが抜群に良く、ギリギリまでアメ横で遊んで、ショッピングをしてから空港に行けるという背景で選ばれているからです。

つまり、自分たちの顧客が最終的にどこに泊まっているお客さんかということがわかれば、プロモーション先が実は旅ナカでも有効である、ということが言えると思います。


安藤(三井住友カード):
ナビタイムさんですと、どこを訪れたかが細かな点でわかるところが一番の強みかと思いますし、我々三井住友カードはその中でお金を落としているかどうかがわかる。

人は訪れているが、お金を落としてくれているのかがわからない、というこれまでの課題に対して、この2事業者が組むことによって、示唆がご提供できると思います。

データ分析は分析で終わってしまうと意味がないので、打ち手のトレンドを知って、何をしていくべきか優先順位を立て、効果検証をセットでやっていくことが非常に重要だと思います。

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