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スマートシティとは?国内外の取り組み事例や課題を解説

佐藤菜摘

スマートシティとは、最先端技術を活用して、市民や企業、訪問者によりよいサービスや生活の質を提供する都市のことです。近年、国内外でスマートシティの実現に向けたさまざまな実証実験が行われており、注目を集めています。
本記事では、スマートシティが実現した社会や、そのために必要な技術、国内外の取り組み事例、実現にあたっての課題について詳しく解説します。
目次 |
スマートシティとは ICT の活用などによって QOL を高めた都市
スマートシティとは、IoT や AI といった最先端技術を活用することで都市の諸問題を解決し、企業や市民における生活の質(QOL)を高めている都市のことです。
内閣府の Web サイト「スマートシティとは」では、スマートシティについて「グローバルな諸課題や都市や地域の抱えるローカルな諸課題の解決、また新たな価値の創出を目指して、ICT 等の新技術や官民各種のデータを有効に活用した各種分野におけるマネジメント(計画、整備、管理・運営等)が行われ、社会、経済、環境の側面から、現在および将来にわたって、人々(住民、企業、訪問者)により良いサービスや生活の質を提供する都市または地域」と定義されています。
※ 内閣府「スマートシティとは」
https://www8.cao.go.jp/cstp/society5_0/smartcity/index.html
スーパーシティとの違い
スマートシティに似た概念として、スーパーシティがあります。どちらも ICT 技術を活用する点では同じですが、スマートシティはより広範囲にわたる技術活用を目指している点で異なります。
スーパーシティとは、AI やビッグデータなどを活用した最先端のサービスを地域の暮らしに導入し、住民が「住みたい、住み続けたい」と思える、より良い未来社会を先取りで実現した都市のことです。2020年の国家戦略特別区域法の改正で「スーパーシティ型国家戦略特別区域」の指定基準などが定められ、スーパーシティを構築する取り組みが始まりました。2025年1月現在では、茨城県つくば市と大阪市が、スーパーシティ型国家戦略特別区域に指定されています。
スーパーシティ構想の目的は、生活全般にまたがる複数分野の先端的なサービス提供と、複数分野間でのデータ連携を重視し、住民の合意のもとに地域全体の問題を解決することです。一方のスマートシティは、最先端技術を活用することで、個々の地域の課題を解決し、都市機能の効率化・最適化を目指している点に違いがあります。
スマートシティが実現した社会はどうなる?
スマートシティが実現すると、都市や社会はどのように変化するのでしょうか。ここからは、個人の生活から都市の仕組みまで、スマートシティが実現した社会について具体的に紹介します。
生活の質が上がる
スマートシティが実現すると、生活の質が上がります。行政手続きや買い物、移動、医療、観光など、さまざまなサービスが効率化されるでしょう。例えば、自動運転車両の普及で高齢者も安全に移動できるようになったり、リモート診療の普及により誰もが医療サービスを受けやすくなったりするなど、生活がより快適で豊かなものになります。
社会インフラが改善する
スマートシティが実現すると、社会インフラも改善します。例えば IoT や AI などの最先端技術を活用することで、水道管の劣化状態予測、ドローンによる建物の点検などが可能となります。また、農業では IoT を活用した水管理で災害時の水供給を確保し、林業ではドローンを用いた森林管理で土砂災害を防ぐなど、一次産業と連携することで社会インフラの維持・強化が可能です。
エネルギー効率が上がる
エネルギー効率の向上も、スマートシティの実現によって期待できます。例えば、太陽光や風力、水力などの再生エネルギーの活用や最適な管理が行えます。また、クラウドを活用した計算処理の効率化により、データセンターで消費される電力が削減され、都市全体のエネルギー効率の向上につながるでしょう。排水や雨水の再利用システムの構築などによって、水資源も効率的に利用することが可能です。
災害対策が強化される
スマートシティが実現すると、災害対策も強化できます。GPS や IoT などによる多点観測でリアルタイムにデータを収集できるため、災害時の地域全体の状況把握や物資の支援、インフラ復旧などがスムーズになります。また、ビッグデータの活用により、災害の予測や対策強化も可能です。
交通渋滞が緩和される
スマートシティでは、交通渋滞が緩和されます。道路に設置したセンサーからリアルタイムにデータを収集し、状況に応じて交通信号を調整するシステムなどの導入によって、交通渋滞を未然に防ぐことが可能です。また、カーシェアリングの推進や事故防止策の改善なども期待できます。
見守りによって安全が保たれる
スマートシティが実現すると、見守りによる安全の維持も可能です。街中や施設にセンサーやカメラを設置し、膨大なデータの収集・分析が行えるため、防犯や高齢者の見守りがスムーズになります。
また、街中の IoT センサーと連携し、子供が特定のエリアを通過した際に保護者へ通知が届くシステム などによって、子どもの安全確保につなげることもできます。
スマートシティを実現させるために必要な技術
スマートシティを実現させるためには、最先端の技術の活用が欠かせません。スマートシティを支える代表的な技術には、以下のようなものがあります。
AI
スマートシティを実現させるために必要な技術のひとつが、AI です。AI は人工知能のことで、人の言葉の理解や認識、分析、判断、提案といった、人間のような知的行動をコンピューターに行わせる技術を指します。音声アシスタントから自動車の自動運転、お掃除ロボット、チャットボット、医療分野の画像診断まで、すでにさまざまな分野で活用されています。
例えば、行政機関や企業の総合案内サービスに AI チャットボットを導入することで、職員の問い合わせ対応の時間・労力を削減させ、住民の利便性向上につなげられるでしょう。また、防犯カメラや医療検査の画像解析に活用することで、防犯や医療サービスを改善させるなど、さまざまな活用方法があります。
センシング技術
センシング技術も、スマートシティを実現させるために必要な技術といえます。センシング技術とは、センサーにより温度や湿度、光線、音などを検知して数値化する技術です。紫外線などの目に見えないものの人体への影響調査や、自然災害などの検知、交通状況の把握などに利用されます。
IoT
スマートシティを実現させるために必要な技術として、IoT も挙げられます。IoT は Internet of Things の略で、物がインターネットにつながる仕組みのことです。これにより、センサーで収集した情報の活用や家電の遠隔操作、アプリなどとの連携、最新情報の提供などが可能になります。
IoT は、すでに家電やカーナビなどに導入されています。特に自動車では、位置情報や走行データを集め、運転効率化や事故防止、迅速なレスキューなどに活用する取り組みも進められています。
ICT
ICT も、スマートシティを実現させるために必要な技術です。ICT は Information and Communication Technology(情報通信技術)の略で、情報収集や通信、表示、情報の共有、情報処理などを行うための技術全般を指します。都市内のカメラから集めたデータを利用して防犯に役立てたり、遠隔でも診療が受けられるオンライン診療を可能にしたりするなど、スマートシティの実現にはなくてはならない技術といえます。
エッジコンピューティング
スマートシティを実現させるためには、エッジコンピューティングも重要な技術のひとつです。エッジコンピューティングとは、データ処理をデータセンターやクラウドではなく、データを収集する端末やその周辺で行う技術です。
通常のクラウドでは、大量のデータを送る通信コストがかかり、遅延が発生したり、プライバシーの保護が難しくなったりするなどの課題があります。エッジコンピューティングを活用することで、それらの問題を解決し、リアルタイムでのデータ処理やセキュリティ向上が期待できます。
例えば、センサーを設置した水道管で漏水をリアルタイムに検知するなど、インフラ整備や各種サービスに活用することが可能です。
データの連携基盤
スマートシティを実現させるために必要な技術として、データの連携基盤も挙げられます。データの連携基盤は、さまざまなデータやサービスを流通させるためのプラットフォームであり、IoT、ICT、AI などのテクノロジーを効果的に連携させるために不可欠です。
データの連携基盤が整うことで、交通や健康データ、物流、防災、インフラ維持、セキュリティ、決済など、異なるジャンルのデータを関連付けながら活用でき、分野間を横断したサービスの展開も可能になります。
スマートシティの取り組み事例
スマートシティを目指す取り組みは、全国各地で行われており、世界的にもさまざまな事例があります。
ここからは、スマートシティの取り組み事例を紹介します。
茨城県境町:自動運転バスの定常運行
スマートシティを目指す取り組みのひとつが、茨城県境町の事例です。現在の都市や地域の交通・モビリティ分野での課題としては、自家用車の集中による交通混雑や、公共交通サービスの不足による交通空白地域などが挙げられます。
これに対して茨城県境町では、自治体として国内で初めて、自動運転バスを生活路線バスとして運行しました。これにより、公共交通サービスの維持や交通空白地帯の解消に取り組んでいます。
千葉県柏市:AEMS で街全体をエネルギー管理
千葉県柏市では、AEMS(エリアエネルギーマネジメントシステム)による街全体のエネルギー管理が行われています。現在、都市や地域のエネルギー分野の課題としては、持続可能な社会のためのエネルギー総量の使用削減や再生可能エネルギーの普及、災害時のエネルギー供給確保などが挙げられます。
これに対して千葉県柏市柏の葉地区では、街全体のエネルギー管理を行えるシステムである AEMSを構築しました。電力需要予測による電力融通の最適化や、テナントに対する省エネ行動誘導などにより、エネルギー利用を効率化する取り組みが行われています。
東京都千代田区:災害コミュニケーションツール・防災情報発信
東京都千代田区では、災害コミュニケーションツールや災害時の情報発信について取り組んでいます。現在、都市や地域の防災分野の課題としては、自然災害による被害の抑制や、避難先での生活環境の向上、避難誘導や救援・支援の効率化などが挙げられます。
これに対して東京都千代田区の丸の内エリアで実施されているのは、人が集まる都心でのスムーズな避難に役立つ取り組みです。具体的には、人の移動や滞留、被害などの状況をリアルタイムで収集・分析・可視化し、避難情報をプッシュ通知するシステムなどが導入されています。
静岡県浜松市:移動診療車でオンライン診療の提供
静岡県浜松市が取り組んでいるのは、移動診療者によるオンライン診療です。現在、都市や地域の健康・医療分野の課題としては、生活習慣に起因する病気の予防や、交通の不便な場所に暮らす人や高齢者の医療へのアクセス確保、医療関係者の負担軽減などがあります。
これに対して静岡県浜松市では、医療にアクセスしにくい中山間地域における医療サービスが実現しました。オンライン診療と移動診療車を用いた診療サポートを提供しています。
京都府:デジタルサイネージによる観光情報発信
京都府では、デジタルサイネージによる観光情報発信に力を入れています。現在、都市・地域の観光分野の課題としては、地域の魅力や観光情報の発信や魅力的なサービスの創設、海外からの観光客に備えた多言語対応などが挙げられます。
これに対して京都府で行われているのは、公共空間や交通機関に設置したデジタルサイネージによる、観光客への情報提供です。観光客の情報を収集・分析することで、観光施策の立案にも活かしています。
シンガポール:国家センサーネットワークで安全な公共サービスを展開
海外におけるスマートシティの取り組み事例として、シンガポールでは2014年から国家プロジェクトとして「スマート国家」を目指す取り組みが行われています。具体的には、監視カメラやセンサーを多数設置して、人や交通、気象、都市インフラの状況などのデータを収集・活用する、国家センサーネットワークの設置です。また、デジタル決済の普及や国家デジタル身分証システムの構築にも力を入れています。
台湾:公共政策オンライン参加プラットフォームの運営
台湾では、公共政策オンライン参加プラットフォームの運営が取り組まれています。具体的には、市民が既存の政策について話し合い、新しい政策を提案できる公共施策のオンライン参加プラットフォームの整備です。多くの市民の賛同を得られれば、実際に政府の施策に影響を与えることができ、1日平均1.1万人のアクセスがあります。
スペイン:IoT 基盤によって交通渋滞解消や行政サービスの効率化を推進
スペインが力を入れているのは、IoT による交通渋滞解消や行政サービスの効率化です。慢性的な渋滞や交通事故、大気汚染などの課題をかかえるスペインのバルセロナ市では、IoT 基盤を導入し、都市の騒音やごみ、駐車情報、大気汚染、車の流れなどのデータをリアルタイムで収集しています。集めたデータは、スマートパーキングや、タイムリーなゴミ収集管理などに活用することが可能です。
スマートシティを実現するための課題
スマートシティ推進には多くのメリットがありますが、実現のためには解決すべきことも少なくありません。ここからは、スマートシティを実現するための課題を紹介します。
住民の十分な理解
スマートシティを実現するための課題のひとつが、住民の十分な理解です。スマートシティを目指す取り組みを推進するためには、住民の理解と協力が不可欠です。ただスマートシティの概念は抽象的で、実際に実現するまでそのメリットが伝わりにくい場合もあります。住民の理解を得るためには、丁寧な情報提供や啓発活動が必須です。
セキュリティ対策
セキュリティ対策も、スマートシティを実現するためには重要です。スマートシティでは、住民の情報が収集されるため、プライバシーの侵害が懸念されます。そのため、個人情報の取り扱いについては、範囲や管理方法、用途などを明確にし、万全の対策を行うことが重要です。
また、通信やデータにトラブルがあると都市機能全体に影響を及ぼす可能性が高いので、サイバー攻撃やネットワークトラブルの対策も行っておく必要があります。
インフラ整備
スマートシティの実現にあたって、インフラ整備も課題といえます。スマートシティを構築するには、都市 OS、公共交通機関、通信体制など、さまざまなインフラを整えなくてはいけません。構築コストを確保するとともに、保守・運用費用についても必要になります。
多言語化への対応
スマートシティを実現するためには、多言語化への対応も必要です。少子高齢化が進み労働人口の減少が始まっている日本では、在留外国人を積極的に増やす取り組みが政府主導で進められています。すでに在留外国人が多く居住している都道府県や市区町村もある中で、スマートシティを進めるには、外国語を扱う人の利用を想定したシステムにすることが重要です。多言語に対応したシステムにすることで、誰ひとり取り残されない社会の実現に近づきます。
スマートシティの実現と多言語対応で多くの人が快適に暮らせる社会へ
スマートシティ実現のためには、地域の課題に対して最先端技術を活用した解決方法を導入するだけでなく、インフラやセキュリティ対策などの基盤を整えることが必要です。また、十分な情報提供や啓発活動、話し合いを行って住民の理解を得ることも必須です。特に近年は、国の後押しもあって在留外国人も増えているので、地域によっては、システムやサービスの多言語対応が必要となるでしょう。
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佐藤菜摘
前職は、広告代理店にて大手CVSの担当営業として、販促物製作やブランディングプロジェクトに従事。2016年WOVN Technologies株式会社に入社し、広報業務を担当。2022年よりMarketingチーム。